ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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11話〜皐月の祝福を目指して〜

 

 皐月賞出走を目前に控え、大盛り上がりの中山レース場。

 その観客席には応援できているウマ娘の姿も見える。

 

「みんな頑張れ〜!」

 

 特定の誰かではなく、走る全員を応援する天真爛漫なウマ娘のハルウララ。

 その姿は見るだけで周囲に笑顔を生み出す。

 

「焼きそば〜焼きそば〜。ゴルシちゃん印の焼きそばはいらんかね〜」

 

 夏祭りの屋台のお兄ちゃんみたいな服装で焼きそばを売り歩くゴールドシップ。

 

「これも美味いぞ。良かったらタマも食べないか?」

 

「い、いやウチはもうお腹いっぱうぷ」

 

 レース場グルメを堪能するオグリキャップと、そんなオグリからオススメを断りきれずに勧められるままに食べた結果、顔が青くなりかけのタマモクロス。

 そんなタマモクロスの背中をさするスーパークリークと持っていた水を渡すイナリワン。

 心配そうなベルノライト。

 かつて白い稲妻、芦毛の怪物、永世三強と呼ばれたウマ娘達やその友人も来ている。

 

「す、すごい人ですぅ!」

 

「手を離さないでくださいね」

 

 人の波に流されかけているのはメイショウドトウ。

 そんな彼女の手をナリタトップロードがしっかりと握っている。

 そんな二人の隣では

 

「これほどの盛り上がり。ボク達の時を思い出すね」

 

 自分達が皐月賞を走った時の事を思い出しているウマ娘。

 彼女の名前はテイエムオペラオー。

 GⅠ含む芝のレースで年間無敗という、前人未到の記録を持つウマ娘。

 その圧倒的な強さから、世紀末覇王と呼ばれている。

 

「はぐれたわね」

 

 そんな彼女達から少し離れた所にいるのはある年のダービーウマ娘のアドマイヤベガ。

 負荷の大きいトレーニングをしてしまった代償で足を故障寸前まで追いやってしまったが、奇跡的に復活した過去を持つ。

 そんな彼女の隣では

 

「あははは……やっぱ皐月賞なだけあってすごい人ですね」

 

 ルームメイトのカレンチャンだ。

 ちなみに彼女はウマスタというSNSで非常に高い人気があり、そんな彼女に気付いたファンが握手を求めたり写真撮影をと来ては快く引き受けている。

 

「いよいよ始まるな。皐月賞が!」

 

 そんな彼女達からまた少し離れた所にいるのは、ある年のジャパンカップにてテイエムオペラオーを破ったジャングルポケット。

 その隣には彼女のトレーナーのタナベと、彼女の先輩であるフジキセキの姿。

 そして

 

「すみませ〜ん。通してくださ〜い」

 

 人混みを掻き分け、飲み物を持って来たのはジャングルポケットの友人のダンツフレーム。

 

「すみません。通ります」

 

 それとダンツフレームを追うようにドリンクを持った、ある年の菊花賞でジャングルポケットを破ったマンハッタンカフェの姿もある。

 さらにカフェに続くように、ポッケを慕うウマ娘3人組のルー、シマ、メイの姿もある。

 

 そんな彼女達の上。

 上の方の席には着ている白衣の袖をダボダボに余らせているウマ娘の姿。

 皐月賞でジャングルポケットを破り、直後にレース出走休止を発表したと思いきや翌年にそれを撤回してレースに復帰したウマ娘のアグネスタキオン。

 

(さて……どんな走りを見せてくれるか。楽しみだね)

 

 彼女達だけではない。

 デビューに向けてトレーニングに励む、ダイワメジャーの妹であるダイワスカーレット。

 同じく、デビューに向けてトレーニングに励むディープインパクトとジェンティルドンナ。

 ライスシャワー、ミホノブルボン。

 ゴールドシップの友人でまだデビュー前の彼女は焼きそば売りに付き合わされている。

 

 デビュー前後問わず、様々なウマ娘が見に来ている。

 そんな中に彼女の姿もあった。

 

