束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
IS学園にも部活動は存在している。
アラスカ条約に則り国際色豊かであり、中々特色のある部活が多いだろう。こと、IS学園では文化系よりも運動系の部活動の方が盛況を見せている。
特にIS界隈では世界最強の名を冠した千冬が剣1本で頂へと登り詰めた事から剣道部が注目を浴びている。
そして、IS学園では生徒は何れかの部活に参加しなければならないと言う校則が存在していた為に、若菜は創部する事にしたのだ。
「…………」
「…………」
「……」
衣擦れの音と、ミシンが稼働する音だけが静かな部室内に木霊している。大型の机を密着させる形で合体させ大台と化した机の上に広げられた多数の布地、椅子に腰掛けながら縫い針で糸を通して縫っていく。
部活棟の1番奥まった場所に位置している空き教室は今や若菜が創部した『裁縫部』の部室となっていた。
部員は若菜とシノア、フィウの3名。顧問は伽羅。これ以上の部員は求めるつもりは無い。
フィウとシノアは手縫で縫っており、若菜はミシンを使って作業をしていた。今、現在は自分達のIS学園の制服の再編……と言うか1から作っている真っ最中であった。
IS学園の制服は各人でカスタム可能と言う事で、折角ならば自分達でやると言う事で今、行なっていた。
「……ん?」
ミシンを駆動させている若菜の視界の傍に小型の空間投影ウィンドウが表示された。若菜やシノア達が普段から使っているチャットアプリの画面であった。
若菜の場合はスマホや、個別空間投影ウィンドウ、他にもISコア・ネットワークを介した端末で其々使用していた。……昨日はエストレヤ学院の以前から知っている生徒連中が一斉にチャットルーム内に参加して来てツッコミ疲れた上に藍里の所為で中々、酷い目にあった。
かく言うメッセージの送り主は……どうやら藍里らしい。衣装製作の案件だろうか?
ミシン作業の手を止めず
シグルドリーヴァ
『若菜君。今、何してるの?』
ヴェルメリオ
『藍里……。昨日の君の発言の所為で、エライ目に遭ったぞ……。シノア達に専用のウェディングドレスを仕立てる事で鎮静化させたんだからな……‼︎』
シグルドリーヴァ
『あはは、ごめんごめん。その代わりデザインは私に任せてちょうだい』
ヴェルメリオ
『それで、先の質問に答えると今はIS学園における自分達の制服を仕立てている最中だ。製作依頼案件の奴は既に出来てある。何時も通り、島風に頼んでエストレヤに送る手筈だ』
シグルドリーヴァ
『え、ああ、分かったわ。その後は私の方でやっておくわ。じゃなくて、ちょっと耳に入れて欲しい事があるのよ』
ヴェルメリオ
『耳に?』
シグルドリーヴァ
『リーリスが地球(そっち)に行ってた』
ヴェルメリオ
『過去形かよ……。あー、また誰かが仕組んでんじゃ無かろうな⁉︎ 母上か⁉︎ 伽羅さんか⁉︎ また、巻き込まれんのかよ、俺‼︎』
シグルドリーヴァ
『若菜君って、反応含めて読まれやすいからね』
ヴェルメリオ
『毎度毎度思うけど、俺ってそんなに分かり易いの?』
シグルドリーヴァ
『自覚した方が良いよ、そう言う所』
ヴェルメリオ
『あー……取り敢えず分かった。出来れば俺の知らない所で暴れててくれ……』
其処で、チャットアプリを閉じた。どうしてこう、自身が知っている連中は騒ぎを起こすのが好きなのか。トラブルメーカー気質なのか?
「……一旦、この辺りで終了しよう」
「もうそんな時間? さっき、ミシンしながらチャットしていたけど、目が険しかったよ?」
「……ギリギリまで目を逸らしたいんだ。その時まで知らぬが仏でありたいんだ」
「つまり、トラブルが瞬時加速しながら此方へ向かって来ていると言う事でしょうか?」
若菜の判断で今日は終了を宣言。シノアとフィウも作業の手を止めて、拡張領域内に裁縫道具類を収納して片付けて行く。
母上曰く、IS学園は校則に則り治外法権を謳っているが形骸化しており、スパイ行為の温床である、と。その為、私物関連の放置は危険だと言われていたからだ。全てのモノを片付けて、他には何も無い状態にしてから部室を出る。
『裁縫部』の存在は半ば幽霊部員ならぬ幽霊部活みたいなモノであり、男性操縦者に興味津々な他のクラスの生徒達からは殆ど認知されていない。そもそも『裁縫部』の存在すら知られていないだろう。
「……さて、この後はケーニヒスベルクの所に行くか。2、3日以上、経過しているからほぼ完成しているだろうしな」
部活棟の廊下を歩きながら若菜はそう言う。オリエンテーション前日にケーニヒスベルクが若菜の地球上で使う機体のアセンブルを行う旨を告げていた。アレから数日が経過している為、ほぼ完成しているだろう。
『弱いッ‼︎』
その時、廊下に居る自分達に聞こえる程の声量の声が聞こえて来た。この壁の向こう側からの様だ。それと聞き覚えのある声だ。
「……何か責める様な声音でしたね」
「部活棟の校舎内地図からすると、この付近には剣道部の剣道場があるようだ。恐らく其処から聞こえて来たな」
『一夏‼︎ 如何して其処まで弱くなったんだ⁉︎ 今まで、何をしていたんだ⁉︎』
声の主は怒るような様な悲しむような声音で吠えている。感情を剥き身にした声音……ああ、間違いない……この不安定な感情の剥き出し方は叔母上だ。
『3年間、帰宅部だ……。皆勤賞って奴だな』
