束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
「……」
少々、いやかなり無茶をしてしまった。流石にヤバかった為に本来ならば行使するつもりが無かったが若菜の所有するIS、『フォーマルハウト』の機能のごく一部を随意展開で使用した。
2発目の弾道ミサイルが直撃するまでの猶予が僅か数秒しか無かった。普通に考えるならばその短時間で輸送機を離陸させる事は不可能だ。
故に自分が科したルールに違反する事を承知の上で撃腕翼の噴射機能だけを輸送機の後部に半展開させ、その反動で無理矢理機体を丸ごと上空にブッ飛ばすと言う強引なやり方で、弾道ミサイルの直撃を回避した。
『フォーマルハウト』はコンセプトの都合上、その加速は凄まじく、輸送機其の物に対しても甚大な負荷を与える。
その結果、代償として輸送機の離着陸に使われる車輪が完全にダメになってしまい、不時着する以外着陸する術を失った。つまり安全に着陸する事が出来なくなったと言う事である。
それに加えて無茶な駆動によりエンジン自体にも支障を与えた可能性もあるし、燃費効率も悪い。持ち堪えられるか不安になって来たが此処まで来たのならば行ける所まで行くしか無いだろう。
「……まぁ、死人が出る位なら自分のルールは曲げた方がマシだしな」
そう納得した。今回のオリエンテーションには若菜も思う所があったからだ。試験対策とは言え、順序と言うモノがあるだろう。伽羅はそう言う事に関して昔から無頓着だった。
元々、エストレヤ学院の色んな意味で生命力がバグっている連中を相手して来た為の弊害とも言える。エストレヤや他の惑星国家の連中と比べると地球人は脆弱と言う他に無い。
「……追撃の類が無いのが返って不気味だな」
仮にも輸送機を強奪したのだ。白い服を着た身元不明の連中に奪われる……自分が彼らの立場ならば変な事をされる前に撃墜して不測の事態を防ぐ為の追手を差し向けるか撃墜の行動を取る。
「ども、ちょっとお話良いですかね?」
その時、貨物室から操縦席の方へ見知らぬ生徒が此方を覗き込む様に顔を出して来た。
「構わない。何事も無ければ暇な時間が続くだけだからな」
「そいつは有り難いですな。あ、えふぁ……「エファアルティス、フィウか?」ええ、はい。貴方と話をしたいと言ったら、保存食の1つを持って行って欲しいと言われましたんで」
そう言いながら、その生徒は若菜の視界内に日本では携行食としては有名な『カロリーメイト』(メープル味)の包装を一本、差し出して来た。よもや、異国の地で日本製の食品が見つかるとは思っても無かった。
「そうか、ソイツは助かる」
若菜は片手で受け取り歯を使って小袋を破り、中身を咥えて其の儘、口の中に追いやり咀嚼する。
「っと、操縦席と言うのは案外狭いモンなんですな」
その間、その生徒は副操縦席の方へと身体を滑り込ませた。
「取り敢えず、先ずは自己紹介ですかね。私は黒糖 九里です。こうして話をするのは初めてですね、篠崎さん」
黒糖 久里と名乗った娘さんは何処となくアングラな印象を抱かせる雰囲気を纏っていた。下衆なゴシップばかり書いている記者や、頼めば何でも調達して来そうな売人、そんな常人とは一線を画す雰囲気。だが、悪ぶっている様な不良少女を彷彿させる微笑ましさも同居していた。
「見た目とは裏腹に君も社交性があるな。正直に言わせて貰うとIS学園に来る様な連中は、女尊男卑思考か、頭の中身がラフレシアの花畑かと考えていた」
凄まじい偏見……と言いたいが束も伽羅もそんな認識だろう。そして、この様に流れる様な形で異性に話しかけて来るのも地球人では珍しいと考えるのは大分、向こうの思想に染まっているか。
「すっごい偏見っスね。まぁ、そう思われても仕方ないですな。女尊男卑思想の所為で割を喰らうのは男の人達だけじゃないって事です」
久里は半ば自嘲気味にそう答えた。彼女にも事情があるのだろう。深くは聞くまい。
「で? お礼の類は必要ないぞ。俺はこのオリエンテーションが気に入らないからやっただけだからな」
「貴方のお陰で助かったのは事実ですよ。其処の点は素直にお礼を言わせて下さい。皆を代表して感謝していますよ。金子さんから聞きましたしね」