 かつて、レースに絶対は無いが彼女にはあると言われるほどの強さを誇ったウマ娘。

 トレセン学園現生徒会長。

 皇帝と呼ばれたシンボリルドルフ。

 その姿が観客席にはあった。

 

 そしてその隣には

 

「始まるね」

 

 3度の骨折を乗り越えてターフに戻ったトウカイテイオーの姿もあった。

 トゥインクル・シリーズを引退し、ドリームトロフィーリーグに移籍した彼女は現在も無事に走り続けていた。

 

 そんなテイオーにルドルフはただ短く、そうだなと返す。

 その時だった。

 演奏隊によるファンファーレが奏でられ、出走する全18人のウマ娘達のゲートインが始まった。

 

 奇数枠の子が次々とゲートに入って行き、それが終わると偶数枠の子が入って行く。

 

『時は4月18日午後3時40分。夢に向かう120秒がこれから展開します』

 

 それと共に場内のスピーカーから実況の声が響く。

 

 そんな中全員が無事にゲートイン完了する。

 コスモサンビームは2枠3番。

 コスモバルクは8枠18番。

 ダイワメジャーは7枠14番。

 ブラックタイドは4枠7番。

 ハーツクライは8枠16番。

 

 全員のゲートインが確認され、場内から拍手と歓声が湧き上がる。

 

『遥かなるクラシック。交響曲一番革命! 皐月賞!』

 

 一瞬。

 刹那にも満たない瞬間。

 観客が静まり返った時。

 

『18人がスタート!!』

 

 皐月賞が始まった。

 

 

 

『そろった綺麗なスタート! っとおっと? 最内枠のマクロスが行かない! 行けない!』

 

 スタート直後。

 逃げ宣言をしていた1枠1番のマイネルマクロスが少し出遅れてしまい、その隙に他のウマ娘達が進出。

 声援を送る観客達の前を駆け抜けて行く。

 

 その中でも前に出たのは

 

『8番のメイショウボーラー。外、横をチラッと見ながらダイワメジャーが上がって行く!』

 

 4枠8番のメイショウボーラーとダイワメジャーだった。

 

『おっと外を周って18番のコスモバルク! 2番人気ブラックタイドは今の所1番後ろ! これは縦長の展開になりそうだ!』

 

 そのままメイショウボーラーを先頭に第1コーナーに入って行く。

 そのまま2番手にダイワメジャー、5番手にコスモサンビーム。

 コスモバルクは7番手。

 ハーツクライは後ろから5番手辺りを走っている。

 

 そのまま第2コーナーを抜け、向こう正面へと入って行く。

 そんな彼女達を見ながら

 

「皐月賞はもっとも速いウマ娘が勝つと言われている。何故だか分かるか?」

 

「どうした急に」

 

 観客席では眼鏡をかけた男性とパーカーを着た男性が話していた。

 

「皐月賞が行われる中山レース場の最終直線の長さは310メートル。これは、ダービーが行われる東京レース場や春の天皇賞が行われる京都レース場、神戸新聞杯や産経大阪杯が行われる阪神レース場と比べると短い」

 

 そう。

 東京レース場の場合は約526m。

 京都レース場の場合は外回りだと403.7m、内回りだと328.4m。

 阪神レース場の場合は外回りだと473.6m、内回りだと356.5m。

 京都新聞杯の時の京都レース場は外回りなので403.7m。

 神戸新聞杯と産経大阪杯は内回りなので328.4m。

 

 いずれも中山より長い。

 

 つまり

 

「差しや追い込みの子が後半ペースを上げても、初めから前に付いていた子を捉えるのは難しい。さらに言えば中山(ここ)のゴール前には上り坂がある。レース最後で疲労もピークの所に上り」

 

 約1700m走ってきての上り坂だ。

 前に足を踏み出すのも精一杯な中でのそれはかなりキツイだろう。

 故に

 

「成長が早く、最もスピードのある。最も速いウマ娘が勝つと言われているんだと思う」

 

「なら、今回勝つのは……」

 

