束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
「何とか動いてはくれたみたいだな……流石にぶっつけ本番みたいな所があったからな」
紛争地域の上空を飛行する輸送機。奪取に成功はしたが、完全に片方の勢力の主要軍事運用機を強奪した以上は長居は出来ない。奪われたと言う失態を隠蔽する為に撃墜も視野に入る。
「あ、あの。篠崎さん、他の生徒達の方達は……?」
「ギリギリまで粘るつもりだ。その為に輸送機の車輪の所に俺のIS学園制服の上着を括り付けておいた。下から見れば分かる筈だ」
右も左も分からない見知らぬ土地の場合、人間と言うのは『見慣れたモノ』に惹かれる傾向にある。輸送機の足にIS学園の制服が意図的に括り付けてあれば、集って来てくれるかも知れない。
「でも、そう上手く行くかな?」
「やらんよりマシだ。上空から闇雲に探すよりも誘蛾灯くらい設置して向こうから来てくれた方が手っ取り早い」
「ゆ、誘蛾灯……」
「ある程度、飛行したら広い場所に一旦、着陸する。それで来なかった奴は、残念だが見捨てる形になる。今は弾道ミサイルの類は発射はされては居ないが、流石にミサイルが飛び交う中で飛ぶ勇気は無いからな」
非情な判断と言えるが、大の為に小を切り捨てる。判断力を伴う者が必然的に覚悟せねばならない業でもある。
「それよりも心配なのは、この輸送機の残りの燃料だ」
「そんなに危ないの?」
「……残量的に五分五分だな。最短距離で飛べれば何とかなる、筈」
暫く紛争地域の上空を飛行した後、開けた場所へ目掛けて着陸態勢に入る。砂利や砂が多い場所でとても離着陸に適した場所とは言えない、半ば不時着に近い着陸の仕方となり、機体其の物が激しく揺れた。
「若菜君、もうちょっと場所は選べなかったの?」
「他に見当たらなかったんだよ……。で、8組の面子は来たのかどうかだな」
「1人も居ない、と言う可能性もありますね」
輸送機の側面扉を開けると荒れた大地の上を必死の形相で走ってくるIS学園の制服を纏った生徒達の姿が見えた。どうやら、若菜が仕組んでいた『サイン』に気付いてくれたらしい。
「良かった、皆さん。気付いてくれたみたいです‼︎」
その姿を見て燐芽は安堵の声をあげる。
「いや、安心するのはまだ早過ぎるぞ。派手な飛行をしたんだ。奥へ引っ込んで耳を精一杯の力で塞いでおけ‼︎」
若菜はそう言いながら装填済みのRPG-28を抱えて、正面上空へ向かって構える。その先には光を放ちがら迫り来る弾道ミサイルの姿があったからだ。幸いにも戦車の類は見受けられないがそれも時間の問題と言えた。
若菜は発射器を構え轟音を放ちながら擲弾を発射し迫り来る弾道ミサイルを迎撃し、爆発の余波で破壊されたミサイルの残片が乾いた大地に降り注ぐ。
「全員、死にたく無ければ乗れ‼︎ 最後の奴が乗り込み次第、離陸する‼︎」
若菜はRPG-28の発射器を投げ捨てつつ、走ってくる生徒達に向けてそう叫ぶ。
「もう、若菜君‼︎ 鼓膜が破れるかと思ったよ‼︎」
「シノア、全員乗ったら言ってくれ。直ぐに出すぞ‼︎」
「え、あ、うん‼︎」
「皆さん、急いでください‼︎」
燐芽が入り口付近でそう叫ぶ中、若菜は直ぐに操縦席へと戻り離陸の準備に取り掛かる。後方では生徒達の声が次々と聞こえて来た。
「シノア、金子‼︎ まだか⁉︎」
「若菜さん、2発目が来ます‼︎ 速度から着弾まで凡そ15秒‼︎」
フィウからミサイルが接近中と警告。猶予は多く見積もって8秒程しか無い‼︎
「若菜君‼︎ 皆、乗った‼︎」
「出すぞ‼︎ 扉を閉めろ‼︎」
