魔王デルキラの息子   作:雨鬱

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第43話:修行!修行!修行!!

 

 

 

ハーメルン版

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ざ、けんなッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ダキの怒号が暗い森に反響する

轟音をと共に破裂する火花、空中を舞うダキがそこにいた

ダキがこうなっているのにもワケがある

時は遡って34時間前の話だ

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、アンタ達移動するわよ」

 

 

 

「………今からか?」

 

 

「当たり前よ、アンタ達に今必要なのはお勉強じゃないのよ」

 

 

 

と、ポロは言うが今は朝

普通の学生ならば授業参加している時間帯である

 

 

 

「俺は別に構わないんだが、プルソンにはいるだろう」

 

 

 

「僕のこと馬鹿って言った?ダキさん」

 

 

 

「首席さんが頑張って教えてあげなさいな」

 

 

「…….面倒くせぇ、」

 

 

「ほらやっぱり馬鹿っていってる!!」

 

 

 

 

頬を膨らませながら脚をぽこぽこ殴るプルソンにダキは黙って殴られる

ポロが手を「パンパンっ」と叩き、喧嘩をやめさせる

不満げに睨む僕に、ダキさんはただ面白そうに目を細め笑うのが気に食わなかった

 

 

「ほらほら行くわよ」

 

 

ポロはふたりの腰を両手でガシッと掴んだ

 

 

 

「へっ、」

 

「っ……!おい、ポロ!!」

 

 

 

ポロはバッとその羽を大きく広げた

ひとつ、羽ばたきを起こすと、

ポロに俵抱きにされたふたりはふわり、と足が地面から浮かぶ

その浮遊感に顔から血の気が引いた

 

 

 

 

「ちょ、ま、」「うわっ!!」

 

 

 

 

流石に焦るダキ達に何のお構いもなくポロは笑って大きく羽ばたく

 

 

 

「さぁ〜て!れっつ修行よ!」

 

 

 

授業中のバビルスを後に、遙か彼方へ、さんにんの影は小さくなっていく

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ひゅうひゅうと、風に裂いて進む

物凄い勢いで景色が後ろへ流れていく

高度数百メートル、落ちればひとたまりもない

 

最初こそ胃が浮くような感覚に青ざめていた

だというのに、びっくりするぐらいポロ様の腕の中の安定感に、次第にそれすら忘れ、眼下の景色に見入っていた

 

 

いくつものビルが雑多に立ち並ぶバビルス中心の市街地を抜け、見渡す限り木で埋め尽くされた郊外へと抜ける

 

どこまでも高い青い空に、下で流れる川に沿うように空を駆け抜ける

 

 

 

「着くわよ」

 

 

 

やがて、ポロがゆるやかに高度を落とす

 

 

見えたのは、夜を切り取ったような黒の城壁

幾本もの尖塔が空へ突き刺さり、厳かに見下ろすその見た目は、まるで一つの大きな山脈のように見えた

 

特徴的なそのシンボル

教科書で何度も見た

魔界史の授業でも習った

 

 

 

「これって……!」

 

 

 

ふわり、と着地すると、ポロはふたりを解放した

おぼつかない足取りでただ目の前の城を見つめ続ける

地面に着いた喜びより、

目の前の絶景にプルソンは息を呑んだ

 

 

 

 

(すごい、これが、ホンモノの魔王城…!)

 

 

 

実物は、まるで違った

圧倒的な存在にただ口を開けて見上げる

ぶるぶると身体全身が震える

本能的な感動が、目にじわっと水の膜を張る

 

 

 

「喜びなさい、魔王城に入れるなんて普通の人生で味わえない幸運よ」

 

 

 

ポロがくすりと笑う

まさにポロの言う通りだった

ここは、あの13冠でも限りあるものしか入ることが許されない、本当に特別な場所なのだ

 

 

 

その時だった

ゴゴゴゴ……と低い音が響き、

重厚な門が、ゆっくりと開く

 

 

 

磨き上げられた大理石の階段の先にひとりの悪魔が現れた

赤毛をきっちりと撫で付け、

仕立ての良いスーツを着こなした男だった

 

 

 

「おかえりなさいませ、ポロ様、ダキ様」

 

 

 

男は優雅に一礼する

 

 

 

「ーーそして、ようこそおいでくださいました、プルソン様」

 

 

 

 

勝手知ったる様子で、ダキは出迎えたSDに手を挙げる

ひらひらと、ラフに挨拶する姿は初対面にしてはカジュアルすぎた

 

 

違和感が胸に引っかかる

プルソンはちらり、とダキを見上げる

 

 

 

「ダキさん、……」

 

 

ここは魔王城だ、悪魔が人生に一度足を踏み入れるかどうかの貴重な場所のはずだ

 

 

(なのに、……)

 

 

