10月24日。
京都レース場のスタンドは、大勢の人で埋め尽くされていた。
クラシック三冠最後のレースであるGⅠレース菊花賞。
クラシックデビューした子達が初めて3000mという長丁場に挑むレース。
しかも京都レース場にある淀の坂を2度も超えねばならない。
3000mを走り切るスタミナと坂を越えるパワーが要される事から、もっとも強いウマ娘が勝つレースと言われている。
ハーツが今回出るレースはかなり過酷なレースなのだ。
それに彼女と共に出る17人のウマ娘。
その中にはデルタブルースの他にコスモバルクやスズカマンボ、グレイトジャーニー、ハイアーゲーム、ケイアイガードといった者もいる。
全員が最後の冠である菊花賞制覇を目指していた。
「準備はできたか? ハーツ」
「あぁ。問題ねぇよ」
控室で水を口に含み、飲み込んでから文三にそう返すハーツ。
「今回は初めての3000メートル。お前さんの得意距離的にはいささか不安が残るが、スタミナ面の強化をしっかりしてきたんだ。行けるはずだ」
「当たり前だ。オレは……勝ってくる。初GⅠタイトル。取ってくるからな」
「あ、あぁ。行って来い」
昨日のキングの引退を知ってから何かがあったのだろう。
どうにも菊花賞に向けるハーツの姿勢が普段と違う事に不安を感じる文三。
だが闘志を燃やしているのか。
(クラシック三冠最後だからな。焦りもあるのかもしれんが……)
少し様子を見る事にするのだった。
パドックからコースへ続く地下バ道を歩くハーツ。
(負けねぇ。オレは負けねぇ。オレは勝つ……勝って、勝って。アイツを超える)
ただただ前を見て歩く彼女が、ターフに姿を現す。
それに伴い観客が盛り上がる。
今回18人が出走するが、なんとハーツが1番人気なのだ。
(オレが勝つ所を見ていろ……)
そう思いながら彼女はゲートへと向かった。
クラシック三冠レース全てに出ているとそこそこ顔の知る相手も増える。
今回の出走メンバーの中に、先述のメンバーの顔を見つけるハーツ。
(あいつらもか……知らない顔もあるが)
その中にデルタブルースの姿を見つけるハーツ。
(あれがアイツの……)
デルタの勝負服を初めて見るハーツ。
(……いや、今はレースに集中しろ。勝つ事だけを考えろ)
そう自分に言い聞かせるのだった。
そうしてファンファーレの後に始まるゲートイン。
順調に入っていくメンバー。
1枠1番はオペラシチー。
右耳に目元を隠す仮面をイメージして作られた耳飾りをつけ、オペラドレス風の白い勝負服を着ている。
コースに出た際、自分のファンにも他のウマ娘のファンにも分け隔てなく楽しんで行ってくださいねと手を振っていた。
1枠2番はカンパニー。
青いスーツタイプの勝負服を着ている彼女。
右耳にはネクタイをイメージさせる耳飾りをつけている。
きさらぎ賞にてハーツやマイネルブルック、ブラックタイドと戦うも7着。
ラジオNIKKEI賞ではケイアイガードにクビ差で破れての2着となった。
2枠3番はグレイトジャーニー。
左胸のポケットに赤いクロスが入った水色のジャケットと白いパンツスタイルの勝負服を着ている。
右耳の耳飾りはGとJを組み合わせたデザインとなっている。
弥生賞にてコスモバルク、ハイアーゲームと走るも7着。
皐月賞ではハーツとブラックタイドより先にゴールするも、ダイワメジャーやコスモバルク達に敵わずの11着。
ダービーではキングやハーツに敵わずの10着。
神戸新聞杯ではハーツに半バ身差で破れての4着となかなか勝利から遠い。
それでも勝利を目指して走っている。
2枠4番はスズカマンボ。
右耳には一周するように緑のラインが入った、黄色い円錐状の耳飾り。
黄色のインナーに緑の上着。
