束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
ゴールデンウィークが明けてからの月曜日。IS学園が取り巻く話題はクラス代表対抗トーナメントへと向けられていた。今年は1学年だけでも専用機を持つ生徒が複数人居る為、話題に事欠かない。優勝商品であるデザートフリーパスの事もそうではあるが、主に誰が優勝するかで食券を賭けてのトトカルチョまで行われている始末、良いのかそれで。
だが、此処……8組では毛色が異なっていた。
「さて……クラス代表対抗トーナメントまで日数が迫っている訳だが」
肝心のクラス代表対抗トーナメントは5月の最終週に行われる。それまでにどれだけ準備を済ませられるかで勝敗を分ける事になるのは言うまでも無い。
「取り敢えず各自が収集した情報を一旦、整理しよう」
月曜日の朝のホームルームと1時間目を使い『対策会議』が行われていた。クラス代表対抗トーナメントへ向けての生徒各位が参加する一種の会議型授業と言える。
8組の『参謀役』を担う若菜が教壇の橋を定位置とし司会を務め、8組担任である伽羅は教室の後方で事の成り行きを見守っている。
「先ず専用機を有しており尚且つクラス代表を担う人物のクラスは1組、2組、そして4組です」
永世がそう発言する。1組は織斑 一夏、2組は凰 鈴音、4組が更識 簪と言う名前。それ以外のクラスは専用機持ちが居らず一般生徒が担当している。
「……3組、5組、6組、7組は概ね情報の差異はありません。大方、似たり寄ったりの状態。8組の様な訓練規模が行われている訳では無さそうです」
専用機持ちが居ないクラスのIS訓練における実技訓練の内容は初歩も初歩。8組の様に休日を丸ごと訓練に明け暮れる様な授業は行われず(そもそもゴールデンウィーク中は8組が独占していたが)、生徒各位の戦闘能力も横並びとの事。
「それに加えてだ。4組のクラス代表、更識 簪は脅威にはならない。除外して問題無いだろう」
4組の情報探索を担当していた紫苑が腕を組んだままそう断言した。ハッキリと脅威にならない、と。
「何故です?」
「更識 簪と言う奴は確かに日本の代表候補生だ。だが、専用機の拝領を無期限延期にされたようだ。流石に詳細までは現時点じゃ分からねぇが開発元からコアを引き取って自分1人で専用機を組み立てている……ってな。篠崎、ISの開発ってのはどれ程の期間を有する?」
紫苑からそう質問が投げ付けられる。敢えて聞いて来ている節が見受けられる。
ぶっちゃけ束を始めとした若菜の周りにいる連中は1日は愚か半日ありゃ、殆どの機体を完成に持ち込む事が出来てしまう異次元の技術力の持ち主ばかりである。因みに知っている限り最短記録は僅か30分である。エストレヤの技術力はバケモンか。
正直な所、そんは連中を比較対象とする事自体が間違っている。
「……そうだな。内容にも依るが施工費やら材料費の調達や加工時間、他にも精密部品の加工からの各種プログラム構築の観点から、相応の技術者各位を複数人揃えて数ヶ月から数年は必要だろう。それを一介の未成年の生徒1人で独力で組み立てるとなると……。気が遠くなるな」
余程の天才的な技術力が備わって居なければ無謀な試みと言える。それこそ、地球上の突然変異とも呼べる篠ノ之 束に匹敵しなければ現実味を帯びない。
そして、それほどの技術力を有しているとなれば相応の『情報』が飛び交っていても不思議では無い。そもそも開発元の企業に頼らずとも独力で既に完成に持ち込んでいる筈だ。無期限延期と言う単語が出て来る事自体、可笑しい。
ならば確かに代表候補生になれる人材と見做す事が出来るが、開発能力に関しては抜きん出る事は無かったと推察される。
「……敢えて訊ねたと言う事は」
「ああ、完成の目処が立っていないらしくてな。4組は事実上、初戦からの不戦敗。本人も欠場して機体開発を進めるとの事だ。此処で、2、3週間で完成と答えられたら軌道修正しなきゃマズいだろ?」
4組は欠場と断定。4組の生徒はその現実に残念がるだろうが、其処の点は頗るどうでも良い。
「……と、なりますと脅威となり得るのは1組と2組となりますね」
燐芽がそう議題の駒を進める。その言葉に8組一同は同意する。その後、全員が教壇の端に立つ若菜へと視線を向ける。若菜は意図を汲み取り、黒板に現在判明している情報を提示する。
「先ずは1組だな。能天気なのか馬鹿なのか……黒糖代表が言うにゃ自分から情報をホイホイと喋ったらしいな」
黒板には1組のクラス代表、織斑 一夏の搭乗機体、機体名『白式』の各種情報が提示される。
「……武装は近接ブレード型武装、『雪片弐型』のみ。他の武装の搭載は事実上不可能とされている完全近接特化型」
刀身の長さは太刀程、しかし後述の単一仕様能力によりリーチは増大化する為、間合いには注意が必要と言える。
「その近接特化の恩恵を最大限に活用する為、初速及び加速性能は上位に位置する。一気に間合いを詰めての得意の近接格闘のインファイトを仕掛ける……そう言うコンセプトの機体だ。
単一仕様能力『零落白夜』。ISのシールドバリアを破壊して直接、肉体へと攻撃を可能とするエネルギー中和能力。だが、その強力な威力の代償として自身の機体のエネルギーを消費する。諸刃の剣とも呼べる。
