束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
オリエンテーションスタート。
砂混じりの風を浴びながら若菜は目覚めた。
薄暗い中、周囲を見渡す。鉄筋コンクリート製の室内だろうか。廃墟と見間違うかと言う位の荒れ具合っぷりの室内だ。割れた窓硝子から差し込む月光がこの部屋の中を照らしており机やら椅子やら誰かが暴れた後の様な情景を室内に存分に晒している。資料か書類かは分からないが風に晒された影響かインクが滲んでいて殆ど読めそうに無い。
他にも外部から風によって入り込んだと思わしき砂が舞っており人が居た名残りを残しているが、残された調度品からみて立ち去る直前の状況は慌しかったと思われる。まるで急いで出て行ったかのようだ。
とても、とても昨日まで居たIS学園内の光景とは言えない光景が目の前に広がっていた。
まだ4月だと言うのに妙に暑い。それに慣れた臭いが鼻腔を擽っている。手首付近に違和感が生じて徐に見てみると其処には腕時計の様な物が巻かれている。
赤色のカラーで表記されたデジタル式の数字が表示されていた『168:00』と言う数字、コレが示す意味は……状況を考えれば自ずと出て来た。
それに割れた窓硝子……から顔を出すのはマズいので遠目からその外の風景を見ればいよいよ濃厚と言える。やってる事、常人から見れば普通に激ヤバ案件だが、あの人からすれば『ヌルい』と切り捨てられそうだ。
「……成程、そう来たか。伽羅さん……実は自分のクラスに一般生徒が来るの嫌がってた説あるんじゃねぇの?」
コレは初っ端から全く容赦が見られないオリエンテーションの名を騙った色々諸々を巻き込んだデスゲームだ。と言うか絵面が色んな意味で酷過ぎる。
更に周辺を観察する。渇いた建造物の床には8組の生徒達が学園の制服姿のままで無造作に転がされていた。如何やら全員、同じ場所に固める形でこの場所に放り込まれた様だ。
ただ、全員が自分と同じ様な腕時計を腕に着けている。表示されている数字の色は様々だったが表示されている数字だけは同じだった。
「寒っ……え、此処何処⁉︎」
「え、何……? 此処は⁉︎ 確か、私はIS学園の寮部屋で寝ていた筈じゃ⁉︎」
「何コレ⁉︎ 何が、起きたって言うの?」
倒れていた椅子を起こして其処に腰を沈めて暫く待っていると室内にて寝ていた8組の生徒達の面々が次々と目を覚ましたのか上体を起こして困惑の表情を浮かべている。
誰とて昨日まで居た場所と違う場所で目覚めれば困惑の声は上げる。
「……あ、若菜君。あー、コレはつまり、そう言う事だよね?」
「……状況を概ね把握しました」
シノアとフィウの2人も目覚めて寝惚け眼を擦りつつ直ぐに若菜の元へと駆け寄って来た。特に外観上、不自然な箇所は見受けられない。強いて言えば彼女達の右手首にある腕時計に表示された数字の色が自分と同じ赤色であると言う点だ。
「……昨日の電子音の内容と一致します。『さんにんぐみ つくれ』と言うのはこの事でしたか」
つまり3人1組で行動しろと言う意味か。30人だから、全部で10組作られる事になる。となると、3人の内、1人が欠けると他の2人が道連れに……と言う可能性も考えられる。
「若菜君。……もうこのオリエンテーションの内容は予想出来るよね?」
「ああ。それに此処が日本じゃないのは確定だろうな。この椅子にある辛うじて読めた文字。それに特有の大気、それに外の雰囲気を見た限り此処は中東かアフリカとかの発展途上国のどっかだろうな」
微かに漂っている硝煙の臭い。把握した状況から統合すると、そりゃもう清々しい迄の紛争やら内戦のど真ん中に放り込まれたと言う事だ。
あの人ならば普通にやりそうな手口だ。と言う事はケーニヒスベルク以外にも他の面子も地球に来ている可能性がある。
