束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
「……ったくいきなり何なんだ?」
「『専用機』持ちの生徒を緊急招集、だなんてね」
二時間目の始まろうとした矢先、校内放送にて『専用機持ちは生徒会室へ集合を要請する』と言う強い語句での放送が流れたからだ。
更に追加で8組の伽羅相手に個人回線で集合要請が掛けられて来たからだ。公開されている中で8組の専用機持ちは篠ノ之 束の子供である若菜とシノアの2人。厳密に言えばフィウも専用機持ちに該当するが、バレていない為に除外処置が取れた。
「くだらない内容であれば遠慮なく拒否しても構わないわ。自らの
伽羅も8組の担任として同行する。それ以外の8組の生徒達には射撃訓練として射撃場で自主訓練を通達しておいた。其方の方はそれで問題は無いだろう。
そして、ある意味では若菜が他のクラスの……ひいては専用機持ちや代表候補生と初めてコンタクトを取る機会となるだろう。最も、政治関連に拘う余裕は無いので適当に遇らうつもりではあるが。
「先ずは初めましてかしらね。本来であればもっと別の形で挨拶したかったのだけど、この状況を借りて挨拶をさせて貰うわね。
私はこのIS学園の生徒会長、更識 楯無。集まって貰ったのは他でも無いわ」
IS学園、生徒会室。IS学園の生徒達を束ねる生徒の長である生徒会長が坐すその部屋にて、一年生の専用機持ち達が集められていた。
生徒会室の奥に壁一面窓硝子で覆われた場所を背に会長席には生徒会長にしてロシアの国家代表を務める更識 楯無が厳かな口調でそう自己紹介する。その傍には側控の如く直立して瞑目している女子生徒が立っている。
楯無が視線を巡らせ、会長席の前には相対する形で配置されたソファと間にローテーブル。ソファには招集された専用機持ち達が座り、その周りに千冬、真耶、伽羅と言った教師が立っている。
「…………」
『……明らかに注目されているな、我が息子』
反対側で顔を突き合わせる形で座っている男性操縦者もそうだが……金髪や茶髪の女子生徒も様子を窺う様な視線を向けているな。他にも世界最強までも鋭い目付きを向けてきやがらぁ。
「更識、挨拶は其処までで良い」
楯無の自己紹介を簡潔に終わらせ千冬はそう切り出す。楯無も異存は無いようで話の主導権を千冬に委ねる様に続きを促した。
「では状況を説明する。数十分前、IS学園に予告状が届けられた」
千冬はそう告げると同時に全員に見えるように件の予告状の内容が表示された空間投影ウィンドウを展開する。
「……破滅を抱きし煌めく太陽を頂戴しに近日中に参上致します。怪盗アルセーヌ……」
「……怪盗アルセーヌを名乗る奴は昨今、世界各地に神出鬼没に現れてはIS関連組織が保有する『ISコア』のみを狙う窃盗犯だ」
狙った獲物は必ず奪う。
それが怪盗と呼ばれる由縁である。事前に予告状を叩き付け、警備を強化させて尚もその対応を嘲笑うかのように華麗に盗み出す。今日に至るまで怪盗アルセーヌが予告状を出して撃退に至った回数は未だにゼロ……。つまり、アルセーヌが狙ったISコアは例外無く盗まれていると言う事である。
「……これまでの犯行から1回の予告状に対して1つのみに狙いを絞っている」
「つまり、IS学園にあるISコアの内、1つのみ盗み出す……と言う事でしょうか?」
IS学園には配属機体のコアを含めて20個以上のISコアが存在している。IS企業と比べれば遥かに多い。
「犯行内容からそう推測される。だがそれを信用しアテにするのもマズいだろう。ただ気になるのは……」
「この『破滅を抱きし煌めく太陽』と言う文言でしょうね。恐らく特定のISコアを指していると思われます」
楯無がこの文言こそ怪盗アルセーヌが獲物と定めたISコアを示すヒントであると睨んだ。
「……さっぱり分からないぞ」
「如何にも抽象的なのよねぇ……」
「其処の点を考えても仕方ない。問題は怪盗アルセーヌと言う反社会的な第三者が希少なISコアの窃盗を目論んでいると言う事だ。