シノア達が扉を閉めた瞬間、耳障りな音と共に乱暴な振動を立てながら輸送機を無理矢理、砂利の上を走らせながら助走を付けて上空へと飛び上がった。飛び上がった直後、輸送機が接地していた地点に弾道ミサイルが着弾し爆炎と爆轟を上げていた。
「此の儘、一気に東を目指してトンズラする‼︎」
助かった。
誰かが告げたその一言が輸送機の貨物室内にて木霊すると、その言葉を発端に紛争地域で生命の危機と言う極限に近い状況が起因する緊張が氷解し輸送機内の壁や床に倒れ込む者が多数現れる。
かく言う燐芽もその1人であった。壁に凭れかかり自身の右手を改めて見る。
「…………」
『もし危険が迫ったら躊躇わず撃て。躊躇すれば君が死ぬ事になるだろう。
だが、心得て欲しい事が1つある。その引き金を引くと言う事は君自身、本来の君とは訣別せねばならないと言う事を決して忘れないで欲しい。たかが小さな拳銃と言えど『その力』は力である事に変わりは無いのだから』
若菜から告げられた言葉を思い出す。
空港跡地で兵士の1人を、自分の手で射殺した。そう、自らの手で1人の兵士の生命を終わらせた。理由はどうあれど、確かに殺した。それは紛れもない事実だ。
「…………」
戦場で人を殺したとして日本に帰った時どんな視線を向けられる?人殺し?それともヒトデナシ?
「悩んでる?」
様々な思考が頭の中で渦巻く中、声を掛けられた。兎篠 シノアと言う篠ノ之博士の養女の1人だった。
「……はい。あの時はその、緊張していましたけど、安心したら不意に脳裏にその事が過ぎってしまって」
吐き気を催さないだけ、気力は残っていた。でも、1人で抱えると耐え切れない気もしていた。
「それが普通だよ。割り切れだなんて、私も若菜君も言わないよ」
シノアは燐芽の隣に腰を降ろす。
「若菜君は君の覚悟を試した。その言葉に責任を伴えるか。君があの時、動けなくても良かった。フィウも私も、若菜君も撃てる態勢だったしね」
気付いていた上で、燐芽の行動を見守る余裕もあったらしい。同年代に見えるのに遠い存在のように思えてしまう。
「…………。兎篠さんは、怖く無いんですか?」
「今はもう、ね。間接的と言えど貴方に『そう』させたのは私達。だから恨んでも構わない。
もし、胸が痛いと言う言うならば私からお母様に頼んで記憶処理して貰うと言う手もあるよ?」
「いえ、大丈夫です。……天瓦先生が言うにはこの覚悟も必要なのでしょう?」
他者を踏み躙る。コレがIS操縦者に求められる素質……ならば、受けて立つ他に道は無い。
「…………。其処まで言えるのなら私から言う事は何も無いかな。これ以上は無粋な気がするしね」
生存者、30名。死者行方不明者、共に0名。
全員がこの輸送機に搭乗し無事に紛争地域から離脱出来そうな状態であった。1人、2人は欠けるかも知れない中でコレは奇跡に近い。
「皆さん、聞いてください」
其処でフィウが貨物室内に居る全員に向けて届く様に告げる。このタイミングなのは燐芽とシノアとの会話が終わるのを待っていたのかも知れない。
「若菜さんの目測では何事も順調に行けば2日程で日本国の排他的経済水域に達すると思われます。輸送機内を物色した所、非常時の保存食が備蓄されているのを確認しました。
人数的に食糧の問題は無さそうです。機内壁に固定されている銃火器は暴発を防ぐ為に触らない様にお願いします。空中自爆で焼死体になりたく無ければ」
「「「……‼︎」」」
2日程で日本へと帰れる。その言葉に生徒達は希望を持つ事が出来た。一時はどうなるかと思われたが無事に帰れそうな事に安心感を抱く事が出来た。
「……アレ? コレ……案外マズい説出てる? つーかこの機体、想像以上に燃費悪ッ‼︎ オマケに無茶な離陸したから多分、車輪の類も逝っただろうし……それ以前にIS学園に滑走路の類、あったっけ……?」