束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
全てが真っ白な部屋の中で金子 燐芽は目覚めた。
「……この流れは、既視感を感じますね」
燐芽は自身が見知らぬ場所で目覚めた場合、先ず行ったのは周りを調べる事であった。オリエンテーションの時も見知らぬ場所(かつ紛争地域)にて目覚めた。その為、今回は然程驚きはしなかった。人間、一度体験すると冷静になれるモノだろう。……いや、其処は人に依るのか。兎も角、燐芽は冷静でいられた。
「……一面、真っ白ですね」
一面が真っ白な部屋。
床も壁も天井に至るまで真っ白な部屋。視界に見えた自分が寝かされていたベッドもシーツも純白の白。部屋の片隅にある白いカーテンで区切られた先は手洗い場であった。勿論、清潔感のある白色。反対側の壁には窪みがありシャッターの様な造りとなっている様だ。
そして、正面の扉もまた純白。覗き窓も無ければドアノブの類も無い。部屋の中から開ける事は不可能と思われる。試しに押してみるも、燐芽が非力な腕力も相俟っているのか、ビクともしなかった。外部から鍵が掛かっているのだろう。
最後に燐芽がその身に纏っている服もいつの間にか着せ替えられていたのか、真っ白な病衣を思わせる真っ白な寝間着にも使える部屋着であった。IS学園の制服も白かったが、少なくとも制服では無いしこの様な部屋着を燐芽は持ってはいなかった。
皓。何から何まで皓。調度品も殆ど無い部屋。
唯一、色が異なるなるのは自分の肌と髪の毛くらいでそれ以外は例外なく皓で統一されている。真っ白な空間で部屋の中で燐芽1人だけ、収容されている状態であった。
「……此処で何をすると言うのでしょうか?」
見てくれだけで表現するならば何処かの収容施設に軟禁状態に近い。ただ、伽羅からは『冷静で居る事』とアドバイスが送られている。であれば伽羅の仕込みと考えるのが妥当。
そもそも此処はIS学園の中なのだろうかと言う疑問も浮かび上がってくる。
「取り敢えず……待って見ましょう」
前回も今回も事前に伽羅から詳細は伏せられた形で告知は行われた。前回も生命の危機を感じられたが、今回も生死を問わない内容になると予想を立てて覚悟をしていた。
『この特別試験。合格出来なければ、インフィニット・ストラトスに搭乗する事は決して認められないわ。触れる事すらも許可出来ない。故に不合格者には、追試も無く問答無用で退学。ゲームオーバーよ』
と、伽羅から事前に警告されていた。
流石に試験の内容は伏せられて何をさせられるのかは分からないがオリエンテーションの時と同じ様に説明がある筈である。
ベッドに腰掛けて暫く待つ事、数分。
『全員、目が覚めた事が確認出来ましたので今回の特別試験のルールを説明させて頂きます』
燐芽の眼前に空間投影ウィンドウが展開され音声が伝わって来た。オリエンテーションの時の様な黒塗りの画面では無くちゃんと
ただ、空間投影ウィンドウ越しに見える人物は伽羅では無かった。病的な迄に白い髪に罅割れた亀裂が走る悪魔の様な角を模したカチューシャと眼帯を付けた露出度が凄い服装を身に纏った見知らぬ女性だった。
『先ずは初めまして、8組の
人間から見て奇怪な格好のケーニヒスベルクと名乗った女性はそう自己紹介と伽羅が不在である事を告げた。恐らく8組の1人1人が自分と同じ白い部屋で同様の状態でこのケーニヒスベルクの通信を聞いているのだろう。
『今回の特別試験のルールは至ってシンプルです。貴方達にして貰う事は
「何も、ありません……?」
燐芽は予想外のその言葉に首を傾げた。邪推にはなるが、この部屋から脱出しろと言う無茶振りを言われるのかと考えてしまっていたからだ。
『ああ、皆さんの飢餓を凌ぐ為に指定の時間になりましたら視界に見えるであろう窪みから食糧は配給します。
食べ終えましたら同じ場所において頂ければ此方で回収しますのでお気になさらず。排泄関連も用意しておきました。ただ、入浴は出来ませんのでご了承ください』
食糧と排泄の問題は無い。ただ、入浴の観点は無いのと事。まぁ、マシと言えばマシだ。
『特別試験の基本説明は以上です。今回の特別試験に関する質疑応答を承りましょう』
本当に簡単な説明であった。この真っ白な空間で軟禁状態に近い状態でただ過ごせ……とだけである。其処からケーニヒスベルクに対して質問タイムとなった。
『質問がありました。期間は?と。
期間は特に
「……ッ⁉︎」
ケーニヒスベルクの残酷な言葉に燐芽は目を見開いた。若菜や伽羅から言われていたが、本気で死人を厭わない特別試験なのだと実感した。
『人間、24時間以上同じ色を見ていると……精神に異常を来すらしいんですよ。反動で他の色を見たくなるそうですね。
それ以外にも理由があります。宇宙空間では永劫に近い孤独に苛まれる事になるでしょう。
ISにはコア・ネットワークがありますが……この世には完璧なモノは存在しないようにコア・ネットワークも万能ではありません。
人間は社会的動物の一種。望む望まずとも人は集団の中で生きなければならない。それを放棄するならば人である事を辞めろ……と、このIS学園の教師は生徒達に教授していますが……』
最後の方は十中八九、千冬が言ってそうな単語である。
『残念ながら本来IS操縦者はその職業柄、集団生活とは真反対の孤独な世界に身を投ずる必要がありますので、少なくとも人である事を辞めなければ到底務まりません。正気を保った狂人で無ければ耐えらないでしょう』
この特別試験は将来、そしてその末路を直に叩き込む為の内容と言えた。23人中、最低でも3人がこの特別試験により未来を喰い潰される。
既に8組の生徒達は常識の通じない世界に一歩、踏み込んでしまっている。
『また質問がありました。リタイアは可能か? ありませんよ、そんなモノ』
後戻りは出来ない。既に何回も自主退学を検討する確認は行われていたからだ。その質問は敢えての確認か、それとも……?
