ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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13話〜伸ばした手は何を掴む〜

 

《ブラックタイド長期療養のため離脱》

 

《クラシック復帰は絶望的》

 

《皐月のリベンジ叶わず!》

 

《皐月賞2番人気ウマ娘。怪我によりダービー見送り》

 

《そのまま引退か!?》

 

 皐月賞から数日。

 ブラックタイドが屈腱炎の事を公表すると同時に治療のために長期休養に入ると発表した。

 それに対しての報道。

 

 だがそれもすぐにやんだ。

 

 クラシック三冠とトリプルティアラの話題で盛り上がっているのだ。

 

 クラシック三冠は何度も言っている皐月賞、ダービーこと東京優駿、菊花賞の三つ。

 トリプルティアラとは桜花賞、オークス、秋華賞の三つ。

 クラシック三冠は今まで、セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンの5人が達成。

 中でもシンボリルドルフが無敗で達成した際には話題となった。

 

 対するトリプルティアラはメジロラモーヌとスティルインラブの二人しか達成していない。

 今回の桜花賞はダンスインザムードがレコード勝ちしており、トリプルティアラ3人目になるのではないかと期待されている。

 ちなみにダンスインザムードの姉であるダンスパートナーはオークスを、同じく姉であるダンスインザダークは菊花賞を制している。

 

 そういった大イベントが控えているせいか、ブラックタイドの休養話の報道は収束していった。

 

 が、むしろそれは

 

 

 

「……っ、あ〜」

 

 彼女にとっては良かったのかもしれない。

 屈腱炎の治療のためにレースから身を引きいたブラックタイドは今……

 

「良い湯だぁ〜」

 

 温泉に浸かっていた。

 いわゆる湯治である。

 

 かつてオグリキャップやトウカイテイオー、テイエムオペラオーも怪我をした際、温泉に浸かってその身を癒した。

 立派な治療行為である。

 

 頭の上に畳んだタオルを乗せてくつろいでいる。

 心地良い温度の湯に浸かりながら空を見上げる。

 遅れたが、彼女が浸かっているのは露天風呂である。

 

(明日には学校戻らねぇとなんだよなぁ……)

 

 怪我をしていたとしても彼女は学生。

 治療も重要だが、学業も重要なのだ。

 

(ま、入院しなきゃなんねぇほどじゃなくて良かったわ……)

 

 走れない自分よりこれから走る妹を見てくれと文乃に言いはしたが、やはり走る事を忘れられないタイド。

 

 本当ならゆっくり治療してと考えていた。

 だがあの日に出会ってしまった。

 運命的な何かを感じさせるウマ娘に。

 

 だから

 

(文ちゃんのチームに誘ってみるか)

 

 と思うのだった。

 

 

 

 それから数日後。

 5月を目前にしたある日の午後。

 

「……ふぅ」

 

 デルタブルースは5月1日(翌週)に出る青葉賞に向けて最後の追い込みをしていた。

 前回の未勝利戦で初勝利を収めた彼女は、次の青葉賞でも勝って勢いを付けたいと考えていた。

 

 東京レース場で行われる2400mのレースである青葉賞。

 GⅡに分類されており、彼女初の重賞レースである。

 ちなみにだが、3着までのウマ娘に日本ダービーへの優先出走権が与えられる。

 開催されるレース場も距離もダービーと同じ青葉賞。

 そのため、ダービーを想定して走る者もいる。

 

 前回未勝利戦に勝った事もあり、彼女のトレーナーが出走を提案したのだ。

 

(勝ったらダービーに出られる……)

 

 皐月は間に合わなかった。

 でもダービーにはチャンスが生まれた。

 なかなか勝てず、クラシック三冠に関わる事を半ば諦めていた。

 そんななか生まれたチャンスだ。

 掴みたい。

 ダービーへのチケット。

 

「……勝ちたい」

 

 そのチケットを掴むため、気合を入れ直すデルタブルースなのだった。

 

 

 

 そして同じ頃。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

「オォォォォォッ!!」

 

 ハーツクライはユートピアと併走していた。

 ハーツは5月8日の京都新聞杯に向けて。

 ユートピアは元々ダートを走っていたがクラシックで芝レースに変更。

 毎日杯2着、NHKマイルカップ4着という結果に再びダートレースへと変更。

 変更後一発目に出走したGⅢレースのユニコーンステークスにて2着に5バ身差を付けて勝利。

 続くジャパンダートダービーではビッグウルフというウマ娘にハナ差で負けてしまい、2着。

 次走のダービーグランプリではビッグウルフに4バ身付けての1着を勝ち取ってリベンジを果たす。

 しかし続くJBCクラシックとジャパンカップダートでは10着。

 その後は再び芝も加え、1月に行われた京都金杯では3着。

 ダートレースのフェブラリーステークスは8着、芝レースのダービー卿チャレンジトロフィーで7着という結果となっている。

 

