束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
『G⭐︎D』に立ち寄り、お目当ての服を見繕った若菜一行。このブランドでは主にゴシック系統の服が揃っており、やはりブリテンのワルプルギスに向けての衣装類も置いてあった。若菜が見繕う程凝ったモノでは無いが火急的に必要な分としては充分と言える。
「……軌道エレベーター周辺で要件が終わったのは僥倖ね。444番星港で直に行けるんじゃない?」
「そっスね。ISで量子トンネルを通過して行けば問題無いっ筈ス」
「ちょっと待て、444番星港の便内容を確認するからよ」
星港では航宙艦の入出港の他にISによる出撃や帰還ゲートもある。ただ、他の惑星国家近辺へISによる量子トンネルを関しての移動は発生装置の濫用の防止として便として管理されている。
「……今から10分後にブリテン行きの量子トンネルが開通。開通時間は凡そ15分程……んで、次の開通は8時間後」
「それ、急がないとマズいんじゃ?」
フィーリリアの返答を待たずに、若菜一行はすぐ様に軌道エレベーターに乗って第1層へと向かうのであった。
「……間に合いそう?」
「急げば間に合うな。最悪、定期便の航宙艦に乗りゃ良いが……それでも時間を食う事に変わりは無いから出来るなら、その量子トンネルを通過したい所だ」
「……確かにそうっスね。ホテルを探す事も考えるとなると早めに到着しておきたい所っス」
「ああ……。そうだな。……余計なゴタゴタに巻き込まれたくは無いしな」
若菜達がエストレヤを経由してブリテンへと向かっているその頃の地球では……。
「はぁぁ……漸く着いたわね〜」
IS学園の校門前にて真新しい制服をその身に包んだ1人の少女が身体を伸ばしていた。小柄な体躯でありツインテールが印象的だった。
中国の暫定代表候補生、凰 鈴音。それが彼女の名前であった。小柄な体躯ではあるが努力と言う執念のみで代表候補生の座を掴んだ少女である。だが、その執念染みた努力はライセンス試験と言う壁を越えるには程遠かった。
「……此処まで本当に遠かったわ。試験の時もそうだったけど空港からバスもタクシーも全然捕まらなかったし……数年見ぬ間に日本の人口はどうなってんのよ」
ライセンス試験の時に一度、来日したが逢えなく3度目の不合格となり、其の儘帰国する事となった。如何に祖国でシミュレーション訓練をしていると言えど現実で訓練出来なければ机上の実力に過ぎない。
4月に入り5月に移り変ろうとした時期に転機が訪れた。
『凰。IS学園へ転入しろ。必要な処理は此方で行っておく』
日本の国際ホテルで行われたIS会議。その会議ではISの開発者である篠ノ之 束を招いての重要な議題が話し合われる筈であった。
会議とは名ばかりで篠ノ之 束により話し合われる議題の柱が全て圧し折られてしまう結果に終わってしまった。養子を引き取り性格が丸くなったと思われたがそんな事は無く、IS業界が抱える問題は全く改善しなかった。
『ISコアの量産の再開』に関してはどの国も束に働き掛けたい議題であった。と言うのも、全世界各地で国家が保有するコアが盗難される事件が発生しているのだ。
『アルセーヌ』と名乗る人物が対象の組織に対して予告状を送り付け、そして盗む怪盗が地球全体で暗躍しているのだ。
どれだけ防衛態勢を築こうと怪盗アルセーヌはそんな努力を嘲笑うかの様に気付いた頃には盗まれているのだ。その為、各国が使えるコアが少しずつ少なくなっている。限られたコアを分け合うには無理がある。ならば新たに新造して貰うしか無いのだ。
10年経った今でもISのコアは製造法に関しては完全なるブラックボックスであり、開発者である篠ノ之 束しか造り出す事が出来ない。しかしながら、その当の束からその交渉は破談に終わってしまった。
本人には取り付く島も無い。ならばと各国政府はやり方を変えざるを得なかった。
標的をIS学園に在籍している束の息子である篠崎 若菜へと定めたのだ。
『篠ノ之博士の息子である篠崎 若菜と接触しろ。可能な限り親密な仲となれ。懇意となれば何れは篠ノ之博士への交渉の糸口になる筈だ。後、篠崎 若菜の専用機のデータも可能な限り集めろ』
と、鈴音は中国政府の高官から命令を受けてIS学園へ転校の形で入学した。
「……全く気乗りしないわねぇ。実質、ハニトラやって来いなんてさぁ」
IS学園には幼馴染とも言える一夏が居る。彼に会える点に関しては構わないが、やはり政府からの命令に関しては気乗りはしなかった。
コア量産の糸口もそうだがそれだけに飽き足らず専用機のデータも欲する限り、実質的にハニートラップをして来いと言う内容だからだ。
自分の様な代表候補生がそう言う指示を出しているんだ。既にIS学園に在籍していて政府の息が掛かっている生徒や他の代表候補生も同様の指令が下されていても不思議では無い。
「親がダメなら子を説得しろって……いつの時代の話なのよ……」
校門を潜り総合受付を目指す鈴音は、来日する前に渡された情報を纏める。
・篠崎 若菜は1年8組である。ただ8組は他のクラスと違いほぼ完全に独立した状態で授業が進められている。
・学園内での目撃情報によると篠崎 若菜は2人の女子生徒と常に行動しており単独で動いている様子は皆無である。
以上であった。情報は殆ど無いと言っても良かった。特に3人一緒に行動しているのはかなり厄介な点であった。この手の場合、単独の時に狙うのが定石……と言うかこの話は部外者には聞かせられないだろ。
「……はぁ、今考えても仕方ないか。機会を見て接触するしか無いわね」
気乗りはしないとは言え政府からの命令だ。背けば代表候補生の資格が剥奪されかねない。上手く事が運ぶかは兎も角、その行動を起こさねば何れは叱責が飛んでくるのは明白だ。
「取り敢えず、話が出来なければ意味が無いわね」
総合受付で必要な手続きを終わらせて配属されるクラスが2組であった。2組で同級生との顔合わせを終わらせた(その時クラス代表を変わって欲しいと頼まれ受諾した)後、序でに一夏が居る1組へ宣戦布告をしておいた。
やっぱり、アイツは変わっていなかった。……後、千冬さんもお変わり、痛ッ⁉︎
「マジでどうなってんのよ……⁉︎」
昼休み。件の篠崎 若菜の顔を拝みに8組へと向かったのだが、まるで空き部屋の如く蛻の殻と化していた。一般生徒の1人すら居ない。いや、そもそも登校していた痕跡すら見当たらないとくれば軽くホラーであった。
「如何して、誰も居ないのよ……?」
8組は担任教師の裁量に全て委ねられている。移動教室なのかも知れないが、昼休みで誰1人教室に残っていないのは明らかに異常にしか見えない。隣の7組の生徒に聞けば朝から誰も来ていなかったと、更には8組担任教師の姿も見なかったと言う。
「コレ、遭遇する事すら難しいとか言わないでよ……?」
話以前に出会す事すら難しいとなれば、かなりの難題だと鈴音は途方にくれそうな気分になった……。8組のカリキュラムが他のクラスと根本的に違うとなれば接触がかなり難しくなって来る。
「……となればイベント事。間近だとクラス代表対抗トーナメントか。
IS学園じゃ男性操縦者は目立つし一夏がクラス代表になってたから、8組のクラス代表はその篠崎って奴の可能性が高いわね。その時に、接触する方が確実ね」
無理に探し回ったりするよりも確実に目の前に現れる時を狙った方が堅実だ。鈴音はそのタイミングを狙う事にして8組の教室を後にした。