束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
3月。弥生の頃。
日本国の学生であれば別れの季節でもあり、卒業式が控えている月だ。他にも後期試験の日程が組まれるのもこの月である。世界が注目を続けるIS学園の入学試験も3月に行われる。
だが、IS業界……ひいてはIS操縦者を目指す者にとって如何しても無視できない超が付く程に重要なイベントがこの月に控えている。それは——。
『インフィニット・ストラトスライセンス試験』
5年前。篠ノ之 束が国連IS会議に殴り込み、大暴れした後に提唱された免許……即ちライセンスを取得する為の試験である。国内ではIS免許と呼ばれている事もある。
このライセンスが無ければインフィニット・ストラトスに搭乗する事は叶わない。
書類選考から始まり、技能、学科の試験に加えて面接の全てに合格基準を満たす事で初めてライセンスを取得が可能となっている。獲得可能最低年齢は13歳。
尚、ライセンス制なので1年ごとに更新しなければならない。
元々、ISには免許も資格も必要が無く、ただIS適性値があれば搭乗出来たのだが、女尊男卑と言う何処から湧いて来たと言わんばかりの社会病理が蔓延、本来の運用方法から余りにも逸脱すると言う事態に発展していた。
その杜撰な事態に対して束は激怒。愚かで有用性の無い女共を篩い落とすと言う思惑を抱きながらライセンス制度を導入させた。
ISライセンスには大まかに3種類に分けられる。
先ず『国内ライセンス』。
取得した国内でのみ使用可能なライセンス。例えば日本で取得したライセンスは日本国内でのみ限定区域でのISの使用、搭乗が許可される。ただし、あくまで使用許可であり所持許可では無い。
俗に言われる専用機持ちと呼ばれる専用機を与えられている者でも所持ライセンスが『国内ライセンス』の場合では、性能試験や模擬戦、公式戦以外では常時所持する事は認められない。
ライセンスの中では下位のランクではあるが、そもそもライセンスが無ければISに搭乗する事すら不可能なのでIS企業は応募やスカウトの入社資格の条件にライセンス取得を設けるのは自然な流れである。
次に『国際ライセンス』
国内ライセンスを取得して3年が経過し国際ライセンス取得試験に受験し合格する事で取得する事が出来るライセンス。
取得すれば国外でもISの使用が許可され、主に専用機の常時携帯が許可される。
言うなれば国際ライセンスを取得して漸くライセンス導入以前の状態として運用が可能となる。
その都合上、国家代表候補生以上で専用機を求める場合は国際ライセンスの取得が在籍条件となっているケースが殆どである。
最後に『特別ライセンス』
取得条件其の物が特殊であり、IS開発者の篠ノ之 束が直々に許可する事で贈呈される特別なライセンス。
此方は文字通り、特別なライセンスなので取得条件は完全に非公開。
余りの秘匿性に様々な憶測が囁かれており、1番有力な説には篠ノ之 束謹製の高性能専用機が与えられ、子煩悩な篠ノ之 束が自分の娘達に専用機を与えて英才教育していると言われているが、その娘達は今日に至るまで、ISに搭乗、ないし活動したと言う話は1度も確認されていないのが実情。
その種類分けの為、基本的に『国内ライセンス』取得の事を指している事が多い。
そして、IS学園の入学試験日、時間が被るように日程が組まれている事が多く、試験会場も鹿児島県、高知県、島根県、滋賀県、長野県、茨城県、岩手県……と言ったある意味で意味不明な立地で行われる為、IS学園の入学希望者は同日受験が距離的な問題(IS学園の入学試験会場は東京都で行われる為)で不可能である。
勿論、束が身内以外の人間達を信用していないが故の白地なまでの嫌がらせである。
そして肝心の合格率なのだが、かなり厳しい。昨年度の受験者は国内だけで8万人に昇ったが、国内ライセンスを無事に取得出来た者はたったの3人だけであった。
「……はぁぁ、何とかギリ進級出来たぜ」
「真面目に丁寧に土下座を続けた成果だな」
「……その努力を他の方向に活かせよ。最終的に後悔するのは己らだぞ」
定時制と全日制が同居する食堂にて、若菜は全日制の知人の2人の様子を見て呆れていた。この2人は赤点が多く、留年も已む無しの状況だったが辛うじて回避に成功したようで無事に進級出来そうとの事。
