まもなくハロウィン
その準備に大忙しの吸血鬼下半身透明、そして退治人見習い・ナギリのお話

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ハロウィンは騒がしさと楽しさと

年中行事の中でもっともお化け屋敷に相応しいお祭り(イベント)がやってくる─

それはもちろん、ハロウィーンである。

人間たちがお化けやら怪物やらの格好をして練り歩く、さながら百鬼夜行をして盛り上がるのだ。便乗しない手はない。

そういうわけで新横浜随一と呼ばれることをひそかに期待しているお化け屋敷、ホラー・ホスピタルではオーナーである吸血鬼下半身透明が構想を練っていた。

「さてさて、もうすぐハロウィンだねぇ〜。どうしようかね」

とりあえず廃病院の中をぶらぶら検分しながら地縛霊の集合体でカワイイ妹分のあっちゃんと歩いていた。

「ハ ロ ウィ ン♫ … と?と、とりっ…とりー…?」

「あぁ、トリック・オア・トリートのことかな?お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ~って言ってまわるんだよ。楽しそうだよねー」

建物内はあちらこちら壁がひび割れていたりはするがその味を活かしてお化け屋敷を運営している。しかし経年劣化以外の理由で壊れていたり必要以上に汚れていないか軽くチェックを時々自分の目でも確認している。今回みたいに一時的な模様替えをしたい場合は特にそれも念頭に考えながら歩き回るのだ。

宿直室へ戻ると拡大した館内マップに飾り付けの案を書き込んでいく。

それと同時に考えていくのはハロウィン限定のカフェメニュー、そして衣装についてだ。

病院をコンセプトにしているため普段から驚かせ役のスタッフは医療関係のコスプレだったりするのだが。ハロウィンだから普段違う格好にしたほうがいいのか悩みどころだ。何より白い頭巾を被り幽霊姿を常としている自分はどうすべきなのだろう。

「あっちゃんは何かやりたいコスプレとかある?せっかくだからハロウィンぽいお洋服にしてみようか」

「ハロ ウィ ン 、ぽい…?」

こてり、と首を傾げて考え込むあっちゃん。ハロウィンっぽいと言われてもよく分からないのかもしれない。

「最近はアニメキャラのコスプレも多いみたいだから何でもいいんだよ現代人は。ハロウィンっぽいとか分からないよねぇ」

お化けに拘らずに単にコスプレを楽しんでいる人々も大勢いるのだから自分たちも気楽に決めようかと後回しにすることにした。

「とりあえず先に限定メニューを考えよう。まぁメインはお化け屋敷だからね…ハロウィンだから、やっぱりパンプキン系かな。単なるゴースト系は普段から出しちゃってるからなぁ…。魔女っぽい何かも出せばいいかなぁ」

