束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
夕刻に差し掛かった時間帯。普通ならばIS学園の生徒達は同学園島内にある寮棟へと向かうのだが若菜達はIS学園島の南西にある岸辺にいた。
「いつの間に漁船なんか確保していたんですか?」
「使い捨て前提だから乗り心地とかは考慮していないわよ?」
伽羅から束が千葉県の海岸線、東京湾を臨む地域に使い捨て前提の家と、家と学園島を行き来する為の船を用意したと放課後に通達された。
IS学園は校則の存在により治外法権を謳っているが生徒自身が工作員だと全くの無力な校則となる。ならば通学した方がまだ安全と言えるだろう。
「其処は特に気にしては居ませんよ。長居しても仕方ないので早く帰りましょう」
漁船に乗り込み、伽羅が操縦する漁船用の船が出航。湾内を横断する様に移動する。航行中は特に何事も無く時間だけが過ぎ去り、海を臨む自然が残る地域にポツンと佇む二階建ての一軒家の姿が見えた。伽羅が言うにはあの一軒家が仮住まいの家との事。
「あ、帰ってきたわね。若菜にシノア。後、いらっしゃい、フィウ」
「はい。暫くお世話になります」
合鍵を受け取った若菜は鍵を使って玄関の扉を開けると玄関口でユリエが出迎えてくれた。恐らく、伽羅が一報を入れていたのだろう。
「母上は?」
「……お姉様と一緒にくだらない会議に出る為に出掛けたわ。多分、骨折り損の草臥れ儲けに終わりそうね。それよりもアレを如何にかしてくれないかしら?」
「アレ?」
ユリエがウンザリ気味に答えた理由。それはリビングに所狭しと積まれた紙束の山であった。と言うか余りにも多過ぎてもはや、紙束の迷宮か印刷工場の紙置き場同然の状態と化していた。此処は倉庫か。
「……コレ全部……ブリテンのワルプルギスの招待状、だね」
こんなアホみたいな量の招待状を送り付けて来るな。ウチは古紙回収業者じゃ無いんだぞ。
「今日、エリちゃん砲が墜落して来た理由が分かった」
「一体何があったのよ?」
何があったと言われればソレが起きたとしか返しようが無かった。
「取り敢えずコレ全部。シュレッダーに掛けちまえ。あのクレイジーナイトは余計な真似しかしねぇのかよ……要らぬ手間を増やしおって」
「たっだいま〜‼︎ あー、疲れたァァ‼︎‼︎ って、皆帰って来てる〜‼︎」
そのタイミングで母親である篠ノ之 束が帰宅した様だ。取り敢えず、この要らぬゴミを片付ける事から始める事になった。
久し振りに若菜が夕飯を作り、食卓を囲みながら情報を交換し合う。
束からは無駄な会議かつ、余計な茶々を若菜達に入れてくる事を指摘された。その点は伽羅が殆ど阻止しているが、それで終わらないのが政治屋の意地汚い所である。
「まぁ、その時は適当にあしらって置きますよ」
「……面倒な場合は始末しておきますので安心して下さい」
「フィウさんや、君の場合は最終手段が常套手段に置き換わっている事に自覚を持って欲しい」
学園内で行方不明者が出ると後々、面倒臭い事になるから出来れば記憶喪失程度に留めて欲しい。
「きゃららん、随分と強気な真似したね〜。ソレ、私も最初に考えた奴だけど、わーくんに止められたし」
次は伽羅から契約内容の履行における進展が束に向けて説明された。一応、契約は契約だからだ。
「母上の方がもっと過酷ですよ。ま、伽羅さんの考案した奴も充分、危ないと思いますが……下手を打てば自害者が出かねませんよ?」
「出ても構わないわ。その程度の精神じゃ、この先も耐えられないから今の内に死なせてあげた方がその娘の為よ。場合によっては死ねなくなるでしょうから」
若菜の意見に対して伽羅はそう切り捨てた。非情ではあるが、彼女の意見は正論だと若菜もこれ以上の意見を言うつもりは無かった。
「……それよりもエストレヤで惑星国家間会議、ね。お母様もお呼ばれ?」
惑星国家間では絶対天敵と言う共通の脅威が存在しているが、ソレでも以前から反りが合わなかった国家同士が手を取り合いましょう、なんて展開は断じて無い。
現にエストレヤ学院では長年対立している国の王女と皇女が日夜、戦争同然の殴り合いに興じているのだ(若菜が以前、束に向けて言った呉越同舟云々の言葉は、専ら彼女達の関係が大きい)。
