束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
「ふ、踏んだり蹴ったりじゃない……‼︎」
夕暮れ時の本校舎。大食堂の一角、円を描く形状のソファにて鈴音は項垂れた様子で嘆いていた。
「一夏の奴、私との約束は全く覚えていないし……」
鈴音は一夏と再会し、1組の専用機持ちや更に別の一夏の幼馴染と交流(と言う名の牽制や喧嘩腰)をした後、……喧嘩になってしまった。売り言葉に買い言葉、喧嘩腰のまま転げ落ちる様に、堤が切れたかのように言葉が洪水となって出て行った。言い争いの結果、今度のクラス代表対抗トーナメントで決着を着ける事になった。
「それで、2人目に会いに行こうとしたら……8組の担任に阻まれるわ……。今日は厄日じゃない……‼︎」
色恋沙汰にかまけている余裕は無い。
そもそも鈴音は『篠ノ之 束の息子である篠崎 若菜と接触し篠ノ之 束に取り次いで貰い、各種交渉の糸口を探る』と言う中国政府からの密命を受けてIS学園に編入して来たのだ。同日、8組が登校していると言う情報を得て、一夏との問題を引き摺ったまま、8組に向かうも……。
『つまらないハニートラップを仕掛けて、束博士が納得するとでも? 代表候補生が若菜に接触しようとした場合、物理的排除も吝かでは無いわ。今回は許すけど……次はどうなるかしらね?』
8組の担任教師に初見で目的を看破されてしまい門前払いを喰らってしまった。中国政府からの命令は実質ハニートラップに等しい。
「……8組の担任って何者なのよ? 千冬さん以上の恐怖を感じたわ……。ただ笑っているだけだったのに心臓を鷲掴みにされた気分になったわ……‼︎」
そもそも代表候補生が男性操縦者に会いに行くだけでも関係者は警戒を強める。学生同士の交流すらも許されないのだろう。接点を持つ事すら認めてくれない。
8組の若菜には護衛役に加えて担任教師は本来、篠ノ之 束の子供達の家庭教師を務めているとの事。……家庭教師にしては底冷えするかのような印象を抱いた。
「……げっ」
黄昏ていた時、1つの着信音と共に鈴音の顔が歪んだ。通信相手は中国政府の中国の候補生管理官であった。相手にはしたくは無い……したくは無いのだが出ない訳にはいかない。要件は分かり切っている。それでも定期的な報告はしなくてはならない。
「はい……」
『今、時間は大丈夫ですね? 凰 鈴音代表候補生』
大丈夫か?では無くて大丈夫だと言う辺り統率力が高いと言える。
「は、はい。楊管理官」
一応、放課後の時間帯であり後は部活動か寮棟に帰るだけなので時間は大丈夫と言えば大丈夫と言えるだろう。だからと言って、こんな時に連絡を寄越して来なくても良かっただろうに。
『定期報告をお願いします。件の篠ノ之博士の息子と接点は持てましたか?』
「その……2人目は8組で……その8組の担任教師に阻まれました。……顔を拝む事すら出来ていません」
此処で『物理的排除も辞さない』と口にしてしまえばどうなるか分からない。
「それから8組は他のクラスと教育方針が完全に8組の担任教師に委任されていて……生徒全員が丸っきり居ない時もあるんです」
『そのような報告は必要ありません。私は篠ノ之博士との接点を作れと言っているのです』
そんな事を言われてもと言いたい。
家庭教師と生徒と言う関係ならば自ずとその教師と接触する可能性が高い。……見た瞬間に気付いた。あの教師はただの家庭教師では無い。明らかに人を殺した事があるかのような冷たい目をしていた。そう思わせる凄みがあった。織斑 千冬以上のヤバさを感じられたのだ。
『今現在、何処の国家も篠ノ之博士と接点を得ようと躍起になっています。以前の国際IS会議で篠ノ之博士から酷く拒絶され、ライセンス制度によりライセンス保持者のIS操縦者の確保、世界各地で発生している正体不明の『アルセーヌ』によるISコア強奪事件よ対策が急務となっています』
ISライセンス制度により実際にIS操縦者になれる者は極めて限られてしまっている。その上、『アルセーヌ』と名乗る正体不明の怪盗が世界各地のISコアを盗み出すと言う事件が発生、そして阻止する事も叶わない為に国が保有するISコアが減少の一途を辿っている。
『かく言う篠ノ之博士しかコアを開発出来ぬ以上、ISコアの寄与の言質の確保は何としても成し遂げねばなりません』
束しかISコアは開発出来ない。此の儘では枯渇してしまう。その為、何れの国もISコアの量産を強く望んでいるのだ。しかし、束はコアの量産を拒絶している。
『本人が話し合いの席に応じぬ以上、交渉の糸口はその息子にあります。その息子と接点を持ち……あわよくば恋仲となれば、子煩悩で有名な篠ノ之博士も無視はしないでしょう』
コアを1つでも多く手に入れた者が優位に立てる。国交も防衛力も経済的にも……今、この世界ではISを中心に回っていると言っても過言では無いのだ。
かつては性格に難があり会話もままならなかった篠ノ之 束。養子と養女を迎え入れた時、子煩悩と言っても過言では無いレベルでの変貌ぶりは驚愕モノであった。
ならばこそ、その息子と恋仲同然の仲となれば流石の篠ノ之博士も耳を貸してくれるかも知れない。息子の嫁となれば篠ノ之博士の『義娘』に等しいからである。自分の子供を大事にしているのならば、その枠組みに入る事が出来れば交渉が可能であると殆どの国がその発想に至った。
だが、恋仲とは一言で言えば国際的に考慮しても伴侶はたった1人だけ。つまる所、交渉権を得られるのは一国のみ。
故にコレは競争……如何なる国も押し除けてゴールに辿り着けれるのはたった1人だけなのだ。
秘匿されている男性操縦者の情報も、その専用機の情報も、そして新たなISコアも……一国のみしか得られない。
『我が中国政府の進退は貴女に掛かっているのですよ、凰 鈴音代表候補生。他の国も同じ様に接触を図ろうとするでしょう。どの国の誰よりも早く……篠ノ之博士の息子。篠崎 若菜と接点を持ち、最終的には恋仲へと進展を進めなさい』
「………………」
はい。と了承は出来なかった。
確かに鈴音は中国の代表候補生だ。その恩恵に与っている以上、政府の命令に従う義務が生じる。だからと言って鈴音の感情的な問題としては納得しかねる……。当然ながら個人の恋愛観は国家と言う組織体の前では無視されるモノである。
『聞いているのですか? 凰 鈴音代表候補生‼︎』
「は、はいッ‼︎」
『既にIS学園に学籍を置くイングランドとロシア、日本は動き出して居ても不思議ではありません。一度失敗しても何度でも接触を図りなさい』
しつこい男は嫌われるとは言うがしつこい女もまた嫌われる。
「……あの、何度も押し掛けるのは流石に」
『嫌悪感を抱かせず、尚且つ目論見を悟られずに接点を持ち、純粋に好意があるように務めなさい』
「…………」
途方に暮れたくなった。既に向こうの関係者にはバレているのに……。
『……確かに貴女はチンチクリンで胸も絶壁レベルにありませんが、そう言う需要もあるでしょう。
大方、他の国は無駄に脂肪の付いた女を宛てようとしますが、埋もれるくらいならば一目を惹く方が有利と言えるでしょう。自信を持って任務に励みなさい。次回は色良い報告を期待しています』
そう一方的に言われて通信が切れた。