人でなし、魔でなし、されど誰の敵にもあらず   作:偽鏡

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8. 緋の魔法使いと複製体

 

 

 

「……へえ、複製体か。」

「魔力量に立ち振る舞いまで…記憶を読み取って利用しているのか。」

「幸いなのは見分けがつき易いことだな…」

 

 

 神話の時代以前、『ウァサー』という魔族が居た。

 ……というか、うん…下手したら多分それが最初の魔族だったんじゃないかなあ、とまで思う。

 

 魔力の塵に還って行くラオフェンの複製体を見ながら考えた。

 『ウァサー』って、相当性格悪い魔法使ったんだなあ…

 

 

「徒党を組んでいて正解だったな。」

 

 

 そんなことを言いつつ進む。

 広間の扉を開いた。

 

 

 ツインテールが揺れて、温度の無い瞳が此方を捉える。

 ああ、『クラウン』として会った時以来かな。

 

 

「デンケン。あれ相手にも分があるのか?」

「…一つ言えるのは、此れが試験で無ければ、儂はとうに瓶を割っておる。」

 

 

 デンケンがその言葉を言い終わると同時に、一般攻撃魔法が矢のような速度で飛んでくる。

 飛行魔法と防御魔法を多少なりとも駆使して広間の前に戻った。

 扉の影に隠れた瞬間、扉の目の前の地面に着弾。

 

 属性付与(エンチャント)がついていたみたいだ。

 多分だけど、内訳は大半が追尾(ホーミング)かな。

 

 

「……これ以上追撃する心算は無い、か。ところでアレ突破できるの?」

「避ける…否、あの奥の扉が開くすら判らん。フリーレンのことだ、扉を閉じる魔法の一つや二つ知っていても可笑しくない。」

 

 

 実際に「宝物庫の扉を命懸けで閉じる魔法」を持っているからアタリだ。

 というか『シャーラ』の複製体は居ないのだろうか。居たとしても『私』の記憶を引き継いで変身してくる可能性は私の組んだプログラムの性質上有り得ないので、別にその辺りを憂慮する必要は無いが…原作との違い×2があることで最終合格者の変化が起こってしまったら大変だ。

 ……どうしよ、他の人が居なければ変身して『クラウン』辺りになって存在ごと消しとくか…?

 

 焚火を見つめて暇を潰すこと半日と少し。

 フリーレンとフェルン、カンネとラヴィーネが来た。

 

 

 

 

 

「複製体を操っているのは、“水鏡の悪魔(シュピーゲル)”っていう神話の時代の魔物だ。」

 

 

 統一王朝期には未だその神話の時代の知識も失われておらず、すんなりと水鏡の悪魔(シュピーゲル)設置の案が通ったのが嬉しい事だ。

 現在では賢王と呼ばれているへーロスにも世話になった。彼奴も悪知恵働くタイプだったから、『クラーハイト』と気が合うのなんの!

 

 

「魔法同士の相性、そして数の利が重要になる。」

 

 

 私の…『シャーラ』の苦手な相手。

 属性的にはカンネだが、ダンジョン内に水はあまり無い。複製体も恐らくは其れを警戒して、水のある場所は避ける筈。先ず力量的にも差がある気がする。

 私が単独で潰した方が早いか。

 

 

 そんな『シャーラ』を他所にして会議は進む。

 フリーレンの弱点の判明。フリーレンとフェルンがフリーレンの複製体、それから水鏡の悪魔(シュピーゲル)を倒すまで、原作通りに私達は最深部に集まって来る複製体を足止め。

 

 

「私は広間の前で待つよ。バラけるなら多少の空きが出来るからね。」

「炎相手…そうだな、頼む。」

 

 

 案外あっさりと我儘は通る。

 少し拍子抜けした気にもなりながら、杖を持って目の前を警戒していた。

 背後の広間からは轟音が響いてくる。

 

 破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)……殺意が高いな。でもそういうものか。

 

 魔法と認識できない攻撃のような衝撃波の音。そして其処に撃ち込まれた攻撃魔法の音。

 その後、静寂が戻った。

 

 

 

 良かった、特に番狂わせも無く行ったみたい。

 そう安心した瞬間、何かが爆発したような音が鼓膜を震わせた。

 

 この魔力は、まさか。

 

 

「フリーレン、フェルン!!」

 

 

 居ても立っても居られず、広間の中に飛び込んだ。

 目に入って来たのは地獄の様に広がる業火、その向こうの色の無い切れ長の瞳。

 

 知ってる、私はこれを知っている。

 

 

「潜伏が完璧だ…やられたね。」

「シャーラ様、互角の相手です。出来ますか…?」

 

 

 目の前に立つのは、もう一人の『シャーラ』。

 剣のような炎を周囲に従えた緋色の魔法使い。

 

 

炎の剣を操る魔法(フランベルジュ)