王伴であるポロへの馴れた態度

魔王城のSDとのやり取り

迷いのない足取りで城内を歩く

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、"ここが自分の家"だとでもいうみたいに

 

 

 

 

 

 

フルスイングでマレットを脳天に叩きつけられたような衝撃だった

 

 

 

 

 

 

頭の中でばらばらだった違和感が、

プルソンの中で一気に噛み合った

 

 

 

プルソンの態度にダキはニッと笑った

 

 

 

 

 

「そういや、オマエとはちゃんと自己紹介してなかったよな」

 

 

 

悪戯が成功したみたいに無邪気な瞳でこちらを見下ろす

 

 

 

 

「改めて、」

 

 

芝居かかった仕草でダキは腰をおる

優雅でありながらも、力強いその礼は、魔界を統べる王の片鱗を感じる

 

 

 

 

 

 

 

 

「アムドゥスキアス・ウル・ダキだ

ーーよろしく我が同輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アムドゥスキアスって、それって、」

 

 

 

驚きすぎて、うまく呂律も思考も回らない

 

 

 

 

「そ、ダキちゃんはワタシの孫

良い男でしょ?」

 

 

 

 

そんなプルソンにポロはクスクスと笑う

ポロがダキの顔に自身の顔を寄せる

目元が、確かに良く似ていた

 

 

 

(うそでしょ……でも、たしかに)

 

 

 

ダキという男の規格外っぷりを考えれば、納得ができる出自だった

首席で、使い魔もあの伝説の魔神、一気にハイランクである5を貰うほど超人

だからこそ、いつも隣にいる白銀の毛並みのクラスメイトの従者をやっていること自体が異質に思えた

 

 

 

 

 

「な、なんで"SDなんか"やってーーー」

 

 

 

ーーーシュ!!

続けようとした言葉は、

ダキの一本の指に制止されて出てこなかった

 

 

 

「っ、!」

 

 

 

たった一本、されど一本

その一つに宿る圧にこれ以上喋れなくなる

 

 

 

 

「……今、SDなんて、と言ったか?」

 

 

 

「……ごめん」

 

 

 

 

地雷を踏んだらしい、

さっきまで笑っていたはずなのに、

ダキの瞳から温度だけが抜け落ちていた

 

 

 

 

「まぁ、まぁ……

悪気がないのは分かるから1度目はゆるそう

ーーーだが、次は、無い」

 

 

にこにこと、笑いながらダキはプルソンの肩を叩く

 

 

 

 

「俺はな、坊ちゃんに惚れ込んでSDをやってる」

 

 

 

 

羽のように軽い、じゃれあいのような態度なのに、肩に置かれたダキの手は、自分の関節が外れるかと思うほど重く感じた

 

 

「ーーだから”なんて”は付けるな」

 

 

圧に押し負けて、こくこくと、首を縦に振れば、ダキはフッと笑って指をどかした

誰だって命は惜しい

 

 

 

 

「おダキ、」

 

 

 

ポロの呼びかけに、振り返ると何かがダキの方へ飛んできた

ダキがそれを難なくキャッチして、拳を開いた

それは、鈍く光る黄金の鍵だった

 

 

「プルソンちゃんの客室の鍵よ

アナタの部屋の隣だから、案内してあげて」

 

 

「アイ、アム」

 

 

くるり、と踵を返すとダキはそのまま廊下の奥へと歩き出す

しかし数歩歩いたところで、

ピタリと立ち止まり、こちらを振り返った

 

 

 

 

「何してんだ、ついて来いよ」

 

 

 

 

当たり前のように居ないことに気がついて声をかけてくれる

たった、それだけのこと

だけど、じわり、と胸に温かい何かが滲む

 

 

 

 

「……うん、今行く」

 

 

 

駆け足でダキの隣に駆け寄り、長い魔王城の廊下をふたりして歩き出した

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

想像できないような豪華な客室で、とりあえず用意された、動きやすい服装に着替えて、ポロのいる大広間に戻る

 

 

 

 

 

「さて、アンタ達の修行の内容はね…」

 

 

 

 

ポロは腕を組みながら仁王立ちしている

どんな内容が飛び出すのか、

期待半分、怖い半分、

ごくり、と無意識に生唾を飲み込んでしまう

 

 

 

 

 

 

「泥棒と魔関よ」

 

 

「泥棒と魔関…?」

 

 

 

告げられた内容は児童がそこらでやってるようなゲームだった

予想していた地獄ような特訓メニューとは違ったそれにプルソンは素っ頓狂な声で聞き返してしまった

 

 

 

「そ、ルールは簡単

ワタシが魔関、アンタ達が泥棒役

ワタシに捕まったお馬鹿さんは、牢屋行き

けど、味方の泥棒が鬼に捕まらず牢屋にいる泥棒を解放すればまたゲームに参加できる」

 

 

自分の知ってる、普通の魔関と泥棒だった

 

 

