束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
第5研究室の片付け及び清掃は約3時間掛かった。
「うへ〜、ウルトラハイパースペックの束さんでも疲れたよ〜」
「母上。コレに懲りたら、無造作に散らかす悪癖は改めて下さい」
破損が少なかった残骸類を分別し、研究所の地下倉庫へと格納した後、漸く綺麗に清掃が終わった第5研究室の机に突っ伏す形で伸びている束を見て若菜は呆れ交じりの溜息を吐いた。
興味ない事に関しては疲労度が激増するタイプ……それが篠ノ之 束と言う人間だ。
「それで母上。頼みたい事とは何ですか?昨今のニュース絡みですか?」
昨今のニュースとは言うまでもなく、件の世界初の男性操縦者こと、織斑 一夏。その一夏が入学すると言うIS学園案件だ。
「あ、あー、ちーちゃんの弟の事ぉ? うん、知ってるよ〜。
何でも生産性ゼロの
机に頬擦りしながら束はぞんざいな評価を示す。IS学園。文字通りISの操縦技術を学ぶ教育機関……なのだが、その卒業生はその能力の汎用性に乏しく、尚且つ需要と供給の釣り合いが取れて居ない上に、IS絡みの関係者に対する普遍的な認知からの逆風が激しい為、卒業生の9割以上が人生の路頭に迷う結果になっている。
殊更、ISライセンス制が導入されてからより一層、厳しい現実に直面する事となった。
「随分と悪意ある表現方法ですね。まぁ……卒業後の将来が不安にしかならないのは同意しますが」
「わーくんは、この束さんが直々に手解きした自慢の子供の1人だよ〜? 今更、IS学園で何を学ぶと言うの? 学ぶ事なんか何も無いでしょ?
それからIS学園は最先端の学校とか嘯いているけれど、実際は画一教育の権化だよ。どんな才能がある人間を凡俗レベルに抑え込む教育しかしないし、出来ない学校だ。私はそんな学校に子供を通わせたくは無いな〜。
第一、君を男性操縦者として公表してもメリットは何一つ無いし、寧ろデメリットしか無いじゃん」
今現在、世界の普遍的な認識では織斑 一夏が史上初の男性操縦者だと認知しているが、実際は違う。
篠崎 若菜こそ今から9年前にISを起動した1番最初の男性操縦者である事を篠ノ之 束とその一派のみぞ知っている。
そして、やはりと言うべきか篠ノ之 束から見れば世界最高峰と標榜を掲げるIS学園は『凡俗』程度の認識であった。本来のインフィニット・ストラトスの運用方法の片鱗すら扱っていないのだから当然の態度とも言える。
「随分とまぁ、ボロクソな評価な事で」
「束さんの経験談だよ。だから、要件はそんなつまらない内容じゃないよ〜」
束は昨今のニュースの案件では無いと、断言した。と、なれば残るは……。
「わーくん。ちょっとガイアの様子を見て来てくれないかな?」
ガイアとは束が1番最初に開発したISコア……即ち原初のインフィニット・ストラトスであり全てのISの母たる存在と言っても過言では無い。
「1、2月は皆、ドタバタしていたし……流石に放置し過ぎていたかな〜って思ってて。それに、束さんは今も3月にあるISライセンスの問題作成で忙しくってさ。わーくんは定時制だから時間的余裕があって暇かな〜って思っててね」
「母上の片づけられないと言う悪癖の所為で、たった今、暇じゃなくなった訳なんですがね」
兎も角、断る理由が無い為に取り敢えず、ガイアの様子を見に行く事にした。……流石に定期考査なり何なりで自分も色んな意味でドタバタしていて、放置気味だった事も否めない為に拗ねてなければ良いのだが。
「夕飯までには戻って来ます。……また変に散らかさないで下さいよ。片付けるのも大変なんですから?」
「もー、わーくんは心配性だなぁ。この束さんが二の舞を演じるとでも?」
「二の舞所か十の舞を演じていますよ」
束の言葉は即座に否定された。さもありなん。
「えぇぇ⁉︎ 束さん、意外と信用されてない⁉︎」
「IS関連と絶対天敵以外の事柄に関しては信憑性は限りなくZEROに近いですね」
「0に近い⁉︎ 0じゃないだけやったー‼︎ と言いたいけれど却って反応に困るよ‼︎何、その中途半端な評価‼︎」
文句垂れ流しな束を放置し第5研究室に後にして一旦、若菜は居住区にある自室に戻った。帰って来て早々に学生服のままであった事と、ガイアの
若菜が通う定時制は服装の指定は特に無く私服可の学校だが、若菜はただ何となく青色のブレザーで通って居る。
ただ、其方は『普遍的な日常』の象徴で通したい為に若菜が身を置く『非日常たる日常』とは区別したい思惑があるからだ。
ところで年頃の男子の部屋は大体が雑多だったり、趣味の物で溢れていたりと言った如何にも『男の子の部屋』みたいなイメージがあるのだが、若菜の場合はその方向性が些か異なる事だろう。
様々な色の大量の布地やら、裁縫道具が半透明の収納家具に仕舞われており、一際目立つハンガーラックやミシンも置かれて居り、本棚には裁縫や料理研究の表題の書籍が置かれて居ると言う一般的に想像される男子の部屋と言うにはかなり異色に写る。
タンスの扉を開き、その中から一着の服を架けているハンガーごと、取り出してハンガーラックに架ける。学校に通うのとは別の黒色のブレザーであった。
その黒のブレザーの上に隣に架けてあった裏地が赤色の黒のパーカーを羽織る。
このパーカーは若菜のお気に入りでパーカーを羽織ると言うのは精神衛生的に落ち着くと言う理由からであった(夏場の時は腰結びにして羽織ると言う執着ぶり)。
居住区から下の区画に開発区や倉庫、それからインフィニット・ストラトスの量子変換技術を応用した
その技術だけでも驚愕に値し、各国が喉から手が出る程に欲する代物ではあるがこの地球上で実用レベルで運用出来るのはやはり篠ノ之 束ただ1人。それ以外の凡骨程度の科学者では再現は愚か改悪、劣化、模造にすらは辿り着けない。
最もその篠ノ之 束ですら『独力じゃまだ』と言う枕詞を付ける程にこの技術は難題であった。
「さて、行くか。……真面目にヘソ曲げてなけりゃ良いんだが」
研究所の地下の最奥にある転送装置が安置されている部屋。大型のシリンダー状の装置が部屋の中央に鎮座しており大型化故に相応に場所を取っている。
転送装置を起動した。その行き先は——。
「……随分とまぁ、遅かったじゃないか。もう、来ないかと思っていたぞ。まったく……。この埋め合わせはしっかりして貰うぞ?」