は?ケーニヒスベルクがやった? 馬鹿を言うな、その場合だと誰かが眼球付き脳味噌の状態でホルマリン漬けになっているだろう。或いは培養槽に漬け込まれている。
兎も角、オリエンテーションにしては無茶苦茶と言える。
「え、えっと……」
困惑が収まらない中、生徒の1人が若菜達に声を掛けてきた。8組では初日で満足に自己紹介なぞしていない。
「さ、3人は『これ』が何か心当たりある、んですか?」
『これ』とは現在のこの状況の事を指しているのだろう。荒れ果てた室内、渇いた砂埃、燻っている硝煙の臭い。
「あるな。だが、俺達に聞かずともIS学園に入学した以上は少し考えれば『何を求められている』かは分かる筈だ。
そもそも昨日、伽羅さんが『オリエンテーション』をすると言っていた。『これ』がそのオリエンテーションだろうよ」
「……いや、意味が分からないですよ」
まぁ、この程度の説明だけで理解しろだなんて自分でも難しいか? 可笑しいな、IS学園の受験倍率は滅茶苦茶高いから、地頭は良いからこの程度なら察しは出来ると踏んでいたのだが。
「……取り敢えず、皆さん。自身の右手首を見てください。デジタル式の数字が表示された腕時計の様なモノが着けられている筈です。
表示されている数字の色が同じ人同士に分かれて下さい。恐らく、1つの色につき3人のグループになる筈です」
若菜が如何したモノかと思案している最中、フィウが助け舟を出してくれた。取り敢えず今は把握出来る情報から整理するべき……と言う事だろう。
フィウの言われた通りに生徒達は同じ数字の色のメンバー同士に別れた。予想通り自分達を含めて10組のグループが出来ていた。
「……数字は『168:00』。24を1日とすると、7……つまり、7日間。オリエンテーションの期間は7日間に及ぶ……と考えるべきだね」
シノアが数字を時間であると断定した上でこの数字は残り時間であると考えた。時間になったら数字が減り始める筈……。今はまだ、動いていない。
「な、7日間……? 1週間も何をすると言うの……?」
1週間の間、この辺鄙な場所でどんなオリエンテーションが行われると言うのか見当も付かないだろう。
「『何をする』のではなく『何かをしなくてはならない』と言う事だ。
あの人の事だから概ね『何をさせたい』のか分かるんだが……それでも推測の域を出ない事を承知の上で聞くか?」
若菜のその言葉に生徒達は互いに顔を合わせ合う。一通り終わるとタイミングはバラバラな形で首を縦に振った。まだマトモに会話した事が無い相手(かつ相手が男性だと言う事も加味して)なので遠慮がちな反応だ。最も聞く姿勢なので若菜は話を始める事にした。
「結論から言おう。早い話、俺達がしなければならない事は『7日間以内にIS学園へ帰還しろ』、それだけだ。紛争か内戦が大絶賛勃発中のこの地域から、な」
そう告げた瞬間、爆轟と思わしき轟音がこの建物の近くで轟き渡った。
一方、その頃。IS学園。
第6アリーナ、整備室兼ケーニヒスベルクの研究所。
「さぁて、楽しい楽しいサンプル採取の時間ですよ」
「え⁉︎ こ、此処は何処⁉︎ な、何が如何なってるの⁉︎」
「ふむふむ。地球人は黒や白、茶色、金色が多いとは聞いていましたが、水色とは……コレはまた希少なサンプルになりそうです‼︎ 他の人達に盗られる前に確保出来て何よりですね〜」
「……あ、貴方は誰ですか⁉︎ な、何、その見た事無い器具は……ちょ、や、止めて‼︎」
「抵抗は無駄な行為です。私の崇高なる研究の貴重なデータとして貢献して頂きます。暴れると生命の保証は致しませんよ?」
「し、死にたくない‼︎ 死にたくないよッ、い、嫌ァァァァアアアア‼︎⁉︎ 誰か、誰か、助けてェェェェエエエエエエエエ‼︎‼︎」
「暴れても無駄ですよ。貴方はこの私の研究に貢献する。そう言う運命なのですからッ‼︎」