『また質問がありました。今回の特別試験による後遺症のケアは場合によっては行いますのでご安心ください』
ちっとも安心出来ない内容と言えた。所謂、PTSDの内容は今後考慮されるのかと言う質問だったのであろうが曖昧な返答を返されてしまった。恐らくソレも含めての内容なのだろう。成程、本当に容赦が無い。
『質問は以上ですね。では、特別試験。
そう宣言された後、空間投影ウィンドウは閉じられた。この白い空間は無音の世界に包まれた。
「またか……。8組の奔放さは流石に困るぞ」
一方、その頃。IS学園の職員室では学年主任でもある千冬が頭を抱えていた。
4月も最終の週となり、IS学園の教師は5月に行われる『クラス代表対抗トーナメント』へと向けての準備を進めていた。
『クラス代表対抗トーナメント』とはその名の通り、全8クラスのクラス代表がそのクラスを代表してトーナメント形式で試合を行い勝敗を決めると言うイベントである。
優勝したクラスには優勝賞品としてIS学園の食堂で使える半年間のデザートフリーパスが進呈される。
このイベントには外部からの来賓……。つまる所、各国政府の重鎮格や要人や各種IS企業の人間が来校し観戦する為、IS学園としても気を引き締め手が抜けないイベントとも言える。
特に今年は『男性操縦者の件』や『IS学園其の物の存亡の件』も相俟って殊更、気が抜けない状態に陥っている。
「……また、8組の生徒全員の姿が見えないのか。そして今度は天瓦先生までも姿が見えない……」
トーナメント表を作成するに辺り、満遍ない対戦カードを構築する必要がある。1学年の場合はまだ4月に入学したばかりなので実力的に然程差は無いのだが、専用機持ちが居るとなると事情が変わってくる。
流石にズブの素人が代表候補生の相手に務まる筈が無くワンサイドゲームになりかねない。そうなってしまえば観戦者の方も味気ない展開になるだろう。
「……2組に中国からの代表候補生が来てしまったからな。奇数になってしまった……」
千冬が把握する限り1組と2組は専用機持ち。8組はまだ確認は取れていないのだが、恐らくクラス代表は専用機を持っている筈の篠崎であろう事から8クラス中、3クラスは専用機持ちと言う状況となる。
各国政府のお偉いさんからは恐らく男性操縦者の試合(ソレが男性操縦者同士の試合ならば尚良し)を強く望んでいる事だろう。
「と、なれば……初戦第1試合は1組と8組の対戦カードとして組むのが安牌だな」
先に専用機持ち同士で潰し合わせれば量産機に搭乗するクラス代表のクラスも上位に入れる枠が出来る。モチベーションと言うのはそれ程迄に生徒の向上意欲に影響を及ぼすのだ。
去年までならば此処まで考える必要は無かったのだが、IS学園の存亡の条件であるISライセンス試験の合格の有無に関わって来る。
「……兎も角、今年は男性操縦者が居るからな。恐らく外部からの襲撃も考慮せねばならん。オマケに束の子供達も居る……。今、何処の勢力も運用可能なISを欲している。束がライセンス制度の撤廃や量産を拒否した以上、学園の防衛力の是非が問われる事になる……」
その為、千冬は立場的にも運用可能な戦力の把握はしなければならない。その為、何としてでも専用機持ちの能力や戦術を把握したいのだ。……ただ、束が課した条件がかなりの曲者であり、其処の条件は緩和して欲しい所なのだが、その束とも連絡が付かないのが現状だった。
「ハァ。頭が痛いな……せめて何事も無く終わってくれれば良いのだが」
今回のアンケート。アレらは今後、予定しているライブ描写で使用する楽曲のタイトルの一部を和訳したモノでした。
①『悪魔』。DARE DEVIL
②『後悔』。In Hell We Live, Lament
③『神聖』。Sacred World