 そんな彼女が次に出る予定にしているのが6月に行われる安田記念。

 東京レース場で行われる、芝1600mのGⅠレースである。

 前年のレースではアグネスデジタルがレコード勝ちしている。

 

 そんなユートピアだがハーツと仲が良い。

 文三のチームの中では年長組という事もあって面倒見も良く、繊細な部分があるハーツの事をサポートしてくれる。

 文三からの信頼も厚い子である。

 

 そんなユートピアと併走するハーツ。

 芝のコースを走った後もダートと坂路をそれぞれ走り、休憩へと入った。

 

 

 

「次、安田だっけ? 前哨戦やんねぇの?」

 

「ん? あぁ、そうだね。前哨戦無しで行く予定だよ」

 

「自信は?」

 

「無かったら出ないよ」

 

 と肩をすくめて返すユートピア。

 

「そういうそっちは? ダービーには出られそう?」

 

「当たり前だ。自信が無けりゃ話を持ってこられても断ってるさ」

 

「確かに」

 

「必ず勝ってダービーに出る。そんで、勝ってみせる」

 

 と返す。

 

「期待、してるよ」

 

 フ、と小さく息を吐くように笑って返すユートピア。

 キングカメハメハと同じ、NHKマイルカップに出ていた彼女。

 当時の成績は4着。

 ダービーに出る事は叶わなかった。

 彼女だってダービーに出たいとは思っていた。

 それでも届かなかった。

 

 それでも見に行った。

 彼女が目指した夢の舞台の一幕を。

 6月1日。

 東京レース場で行われた日本ダービー。

 最後の直線。

 バ群の真ん中を突き抜けて前へと出たネオユニヴァース。

 追いかけるゼンノロブロイとザッツザプレンティ。

 その二人の追撃を逃げ切り、皐月賞に続いてダービーも制したネオユニヴァース。

 

 もし自分が走っていたらどうなっていたか。

 そもそも自分は届いていたか。

 競い合えたか。

 1着争いに加われたと言いたい。

 だが今となってはどうとでも言える。

 それでも

 

 走りたかった。

 

 その一言だ。

 だからつい

 

「大丈夫」

 

 言ってしまう。

 

「……きっと君なら」

 

 自分の無念を込めて。

 

「勝てるよ」

 

 言ってしまう。

 ダービーを目指す後輩に。

 自分の願いを託してしまう。

 

 自分が見れなかった景色を。

 見たかった光景を。

 見てくれと。

 

 それが届いたのかは分からない。

 が、その言葉を受けてハーツは言う。

 

「任せろ」

 

 白いタオルで汗を拭い、乱れた髪を直しながら。

 自信に満ちた目で言った。

 

「さて、と……」

 

 そして立ち上がると

 

「もう一本。走んの付き合え」

 

 ユートピアを併走に誘うのだった。

 

 

 

「ぜぇりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 凄まじい勢いで坂路を駆け上がるのは文三が担当するチームの一人。

 ローゼンクロイツ。

 右耳には満開の薔薇の中心に十字架というデザインの耳飾りを付けている。

 全体的に茶の髪、前髪の一部は先端に進むにつれて幅広の白い部分(流星)を持っているのに加え、後ろ髪の一部が黒い。

 その後ろ髪を低めの位置で結っている。

 

 年内デビューを目指しており、それに向けてのトレーニング中なのだ。

 初めは体調が悪かったりと安定しなかったが、回復して来たのだ。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ」

 

 走り終わり、新入生のロジックとローズキングダムからタオルと飲み物を受け取る。

 

「お疲れ様です!」

 

 タオルを渡したのはロジック。

 茶の髪と立派な流星を前髪に持つ。

 

「どうぞ」

 

 飲み物を渡すのはローズキングダム。

 焦茶の髪を後ろで束ねている。

 

 その二人からそれぞれ受け取ると汗を拭き、飲み物で喉を軽く潤すクロイツ。

 

「ありがとう。ふぅ……助かるよ」

 

 そう言ってそれぞれに渡すクロイツ。

 体調こそ良くなったが、無理して崩さぬように文三は慎重気味になっていた。

 無理に走らせて体調を崩したり、怪我をしてはいけないからだ。

 