上着の袖だが、手首付近にベルト状のバンドを付けている。
肩には縁にゴールドのラインが追加されたストールを巻いている。
ストール縁からは緩く占められた黒のネクタイの先端がチラリとのぞいている。
緑の左の太ももを一周するように黄緑のラインの入った白のパンツ。
シューズはショートブーツタイプの物を履いており、右足は黒で左足は縁にファーが施された白い物となっている。
キングカメハメハ唯一の黒星である京成杯に出た際にはキングに半バ身差つけられての4着。
皐月賞ではブラックタイドにハナ差で破れての17着。
京都新聞杯ではハーツに半バ身差破れての2着。
ダービーではキョウワスプレンダにハナ差破れての5着。
前走朝日チャレンジカップではヴィータローザにハナ差勝利の1着を取っている。
3枠5番ホオキパウェーブ。
右耳にはサーフボードを模した耳飾り。
水兵服を連想させるデザインの勝負服を着た彼女。
彼女もオペラシチーのようにコースに出た際、レースを見に来てくれた全ての観客に向けて手を振っていた。
3枠6番にシルクディレクター。
右耳に赤い円盤状の物を三つ繋げなデザインの耳飾りをつけている。
真っ白なネクタイ、赤いインナーに水色の上着を着ている。
額にはレンズ部分が少し大きめのサングラスを乗せている他、腰には赤いベルトを斜めにつけている。
4枠7番に入るのはエーピースピリット。
右耳に桜の花びらを青い輪っかで囲んだデザインの耳飾り。
勝負服は袖の短い黄色のシャツに赤い上着を羽織り、走っている最中に飛ばないよう、襟元を青い紐で止めている。
4枠8番にケイアイガード。
右耳にはピンクのリボン。
勝負服は左袖にピンクのラインが2本入った白いブラウスに白いスカート。
胸元にはピンクのリボンタイ。
負けたレースでも掲示板外になった事はなかったりする。
5枠9番にトゥルーリーズン。
純白のロングコートに耳カバー付きの白いハット帽。
ハット帽で耳が隠れているので、耳飾りは見えない。
緑のシャツに赤のネクタイと白いパンツ。
どことなく探偵に見えそうな感じの勝負服となっている。
5枠10番はハーツクライ。
勝負服は黄色のインナー、二の腕あたりにブルーのリングを付けた黒のジャケット、黒の手袋に黒のパンツ。
右足が黒で左足が白のショートブーツ。
6枠11番にはストラタジェム。
琥珀のような色をした雫状の飾りがついた耳飾りを右耳につけている。
勝負服は喉まである黒いインナーの上に白い上着。
二の腕と手首の辺りに青いベルトタイプのバンドが取り付けられており、右胸が黒、左胸が黄色に染められた白い上着を着ている。
6枠12番はブルートルネード。
両耳に黒の縦縞模様が入った黄色の耳カバー付きカチューシャ。
黒の強い茶の髪をしており、前髪には赤いX字型のヘアピンをつけている。
勝負服は黒いジャケットに左胸から腹にかけて黄色の縦縞模様の入ったYシャツに黒いパンツ。
7枠13番はコスモステージ。
勝負服は赤いセーラー服に襟や袖に緑のラインを入れた物を着用。
赤字に緑の十字ラインが入った長めのリボンを鉢巻のように頭につけている。
リボンと同じ赤字に緑の十字ラインが入った耳カバーを耳飾りの代わりにつけている。
7枠14番にハイアーゲーム。
勝負服は黒のブラウスに黒いスカート、縁が白鋸歯形にギザギザ模様の入った紫のストール。
スカートの縁もストールと同じように白鋸歯形模様が入っている。
右耳に白い耳カバーをつけている。
7枠15番に入ったのはコスモバルク。
彼女の勝負服は赤尽くめ。
右耳には赤い菱形が二つ繋がった耳飾り。
勝負服は赤いシャツに赤いジャケットに赤いスカートに赤いブーツ。