「おそらく……」

 

 眼鏡の青年がその名前を口にしようとした時、周囲が一際盛り上がって声をかき消した。

 

 

 

 レースの方だが、17人を引っ張るメイショウボーラーの1000m通過のタイムは59秒後半。

 

 そしてここから折り返し。

 後半に向けて各ウマ娘がペースを上げる。

 

 誰もがゴールを目指して。

 先頭で駆け抜けんと足に力を込める。

 

(さて……)

 

 彼女もラストスパートに備え、前を逃げるライバルと後ろから追いかけて来るライバルの様子をチラと伺う。

 

 先頭は変わらずメイショウボーラー。

 レース開始直後から先頭を走り続けた彼女。

 第3コーナーに入り、第4コーナーを目指す。

 逃げ続けて疲労も溜まっているだろう。

 だが先頭を譲る気はない。

 最後まで先頭は譲らない。

 このまま走り切る。

 そういう強い意志を感じる。

 

 だがそれは彼女だけではない。

 

 絶対に追い抜く。

 差し切る。

 後方からはそういう強い意志が伝わってくる。

 

(良いね……)

 

 先頭を走る相手を追いながら、ダイワメジャーは口元に微かな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「そんなのやりたくないよ」

 

 それはまだ彼女がデビュー前の頃の事。

 せっかくトレーナーがついても、やりたくないトレーニングは拒んでしまう事が多かった。

 それが原因でトレーナーが匙を投げてしまい、トレーナー不在の頃もあった。

 

「見てよ。また契約解除されてる」

 

「気難しいにも程があるわよ」

 

「シッ。聞こえたら大変よ」

 

 トレーナーを見つけた同期の陰口にも慣れた。

 それでも彼女は、自分を曲げる事ができなかった。

 それでも彼女と契約しようとするトレーナーはいた。

 それだけ彼女は走る事ができていたのだ。

 

 自分こそは彼女と契約して才能を開花させてみせると自信に満ちたトレーナー。

 だがすぐに言う事を聞かないと言って契約を解除。

 それの繰り返しだった。

 

 そんな時だった。

 

「あれ、もしかして君トレーナーいないのか? ならちょうど良い。僕と組まないか?」

 

 話しかけて来たのは眼鏡をかけた優しそうな顔の男性トレーナー。

 その人はその時担当していたチームに所属ウマ娘がアメリカに留学していたのだ。

 

「あぁ自己紹介していなかったね。僕は下泉(したいずみ)雅弘(まさひろ)。君はダイワメジャーだね?」

 

「……だったら何。それに急に組まないかって。いったいどういう」

 

「君は上を目指せる。そう思ったから声をかけたんだ。もし良かったら」

 

「あっそ。ならやめときなよ。私の評判ぐらい聞いているでしょ」

 

「あぁ。聞かん坊でワガママで気に嫌な事は絶対にやらないし、初めての事もやりたがらないって噂ね」

 

 言われる度に何か矢印のような物が刺さるのを感じたメジャー。

 だがそんな彼女に雅弘は続ける。

 

「でもそれも君の個性だ。そしてトレーナー()なら、その個性を活かして力に変えてみせる」

 

 否定しない。

 噂通りの性格だとしても、それは彼女の個性だから受け入れると。

 

『お前さぁ。勝つためにしている指導って分かる?』

 

『やる気が無い奴に割く時間なんてねぇんだよ』

 

『見てよ。また契約解除されてる』

 

『素直に言う事聞いていれば良いのに』

 

『バカみたい』

 

『お前さぁ。向いてねぇよ。この世界』

 

 思い出すのは今まで関わったトレーナーの言葉と自分に向けられた同期の言葉の数々。

 

 いつからだろう。

 それに慣れてしまったのは。

 

 いつからだろう。

 聞こえないフリをするようになったのは。

 

 いつからだろう。

 どうせ自分と契約してくれるトレーナーなんていやしない。

 

 そう思うようになっていた。

 

 そんな彼女に差し伸べられた手。

 彼女のその性格を個性だと認める大人。

 

 良いのだろうか。

 その手を取って。

 

 良いのだろうか。

 信じて。

 

 良いのだろうか。

 私はあなたの期待に……

 

 

 

 

 

(応えてみせる!!)