3月に入り、残すは最終学年生の卒業式と終業式を残すのみとなっており、全日制も昼までの日程となっていた。適当に昼食を摂ったら後は帰るだけとなるだろう。
「……でもまぁ、適性検査は見事にスカッたわ」
「そもそも期待していなかったけどな」
そして全日制ではIS適性の全国一斉検査が行われたが、この高校では発見されなかったらしい。情報サイトを見れば他に男性操縦者が確認されたと言う内容のニュースは無かった事から、見つからなかったようである。
「後は終業式を残すだけだな。なぁ、篠崎はこの後は暇か?」
男子学生にあるあるの遊びの誘いである。学校が昼までの為に何処か遊びに行こうと言うノリの誘いである。
「あー、遊びの誘いに乗りたいのは山々なんだが……用事があってな。すまん」
「マジか……‼︎ 春休みは」
「………すまん。其方も時間がカツカツなんだわ」
「定時制だからやっぱ、バイト三昧とか? 夏休みの時も全然、連絡取れなかったしな」
定時制はワケアリであり、更には働きながら学業に勤しむ苦学生と言う印象がある。そして、定時制の生徒は何らかの事情で休む場合が多い。若菜の場合は余り公に出来ない事情が満載なので、休む頻度が多い。
「そんな所だ。悪いな……」
若干の申し訳なさを抱きながら昼食を食べ終えた後、学校を後にした。
何時もの道則では無く、反対側の道路を歩く。少し進んだ先にて、一台の車が視界に入る。そのタイミングで運転席の窓が開いた。
「若菜、迎えに来たわよ。さ、早く乗っちゃって」
「伽羅さん。はい、分かりました」
助手席の扉を開けて乗り込み、シートベルトを着用するや否や、車は発進する。
「いやぁ、今回も多いみたいだね〜。昨年度の受験者を超えるみたいだよ〜」
「……その内、半数以上が去年不合格になった連中でしょうけどね。最も本人は何がダメだったのか分かって居ないでしょうけれど」
話の内容は今日から開始されるISのライセンス取得試験の事である。受験者が余りにも多い為、数日間に分けて行われる。
そして、今年は過去最高の受験者の人数との事。最も大半が昨年、受験し不合格だった者だろう。ライセンス制が導入され、何度も落ちる者も当然現れる。そうした者が再び受験する為、年々増加傾向にあるのだ。
「……んでもって、自分の不甲斐なさを覆い隠すように正当化してデモ活動をしている連中も現れるんですよね」
信号待ちをしている最中、助手席側の窓の向こう側でISのライセンス制度を反対する女性権利団体のデモ活動が視界に入ってきた。
ISにライセンス制が導入され、ライセンスが取得出来なければ一般女性と大差無く、今まで甘受してきた女尊男卑の恩恵が失われた事に憤りを抱いて抗議している。
あのデモ団体の中には試験に落ちてライセンスの取得が出来なかった事に対して『試験内容が難し過ぎる』だの、『不公平極まりない』だの『女性差別』だの、束が与えた試練を乗り越える事が出来ない現実から目を背け自分達の正当性を主張し続けている。
「……彼女達の主張は、勘違いも甚だしい限りね。インフィニット・ストラトスの本質を無視し、自分達が抱き育んだ妄想、女尊男卑こそが真実にして現実のあるべき姿であると言う集団幻覚。或いは宗教化……本当に笑えるわね」
「ガイアが言うにはもう殆どの地球上のISコアが見切りを付けているらしいですよ。自壊プログラムの導入を要請する意見が出ている……って言ってましたね」
「……そこまでとなると、いよいよ末期かな。もう将来性が見込めないと思っているみたいだね」
つまる所、この地球上では宇宙進出への見込みが見出せないとISコアの自我は認識しているのだろう。
「…………………。甘露な蜜は身を蝕む劇毒と化す、か。とても笑えませんね」
その甘さ故に思考を麻痺させ、感情を昂らせ自制心を失わせる。……インフィニット・ストラトスはその者達の理性を狂わせる劇毒であった。
「甘さに溺れて溺死、かぁ。骨の髄まで溶けて尚も気付かない。当人達は死ぬ直前まで幸せだろうけどね」
信号機が青になり、視界からそのデモ団体の姿が消える。彼女達にはインフィニット・ストラトス以外で誇れるモノは無いのだろうか。いいや、縋るモノがソレしか無いからこそ、必死に抗議しているのかも知れない。
「……何はともあれ、本人の意思を尊重しましょう。その末路が如何なろうと、本人の帰路ですから」
「……若菜は優しいね。あんな連中に対してもそんな優しさを見せれるんだから。その優しさが時々、惨たらしく思えるけどね。本当に良い傾向よ。教え甲斐があるわ」