IS学園の量産機のISコアの可能性もあれば諸君ら専用機のISコアが狙いの可能性もある」
議論を進めて行く千冬。その様子を若菜達は静観する。
「……相手はIS企業や国家機関の防衛セキュリティを容易く突破出来る。……ISコアを盗み出せると言う事はIS操縦者を相手取れる可能性も否定出来ない」
ライセンス制度の存在から相手がIS操縦者である可能性はほぼ無いと見做しながらも身体能力のみでIS操縦者と渡り合える事を念頭に置いて脅威度を推定しておく。そう考えると決して楽観視出来る相手では無いだろう。
「国連及びIS委員会からの通達によりこの問題に対してIS学園の専用機持ちが、『怪盗アルセーヌからのISコア防衛及び撃退』の対処をして貰う事となった」
「……随分と情けない話ですね」
千冬の言葉に対して伽羅は冷めた口調でそう野次を飛ばした。千冬自身も思う所はあったが、その言葉を自然と出せる伽羅に対して冷ややかな視線を送る。
「今現在の状況では専用機持ちが即応可能な戦力です。怪盗アルセーヌは神出鬼没……だが人間である以上、ISのハイパーセンサーを誤魔化す事は出来ない。学園の防衛セキュリティも最高レベルで対応しますが、最終的には人力がモノを言うのです」
『……ハイパーセンサーすら欺瞞する奴も結構多い上に天然で存在感を消している泳とか言う奴が居るんだがなぁ』
言うな。夕張もそうだがアルセーヌ……リーリスもその手の技術を有していて当然だろうよ。
「根本的な問題として……仮にも学生に対応を迫るのは些か問題であると思われますね。教員が動けないのは何故でしょうか?」
「……戦闘教員では初動に如何しても時間が掛かる。それに学園の機体の量産機を常に教員が保持し続けては生徒各位の実技訓練に支障が出かねません。この問題は言わば機密事項……一般生徒達にも漏洩させる訳にはいきません」
「逆に専用機持ち達にISの格納庫の番人をさせても問題無いとでも?」
「そうは言ってはいません。最大の問題は専用機か量産機の何方かつどのコアが狙いなのか分からない事なのです。IS学園としても何れのISコアの強奪は許されません……故に双方の防衛をしなければなりません」
ターゲットが分からない以上、候補が多過ぎる為にその全てに対応せざるを得ない。怪盗アルセーヌ自身の能力は未知数……戦力の出し惜しみは出来ず最高戦力を打つけるのが定石と判断したのだ。例え過剰と揶揄されようが、現に相手はISコアを強奪する事に成功している以上、決して侮れる相手では無いのだ。
「ふぅん……。若菜もシノアも束博士から機体の使用を制限されているのだけど? その点、一般生徒と変わらないわ」
その為、ある意味では一般生徒と同等の立場とも言える。国家代表でもなければ企業のテストパイロットでも無い。ただ、束の子供である事と少々異常なだけの
「コレは緊急事態です。使用許可は降りないのですか?」
千冬としては世界各国の対応を嘲笑う存在に対して未知数の存在であるアルセーヌに対して戦力低下の下策は取りたく無い。そして、その機体の内容を把握はしておきたい。
「この程度の問題で束博士から許可が降りる訳無いでしょう? そもそもこの問題は普通ならば警察機関が対応する内容かと思われますよ?」
「外部からの救援は出来ません。そうなればIS学園の独立性が崩壊します。我々だけで何としてでも切り抜けねばなりません」
生徒達を挟んで不毛と呼べる千冬と伽羅の応酬が続く。千冬の作戦は如何考えても生徒達を矢面に立たせる様なやり方でしか無いからだ。
『不毛な言い争いが続いているなぁ……。我が息子、如何する?ネタバラシでもしておくか?』
寧ろ予告状のこんな簡単な暗号が解けない時点で問題だろ。……大方の裏事情は予想出来るが敢えて聞かないでおく。そしてこの場でソレは言わないでおく。知らん振りを決め込んでおこう。
「伽羅さん。腹案があるっスけど良いですかね?」
しかし、この状況を利用出来るかも知らない。予期せぬ事態ではあるが……折角の機会、利用しない手は無い。通るかどうかは分からないが……試す価値はある。