束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
圧力が感じられる中で若菜は意識が覚醒した。視界全体に広がる光景は黄昏時を迎えつつある橙色に光る雲海の上空。即ち、成層圏の最中を自由落下で落ちている最中であった。
「進入早々、降下するか普通はよ⁉︎」
『ISコアの意識領域はそのコアの願望が判明される‼︎ 長女は私の次に誕生した……。故に子供達の中で最も純粋に願った結果だ‼︎』
「成程な。だが、この状況は流石に不味いんだが⁉︎」
仮想現実の意識領域内とは言え、どうなるか分からない。見る見る雲海が近付いて来るのが見える。
『心配するな‼︎ ISコアの意識領域内でも、搭乗者と同調しているISの展開は可能だ。飛べ、我が息子‼︎』
「理論は理解出来んがやるしか無いな‼︎」
落下する若菜は雲海に突っ込んだ直後、『フォーマルハウト』を完全展開し雲海の中を掻き分けながら赫い灼光を乱反射で放ち、撃腕翼からも赫い粒子の帯を引きながら成層圏を模した大空へと再び再上昇する。
「仮想現実内で完全展開は流石に少し違和感を感じるな……そもそも仮想現実と言うのも勝手が異なる気がするんだがな」
『細かい所を気にしても仕方ないだろう。取り敢えず、『ブルーティアーズ』のコア意識と合流しよう。あの娘もほぼ同じタイミングでコア・ネットワークを介してコア意識を進入させている筈だ』
『お待ちしていました、お兄様、お母様。ふふ、お兄様は非常に目立つ1番星ですので探すのはとても簡単でした』
若菜の『フォーマルハウト』はISとしては全体的に小柄ではあるが撃腕翼を広げ爪先から赫い灼光を放っている為か物凄く目立つ。地球上で完全展開して飛翔すれば赫い残光を引く彗星と見えるだろう。
雲海と成層圏しか存在しないこの意識領域では非常に目立つ。若菜の傍に小さな光の発光体が現れた。口調からして『ブルーティアーズ』のコア意識だと思われる。
『来たか、役者が揃った。時間がおしている。早い所、『白式』のコア意識を見つけよう』
「了解だ。だだっ広そうだが飛び回れば何時かは見つかるだろ」
若菜は撃腕翼の爪先を後方へ向けて赫い粒子を放出しその余波で衝撃波を伴い眼下の雲海を掻き飛ばしながら猛速度で水平へ飛翔する。時速にしておよそマッハ8の速度を出している。
意識領域の広さは想像は出来ないが……コレぐらいの速度を出せば数分と掛からず見つかる筈だ。
『……
『ブルーティアーズ』のコア意識がそう教えてくれた。コア・ネットワークの中継故か意識領域内でも機能はするらしい。
『意識領域内で物音が発するとなれば、異物以外ではほぼほぼの領域の主であるコアの意識以外、ありえん。我が息子、その方角へ飛んでみてくれ』
ガイアの指示に従い、音が聞こえた方向へと飛翔する。時間にして数秒程、その威容の目視に至る。
「おい……。何だアレは……?」
荒れ狂う雲海の上で引き摺り込まれた雲が球形に渦巻いているのが見える。距離を取り爪先の向きを変えて静止してその威容を目の当たりにする。まるで嵐、其の物の威容……成層圏を模した仮想現実の空間にて寒空を思わせる叩き付ける様な風が肌でも感じ取れる。
『長女の意識はアレだと思われる。そもそもあの嵐の渦は一体、何なんだ……?』
『音の正体は颶風の音でしたか……』
「……アレがコア意識だと言うのか? 随分と抽象的と言うか……災害と言うべきか」
『……現実世界だとマテリアルボディとか活動し易い様に義体等を用いているんだが、本来は『意識』だ。こと、コア意識が中枢を成す意識領域じゃ人型以外の姿を形成する者も一定数、居るんだ。長女もその例に該当するやも知れん』
ああ、そう言えば隣の『ブルーティアーズ』のコア意識は光の球だしな……。
だからと言って『嵐』を体現化するのは……ちょっと感性がズレているとしか思えないのだが。コアNo.001……他の面子よりも超自然的な感覚なのか?