そんなふうにブツブツ言いながら俺が書き込んでいくノートをあっちゃんも覗き込んできた。

「お かし、ケー キ…あ まい の たべ た い。」クゥゥ~

「甘いお菓子、やっぱり人気だものね〜。…あっちゃん、もしかして今おなかすいてる?お買い物行こうか」

聞こえてきた可愛らしい音に恥ずかしそうにしてるあっちゃんを優しく撫でてその日は考察を終わりにしたのであった。

その数日後、俺はあっちゃんを連れてノン・キホーテへやってきていた。

もちろんハロウィンに向けての買い物とりサーチを兼ねてである。

ホラー・ホスピタルのスタッフにも意見を聞き、今回の方向性は見えてきたためさらにお店で材料を探そうと張り切ってきた。

まず立ち寄ったのが特設コーナー。ハロウィン本番が近付いてきているためかじっくりと吟味している客が数人いた。

飾り付けに使うもの、パーティー用グッズに並んでコスプレグッズが幅を利かせていた。ネイルやメイク道具の隣には衣装が並んでいるのだがやはり種類が豊富だ。

ナースや魔女、お姫様にチャイナ服、悪魔にスケルトン、海賊にゾンビ…どれもモデルが外国人なので実際に日本人が着るのとではイマイチ印象は違うが…。

「あっ ちゃ ん、こ れ !」

ふと見るとあっちゃんが並んでいたパッケージの1つに指を差している。近付いてみるとそれは箒を持った赤いリボンを付けた魔女の女の子だった。

「これはあの宅急便をしてる魔女の子かな?かわいいね〜これ着たいの?」

「うん!」

ニコニコ顔であっちゃんが頷く。残念ながらここで売られている物ではサイズが合わないため他のとこで買うとしてコンセプトは決まった。

「あっちゃんがこれなら、俺はどうしようかなぁ」

改めて衣装コーナーを見回すと猫耳やらうさ耳のカチューシャが目に入った。ハロウィン仕様らしく悪魔やらの角バージョンもある。

「…オレ、これでもいいかなぁ…」

とぼそりと呟くと、あっちゃんは聞こえてきたのか黒猫の猫耳カチューシャを俺に被せてきた。

「とお る にい ちゃ、く ろ ねこ さ んね」

「ハハッ、あっちゃんが魔女だから俺は[[rb:あの > ・・]]黒猫か。いいね。でもこの白い服装じゃあアレだよねぇ、フード付きの黒いローブと肉球手袋があればイケるかな」

そんなことを言いながら更に飾り付けコーナーやらを見て製菓コーナーへ辿り着いたところであっちゃんが先に面白いものを見つけた。

「お ばけ、か わい い!は い、おに い ちゃ ん!」

あっちゃんが手渡してきたのはカボチャのお化けやら蝙蝠の形をしたチョコだった。

「チョコオーナメントだって。パフェとかの上にちょこんと乗ってるアレかな?…ふむ?」

手渡されたものとあっちゃんを見比べて閃いたアイデアをメモ帳へ書き込んだ。後日スタッフにも相談して、あっちゃんとの特別企画も決まり無事に準備は完了したのであった。

 

さあさ、皆様いらっしゃい!

10/31までの1週間はハロウィンウィークと題して特別仕様でお送りするよ!!

院内はハロウィンらしく彩られているし、キャストもいつもと若干趣が違ってるよぉ。

 

そして特別企画も用意しているよ!

我がホスピタルの看板娘、あっちゃん!!彼女のところで「トリック・オア・トリート!」と言ってみよう!するとあっちゃんが籠を差し出してくれるから1つ取ってね。籠の中にはジャック・オ・ランタンや蝙蝠、お化けを象ったチョコオーナメントが詰まっているんだ。

ウッカリ受け取りそびれたらすぐ後ろにぶら下がってる籠にも入ってるから安心してね。

勿論そのまま持ち帰っても良いのだけど、時間がある方は是非カフェにも寄ってみて!

ティラミスやパフェの上に乗せると、ホラホスハロウィン限定スイーツが完成だ!

温かい飲み物が欲しければ勿論お化けマシュマロ付きココア等もあるからそちらをどうぞ! ゆっくり満喫していってね。

そうそう、雑貨も限定品販売してるからそちらも宜しく〜!れ

 

それでは皆さん、ハッピーハロウィン!!

 

 

 

 

 

退治人見習い・ナギリの場合

「ハロウィーン特別イベント…?」

ナギリは退治人ギルドを兼ねている新横浜ハイボールの外壁に貼ってあるポスターを眺めていた。

 

ハロウィンというものはもともと古代ケルト人による盛大な収穫祭が起源とされているのだ。

そして彼らが信じていた話によるとこの日は死後の世界と繋がる扉が開き先祖の霊が帰ってくるらしい、まぁ日本で言えば『お盆』みたいなものだね。しかしそこに紛れて悪魔やら魔女やら彷徨える魂までやってくるものだから、彼らの仲間に扮して身を守っていたようだ。

それがいつしか海を渡り仮装の文化が広がって、ハロウィンは娯楽的イベントとして定着したというわけだよ。

 

ロナルド吸血鬼退治事務所にて見てきたポスターについて尋ねた俺にそう講釈を垂れてきたのは、“可愛いの権化”と名高いジョン ()の主人・ドラルクだ。

ちなみにこいつは今、丸が今年着るのだというコスプレ衣装を作成している。今年は魔法使いに仮装をするそうで今はマントと一体化している帽子の飾りを取り付けているようだ。