「つまり、アンタ達は最後まで生き残ってたら勝ち、ワタシはアンタ達ふたりを捕まえれば勝ちよ」

 

 

もっと、おどろおどろしいものかと思い緊張していた肩が落ちた

しかし、そんな安堵などポロにはお見通しだった

ニッと嫌な笑みを浮かべた

 

 

 

 

「制限時間は72時間

そして、この修行に関して特殊ルールを追加するわ」

 

 

ピリッと全体に緊張感が張り詰める

隣にいるダキも、すこし、前のめりになって聞いている

 

 

 

 

「ワタシのこの鈴を、アンタ達が奪ったら、その時点で終了、アンタ達の勝ちよ」

 

 

ポロはそう言って鈴をふたつ摘んで見せた

軽く振ると、ちりん、と澄んだ音が響く

 

 

 

「つーことは、俺らはアンタに攻撃し放題ってことか……でも、そうなると、掴まれられた、の定義はなんだ?」

 

 

「そうね、ワタシはアンタ達を失神させて、牢屋まで連れ込んだら捕まえた、の認識でいいわ」

 

 

その答えにダキは何かを考えるかのように険しく眉間を寄せて腕を組む

 

 

 

「でも、終了時、鈴も奪えず、

ワタシに捕まったお馬鹿さんは………」

 

 

 

 

ポロはにっこり笑った

 

 

 

「ワタシ特製の補習コースね」

 

 

 

それを聞いていたダキは鼻で笑って腕組みを解いた

 

 

「へぇ、補習?」

 

「ええ」

 

「どんな?」

 

「アンタ達が二度と忘れられないくらいの」

 

 

 

悪周期になったみたいなポロのその笑顔を見た瞬間、ダキとプルソンは同時にぞっと、するような悪寒に襲われた

 

 

 

「……で、場所は?

この城の中とかじゃねぇだろ?」

 

 

「流石にね…家が壊されるのは困るもの

ーーついてきなさい」

 

 

 

 

そう言ってポロは踵を返して外へ向かう

プルソンもダキもその後ろについていく

ポロは門を出て、すぐに立ち止まった

 

 

目の前に広がる広大な森だった

まさか、と思いたかった

 

 

 

 

 

「場所はここ、魔王城名物、迷いの森よ」

 

 

 

 

迷いの森

一度入ったら出られない

森全体が魔獣のような場所と言われている、そう教科書に一行載るぐらいだ

詳しい生態はぼやかされていて、気になって立ち入る悪魔が後を経たないらしいけど、だれも出てこれたものはいないらしい

 

 

 

「この城の周りを覆う半径50kmは、魔王城管轄の森よ……安心して頂戴な、ちゃんと敷地外は分かるようになってるわ」

 

 

その言葉にダキは顔を顰めた

 

 

「崖っぷちの間違いだろ?」

 

 

(崖っぷち?!!)

 

 

ぼそっと呟いたダキの言葉をプルソンは聞き逃さなかった

ギョッとダキの顔を見上げる

 

 

「そうね、落ちればひとたまりもないような、深い渓谷が待ってるわ」

 

 

なんてことなさそうにポロがくすくす笑うのを、隣にいるダキは深くため息を吐いた

 

 

「ご飯も寝床も現地調達、

収穫祭の時には各自自作なんだから当たり前よね」

 

 

そうだ、全く、そのことに気がついていなかった

収穫祭では学園が用意したフィールドで、3日過ごさなくてはいけない

自給自足が出来るようでないと生き残れはしない

 

 

 

 

「つまり、鬼から逃げつつサバイバル生活もしろってことか」

 

 

「そーいうことよ♡」

 

 

(………自信ない)

 

 

狩りはまだしも、料理は自信ない

 

 

 

「ハッ、

収穫祭の方が優しいんじゃねぇのか、それ」

 

 

「そうね、この修行が終わったらきっと、収穫祭が生優しく感じるかもね」

 

 

ポロとダキのちょっとだけ険悪なやり取りにプルソンはただ黙って見ることぐらいしか出来なかった

でも、ダキの様子からこの修行がかなりヤバイ事なのだと肌で感じる

 

 

 

「ーーでもね、

ワタシがここまでやるのには理由があるの

それを、終わった後アンタ達自身が感じられれば……それでいいわ」

 

 

 

無言で睨むダキに、ポロは腕を組んで相対する

その言葉には酷く重みが感じられた

体に走る緊張が、気を重怠くさせる

 

 

(……帰りたい)

 

 

普段なら帰りたいとも思わない実家が、今だけは恋しく思えるほどに

そんなプルソンの願いを踏み潰すように、ポロはパッと笑った

 

 

 

 

 

 

「さぁ!始めるわよ、クリザリッド達!!」

 

 

 

 

 

 

この72時間が、

後にあんな事件を引き起こすとは、僕たちはまだ、なにも、知らない

 




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