だがソレを差し引いてもこの存在により無類とも言える対IS特化機体と言える」
使い熟せればその威力は何倍にも増大する。担い手が剣豪ともなれば、無類の強さを発揮出来るだろう。
「やはり接近戦を挑むのは無謀ですかね?」
「ああ、そうだな。余程の腕が無い限りこんなヤツ相手に馬鹿正直に接近戦に興ずる必要は無い」
久里の言葉に若菜は肯定する。わざわざ相手の土俵に上がって戦闘行為を行う義理は無い。そもそも相手は尖り切った性能とは言え量産型の機体とは比べ物にならない程、高性能である専用機。
それだけに飽き足らず単一仕様能力まであるのだ。この時点で大きな性能差、戦力差が見込まれている。
機体の性能差が戦力の決定的な差では無いとは言え……俯瞰的に見れば劣勢に立たされているのは言うまでも無い。
「質問です。天瓦先生は『参考書』は9割方役に立たないと仰っていましたが……単一仕様能力は元々、二次移行に移行してからでは無いと発現しないそうでしたが……」
永世が其処で質問を投げる。『白式』は一次移行の時点で本来ならば二次移行していなければ発現しない単一仕様能力を発動させた件である。
「其処の点か。俺もその点は気になっており現在も調査中だ……ただ」
「ただ?」
「その過程で判明した事だが予想以上に厄介な事になっている。内容が内容でな……。詳細までは明かせない」
「……つまり、予期せぬ形での発現、と捉えても宜しいでしょうか?」
明かせない点に関して永世は深追いはしなかった。察してくれたか、或いは……いや、考えるのは止そう。
「ああ、今はその認識で捉えて貰えると助かるよ」
『OVTシステム』の存在はまだ未知数。伽羅の教練により其処ら辺の素人よりもマシになったとは言え、彼女達を巻き込むのは忍びない。
「改めて考えてみても機体構成からモンド・グロッソで活躍した織斑先生の機体、『暮桜』と酷似していますよね……」
「大方、後継機とは言うがネームバリューとかその辺の利権が絡んだ結果だろう。姉が姉なら弟も使い熟せるとか言う……安い先入観が付随していたのかもな」
現在、開発元の倉持技研に関してはフィーリリアが調査中だった。調査内容が纏まるまで彼女に任せている。動くのはその後からでも良い。
「1組は今はこの時点に留めよう。次は2組だな」
「はいなのですっ‼︎」
其処で手を挙げる女子生徒。ピョンピョンと言う擬音が付きそうな動きで腕を伸ばす。卯の花色の短いショートヘアの平均的な身長の女子生徒だ。
「其処まで食い気味にせんでも気付いているよ、泳」
泳 尸狼。童顔な顔立ちで中学生かと見間違うが驚くべき程に存在感が薄い。目の前を歩いても気付かれない程であり、もう幽霊なんじゃ無いのかと思われる事もしばしばあったらしい。
「2組のクラス代表の人は〜」
尸狼の話によると2組のクラス代表、中国の国家代表候補生、凰 鈴音の専用機の機体名は『甲龍』。第3世代機の中で安定性を重視しており遠近両方に対応出来る装備構成との事。
大型の青龍刀で近接格闘、特殊兵装として空間圧縮して不可視の砲弾を生成、射出する『衝撃砲』こと『龍砲』を搭載しているとの事。砲弾のみならず砲身自体も視認不可能と言う、初見殺しの兵装と言える。
「……良く其処まで調べられましたね」
「はいなのですっ。凰さんの後ろにくっ付いて空間投影ウィンドウを開いているのをずっと見ていたぜ‼︎ 後……織斑さんと喧嘩別れしてましたし、天瓦先生にボロクソに貶されていました」
つまりは全く存在感が無い事を良い事に代表候補生のすぐ近くに居て、情報を好きなだけ収集していた様である。
「他にも篠崎さん相手にハニトラなるモノを仕掛ける様に中国のお偉いさんから命令されていましたよ? 他にも他の国の代表候補生が同じ目的で接触を図る事を画策しているとか何とか」
「あー……その辺は伽羅さんから聞いているよ。中国ん所がアホ丸出しの策謀を企んでいるのは知っていたが……他にもあんのかよ、面倒クセェな……‼︎」
「若菜くん、脱線してる」
「おっと、その話は此方で片付ける。2組も2組で厄介だな。不可視の遠距離武装を搭載しているとなると……中々厄介だな」
「視認出来ないとなると……後は勘で躱す事になるでしょうか?」
「現時点では何とも、だな。クラス代表対抗トーナメントはトーナメントだ。間違いなく2組は優勝候補……何れは何処かでぶつかる事になる。
不可視の攻撃を感覚で躱すなんて芸当が出来る奴がIS学園内に早々、居るとは思えないからな。いたらソイツは逸般人だ」
其処で1時間目の終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。
「……今回の会議は以上で閉廷だ。引き続き担当の人は情報収集に努めて欲しい。俺は例の『策』の準備に取り掛かる」
若菜の腹案。その準備に取り掛かると告げた、タイミングとしては此処で仕掛けるのがベストであると認識したからだ。
同刻。IS学園職員室。
「何⁉︎ 予告状、だと……⁉︎」
IS学園の職員室に突如、届けられた予告状。
『
』
それは全世界を股にかけ、世界各国が保有するISコアのみを狙って盗み出す『怪盗アルセーヌ』からの予告状であった……‼︎