「あー、由来については分かった。で、あのポスターは何なんだ?退治人(オレ)たちも仮装するとかあったが」

「もうどいつもこいつも…こういった知識を得て理解を深めることによって吸血鬼生(じんせい)に深みが出るというもの…。よし、ジョン帽子出来たよ。かぶってみてご覧」

「ヌー!」

丸がウキウキ顔で受け取りかぶってみるとサイズもピッタリで、紺色のマントがよく似合う可愛い魔法使いマジロが現れた。

「おぉ、似合っているぞ、丸」

「当然だろう。この私がジョンの為に作ったのだからな。うむ流石は私だ。まぁそうでなくとも私のジョンは世界一可愛い存在だがな。これで当日のイベントでも注目を浴びるのは間違いないな」

「ヌヒヒ♪」

何処からか取り出した先端に星がついているステッキを振り、ポーズを決める丸を携帯で撮りつつ、退治人ギルドにあったポスターのことだろうと尋ねてみる。

「あぁ、そうだよ〜。連絡来てない?実はマスターが考案したんだよ。ポンチ共も含めて皆が楽しめるようにさ」

人間たちが仮装をして街を歩き回るなんて面白い事をやるのだ。

享楽主義(お祭り大好き)な吸血鬼たちが騒がない訳はない。

普段から彼らの迷惑行為(騒動)により走り回る退治人が更に忙しくなるのは目に見えていた。

そこで一計を案じたマスターは旧知の仲である吸血鬼対策課のヒヨシに話を持っていった。

ハロウィン当日とその前日である日曜日に吸血鬼・退治人スタンプラリーを実施することにしたのだ。

ただでさえ個性的なファッションをしている各々だが、仮装している人間たちが溢れるこの期間だと流石に埋没してしまう。そこでその点を利用し、選出された吸血鬼・退治人たちを見つけて声をかけ、配布されたカードにスタンプを貰おうというごく平和的なイベントだ。

吸血鬼集会を主催している吸血女帝にも協力を仰ぎ、メンバーに声をかけてもらった。

まぁいくら女帝の呼びかけだからといって勿論見返りナシ(タダ)で参加するのは渋る吸血鬼もいるだろう。そのため参加賞として血液パック1つもしくは代替の粗品を用意しているようだ。

「ちなみにスタンプを貰う人間側は退治人ギルドでスタンプカード1枚500円で貰える。そして貰えたスタンプの数に応じて、新横浜ハイボールでドリンク1杯無料だの下等吸血鬼除けグッズをプレゼントだのが景品となるらしいぞ」

「それにしても最初に金取るのか…流石はマスターだな」

ヌンヌンと丸が頷く横で、ドラルクが出してくれたホットミルクを啜りながらマスターの商魂逞しいドヤ顔を想像する。

「ちなみに君はギルドにて景品交換係に決まっているぞ。当日は何か仮装しておいで」

「は?!初耳なのだが?それに仮装なんて…」

ギョッとして睨みつけるもプーンとフザけた顔をしながら丸から衣装を回収していた。

「まぁまぁ、君は退治人見習いとして始めたばかりだからな。まだ認知度が低いから人混みを歩き回ったとしてもなかなか声をかけられないだろうし、君自身も落ち着かないだろう?ギルドでのんびりと待っていればいい。まぁそれに万が一の緊急対応メンバーも人数が必要だ」

「ヌリヌリヌン、ヌンヌヌヌーヌヌヌ(なんの仮装をするの)?」

何の仮装をするのかと尋ねられてもイマイチピンとこない。

「…どんな仮装がいいのかわからんが、悪魔とか魔法使いやらが多いのか?」

「そうだねぇ、多岐にわたりすぎるほど種類が増えてるから一概には言えないけどなぁ。まぁまだ時間あるし自分でどこかお店を覗くもよしネットで調べてみるもよしだよ。それか何の捻りもないがいっそのこと君もクラシカルな吸血鬼の服装を着てみるのはいかがかね?」