対する声は弁明せずにそう答えた。声音からして1人目こと、織斑 一夏で間違いないだろう。
『……鍛え直す‼︎ もはや、ISの訓練がどうこう言う以前の問題だ‼︎ その性根を叩き直してやる‼︎ 今日から毎日、扱いてやろう‼︎』
「……そう言えば、叔母上の挨拶はまだだったな?」
「うん、初日はゴタゴタ。翌日以降はオリエンテーションで行けなかったね」
流石に部活動の最中に挨拶に行くのは相手側に失礼だろうし、昼休み中も何となくではあるが気が引ける。
今はならば、区切りが着いたと思われるから挨拶に行ける隙はありそうだ。こう言うのは早めに終わらせておいた方が良いだろう。
「若菜さん達の家庭環境に関して私は部外者なので、外でお待ちしています」
「先に行ってくれても構わないが」
「……結構です。ケーニヒスベルクさんに捕まって人体実験の実験台にされたくはありませんので」
うん、正直で宜しい。
若菜とシノアは剣道部の部室でもある剣道場の扉を開いて中へと入場する。
「あれ? お客さん?」
「ちょっと待って。あれ、噂の2人目の男子生徒⁉︎」
「嘘ッ⁉︎ 剣道部に見学⁉︎」
「織斑君とはまた違ったタイプ……‼︎」
ギャラリーがザワザワと騒がしいが、それらは無視する。8組も此処まで浮かれては居ないぞ。
ギャラリーの生徒達に一瞥もくれず、若菜は正面を見やる。剣道場の板張りの床の上に向き合って……片方は尻餅を付いていた。見た所、決着は着いている様だ。
「……失礼。御用はお済みでしょうか? もし、まだでしたら待ちます。其方の要件を優先して下さって結構です」
若菜は剣道着の面を被って立っている方へと声を掛ける。
「え、あ、ああ。……一応、区切りは着いてはいるから大丈夫、です」
その人物は若菜の言動に面食らってかぎこちない動きで面を取り、そう答えた。大和撫子の様な風貌の少女、篠ノ之 箒。
「本来ならば入学式当日にご挨拶の方へとお伺いしたかったのですが、流石に初日は慌しいとの事でこの様な些事に煩わせるは不敬かと思い自粛しこうして遅ればせながらご挨拶に参上しました、叔母上」
「え?え?」
その口上に箒は思わず面食らう。周りのギャラリーもザワザワと騒めき始める。
「改めまして初めまして、篠崎 若菜と申します。叔母上の姉君、篠ノ之 束博士の息子です」
「兎篠 シノアです。同じく篠ノ之 束博士の娘です。叔母様」
「」
箒は完全に固まっていた。よもや10代で叔母と呼ばれる日が来ようとは全く思っては居なかった。いや、確かに実姉に養子とは言えど子供が居る事は知ってはいたが……こうして面と向かって言われると……その、反応に凄く困った。
「遅ればせながら、昨年における剣道全国大会の優勝、誠におめでとう御座います。当日、母上と家族一同で直に祝着の口上を述べたかったのですが、この場を借りて申し上げる事にご容赦ください」
「ま、待て⁉︎ 全国大会の試合を会場で見ていたのか⁉︎ 姉さんと一緒にか⁉︎」
「はい。当日、観客席の方で観戦していました。ただ、お母様と叔母様との関係は余り宜しく無いとの事で、直接お声がけをする事はお見送りさせて頂きました」
「……気付かなかった」
「当時は母上も大人しい格好をしていたので無理も無いでしょう」
「…………」
「な、お、おい‼︎」
其処で事の成り行きを呆然とした面持ちで見ていた1人目こと織斑 一夏が声を上げた。彼からすれば1人だけ男子と言う状況の中で現れた2人目の男子生徒。本来であれば男同士、仲良くなりたい所存であったのだが、今はそんな雰囲気では無いと、嫌でも分かる。
一夏は箒……と言うか篠ノ之家の家庭環境は外観からしか分からないし、初耳だらけの情報で溢れており表面上の事しか分からない。それでも困っている事だけは分かった。
「ほ、箒が困っているだろ⁉︎」
「私は目の前に現れた情報量が多過ぎて戸惑っているだけだ……」
「何度も足を運ぶ様な事はしません。叔母上には叔母上の生き方があります。
叔母上の姉君に当たる母上と関係のある私共と接触するのも余り良い気分にはならない事でしょうから、極力は接触はしないつもりです」
自分達が箒にとってぎこちない関係である姉の束を連想すると考えての配慮であった。若菜から見ても箒の反応は余り喜ばしいモノでは無い。
挨拶に伺うと言うのは自分の我儘でもある。本人が望まないのならば、濫りに接触するのも失礼と言えるだろう。そんな行為は若菜も望んで居ない。
「あ、ああ……そうか」
「……流石にこれ以上の叔母上のお時間を頂く訳には参りませんね。私達はコレにて失礼させて頂きます」
「お時間、頂き有難うございました」
「え、あ、ああ……」
完全に空気が何とも言えない最中、その原因を作った若菜とシノアは静かに剣道場を後にした。一部始終を見届け未だにヒソヒソと話し合っているギャラリーと、まだ情報を処理し切れず困惑中の箒と、若菜から完全に意識の外に追いやられ反応すら返して貰えて無かった一夏が剣道場に残された。
「若菜さん、シノアさん。1つ、宜しいでしょうか?」
「ん? 何だ?」
「如何したの、フィウ」
「……日本国には空気を読む。と言う言葉があるそうですが」
「空気と言うか、大気に言語等を表記する事は難しいと思うぞ。シールドバリアを使えば視覚上は出来そうだが」
「それとも水蒸気や煙で文字を書くって意味かな?」
「……いえ、先の発言は忘れて下さい」