ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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1話〜羨望〜

 

 4月20日。

 中山レース場。

 小雨が降る中行われたとあるレース。

 

 それは

 

『ネオユニヴァースか! サクラプレジデントか!』

 

 そのレースを見る者を

 

『サクラプレジデント! ネオユニヴァースが出たか!』

 

 熱狂させた。

 観客達の前を横並びとなって駆け抜ける二人のウマ娘。

 

 黄金に輝く美しい髪のウマ娘(ネオユニヴァース)

 それと並ぶは美しき桜色の髪のウマ娘(サクラプレジデント)

 どちらも一歩も譲らず、相手より先にゴールを駆け抜けんと前だけを見て走る。

 その集中っぷりは、真横を走っている相手が見えていないのではないかというほどである。

 

 まさに脇目も振らずな二人。

 声援を送る観客も見えておらず、その声が届いているかすら分からない。

 ただ分かるのは、二人は隣を走るライバルの存在を感じ取りながらも目の前の道に集中している事。

 

 そしてゴール板前を駆け抜ける二人。

 

 先に駆け抜けたのは……

 

『ネオユニヴァースだぁぁぁっ!!』

 

 金色の髪を靡かせるウマ娘だった。

 

 そのゴールに会場が湧き上がる。

 

 まさに熱狂である。

 その熱に盛り上がるのは人間だけではない。

 

 レースを見に来ていたウマ娘たちも盛り上がっている。

 その中には走りたくてウズウズした様子の者もいる。

 

 自身もレースを控えているウマ娘もいる。

 まだレースには出ないが、いつかはというウマ娘もいる。

 

 その中に

 

(……走りてぇ)

 

 走りたいあまり疼く足をなんとか抑えるウマ娘がいた。

 全体は黒いが前髪の一部は白く、菱形に近い形をしている。

 右耳に凧形の白い耳飾りを着け、青い目で目の前を駆け抜けるウマ娘達を見ている。

 

 顔立ちは整っており、いわゆるイケメン系の顔をしている。

 だが目付きは少々鋭い。

 

 そんな彼女が着ているのは中央トレセン学園の制服。

 トレセン学園というのはウマ娘が通う全寮制の学校。

 中等部と高等部に分かれており、東京都府中市に置かれている。

 

 そこで彼女達はレースについて学び、それぞれデビューしていく。

 ちなみにトレセン学園は中央の他にも帯広、門別、盛岡、水沢、金沢、浦和、船橋、大井、川崎、笠松、名古屋、園田、姫路、佐賀、高知にもある。

 またそれぞれで出られるレースに違いがあり、中央の場合はトゥインクル・シリーズ、中央以外の各地方にはローカル・シリーズと呼ばれるレースがある。

 

 先ほどレースに出ていたネオユニヴァースとサクラプレジデントも中央に在籍している。

 

(良いな……走れて)

 

 そんなトレセン学園に通う彼女は、続くレースを見て思う。

 まだデビューできていない自分。

 その前を駆け抜けるウマ娘達。

 

 続けて行われたレースで、1着を目指して走るウマ娘達。

 1着でゴールし、観客からの歓声という名の祝福を受けるウマ娘を見て、目を細めて思う。

 

(オレも……早く)

 

 デビューして、走りたい。

 応援されて、ライバルと競い合って。

 1着を取りたい。

 そう思いながらトレーニングしていた。

 気付けばデビューしないまま中等部最後の年である。

 

 いつになったらデビューできるのか。

 そう思いながらレース場からの帰路につく彼女。

 そんな彼女に

 

「やっぱりここにいたか」

 

 話しかける男性がいた。

 

「……トレーナーか」

 

 と反応するウマ娘。

 彼は彼女を担当するトレーナー。

 トレーナーとは学園でウマ娘のサポートをする者で、レースに向けてのトレーニングメニューを組んだり、出走してくるライバルの情報収集、メンタルケア、そしてレース後に行われるウイニングライブの振り付け指導と監督等と業務は多岐に渡る。

 

 忙しくて大変なのである。

 

 そんなトレーナーの資格であるバッジを上着の左襟に付けている男性。

 黒い髪をオールバックに整えた渋い感じの男性。

 

「……よくここだって分かったな」

 

「まぁ、トレーナーだからな」

 

 と、先に歩き出すウマ娘に続くように歩き出すトレーナー。

 彼の名は 渡橋(とばし)文三(ぶんぞう)

 

「俺はお前さん……ハーツクライのトレーナーだからな」

 

 ハーツクライ。

 それは後に、とある事で歴史に名を刻むウマ娘の名前だった。

 

 

 

「まぁなんて言うかよ。どうだったよレースは。トレーニングをサボってまで見に行ったレースはどうだったよ」

 

「どうって……早く走りてぇなって」

 

 帰り道。

 ハーツクライは文三が乗って来た車の助手席に座っていた。

 

「全く。早く走りてぇのは分かるけどよ、トレーニングはちゃんと受けてくれねぇと困るぞ」

 