 

 過去の事を思い返して、あの日の事を思い出し、一歩を踏み出すダイワメジャー。

 

 どうすれば期待に応えられるかずっと考えていた。

 ただ勝つだけではダメだ。

 勝てるようにトレーニングメニューを考えてくれているのだから。

 

 圧勝。

 いや、観客全員が自分の勝利を讃えるような勝ちでなければダメだと彼女は考えた。

 

 そう考えたのはデビュー戦の後だ。

 彼女のデビュー戦での戦績は2着。

 次の未勝利戦で初勝利を上げた。

 

 だがその後は戦績振るわず。

 前走のスプリングステークスは3着。

 

 全力は常に出していた。

 だが勝てない。

 いや、これも勝負の世界だ。

 勝つ者がいれば負ける者もいる。

 

 全員で手を繋いでゴールなんてできないのだ。

 

 ならばと彼女は思った。

 皐月賞で勝ってやると。

 未勝利戦しか勝っていない自分。

 おそらく人気は下の方になるだろう。

 そんな自分が勝ったらさぞや盛り上がるだろう。

 

 そう思ったのだ。

 

 そしてその通りになるように。

 あくまで普段通り過ごしながら見えない所で努力を重ねた。

 報われないかもしれない。

 

 それでも良い。

 いつか報われるのなら。

 

 いや違う。

 

(違うだろ!)

 

 いつかを待つんじゃない。

 今日をそのいつかにするんだ。

 

 第4コーナーでバ群が固まり、密集する。

 第4コーナーを抜け、最後の直線に出るやコスモバルクが前に出始める。

 

『頑張った! メイショウボーラー頑張った! ここでダイワメジャーが先頭に変わったぁ!!』

 

 残りが約200mの所でメジャーがボーラーをかわして先頭に立つ。

 

「っ!」

 

『コスモサンビーム! そしてバルクバルク! コスモバルクも上がってくる!』

 

 コスモサンビームとコスモバルクが懸命にダイワメジャーを追いかける。

 メイショウボーラーも意地を見せる。

 

 だが先頭はダイワメジャーだ。

 ダイワメジャーが先を進む。

 

 その光景に観客達は騒然とする。

 だって、10番人気のダイワメジャーが先頭を走っているのだから。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

「行かせるかぁぁぁっ!!」

 

 コスモバルク、メイショウボーラー、コスモサンビームが懸命に追い上げるなか、コスモバルクがその中から飛び出してメジャーの背中に迫る。

 

『だがしかし先頭はダイワメジャー!』

 

 だが届かない。

 あと少し。

 あと少しが縮められない。

 

 縮められない距離を縮めようと、歯を食いしばって芝を蹴散らしながら猛追するコスモバルク。

 後方からはハーツクライやブラックタイド達も追い上げようと懸命に走る。

 

 だが、だが

 

『主導権は彼女が握っていたぁぁぁぁぁっ!!』

 

 先頭でゴールしたのはダイワメジャーだった。

 タイムは1分58秒6。

 2着のコスモバルクと0.2秒差をつけての勝利だった。

 

 そんな勝者を観客は讃える。

 ファンは彼女の勝利を。

 ライバルのファンも激闘を見せてくれた事に対して。

 歓声で彼女を讃える。

 

(あぁ……勝った。GⅠ、取ったよ)

 

 その歓声に左手を挙げて答えるメジャー。

 

(やった……)

 

 滴る汗を拭うのも忘れ、観客に応える。

 そんな彼女は小さく、込み上げるような咳をこぼした。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

 

 届かなかった。

 16着だったブラックタイドは息を切らせながら顔をしかめていた。

 その原因は

 

(……ダメ、か)

 

 左脚の痛みだった。




お読みくださり、ありがとうございます。

みんな頑張った!
そして次に目指す目標は……

次回もお楽しみに!
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