束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた   作:夢現図書館

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使わない意志を持たねば……ならないのだよ

 

 

「ああ、そうそう」

 

 まだ何かあるらしい。御簾の向こう側に座す咫が佇まいを正したかの様に影も蠢いた。

 

「……貴方に1つ、如何しても答えて欲しい質問があったのを今、思い出したわ」

 

「……質問、ですか?」

 

 先程までの素っ頓狂な問い掛けとはまた異なる雰囲気を察した若菜。咫にとっては重要な内容なのやも知れない。心して掛かる気持ちで臨んだ。

 

「武器とは……いえ、『IS』でも良いでしょう。それ(・・)を操れる者が持つのが安全か、それとも操れない者が持つのが安全か……何方かしら?」

 

 想像以上に真面目な内容の質問であった。束の事を理解して尚も敢えて(・・・)その尋ね方をした意図も察した。

 

「直感的に考えれば(ろく)に操れない者が無闇に扱うのは危険であると考えますが……その者が己の意志で『使わない』と律する事が出来れば、心配は無用でありましょう。

 ソレ(・・)が出来ないからこそ束母上はライセンス制度を設けました」

 

「ならば操れる者が持つのが安全と言いたいのかしら?」

 

「いいえ、簡単に……己の意志で操れる者が悪用、乱用した場合……より深刻な事態を招きます。

 昨今の女尊男卑の土壌を築いたのは正しく『操れる者』達が乱用、悪用した結果であります」

 

 若菜は己の手に量子変換して自らの愛鋏である『宵咲』を顕現させてその刃に写る己の顔を見つつ自らの考えを述べる。

 

「ヒトとは……力を手にすれば使いたがる。それは『特別感』、『優越感』、『満足感』の発露。或いは『承認欲求』、『羨望』、『本能』と言う感情の暴走と言えるでしょう。その暴走が往々にして悲劇を招きます」

 

 『宵咲』の刃の腹を天井の照明に当てて反射させる。暝目してからその双眸を開き御簾の奥に佇む咫に視線を向けつつ言う。

 

「故に無限に等しい暴力を手にするならば行使しない意志を持たねばならない。持ち続けねばならない。

 それが束母上が全てのストライカー(IS操縦者)に宛てたメッセージです」

 

「ふぅん、中々、良い答えじゃない」

 

 咫は若菜の答えに関心を示す。

 

「此処からは私の身の上の話になります。そして、先程の後継者の話の返答を理由を添えてお答えします」

 

 最初に話された篠ノ之本家の継いで欲しいと言う話の若菜はやや曖昧な返答を返したが、色恋沙汰の話の裏で考えを纏めていた。

 

「もう良いのかしら? 2、3日程待っても良いのよ?」

 

「いいえ、今お答えします」

 

 若菜は正座したまま自身の機体『フォーマルハウト』の撃腕翼を大きく開いて見せる。獰猛な迄の爪先で畳を引っ掻く事ない様な角度で留めつつ続ける。

 

「私の機体『フォーマルハウト』はそれこそ暴力の塊と称して差し支えありません。

 一度、飛び立ち低空飛行すれば衝撃波で周囲の木々や建築物を薙ぎ倒し、断熱圧縮された熱量の余波で溶解させてしまう。

 力を振るえば人の身なぞ斬り伏せ、大地を穿ち、人の営みなぞ蝋燭の火が消える様に熄滅させ終ぞ燼滅へと帰す事でしょう」

 

 若菜が一度、IS学園でOVTS相手に暴れた時は半壊と言っても差し支えない程に大暴れした。その惨状がたった1人で成された……それがどれ程の脅威か分からぬ筈が無い。

 それ以外にもエストレヤの高速空路を熔解させてしまった事もある。

 

「…………」

 

 若菜の話に咫は敢えて口を挟まない。無言で続きを促している。

 

「……束母上が『使用制限』を設けている理由。それは私がまだまだ半端な未熟者であるが故です。

 一時の感情に呑まれ力を振るう姿を未熟と言わず何と言いましょう。その姿を見て我が身の背後に続く者達は何を思いましょうか?

 己を律する意志が未熟な者がとても教え導く役目が務まろう筈がありません。私にはまだまだ研鑽が必要であります」

 

 地球上で使うのは複数の意味で危険であると同時に、使用者の未熟な精神性を鑑みての束が施した措置である。

 束から見ればこの地球上の殆どの人間は莫迦共である。その殆どが操縦技術や戦術や機体の性能が全てだと信仰している。その邪な精神性ではこの地球は終わると言っても良い。

 

「……成程、それが貴方なりに考えた上での答えなのね。貴方がそのつもりならば……今暫くは、くたばる訳には行かないわね」

 

「…………!」

 

「夜も更けたわ。若菜、もう休みなさい。研鑽を積み、貴方が克己する時を待ちましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未曾有のテロ事件の翌日の朝。

 東京都にある市民会館の大ホールにて避難してきたIS学園の生徒達は雑魚寝から目覚めた。IS学園は今も無敵と化した人間達が跋扈しており、とても授業云々の状況では無かった為に避難生活の状況で大ホールで待機指示を出すしか無かった。

 生存した教師陣は早急に今後の方針を定めるべく市民会館で緊急会議を開く運びとなった。

 

「……IS学園緊急会議を開催する」

 

 重苦しい空気の中、千冬は搾り出す様な声で会議の開催を宣言した。

 

「……無事に朝を迎えた訳だが、依然と状況は好転していない。一部を除き2、3年生はほぼ全滅。生徒会長の更識は生死不明。1年生の8組も全員が生死不明。教師陣も数十人が死亡、或いは生死不明だ」

 

「ガタガタですね……」

 

 真耶が本音を漏らす。確かにガタガタの状態である。防衛戦を展開した鈴音とセシリアは専用機のエネルギーがギリギリの状態。市民会館にIS用のエネルギー充填設備がある筈も無いので、戦闘は不可能な状態である。

 それから他にも懸念すべき事、それはIS学園には量産型のISが置き去りの状態である事だ。この状況を好機としてISコアの奪取を目論む組織が現れても可笑しくは無い。

 何せ『ライセンス制度』で殆どのISがライセンスが無ければ起動させる事が叶わない中、IS学園の所有する量産機に搭載されたISコアはその制限が無い。

 危険を冒してでも手に入れようとする輩が現れるのは時間の問題と言える。

 

「政府やIS委員会からは何と……?」

 

「……声明や命令等はまだ来ていない。上層部もこの様な事態は初めてだろうからな。議論は山積みだ、1つずつ片付けて行こう」

 

 

 

 

 

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