ジャケットの袖口、スカートの一部に緑の格子模様とブーツのベルトが緑となっている。
8枠16番はブラックコンドル。
黒い羽をそのまま使った耳飾りを右耳につけている。
勝負服には黒を中心に使われている。
黒手袋に黒いブラウス、黒いコルセットに黒いスカート、黒いストッキングに黒いブーツ。
手袋の手の甲部分にイエローのライン。
スカートの裾は二重になっており、黒の縁から出るように青い生地がのぞいている。
8枠17番はモエレエルコンドル。
両耳に鳥の羽を模した耳飾りをつけている彼女。
勝負服は緑のシャツの上に桃色のコート、桃色の二重輪模様の入った緑のスカート。
最後に8枠18番にデルタブルース。
右耳には三角の中にBが入った耳飾り。
その勝負服は執事服をベースにしたと思われるデザインの黒い上着と白のシャツ。
左胸にあるポケットにはクロスして赤いラインが入っている。
左肩には裏地が赤い黒のペリース。
上着の袖口とシャツの右襟、ペリースの縁には映画のフィルムを思わせるデザインの模様が入っている。
右手に白、左手に黒の手袋。
赤い靴紐を使われた白いブーツ。
シャツの胸元にあるポケットには黄色の縦ラインが入っており、パンツの方は赤いベルトが交差するように両腿に取り付けられている。
全18人がゲートイン完了。
誰が最初とかはない。
自然と全員がスタートの姿勢を取る。
ある者は右足を、ある者は左足を引いて構える。
ゲートが開くその時を。
レースが始まるその瞬間を。
観客もその時が来るのを今か今かと待つ。
『さぁ果たしてどういうレース展開になるのか。北海道のウマ娘、ファンの夢は届くのか』
実況の泉本の声に18人は最大集中をし
『秋なお熱い京都レースで今、菊花賞!』
さぁ
『スタートです!』
ゲートが開き、18人のウマ娘が一斉にコースへと飛び出す。
グングンと加速し、ブルートルネードが先頭に立つ。
その彼女をエーピースピリット、ケイアイガード、ストラタジェム、ブラックコンドルが追いかける形となった菊花賞。
と思いきや、最初のコーナーでモエレエルコンドルが一気に先頭へと迫る。
それと同時にコスモバルクも駆け上がっては先頭の座を奪い取る。
コスモバルクを先頭にモエレエルコンドル、ブルートルネードの順。
そしてブラックコンドル、コスモステージ、その後ろにデルタブルースが仕掛ける時を虎視眈々と伺っている。
続けてストラタジェム、その内側にエーピースピリット、グレイトジャーニー。
その後ろにケイアイガードとハイアーゲームがいる集団。
そんななかハーツクライは後ろから3番手を走っていた。
そのままレースは続き、1000mのタイムは1分4。
モエレエルコンドルをかわし、コスモステージが2番手に上がる。
その先頭はいまだコスモバルク。
第1コーナーに17人のウマ娘を引き連れるようにして入るコスモバルク。
そうして入った1400m。
そのタイムは1分25秒6。
1ハロンごとのタイムで見るとペースは落ちている。
だいぶペースは落ちて来てはいるがそれでも先頭をキープし、二度目の坂へと入るコスモバルク。
その後ろをコスモステージとモエレエルコンドルが、仕掛けるタイミングを探りながら走る。
先頭の3人から距離を空けて、ブルートルネードとデルタブルースが行く。
中団にて様子を見るハイアーゲーム。
ハーツクライはいまだ後方から3番目を走っており、彼女の前をスズカマンボが行く。
坂を登り、ゴールまで残り800mを切る。
全員の意識が、仕掛け所を違わぬように集中していくなか、最後のコーナーに向けて坂を下る。
そのタイミングで、デルタブルースが順位を上げて来た。
コーナーを抜け、最後の直線に入る頃には二人は並んでいた。
コスモバルク。
彼女は北海道で生まれた。