エストレヤは完全中立の立場を取っている為、会議を行う上でこれ以上ない位フェアな場所である事から毎回、エストレヤで国際会議が行われるのである。
「うん、そうだよ。同じタイミングでワルプルギスと時期が被っちゃったんだよね〜」
「開催日が告知されたのは1週間前。同時に招待状が届いた……と言うかゴミ束を運び込まれたのも同日。若菜達が丁度、オリエンテーションに参加していた日よ」
「きゃららんとフィッちゃんは
エストレヤ学院の教員はその会議に向けて動かねばならない。フィウは本業の事もあって其方に注力せねばならない。若菜の護衛はあくまでIS学園管轄内である。……本来ならば若菜に護衛なんて必要は無いからである。
「うん。だったら一層の事合わせちゃおうって思ってね♪ 特別試験の管理はケーニヒスベルクと夕張に任せておけば大丈夫だからね〜」
束とクロエ、伽羅、フィウはエストレヤでの会議。若菜達は招待を受けてブリテンへ。そしてケーニヒスベルクと夕張は伽羅が不在の間、特別試験の監督と言う構図を作ったのだと言う。
「まぁ、母上や伽羅さんがキャスティングしてくれていたのならば特に文句はありませんが……」
「……何スか? 何か不満でもあるんス?」
若菜の口調が尻窄みになった事にフィーリリアが疑問符を投げ付ける。
「ワルプルギスの祭りに行く事とおチビ姫に拝謁する事に関して文句は一切無い。……ただ、そのブリテン本星に蔓延っている邪教徒共の相手はぶっちゃけ面倒臭い」
「「「あー……」」」
ブリテンは邪教徒群団の総本山だ。ぶっちゃけ邪教徒1人見かけたらその区域に10,000人程、邪教徒が潜んでいると思った方が良い。
どっからどう見ても悪の組織のヤラレ役の戦闘員に見えるのだが……ハッキリ言って無駄に常軌を逸した連中だ。多分、生身でも絶対天敵と張り合えるスペックしか居ない。
なんだコレ?地獄か?しかも増殖の一途を辿っているから、恐怖しか無い。
「……無視出来たら良いんだが、無視出来ないのが歯痒い所なんだよな」
「あ、あははは……」
「明日、羽黒ちゃんが送迎の為に迎えに来てくれるんだって。だからエストレヤまでは一緒に行こう〜。あ、後、お土産も宜しく〜」
「ええ、分かりました。シノア、ブリテンに行く途中か行った後で商業区と藍里の所に行くぞ」
「あ、衣装案の細部を詰めるのと、機器の補填ね」
「何々? またライブ配信でもするの?」
「今度はどんな楽曲になるんスかね〜?」
具体的にどうするかはまだ決まっていない。まだ歌詞を読んだだけであるからだ。
「はいはい。そう言うのは明日にしなさいな。夕飯、冷めちゃうでしょ」
担当やその他諸々は皆で話し合って決める事にして夕飯を食べ終えて、風呂に入って明日に備えて就寝する事にした。予定では翌朝早くに出発の予定だからだ。
「え⁉︎
「8組は完全に8組担任の天瓦先生の裁量に任せる事になっていまして……。8組の生徒達の寮部屋は分かるんですが、男子生徒の篠崎君の寮部屋だけ分からないんです。他にも8組の授業内容も詳しくは知らないんですよ」
その日の夕刻を過ぎた頃。一夏は副担任の山田 真耶に若菜の寮部屋を訊ねたが分からないと返された。挨拶がてらISに関して教えて貰おうと思っていたのだが、何処で寝食をしているのかは教師陣には公表されていないと言う。
そう言う意味では一夏よりも情報秘匿性が高いのだと思われる。
「マジか。俺と同じ男子生徒だと言うのに扱いが違う気が……」
千冬からクラス代表対抗トーナメントに向けて研鑽を積み備える様に言われていた。やはりまだ乗り立てと言う事で訓練や練習が求められる。やはり意見をくれる人間は多い方が良い。
「今年は色々な意味で特異的な事が起こりましたからね。8組の特別制度もそうですし……」
「……くぅ、やっぱり昼間に見つけるしか無いのか」
1組と8組は両極端の位置にある。かく授業の休憩時間の内に往復するのは難しい。となれば昼休みの時間帯か放課後に訪ねるのがベストだろうか。
「……えーと、ISの事なら私が請け負うのですが……私って、そんなに頼りないのでしょうか……?」
山田 真耶。IS学園の教師の中で唯一、例外的に国内ライセンスを取得出来た教員。だが悲しいかな、一夏は目の前の教員よりも他の生徒に教えを乞う姿を見ての呟きは一夏の耳に届く事は無かった。