 

 

 フリーレンの地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)の燃え残りから拝借して、創り出した炎の剣を相手側のものとぶつけて相殺する。

 間を縫ってくる一般攻撃魔法は防御魔法で対処。

 

 

「ったく……本当に記憶まで読み取ってるんだ、炎と基礎以外使って来ないね…」

 

 

 ただ、やっぱり『私』や他のヤツの記憶までは読み取っていないみたいだ。

 お陰で助かった、此処で他の奴に変身されてみろ。結末は死、それ以外は有り得ない。

 

 

呪いの炎を出す魔法(フルーフィアーレ)

 

 

 芯まで、魔法がかかったものに当たれば魔法の使用者まで辿り着いて燃やす、執念深い呪いの炎。

 勿論開発者は私、というか我流なので『シャーラ』。

 わざわざこのダンジョン踏破の為だけに生み出した悪魔系統絶許魔法だ。

 

 

 黒い業火が複製体のシャーラに当たり、杖、服、髪、魔力の一欠片すら逃さず焼却する。

 最期の悪あがきのように放たれた攻撃魔法と炎の剣は余裕を持って対処できる威力しか持たない。

 魔力ごと燃料として燃え上がるこの呪いの炎は__複製体を生み出す魔力を辿り、宝物庫で静かに光を湛えている水鏡の悪魔(シュピーゲル)まで燃やし尽くした。

 

 

「……我流の魔法か。良く隠してたね。」

「我流だから使いたくなかったけど…水鏡の悪魔(シュピーゲル)ごと潰すには手っ取り早いと思って。」

 

 

 はあ、あっちに撃たれなくて良かった。

 

 わざとらしく言いながら宝物庫への扉を押す。

 「命懸けで宝物庫の扉を閉じる魔法」は解除されており、すんなりと開いた。

 これで第二次試験は終了。

 

 

 第三次試験での問題は、ゼーリエに私の偽造がバレるかバレないかだ。

 とは言え、年下に負ける心算は無いのだが。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 其れは魔族では無かった。

 其れは人類では無かった。

 

 

 女神より前に産まれ、エルフ以上に長い永い時間を生き永らえて来た。

 

 根底にあった魂は擦り切れた故に、本能的な危機感で根を同じくしたよく似た魂を生み出し、記憶と性格を引き継がせて同じ体で何度もの輪廻を繰り返した。

 

 

 

 

 ときに『クラーハイト』を始めとした賢者に。

 彼らは異常ともいえるその頭脳と英知を駆使して様々な迷宮を作り出し、時の権力者に取り入った。

 

 ときに『クラウン』を始めとした魔族に。

 彼らは常に人類に対して桁違いの被害を叩き出し、また後に人類に活用されるようになる魔法を次々と開発した。

 

 ときに『シャーラ』を始めとした魔法使いに。

 彼らは対魔族や対人において多大な功績を掴み取り、賢者とはまた別のベクトルで権力者へと取り入ることに成功した。

 

 ときに『リート』を始めとした吟遊詩人に。

 彼らは気紛れながらも善良な性根を持ち、場合によっては賢者や魔法使いよりも多くの人間を救い助けることがあった。

 

 

 

 

 

 

 其れはある種の特異点だった。

 

 

 

 矛盾に矛盾が発生し、拗れに拗れて捻れ歪みまくった結末。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あなたは想像したことがあるだろうか。

 

 

 自分が人ならざる身となり、悠久の時を生き永らえることを。

 自分を捨ててまた別の自分となり、周囲の人々を騙し欺きながら生活することを。

 自分の生命維持__または生活維持、計画の為に自らの手で同族であった人を殺すことを。

 

 

 

 

 

 曲がりなりにも、彼女の根底は人間なのだ。

 そう。今でこそ摩耗した魂のお陰で原型こそ見るに堪えぬが__曲りなりにも彼女の根底には人間の倫理道徳があり、曲がりなりにも彼女の頭の中には〈前世〉のことが残っている筈なのだ。

 

 

 

 

 

 







「お前はこの先永く生きるだろう。狂うなよ。」
「随分と今更ですね、へーロス様。」
「様付けを辞めろと何度言った、クラーハイト。」
「部屋の前の兵に聞かれたら終わりですからね。」


 例えば、それは心を許した賢王だったり。


「頼むぞ、クルツ。」
「秘密はちゃんと守ってね、クラフト。」


 例えば、手を取り合って戦った戦士と僧侶だったり。


「…潰されるんじゃないぞ、ヴェーク。」
南の勇者サマに言われるもっと前に言われてるしー!」


 例えば、全て知った上で信頼してくれた人類最強だったり。


「死ぬなよ、クラウン。」
「分かってるよ、シュラハト。」


 例えば、全て知った上で利用し合った全知だったり。




 そんな人々が居たから、孤独では無かったんじゃないですかね。


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