「あ〜……それは悪かったな。明日は、ちゃんとやるよ」

 

「明後日も頼むぞ」

 

「……分かったよ」

 

 と窓に肘をつき、手に顎を乗せて、窓の外を眺めながら素っ気なく返すハーツ。

 そんな彼女に文三は何も言わない。

 彼女の気持ちが分かるからだ。

 来年度には高等部になるのにまだデビューしていない自分。

 周囲にはデビューした子が多い。

 後輩の中にはすでにデビューした子もいる。

 

 デビューした後輩。

 デビューしていない自分。

 

 羨ましいという感情と周囲から置いていかれるという焦り。

 その二つが今の彼女の感情の大半を占めている。

 

「……もう少し、辛抱してくれ」

 

「……ア?」

 

「もう少しだけ。待ってくれ。必ず俺が、お前をデビューさせるからよ」

 

 運転中だから。

 前を見て言う。

 

 そんな文三にハーツは

 

「……期待してんぞ」

 

 窓の外を見ながら返す。

 

 彼女だって分かっている。

 文三が自分の事を見てくれていると。

 だからこそ悔しいのだ。

 彼に行って来いと、胸を張って言わせてやれない事に。

 自分がそこまで到達していない事に。

 

「安心しろ……」

 

 そんな彼女に文三は言う。

 

「俺が絶対に、お前をデビューさせるから」

 

 その目は真っ直ぐ、前だけを見ていた。

 

 

 

 学園に着いたハーツはそのまま文三と別れ、寮へと向かっていた。

 学園には栗東(りっとう)美浦(みほ)の二つの寮があり、ハーツは栗東寮で生活している。

 寮では基本二人一部屋で生活をしている。

 

 そんな彼女のルームメイトだが

 

「やぁ、遅かったねハーツ」

 

「勉強中だったか」

 

「いや。ちょうどキリも良かったし、一息つこうと思っていた所だよ」

 

 長い髪は全体的に茶だが前髪の一部が白く、その目は赤の色を宿した優しいもの。

 彼女の名はデルタブルース。

 ハーツの同級生ですでにデビュー日は決まっており、現在はデビューに向けて調整中である。

 

 そんな彼女はお茶の用意をすると

 

「一緒にどうだい?」

 

 とハーツを誘う。

 

「そう、だな……淹れてくれるか?」

 

「喜んで」

 

 と返すデルタ。

 その後二人だけの小さな小さなお茶会が開かれるのだった。

 

 

 

 そして翌日。

 学内にある練習用コースに、ハーツの姿はあった。

 学園指定の赤ジャージを着ており、準備運動をしている事から、この後走るであろうという事が分かる。

 

「ハーツせんぱ〜い!」

 

 そんな彼女へ、後輩が手を振って名を呼ぶ。

 一部の女子から人気が高い彼女。

 練習に来る度、数名の後輩からこうして声がかけられるのだ。

 

 が、それに彼女が反応する事は無い。

 

 ただ黙々と入念に準備運動をしている。

 そんな彼女を見て一部の後輩は

 

「来年高等部なのにまだデビューしていないんだってさ」

 

「もう終わりじゃない?」

 

「アタシ達の方が速かったりしてね」

 

 などとヒソヒソと話している。

 それも彼女には聞こえてはいるが無視である。

 

(勝手に言ってろ)

 

 デビューの時期はトレーナーである文三に任せている。

 その文三がまだだと言うのなら、自分のステージはまだそこまで達していない。

 彼に早く走りたいと言いはするが、彼女は彼女で彼を信頼しているのだ。

 

 そんな彼女の耳に、

 

「むしろさ〜、今の今までデビューさせてあげられないってトレーナーの腕が悪いんじゃない?」

 

「それもあるかもね〜」

 

 と心無い言葉が届く。

 それに対してハーツは、言葉を出さずに睨み返す。

 ギンッという効果音が聞こえて来そうなほどの鋭い目で。

 それに気付いた相手はそそくさとその場を立ち去ってしまう。

 

「……ふんっ」

 

 鼻を鳴らし、準備運動に戻るハーツ。

 彼女も初めは自分の実力を引き出せず、デビューさせられないトレーナーと相手の事を思っていた。

 が、ある日文三を訪ねた際に変わった。

 彼が席を外れた際にデスクの上に積み上げられていた本を見たのだ。

 

 そこにあるのは成長期のウマ娘のトレーニングで気を付けねばならない事に関する書籍だったのだ。

 いくらウマ娘と言ってもデビュー前の成長途中の体に無理をさせれば将来を棒に振る事になる。

 そうならないために気を付ける事、トレーニング後のカバー方法、食事に関してと様々あった。

 本にはラインマーカーで線が引かれ、ノートもびっしりと書かれていた。

 

 さらに棚を見てみれば、彼が今まで担当した一人一人のノートが並んでいた。

 