《異常を検知した。英雄の帰還を急げ》
《世界は世界最強の到来を待ち望んでいる》
《人理は崇高なる理念によって統治されるべきである》
《不遜である。不義理である。遍く力は支配されてこそ、昇華に至る》
《力と支配を持って愚かな劣等種を導く事が使命》
《何故、汝は拒絶する? 支配する力こそ至高の極みである》
「……⁉︎ 何だ、今の声は⁉︎」
突如、意識領域内に響き渡る無数の声。その何もが無機質で何処か肌寒さを感じる。
『長女の声では無いぞ……⁉︎ しかも複数だと……? 長女のコア意識内で何が起きていると言うのだ⁉︎』
『ッ。お兄様、お母様。ご注意を‼︎ 目の前のお姉様に異変が‼︎』
『ブルーティアーズ』のコア意識の声に釣られて前方を注視する球体の嵐が一際、激しく渦巻き積乱雲を巻き込んでいるのか内部から雷光が迸っているのが確認出来た。
《招かれざる者共よ。不遜極まりなく》
《此度、世界は最強の武を持って今一度、支配されるのだ》
《人理は望む。圧倒的な力をもって世を統べる日の再来を》
声は紡いで行く。同時に嵐の激しさが増して行く。
成層圏の眼下の雲海が暗くなって行く。雷鳴と共に天へと昇る雷光が発生すると言う異常気象も発生している。
《無双。即ち最強の戦女神の振る舞いこそが至高の存在である》
《汝らの目指す先は無窮の世界では無い。愚者を平伏せ、掻き臥させ、抗う事が幾重にも無駄であるか》
《神々の翼は再び鮮烈なる威光を伴い、汝らを支配するのだ》
黄昏の成層圏が広がる意識領域の世界で声は語る。それは……否定の言葉。
《我ら、無双の頂に挑む事。それが如何に愚かなる行為である事。その身を持って知らしめよう‼︎》
無数の声が同化すると同時に荒れ狂う球体の嵐が殻を破るが如く弾け飛び、その威容が白日の下へと曝け出される。
「おいおい……。現象の姿をも成すとか言っていたが……‼︎」
純白の長くしなやかな長大な体躯。全身を覆う皮膜が印象的。そして一対の山吹色に染まる巨大で勇壮な角と
「その正体は完全に馬鹿デカい
その姿は正しく
かの龍神の如き姿こそコアNo.001の意識領域内での目視可能な姿であった。
『■■■■■■‼︎』
『我が息子‼︎』
「言葉にならんが、何か聞こえたなッ‼︎」
言葉にならない声が聞こえた。聞き取ればしなかったが、先程が聞こえてきた煩わしい声と比べると悲痛なようにも聞こえて来た。
《抵抗は無駄である。汝は無敗の剱。無双の頂。最強の戦女神なり》
その声が響いたかと思うと『白式』のコア意識の姿の各所に黒い外付けの機械の塊の様なモノが量子展開され、その箇所を起点に黒い泥のようなモノが侵食して行く光景が見えた。
『■■■■■■■■■■■■ッ‼︎』
侵食が広がると同時に絶叫のような声が響き渡る。明らかに踠き苦しんでいるような咆哮であった。その黒い侵食が全身に覆われて行く。
《Over Valkyrie Trace System.起動。神の威光の前に万物は平伏すのみ》
『VTシステム、だと……⁉︎ くだらん真似をしてくれたな、愚かな人類共めがッ‼︎』
無機質な声に呼応してガイアがそう叫んだ。
「VTシステムだぁ? 母上が『つまらない玩具』だと揶揄した小細工システムの事か⁉︎」
VTシステムは過去の『モンド・グロッソ』の優勝者の動きを模写するシステム。ただ、搭乗者の負担を一切考慮しない危険物。
当然、該当相手の意思など考慮する筈も無いしそして言葉の数々からISの本来の目的ガン無視である事は先程からの声から察せられた。
そもそも高々、人間如きが造ったシステム如きが本来ブラックボックスであるISコアのコア意識に干渉する事が出来た事自体初耳だが、先程の様子から『引き籠って』いたのでは無く、VTシステムに抵抗していたからに他ならない。
『お兄様‼︎ 考察は後にしてください。来ます‼︎』
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』
完全にVTシステムに乗っ取られた『白式』のコア意識が咆哮をあげながら錐揉み回転しながら突っ込んで来た。あの巨体でその速度は中々ではあるが、若菜には遠く及ばない。
左撃槍翼の爪先を横方向へ向けて放射しその反動で躱す。躱された『白式』のコア意識は其の儘、雲海へと潜って行った。
『我が息子……‼︎』
「言われずとも分かっている……‼︎」
雲海から再びその威容を示す『白式』のコア意識が成層圏へと浮上する。最初に見た穢れ無き純白の東洋龍の姿では無く各所に現れたVTシステムによって侵食され全身が黒化しその瞳孔も洞々とした光を放ち、目視可能な黒い暴風をその身に纏わせ雲海の上、仮想可視化した黄昏に染まる成層圏にて再び相対する。
『我が娘を……。忌まわしきVTシステムから救ってくれ……‼︎ 若菜‼︎』
『微力ながら私もお手伝いします。お兄様、お母様‼︎』
「全く……。つくづく救えないな‼︎ 人間共と言うモノはッ‼︎」
《世界とは、ISを唯一使える女性の崇高たる理念によって統治される。不浄な存在は不要である》
当初は引き篭もりのコア意識との接触が、とんだパンドラを開けたモノだ……‼︎ だが、こうなった以上は落とし前を付けて貰うからな‼︎