小さい頃はトゥインクル・シリーズの中継をよく見て憧れた。
キラキラしたステージでファンに応援される姿に憧れた。
いつか自分もそこに立ちたいと。
いつしか夢になった。
デビュー戦2着。
1着を取った子に4バ身差をつけられてだった。
それでもコスモバルク自身も3着の子に3バ身つけていた。
続く未勝利戦では2着の子に1バ身半差をつけて見事1着を取った。
応援してくれた近所の人は家族と一緒にすごく喜んでくれて、お祭り騒ぎだった。
続く2レースは1着と2着をそれぞれ。
そんななか行われた百日草特別にて中央デビュー。
ハイアーゲームの猛追を凌いでなんと結果は1着。
中央デビューをみごと勝利で飾った彼女。
ゴール後に歓声を受けながら彼女は、きっと地元はすごい騒ぎなんだろうなと思った。
そして12月に阪神レース場で行われたホープフルステークスにも出走して勝利。
続けて弥生賞でも勝利し、皐月賞への切符を手にした。
そして挑んだ皐月賞。
最後の直線で凄まじい末脚を見せるもダイワメジャーを捉えきれずの2着。
続くダービーではレース後半で一時的に先頭に立つもファンやトレーナーの想いに応えたいと勝ちを急ぐあまり掛かってしまい、スタミナを消費してしまった事もあって8着に。
夏は地元でゆっくり療養。
夏明けの復帰戦は久しぶりに地元北海道で行われる北海優駿。
2着に半バ身差をつけて勝利した彼女はそのままセントライト記念に出走。
焦りからまた掛かってしまうも後半は落ち着いて立て直し、最後の直線で上がり34.8秒の末脚で駆け上がって来たホオキパウェーブにクビ差で勝利。
2分10秒1というタイムを出し、ストロングカイザーが打ち立てた記録の2分12秒7を2秒5上回る新レコードを叩き出した。
そんな良い調子で迎えた菊花賞も終盤。
デルタブルースに並ばれかけるも先頭を死守する彼女。
デルタブルースが上がって来るがこのまま守り切る。
そう決意して進む。
クラシックを取る。
中央のGⅠを取る。
取って、応援してくれた人達に応えたい。
その一心で突き進む。
が
『外からデルタブルースだぁぁぁっ!!』
スッと、コスモバルクの視界に入った。
デルタブルース。
ハーツクライの元ルームメイト。
もちろん、今でも友人である。
デビュー戦は7着だった。
そこから1勝上げるまでが遠かった。
三度の未勝利戦の後、梅花賞に出るも4着。
その次の未勝利戦でやっと勝った。
だがその次に出た青葉賞は13着。
次のレースでは勝つもその次の兵庫特別で派5着。
続く九十九里特別。
前走である九十九里特別では1着を取った。
そうして菊花賞へなんとか出走した彼女。
皐月にも出たかった。
間に合わなかった。
メジャーが駆け抜けるのを見ていた。
ダービーにも出たかった。
間に合わなかった。
キングが大王になる所を見ていた。
私も走りたかった。
あんな風に。
見る人を圧倒する走りをしたかった。
何が足りなかった。
何が足りない。
彼女達にあって自分に無いものはなんだ。
ずっと探した。
そしてその答えを見つけた。
一握りのウマ娘がたどり着く境地があると噂を聞いた。
もしそれにたどり着けたら。
自分も強くなれるだろうか。
それから徹底的に調べた。
たどり着く方法。
どうしたら会得できるのか。
夏合宿の頃から本格的に、己を鍛えながら同時進行で調べた。
そして、ある一人のウマ娘にたどり着いた。
その名はオベイユアマスター。
オグリキャップやタマモクロスとジャパンカップにて競い合ったアメリカのウマ娘。
彼女もまた、領域に達していた。
ただしそれはオグリ達とは違う物。
入念に下準備をし、条件を自前で揃えて突入する。
限定的で不完全な領域。