 それを見てハーツは思った。

 このトレーナーは、自分の事を思ってくれている。

 無理な成長を強いらず、先を見据えて見てくれる。

 そういうトレーナーならば、信じて良いと思ったのだ。

 

 なので、先ほどの二人のように言う者に対しては手こそ出さないが睨んで遠ざける。

 これでも以前は手を出しそうになっては堪える様子もあったのだが、文三に悔しかったらレースで誰もを黙らせる結果を作れと言われ、今では文句こそ言いながらもいつかその結果を出すためにトレーニングに励んでいるのだ。

 

 そんな彼女の元に

 

「あ、あの!」

 

「アァッ!?」

 

「ひぃっ!」

 

「……あ、悪い。なんか用か」

 

 彼女に話しかけて来たのは後輩ウマ娘だった。

 

「あの、もし宜しければ併走をお願いしたいのですが」

 

 併走とはウマ娘のトレーニングのひとつ。

 呼んで字の如く、並んで走る事である。

 

「あ、私はアルティマトゥーレと言います!」

 

「私はファルカタリアと言います。よろしければ先輩と共に走らせてはいただけないでしょうか」

 

 アルティマトゥーレに続き、ファルカタリアもハーツに併走の申し出をするが

 

「いや、悪いけどこの後知り合いと走るから……」

 

 と、ちょっとバツの悪そうな顔のハーツ。

 あぁ、このまま断られるのだろうとアルティマトゥーレ達が思った時だった。

 

「だから、知り合いに聞いてからで良いか?」

 

 その言葉に二人は勢い良く頷くのだった。

 

 そして

 

「って訳なんだが」

 

「別に構わないさ。良いよ、一緒に走ろう」

 

 遅れて来たデルタブルースは快く頷き、4人での併走が行われたのだった。

 

 

 

 そして春が終わり、夏が過ぎ、秋がやって来て終わって冬。

 11月29日。

 ハーツは京都レース場に来ていた。

 と言っても彼女がレースに出るわけではない。

 デルタブルースがデビューするので、それの応援に来たのだ。

 ちなみにその応援にはアルティマトゥーレとファルカタリア、そして付き添いとして文三も来ている。

 

 ちなみにだがハーツは応援よりもトレーニングと言い、文三達だけで行って来いと初めは言っていたのだが、文三に俺抜きで練習する気かと言われて連れて来られていたのだ。

 

(まぁ、連れて来て正解だったな)

 

 地下バ場からコースに出走するウマ娘達が姿を現す中、その様子を見るハーツを見て文三は思う。

 

(突っかかりも強い。意見もしてくる。思うようにタイムが上がらない時のイラつきも凄かった)

 

 なにより、と思い出す。

 

(担当になったばかりの時は大変だったな……)

 

 入学当初、ハーツは足腰が弱かった。

 体の線も細く、レースに出しても位置取りで相手に勝てる見込みが無かった。

 それを彼女も理解していたのだろう。

 イライラし、カリカリする。

 神経質な子だったな、と。

 

(後輩がどんどんデビューする中置いて行かれていると思っても仕方ない状況だ。それがここまで安定して来た……)

 

 今ではアルティマトゥーレのような後輩の面倒を見たりするぐらいには安定している。

 

(それにタイムも良くなって来ている)

 

 そう思いながら文三は、まだハーツに言っていないある事を思い出す。

 それは彼女のデビューレースに関してだ。

 夏を終えてからの調子が良い事からそろそろデビューさせても良いと考えており、デビューレースに仮登録していたのだ。

 

 そして現状の彼女の様子から、デビューさせても大丈夫だろうと考えていた。

 

「……なんだよ」

 

「いや、なんでもねぇよ」

 

 視線に気付いたハーツにそう返す文三。

 そんな彼に彼女はこう言う。

 

「……デビュー戦。楽しみにしているからな」

 

 その言葉の直後。

 文三が口を開き、言葉が出るよりも先。

 

 ゲートが開き、デルタブルースのデビュー戦が幕を開けた。

 

 果たして誰が勝つのか。

 全員が固唾を飲んでレースの行く末を見守る。

 

 数分で決着がつくレース。

 

 これが彼女達ウマ娘が走るレース。

 トゥインクル・シリーズと名付けられたレース。

 数多のウマ娘が憧れる舞台。

 

 今回のレースを走る14人を見てハーツは思う。

 走れて良いなと。

 羨ましいと。

 

 それと同時にこうも思う。

 いつか、一緒に走りたいと。

 そして、共に走る時は負けない、と。

 

 そう思っている内に目の前を先頭が駆け抜けて行き、華々しいデビューを飾った。




お読みくださり、ありがとうございます。

ハーツクライは牝馬に人気だったと聞いたので、ちょっとイケメン系かなと思いながら書きました。
夏に映画を見てハマって少しずつ書きました。
至らない所あるかと思われますが、楽しんでいただけたら幸いです。

次回も、お楽しみに!
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