最後の直線。
栄光まで残り525.9mの直線。
玉座という名のゴールへと続く坂。
そこに1番乗りしたのは、キングカメハメハだった。
「ッ!?」
その走りを見たコスモバルクは
「なっ!?」
その背中を見たハイヤーゲームは驚きを隠せなかった。
(あれは……)
中で一人、コスモサンビームだけは見覚えがあった。
前走のNHKマイルにて見ていたからだ。
そんななか他のウマ娘達は
「くぅっ!」
(足が重い!)
(まだ、まだ終わっていない!)
元々ハイペースなレースだったのに加え、早めに仕掛けた事もあって体力は底を尽きかけていた。
そんな中でのキングの領域。
まさにそれは、全てを置き去りにする豪脚。
だが
(流石に、キツいかな……)
猛暑とハイペースによる消耗はキングも同じだった。
さらに領域を発動させたキング。
極限にまで引き上げた集中力にて、その者が持つポテンシャルを限界まで引き出す領域。
それゆえに体力の消耗も激しい。
先の二つの要因で消耗した所に領域の使用。
消耗した所でさらに消耗。
無視できないほどの疲労を感じていた。
だが
(この直線ぐらい、走り切ってみせる!)
バ場の中央を駆ける駆ける。
先頭を譲らない。
譲ってやらない。
玉座へと続く道を進むのは私だと言うように。
それでも
「行かせるかぁぁぁっ!」
ハイヤーゲームが喰らい付く。
離されまいと喰らい付く。
最後の最後まで。
レースが終わるその時まで。
自分が勝つ可能性は無くならない。
まさに二人の一騎打ち。
わずかに先頭のキングとそれを追うハイヤーゲーム。
そこに
(良い展開じゃないか!)
ダイワメジャーが上がってくる。
この展開で逆転するのが最高に盛り上がる。
皐月賞ウマ娘として。
逆転しての二冠をいただく。
が
「っ!?」
一瞬だった。
ガクンッと力が抜ける。
即座に立て直し、走るも一度乱れた彼女を待つほどレースは優しくない。
そのタイミングで
「キングゥゥゥゥゥッ!!」
大外からハーツクライがものすごい勢いで駆け上がって来た。
まさにごぼう抜き。
後方にいた彼女が一気に駆け上がり、瞬く間にハイヤーゲームを抜いて2番手にまで来たのだ。
まるで、王を討ち取らんとするように。
だが、そんな姿に
(これについて来る? 凄い……凄いよハーツ!)
自分に食らいついて来るライバル達の存在。
最後の直線で食らいついて来たハイヤーゲーム。
皐月賞ウマ娘の意地を見せ、その背中へと迫ったダイワメジャー。
そして今、自分の背中へと猛然と迫るハーツクライ。
(あぁ、やっぱり……)
その存在が
(楽しいなぁ!)
キングの先にある扉。
限界を示す扉を完全に開け放った。
その光景に、ハーツは思わずそう思った。
彼女だけではない。
キングを追うメジャーやバルク、ハイヤー達も思った。
キングとの距離が縮まらなくなったのだ。
それどころか
(なんだ、ありゃ……)
3人は確かにそれを見た。
キングが黄金のオーラを纏いながら走る様を。
(本当に……同じウマ娘なのか? アイツは)
そう思った。
そんな光景を見た観客達はというと
「すげぇ……キングだ」
「最強はキングだ」
「すげぇすげぇ! 行けぇキングー!!」
「行けぇ!!」
「そのまま行けー!」
その圧巻の走りに魅了されていた。
それでもハーツ達は懸命に追いかける。
だが
『しかし、先頭はキングカメハメハ! キングカメハメハだぁぁぁっ!!』
真の領域に到達したキングカメハメハに追い付けない。
(クソッ!)
(まだ、まだ終わっちゃいない!)
(届かせる! 届かせてみせる!)
追いかける3人を置き去りにするように、先程まであった疲労が嘘のような走りを見せるキング。
(トレーナーを、オレが、今度こそダービートレーナーにすんだ!)
ハーツが思い出すのはユートピアがくれた、きっと君なら勝てるという言葉。
(ユートピアが信じてくれたんだぞ! 勝てなくてどうする! 応えられなくてどうする!!)
足を前へと動かす。
もう疲労はピークだ。
本当なら休みたい。
それでも前へと。
一歩でもキングに近づくために走る。
(あぁクソッ……)
上手く息が吸えないメジャー。
それでもトレーナーをダービーウマ娘のトレーナーにするべく懸命に走る。
だが現実は非常な事に、一人二人と彼女を追い抜いて行く。
(まだ……まだ終わっていない! 終わっていないんだ!!)