 それをチームメンバーは理解しているので、クロイツのトレーニングを率先してサポートする。

 文三が見れない時もクロイツがどんなトレーニングをしたのかを簡単なレポートに纏めて渡している。

 ロジック達後輩達からしてもクロイツのトレーニングを近くで見る事ができるので得る物がある。

 サポートもできて先輩のトレーニングを近くで見る事もできる。

 まさに一石二鳥である。

 

「よし……もう少し走ってくるよ」

 

 少し休み、息も整った所でもう一本と言うクロイツ。

 だが

 

「今日はもう良いんじゃないですかね」

 

 ローズキングダムが制止する。

 もう何本も走っている。

 疲労だって溜まっているだろう。

 ここでまた走らせて何かあってはいけない。

 

 後輩として応援しているから。

 同じウマ娘として無事に走って欲しいから。

 今日はもうやめようと提案する。

 

「そ、そうですよ先輩! また明日やりましょうよ」

 

 ロジックもそう提案する。

 

「そ、そう? なら……」

 

 二人に言われ、今日は切り上げよう。

 そう、クロイツが思った時だった。

 

 

 

「という訳だが、何か聞きたい事はあるかい?」

 

「いいえ。特には」

 

 文乃と共にディープインパクトが

 

 

 

「今日は坂路とダートの予定だが、平気か?」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

 諒太とハヤテエンペライザが

 

 

 

 そして

 

「今日は軽くやろうと思うが、どうだ?」

 

「平気よ。あなたに任せるわ」

 

 遊佐(ゆさ)(はじめ)という男性トレーナーと、彼の担当ウマ娘であるアドマイヤジャパン。

 

 それぞれのペアが姿を現した。

 

(……へぇ)

 

(なるほど……)

 

(……っ!)

 

(……ふん)

 

 4人全員が相手の事を認識し、そしてそれと同時に理解する。

 本能的に理解する。

 

 あぁ、あの3人と競い合うんだ、と。

 

 

 

 そして各々それぞれが夢に向かって己を磨き、実力を伸ばしていった。

 そして迎える5月。

 トレセン学園に入学した新入生達がその暮らしに少しずつ慣れて来た頃。

 

 その月の1日。

 デルタブルースは青葉賞に出走していた。

 

 ダービーへのチケットを掴むため。

 そのためのチャンスを生かすために。

 17人のウマ娘が東京レース場の芝を駆ける。

 晴天の元で行われたレース。

 

(勝つ! 勝つんだ! 勝って、鈴墨(すずすみ)トレーナーをダービーに!)

 

 自分のトレーナーをダービーに連れて行く。

 そして勝ってダービーウマ娘のトレーナーに。

 自分を鍛えてくれた。

 強くしてくれた。

 支えてくれた。

 その恩を返したい。

 

 その一心で走る。

 

 速く走れるようになった。

 ダービーに繋がるレースに出れるようになった。

 

(この、チャンスは!)

 

 逃したくない。

 そう思うデルタブルース。

 

 勝つために。

 一歩。

 また一歩を踏み出す。

 

 そして迎える最終直線。

 

「私がァァァァァッ!!」

 

 勝つんだ。

 その一心でゴールを目指す。

 

 だが

 

 

 

 それはこのレースに出ている者全員同じだった。

 

 確かに、チャンスは与えられる。

 努力をした者に。

 望む未来を、結末を掴むチャンスは与えられる。

 

 等しく与えられる。

 

 努力したから自分だけに与えられるという事は無い。

 

 つまりこのチャンスは、青葉賞に出ている17人全員に与えられているのだ。

 

 そしてそのチャンスを見事掴み、勝利したのは……

 

 

 

「……あぁ、ははっ」

 

 ゴールを駆け抜けたデルタブルースは空を見上げ、消え入りそうなほどか細い声で笑っていた。

 

 青葉賞。

 3着までにダービーへの優先出走権が与えられる。

 

 1着ハイヤーゲーム。

 2着ホオキパウェーブ

 3着シェルゲーム

 

 デルタブルースは、13着だった。

 

「あぁ、くそっ……」

 

 背後から吹き抜けた風が彼女の髪を靡かせる。

 

 懸命に走った。

 だが前を捉えられず、グングンと距離を離されてしまった。

 届かなかった。

 強くなったと思っていた。

 だが、相手の方が強かった。

 

 それを実感しながら

 

「負けちゃったなぁ……」

 

 そう紡がれた彼女の言葉は、風に乗って消えた……




お読みくださり、ありがとうございます。

うーん……トレーナーさんの名前を考えるのが割と大変ですけど、楽しい!

次回もお楽しみに!
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