束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
ヤバい、威圧感が半端じゃねぇ……‼︎
「…………」
篠ノ之本家当主の部屋は正しく謁見の間の様な造りとなっていた。部屋の奥が上座となり境目には御簾が降ろされている。もうこの時点で場の空気が張り詰めており一寸の光陰軽んずべからずと言わんばかりの空気がこの謁見の間を支配している。
して、その奥には篠ノ之本家当主である篠ノ之 咫が座している。無論、御簾に阻まれそのシルエットしか窺い知る事は出来ない。そもそも座す位置と御簾にも距離がある為か御簾に
「さてと……堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。折角の孫が顔を見せに来たと言うのに、格式ばった挨拶なぞ不要よ」
「はぁ……」
咫の口調はハッキリしていた。殆ど会った記憶は無いが御高齢である事は聞いている。痴呆や認知症、耳や口に不調を抱えている素振りは一切見られない。
「本題に入りましょう、若菜。……篠ノ之本家を継いでくれないかしら?」
「はい⁉︎」
咫の言葉に若菜は思わず素っ頓狂な声音で返答してしまった。このお方は一体何を言っているのか、一瞬理解出来なかった。継ぐ……つまり後継者……即ち『当主』の座と言う意味となる。
ますます理解が出来なかった。この手の話は先ずは束の父母である柳韻か銓が第一候補となる筈だ。柳韻は『重要人物保護プログラム』の影響で身を隠す他に無い為に一旦除外……銓は固辞したのかも知れない。
であれば次にその話が向かうのはその直系の子供である箒か束……。正直に言わせて貰うと何方も脈は無さそうだ……。それらを加味しても自分にその話が飛んでくる事自体があり得ない筈である。
「先ず……その話は銓母上や、束母上。それに叔母上にするのが必然では無いでしょうか?」
「それなんだけどねぇ。銓はちょっと
どうやら銓、束、箒は各々の理由で指名するには至らないらしい。それで結果的に自分に回って来た様である。婿養子と言う言葉もある。
「あの……大祖母上。私も宇宙の彼方へと赴く所存です故に……。後、篠ノ之本家を背負うには私如きでは荷が重いと……‼︎」
若菜は懇願するように申し上げる。正直な所、篠ノ之本家の当主は余りにも荷が重い……。無理と言っちゃいたいくらいだ。
「……若菜。貴方自身、痛感しているでしょうけれど今、この国……いいえこの星其の物は女尊男卑なる癌細胞にて食い荒らされてしまったわ。
数多くの人々がこの病により亡くなったわ。門下生の中にはこの病で亡くなった者も居る。ご家族の方も不運にも遭ってしまった場合もある。
この篠ノ之一族も例外では無い。
女尊男卑をこの
「後継者が決まらずに当主が没した後の御家騒動程、恐ろしいモノは無いわ」
咫の懸念も最もと言える当主に座する以上、その点は考えておかねばならぬのである。
「………でも貴方自身、荷が重いとは言うけれど果たしてそうかしら?」
「……と仰いますと?」
「流石に今直ぐ継げとは言わないわ。余りにも唐突である事は私も重々承知……それに」
「それに?」
「……重度化した
他にも……ええと、御巫さんとレーキュさん、だったかしら?あの人達……この
其処まで把握されているのか……本当にどうやって調べたのやら。此処まで把握されているのならばもはや今更、問い掛ける必要もあるまい。
「私てしては存続が出来るのならば本拠を移しても構いはしないわ。世は移り変わり行くモノ……何時までも変わらない事なんて存在しない。
この
ある意味、スッゲェ事を言い放った。何をどう考えればそんな決断が出来るのか……。いや、強ちそう言う決断も下さねばならないモノなのかも知れない。
「んんっ。話が少し逸れてしまったわね。貴方自身も考える時間が欲しいでしょうからこの話は一旦、胸にしまっておきましょう。
ただ、私の身に万が一の時が訪れた場合、後継者序列一位は貴方である事に変わりは無い事を覚えておく様に」
いや、勝手に決めないで……あぁぁ……束母上の祖母上だから強引なのか……銓母上も何かと強引な方だし、強引さは血筋なのかも知れない……。
何とも微妙な顔に成らざるを得ない若菜は、内心てはエラい置き土産を渡された気分になった。然も捨てられないと言うオマケ付き。
「それで話が変わるのだけど、誰が好みなの?」
「はい⁉︎」
大真面目な話題から急に訳の分からない質問が飛んで来た。えっと、当主は何を言っているのか?
「はい?じゃないわよ‼︎ 貴方の本命は誰かと聞いているの‼︎」
御簾の向こう側から、脇息を叩く音が聞こえた。えっと……どう反応したら良いのか分からない。
「束は彼方此方から養子として引き取って居たから遺伝子上は問題無いでしょう。それだけに留まらず、8組の娘達とも仲良さげじゃない。それで⁉︎ 誰が本命とは言わずともどんな娘が好みなの⁉︎」
再度脇息がバンバンと叩かれた。いや、何が悲しくて大祖母に色恋沙汰の進捗を報告せねばならないのだ。
と言うか将来的にエストレヤに移住するのだが、エストレヤでは地球の日本と違い重婚が認められている……この調子だとその事実が咫の耳に入ればまたぞろ何か企てるに違いない。その事実だけは耳に入らないで欲しい限りである。
『まさかとは思うが、それを見定める為に8組の面々も道連れで連れて来させたんじゃ無かろうか。……何と言うかこの流れは血の繋がりを感じるな』
「え、えーと……大祖母上。一先ず、一先ず落ち着いて下さい‼︎」
「落ち着け? 私は乱心もしていなければ至って正気よ? 聞けばめいど服なるモノに反応していたそうじゃない。ならば巫女装束でも効果があると踏んだら……案の定の様ね」
あんな異様な光景は貴方の
『完全にレイドボスみたいな扱いだな』
脳内から響くガイアのヒッデェ評価。そんなあんまりな状況に若菜は愕然とする他無かった。
「ふぅむ。まぁ……こんな
軽く凹んでいる若菜を他所に咫は興奮の鳴りを潜めてそう推察した。
女尊男卑の影響は凄まじく既婚であろうともその影響に充てられ家庭崩壊から離婚するケースが急増。
他にも出生率の低下からの少子化拡大の懸念が叫ばれる中、広まるべく広まった『恋愛恐怖症』がこの地球上を跋扈している。その為、誰かを好きになると言う発想自体が抑制されたのだ。
「……良いでしょう。少し一計を案じましょうか」
御簾の向こう側。その表情は全く窺い知れないが咫は何かしら悪巧みをしているとしか思えない表情を浮かべているに違いない。そんな気がした。