本当、社交性が高いな。と思った。人は見かけには寄らないな……いや、マジで本当にそう思う。伽羅は見た目はゆるほわなお姉さんに見えるけど中身は殺人鬼思考だし、ボクっ娘騎士は色々と残念だし、見た目悪人面の金髪クソヤローは……ああ、アレは見た目通りの危険人物だわ。
うん、アイツはさっさとくたばれば良い、つーかとっととくたばれ。
「と言うか気になっては居たんだが、この状況下で良く1人も欠けなかったな。2、3人は死亡、何なら全滅している事も充分考えられた」
此処まで運良く合流出来た事自体、奇跡と言っても過言では無い。1人、2人は逃げ遅れていたり、昨日の時点で半数が死亡していても自然な流れだ。
「まぁ、普通ならばそう考えられて当然ですな。最初は皆、バラバラに逃げていたんですがね。やはり、皆……死にたくは無かったんですよ。
バラバラに逃げても自然と合流する形になって、そのグループ同士も合流して結局、全員が同じ場所に固まる形になったって言うオチですよ」
「……終局的に君が纏めていたのか?」
「ええまぁ、流れ的に私が纏める事になりましたね。場の空気的に私が1番、冷静でしたからね」
本当、人は見かけに寄らないな。
金子が見た目は幼いがしっかりしている。彼女は見た目はアングラかつ耳にピアスを付けて如何にも不良と言った風貌で近寄り難いが、大人的な対応が出来る。……母上、少しは見習ってくれませんかね?
「そして、今日……音が聞こえると思って空を見上げたらIS学園の制服が括り付けられたこの飛行機が見えたので、よもやと思って皆で追いかけて今に至るって事です。隠れ続けていても事態が好転する訳無いですからね。
幸い、最初に目覚めた地点付近は昨日、今日は銃撃戦とか兵隊同士の戦闘が起きていなかったのが1番大きかったですね。銃撃戦の類があったら、恐らく何人かは犠牲になっていたのは否定出来ません。本当、運が良かったと言えますよ」
逆に兵士と遭遇してしまった金子は相当、運が悪かったと言える。
「成程。腑に落ちたよ……。普通は難しい事だ」
「でしょうな……。私もこんな所で死ぬ訳には行きませんので。死ぬんなら出来る事をやってから死にますよ」
「……。そうか。君がそう決めたのならば、俺から言える事は何も無い」
「……含みのある言い方ですね?」
久里の言葉に若菜は答えなかった。
その後、若菜は追撃の類を不安視していたがそんな心配は他所に輸送機は中東地域を抜けて海の上にまで到達。此処まで来れば後はもう一息と言えるだろう。フィウと交代し仮眠を取りつついよいよ、日本の排他的経済水域圏内に差し掛かった時、若菜がかねてより恐れていた事態に直面する。
「チッ、ギリギリ持たないか」
輸送機の燃料が枯渇寸前になった事である。燃費効率が悪く、間に合うかどうかの瀬戸際と言う不安が過ぎってはいた。当初、若菜の計算ではギリギリIS学園へ無理矢理不時着する形ではあるが辿り着ける試算だった。
此の儘では、着陸(不時着前提)体勢に移行時に燃料切れで制御不能になり減速所か自由落下による加速で勢いよく激突しかねない。ならば、取れる手段は——。
「シノア、フィウ‼︎」
「何、若菜君⁉︎」
「今すぐに輸送機内に備えられているパラシュートの数を確認してくれ‼︎」
「了解しました‼︎」
騒めく貨物室内。シノア達が確認した所、パラシュートは29個しか無かった。1個、足りない‼︎
「若菜さん。パラシュートが1つ足りません‼︎」
無茶は承知。だが、やるしか無いだろう。
「…………。いや、充分だ。フィウ、シノア。俺以外の全員にパラシュートを配れ‼︎ 使い方も教えておいてくれ‼︎」
「若菜君……⁉︎」
「今からIS学園の上空近辺へ燃料ギリギリになるまで並行飛行する。自由降下を敢行すると8組の連中に通達‼︎ 仮に海に落ちてもIS学園島に近いから助かる見込みはある‼︎」
上昇、下降するよりも水平を保って飛行しなければパラシュートの装着は覚束ないだろう。下手に揺らす訳には行かない。
「若菜さんは、どうするつもりなのですか?」
「策はある。心配するな……‼︎ 時間が無い、急げ‼︎ 燃料が切れてから装着しては間に合わん‼︎」
こうして、8組の生徒達は非常にスリルのある緊迫した状況下でスカイダイビングに望む事となった。