そう言うとバサァッとマントを翻しドヤ顔を決めたドラルクに

「ヌー!ヌヌヌヌヌヌ(ドラルクさま)、ヌッヌイー《カッコイイ》!ヌリヌリヌンヌ、ヌー(ギリギリさんも、どう)?」

と世界一可愛い使い魔であるジョン()は声援をあげる。

正直これまで1度も着ようとも着たいとも思った事はなかったが…

「…考えてみる。それじゃまたな、丸」

そう言うと事務所を後にして自宅へ歩き始めた。

先程の言葉を受けて、道すがらショーウィンドウをチラリと覗いてみる。バランスよく積み重なったカボチャの灯りが煌々と陳列棚に置かれた雑貨を照らしていた。

「…………」 

暫く眺めていると後ろから声をかけられた。

「よぉ、強面のオッチャン!元気か?お、もうすぐハロウィンだな、何かコスプレするの?」

振り返ると新横浜キッズトリオだった。バシバシ背中とか叩きながら取り囲むと先程覗いていた店も気になったのか一緒に覗き込んできた。

「あー、ハロウィンの日に退治人ギルドとポンチ吸血鬼共が協力してスタンプラリーなるイベントをやるらしい。俺はギルドで景品の引き換え係だそうだ。で仮装をしろとドラルクに言われたがイマイチわからん…」

「へー、スゲーな!俺等もコスプレして菓子を貰いに回るんだ!俺はクモ男!僕は魔法使い!俺はミニ◯ンズ!!オッチャン、ギルドにいるんだっけ?行ったら菓子くれる?」

…新横浜ハイボールというバーを兼ねている為子供は遠慮すべきなのだろうが…菓子くらいは置いておけるだろうか。

「聞いといてやる。それより俺は何の仮装をすればいいと思う?」

「やった!行くから待っててくれよな!えー、オッチャン背高いし目つき悪いし強面だからなぁ、子ども向けのキャラクターもんは合わねえかも。んーやっぱり死神とかじゃない?ほらオッチャンの武器、死神の鎌に似てるし。てかここ入るの?入るなら入れば?」

矢継ぎ早にそういうかと思えばグイグイと引っ張って共に中に入ってほんの少し店内を騒がしたあと、ナギリは気になったあるモノを無事手に入れられたのであった。

 

それから2週間ほど経過し、ハロウィンイすベント当日。

「今宵は宜しくお願いしますね、ナギリさん」

そうマスターに声を掛けられ軽く会釈したナギリ()は、いろいろ検討した末に子供たちに勧められた死神っぽい衣装だった。

遭遇したポンチ吸血鬼やらハリケーン警官、よく狂うアホ漫画家にも聞いてもらったが、【死神】が一番しっくり来てしまった。

そして今回彼にはもう1つとっておきのものがあった。それは…

「ヌリヌリヌン、ヌッヌイー!シヌヌヌ(死神)?」

「こんばんは、死神のギリギリさん。よく似合っているじゃないか。おや?その手元のソレって…」

「ぬん!ぬんぬんぬー!」

ぷらーんとしながらもそう返事をしたのは、ジャック・オー・ランタンに扮した俺の使い魔・丸電球の【まる】だ。

ドラルク(オマエ)に貰ったアドバイス通りに店を覗いていたら見つけてな。ジャックオーランタンの役割は灯りだからな。うちのまるが仮装するにはピッタリなんじゃないかと思ってな。一応ほら、こちらに穴を開けてまるの顔が見えるようにした」

「へー、しっかりそういう工夫もして、楽しめてるようで良かった。さて我々は我々で街の人々はどんなことになってるのか見てくるとしようかジョン。また後でねギリギリさん」

魔法使いのステッキを握りしめた丸を肩に乗せたドラルクは手を振りながら、コスプレだらけの人混みへと飛び込んでいった。

「ふふっドラルクさんもとても楽しそうでしたね。今回のイベントに参加してくれた吸血鬼たちもいつもとは違う街並みに浮足立っていましたよ。トラブルが起きないことを祈るばかりですが…。さてとりあえずあなたの出番まではまだ時間があるでしょうからとりあえずお飲み物でもいかがですか?」

「あぁそうだな。温かいミルクでももらおう」

吸血鬼と人間が共存共栄している新横浜。この数日間はいつにも増して人間たちによる混沌具合が高まる、そんな特別な時間ー…。

そんな時間に自分も携われるようになれたことを密かに嬉しく思いながら、ホットミルクを飲んで一息ついたのであった。

 

キックボード先輩が新横浜キッズトリオを引き連れて「トリック・オア・トリート!ナギリのオッチャン、菓子くれ!!」とほぼ予告どおり強襲してきたのはこの約1時間後だった…。


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