3番手を走りながら追いかけるハイヤーゲーム。
だが、彼女ももう限界だった。
そして……
『先頭はキングカメハメハ! 変わらずキングカメハメハ!』
その時が来た。
『今、最強の大王が! 降臨したぁぁぁっ!!』
ダービーウマ娘キングカメハメハが誕生した。
『今最強の大王がここに! 府中のターフに舞い降りました! 勝ったのは、勝ったのはキングカメハメハ!』
そしてタイムはなんと2分23秒3。
アイネスフウジンとアドマイヤベガが出した2分25秒3という記録より2秒も速い。
ダービー新記録だった。
そして、北原にとって初めてのダービー制覇となった。
新ダービーウマ娘誕生に大興奮のスタンド。
その光景を、後からゴールしたハーツ達は膝に手をついて息を整えながら見ていた。
レース結果。
1着キングカメハメハ
2着ハーツクライ
3着ハイアーゲーム
猛暑の中で行われたレース。
キングが変則二冠を達成。
さらにハーツは2分23秒5。
ハイヤーゲームが2分23秒8。
このように、タイムの差はほとんど無かった。
が、それだけで終わらなかった。
4着のキョウワスプレンダから10着のグレイトジャーニーまでのウマ娘が2分24秒台。
11着のフォーカルポイントのタイムが2分25秒3と前レコード記録保持者のアイネスフウジンとアドマイヤベガと同タイム。
つまり、10着までのタイムがレコード更新をするというレースとなったのだ。
こうしてこの年のダービーは新記録と共に幕を閉じた……ら良かった。
泉助がレース前に思っていた事を覚えているだろうか。
全員が無事にゴールする。
それを願っていた。
レース終盤。
最後の直線にてマイネルブルックが左足を脱臼して転倒。
時速70km近い速さで走っていたが、奇跡的に軽傷。
すぐにレース場の職員が担架で医務室へと搬送。
その後病院に搬送されるも、もうレースに耐えられる足では無くなったと医師から伝えられ、後日トゥインクル・シリーズ引退を発表。
さらにレース後に足に違和感を感じだと言って検査を受けた4着のキョウワスプレンダ、11着のフォーカルポイント、12着のコスモサンビーム、13着のマイネルデュプレ、14着のアドマイヤビッグ、15着のヴンダーに怪我が発覚。
詳しい検査をするためにそのまま病院へと直行。
後日キョウワスプレンダ、フォーカルポイント、コスモサンビーム、アドマイヤビッグ、ヴンダーに骨折が発覚。
マイネルデュプレは靭帯炎が見つかり、さらに後日マイネルマクロスも検査を受けた所屈腱炎が見つかった。
さらにマイネルマクロスの屈腱炎は酷く、完治するまで長期間必要とする他、屈腱炎は再発率が高い事から、トレーナーと相談した上でトゥインクル・シリーズを引退する事を後日発表。
18人中8人が負傷し、内二人はトゥインクル・シリーズから引退するという異例のダービーとなった。
さらに今回負傷した8人以外にも後年、影響が現れる事になる。
その結果、ある者は引退に、またある者は成績不振に喘ぐ事になる。
そしてその者の中には、彼女の姿もあった。
そんな結果となった今レースは後年、死のダービーと呼ばれる事となる。
(いつ見ても慣れへんな……)
レース後。
ウイニングライブを見てから帰路についた泉助はそう思っていた。
普通のレースでは基本、全員無事にゴールする。
転んだり怪我をしたとしても一人ぐらいだ。
過去にテンポイントというウマ娘が左足骨折した際、治療こそ成功したが完全には治らず、またダメージも大きかったために現在は車椅子での生活をしている。
ただし彼女達への治療の際のデータのおかげで、未だ謎の多いウマ娘に対する治療法が見つかり始めており、彼女達の怪我は決して無駄になってはおらず、後輩達を助けにつながっている。
(それでも……)
ファンからしたら辛いだろう。
記者である彼は、そういう場面に出会う事も少なくない。
サイレンススズカの秋の天皇賞。
その時、彼は当時スズカのトレーナーをしていた文乃への取材はとてもできなかった。
怪我の予兆は無かったのか。
もしかしたら気付けたのではないか。
自分が彼女の事をしっかり管理できていれば怪我をしなかったのではないか。
そう、自分を追い詰めていた姿を見ては、いくら記者といえど言葉をかける事はできなかった。
中には、怪我を克服してレースに戻ってくるウマ娘もいる。
ただしそれは本当に稀なケースである。
治療が成功しても前のような走りができずに復帰を断念するケースが大半なのだ。
