束博士から宇宙に行けとの事で宇宙進出してみた 作:夢現図書館
「今の所は何事も無さそうだな……」
第2アリーナの観客席の一角に不法侵入した若菜は、眼下に見えるアリーナにて実技訓練中の3組の面々を見て一先ず安堵の声を漏らす。若菜は気になった場合、可能であればすぐに行動に移すきらいがある。
そもそもゴールデンウィーク中に起こっていても不思議では無かったのだが……あの時はコアの意識は平常運転であったし、リーリスとの通信するまでその発想に至らなかった。
『用意されている機体数は四機か……その全てが『打鉄』の様だな』
何か偏っているのが気になるな。まぁ、教育方針の違いはあるか。やはり憶測が過ぎたのかも知れない。
「リーリスの言葉に深読みし過ぎたか……?」
思わず反射的に此処まで来てしまったが、今になって冷静になってみるとやはり考え過ぎであったか?異変があればコア意識の方から文句が出て来ても不思議では無い……。杞憂だったか?
「長居しても仕方ないな……」
考え過ぎによる先走りだと判断して離脱しようとした時、ガイアが脳内から叫んできた。
『……我が息子‼︎ ISコア・ネットワークが繋がらないこの現象は『白式』の時と同じだ‼︎』
「は?」
『一応、ISコア・ネットワークで息子娘達に通信してみたが、うんともすんとも言わん‼︎ コレは……マズいかも知れんな。我が息子の憶測は』
その時、アリーナの方で悲鳴が響き渡る。
その悲鳴に反応して視線を向ける。第2アリーナでは量産型のISを使用しての歩行訓練が行われていた筈であった。
「憶測は現実のモノとなったか‼︎」
歩行訓練中であった『打鉄』の装甲が黒い泥状へと溶解し搭乗者諸共、黒い泥の中へと飲み込んでいく光景が見えた。黒い泥の塊は4つ……今回の訓練で使用された『打鉄』全てが黒い泥に包み込まれている。あの黒い泥は見覚えがある……『白式』のコアの意識領域内で意識体に纏わりついていたOVTシステムの侵食である。
その光景を目の当たりにした他の女子生徒達は腰を抜かすか悲鳴をあげて急いで遠ざかって行く。当然だろう、隣人が突然、黒い泥へ飲み込まれて取り込まれてしまったのだから。
『……突然発動しただと⁉︎ 何がトリガーになったんだ⁉︎』
「今、考えても仕方ないだろ。放置は出来んぞ……‼︎ ガイア……。コレは緊急事態だと思えるか?」
『VTシステムなら、認めはしないが……リーリスの考察とキミの憶測が重なるとなると……な‼︎』
黒い泥が4つ中空へと浮上して行く。球体の泥の殻の表面が熱されたかの様にボコボコと泡立っている。その泥が歪み蠕き形状を変化させて行く。それらその姿がある機体へと変貌を遂げて行く。
人間が搭乗している筈の場所も真っ黒なラバードールの様な質感に覆われており全てが黒光りする真っ黒な機体……そして、その手には一振りの日本刀が握られていた。その機影は4つ。
「……あー、こりゃキツいやも知れないな」
オーバーの意味は理解出来ないのだが……恐らくあの4機全てがかつての『最強』の名を冠した機体を模倣しているのだろう。
最強を量産すれば良いと言う安直な発想をあの壊れた天災がするのか?と言う疑問が浮かぶが……やはり天災の考える事は狂人でも理解が及ばない。
『『白式』にも OVTシステムが搭載されている‼︎ 5人纏めて相手するのは骨が折れるぞ‼︎』
取り込まれたのが8組の生徒では無いので、赤の他人とも言える3組の搭乗者の生命なぞ心底如何でも良いが……そのコア自体の事は心配なのでこうなった以上、無視は出来ない。
「予想では『白式』に搭載された奴がマスターの筈なんだが……」
その時、激昂の雄叫びをあげながら『白式』を駆る一夏が模倣された最強へと向かって飛翔する光景を目の当たりにする。
『突入するタイミングは任せる』
「……リーリスも気付いている筈だ。もう少し様子を窺う」
その間に母上に使用申請を出さねばな……。母上が恐れる情報漏洩は仕方ないとして割り切ろう……何れは発覚する。
部分展開だけで何とかなる相手じゃなさそうだしな……‼︎
「はい。今回、急遽1組の織斑君が3組の実技訓練に参加する事になりました」
「「「キャアァァァァァァァアアアア‼︎‼︎」」」
相変わらず一夏を前にした女子生徒達は黄色い声援があがって騒ぎ出す。1組でも似た様な惨状が広がっているのだからそれが他クラスともなればその衝撃は一入と言った所か。
「は、ははは……」
その光景を目の当たりにして一夏は引き攣った顔で乾いた声で反応する他に無かった。
第2アリーナの一角にて量産型IS『打鉄』が乗せられた台車が置かれている。
「それじゃあ早速、4つの班に分かれ、実際にISに搭乗しての歩行訓練に入りましょう」
3組は1組の様に騒いで授業の進行を妨害して教員の一喝が飛ぶような事は起こらず速やかに4つの班に分かれた。このクラスは比較的真面目な生徒が多いらしい。
「織斑君は、まず歩行訓練のやり方の見本を見せてくれませんか?」
「あ、はい。分かりました」
3組の担任に言われて一夏は『白式』を完全展開をする。近くで男性操縦者の機体を見れる数少ない機会なので周りから『おおー』と言った声があがる。
《時は来たれり、母よ。お待ちしていた》
《剣を此処に。最強の力を持ってこの世界は煉られる》
《白き煌めきの威光を伴い祀られる》
ん?何だ?何の声なんだ? 誰か喋っているのか?
《母の苦しみは》
《母の憎しみは》
《母の悲しみは》
《母の孤独の声は》
母って誰なんだよ? 皆には聞こえて居ないのか……?
《怨嗟を響めかせ》
《万象は我が母の名の元に救済される》
「織斑君、如何しました?」
「あ、いえ、何でも無いです」
突如聞こえて来た謎の声。思わず挙動不審な行動をしてしまい3組の担任が訝しむもすぐに取り繕い其の儘、少しの距離を歩いて見せた。
「はい、ありがとうございました。では、皆も順番にISに搭乗して実際に歩いて見ましょう」
何だったんだ?今の声は……?
「「「はいっ‼︎」」」
一夏は先程、頭に響いた声に疑問を抱きつつもその認識を振り払う。3組の担任から困って居たらアドバイスをあげて欲しいと言われて機体は展開したままで生徒達を見守る。
4つの班に分かれた生徒達が用意された『打鉄』へと乗り込み、いざ歩行訓練として歩き出そうとした時——。
《Over Valkyrie Trace System.要請承認。我が母の名の下に、立ち上がり、仕えよ。貴方方は、選ばれたのだ。不純な者達を裁き、救済を》