それほどまでに、ウマ娘のレースとは過酷なもの。
一見すると華やかなステージ。
だがその裏には、数多くの悲劇が眠っているのだ。
だが、だからこそ彼女達は全力で走って、全力で歌って、全力で踊る。
関係者に感謝の気持ちを伝えるために。
ファンに応援してくれたお礼を伝えるために。
そしてなによりも、レースを見てくれた人全員に、自分は無事にゴールしたよと伝えるために。
また、とあるウマ娘が引退理由になる様々な怪我に対する治療法を研究していたりする。
いつかは屈腱炎を治した子が、再発を恐れずにレースに出られる日が来るかもしれない。
少なくとも、研究しているウマ娘はそれを目指している。
スズカをはじめ、怪我で引退したウマ娘達もそれに協力しているそうだ。
(引退した子は引退した子で、後輩達の夢を応援しているんだよな……)
観客もそうだ。
推しだけじゃない。
推しのライバルもだ。
全員がレースを無事に走り切る事を願っている。
(どうか。怪我で引退する子が減ると良いんだけど……)
そう思いながら彼は、今日のレースをどう記事にするのか。
考えるのだった。
その日の夜。
北原はキングカメハメハのダービー制覇と北原のダービーウマ娘のトレーナーになった事を祝って焼肉をしていた。
いるのは北原、六平、オグリキャップ、ベルノライト。
北原のチームにいるスズカマンボ、アドマイヤドン、ダイワスカーレット。
その他にもオグリの笠松時代からの友人であるフジマサマーチ、ノルンエース、ルディレモーノ、ミニーザレディ。
六平のチームにいるメイクンツカサ、クラフトユニヴァ、ゴッドハンニバル。
そして主役のキングカメハメハがいる。
ちなみにキングには、ベルノ製の今日の主役と書かれたタスキがかけられている。
ワイワイと賑やかに進む祝勝会。
六平が甥へのお祝いという事もあってか奮発。
良いお肉をたくさん用意した事もあり、オグリも大変満足していた。
そしてしばらくして
「ようキング。今日はおめでとうな」
「トレーナーさん。ありがとうございます。トレーナーさんも、おめでとうございます」
「おう、ありがとうな」
と、チームそれぞれに与えられている部室の外でお互いに労う二人。
ちなみに部室と言ったが、外見的には小屋みたいな感じである。
一旦夜風に当たり、興奮の熱を覚ましていたキング。
そんな彼女に改めてお祝いを伝えるために来たのだ。
「そういやマンボが言ってたぞ。次は負けないって」
「ふふっ。そうですか。でしたら……次も負けませんよ」
「そうか。心強いな……やっぱ、狙うのか? 三冠」
「はい。変則三冠。狙います」
「となると、菊花賞か」
菊花賞。
京都レース場にて行われる、芝3000mの長距離GⅠレースである。
最も速いウマ娘が勝つ皐月賞。
最も運のあるウマ娘が勝つダービー。
そしてこの菊花賞は二度の坂越えとその距離からスタミナとパワー、そしてスピードを要求される。
そのため、最も強いウマ娘が勝つと言われている。
これは、出走するウマ娘にとって初の3000mというのも関係している。
さらには約4mの高低差を誇る急坂を二度通らねばならない。
そのため、坂を駆け上がるパワー、3000mを駆け抜けるスタミナ、そしてライバルより先にゴールへと辿り着くスピードが要求されるのだ。
「なら……セントライトか神戸か」
中山レース場で行われるセントライト記念と阪神レース場で行われる神戸新聞杯。
そのどちらかで3着以内に入ると優先出走権が与えられる。
どちらも夏休み明けに行われるレースであるので時間的にかなりの余裕がある。
「ま、とりあえず夏まではゆっくり休め。今日の疲れもだがプランを練りたい」
その言葉に頷くキング。
その時だった。
「あ、いたいた。キングさーん。主役がいなきゃダメですよ」
「だ、そうだ。戻ろう」
呼びに来たベルトと北原に促され、戻る事にしたキング。
ただ
「……?」
立ち止まり、右足を見る。
「キングさん?」
「どうした?」
立ち止まった彼女に何かあったのかと振り返る二人だったが
「いえ。何でもありません」
「……そうか。何かあったら言うんだぞ」
とキングの言葉を聞いて先に行く北原。
そんな彼の背中を見てキングは
(気のせい、か……)
靴を履いた時にするように、つま先で地面を数回トントンと右足で叩き、戻るのだった。
お読みくださり、ありがとうございます。
レースの結果。
ハヤテちゃんの感通りになりましたね…
感のすごい子だ…
感…
次回も、お楽しみに!