その話をとある筋から聞いた彼女は、ならば自分もと思った。
シンボリルドルフのように、時代を作った一握りのウマ娘がたどり着く境地。
その一握りに自分が入れる器ではないと彼女は思っていた。
だが、だがそれでも勝ちに行くには必要だと思った。
磨いた。
領域に達するために。
その扉を開くために。
でも足りない。
届かない。
ならば補え。
足りないのであれば足りない物を別の何かで補え。
思い出せ。
悔しかったあの時の事を。
ぶつけろ。
今出せる全部を。
出し惜しみするな。
出し切れ。
絞り出せ。
その執念が、彼女の前にそびえる扉をこじ開ける。
そして
『デルタブルースが先頭だ! 先頭に変わった!』
彼女はそのまま、コスモバルクと並ぶ事なく一気に抜き去ってみせた。
さらにオペラシチー、グレイトジャーニーにスズカマンボ。
大外からはハーツクライ、内からはホオキパウェーブも突っ込んで来る。
それでも抜けたデルタはグングンと加速して集団から離れて行く。
シンボリルドルフやタマモクロス、オグリキャップやキングカメハメハが達した領域とは違う。
オベイユアマスターと同じ、不完全な領域。
もしかしたらこの時、この場限りの一度きりの領域かもしれない。
だがそれは、デルタブルースの素質をほぼ完全に引き出していた。
「なにあれ……」
「あれが同じウマ娘なのか?」
スタンドの観客からそんな声が漏れる。
(おいおい……ふざけんなよ!?)
追いかけるスズカマンボ。
(なんなのあれ……あれじゃまるで)
キングカメハメハじゃないか、とオペラシチーは思った。
「行かせるかァァァッ!!」
最後の底力と言うように、雄叫びと共に突っ込むホオキパウェーブ。
だが届かない。
届かせない。
『デルタデルタデルタ! デルタブルースだ!』
実況の言葉に熱が入る。
スタンドが一層激しく盛り上がる。
ゴールまでもう距離はない。
これが最後のチャンスとホオキパウェーブが懸命に追いかける。
追いかけるが、だが後少しが届かない。
皐月もダービーも出られなかった。
いや彼女以外にも出られなかったウマ娘は大勢いる。
憧れ、追いかけながら叶わなかった子達は大勢いる。
でもデルタブルースは最後に出られた。
間に合った。
この姿で、走りで。
デビュー前の子に教えたい。
諦めなければ、夢を叶える事はできると。
いや違う。
それは建前だ。
本当は
(憧れていたんだ……)
皐月賞を駆け抜けたダイワメジャーに。
(みんなに見てもらいたかったんだ)
ダービーを取ったキングカメハメハのように。
(私も!)
輝きたかった。
輝く様をトレーナーに、チームのみんなに、ファンのみんなに、家族に……
「はぁぁぁぁぁっ!」
見てもらいたかったんだ。
『デルタブルース! デルタデルタデルタ! デルタブルースが行く! デルタブルースだ! デルタブルース! 先頭はデルタブルース! 譲らない! ホオキパウェーブも追い上げる! それでも先頭はデルタブルース!』
先頭を進む。
17人のライバルを引っ張るように。
突き進む彼女が纏うは黒と赤のオーラ。
それを見た一部のウマ娘達。
デルタブルースから放たれるプレッシャー。
それと共に赤を帯びた黒いオーラ。
不完全ながら領域に到達した彼女は、ダービーの時にキングが見せた黄金のオーラのように、黒いオーラを纏ってみせたのだ。
そして
(私が!)
ついに
「1番だァァァァァッ!!」
『先頭はデルタブルース! 先頭は変わらずデルタブルースだぁっ! デルタブルースやりました!』
念願のGⅠ制覇。
菊花賞タイトルを獲得。
勝ちタイムは3分5秒7。
上がり3ハロンのタイムは35秒7。
2着のホオキパウェーブに1バ身と1/4差をつけての勝利となった。
そんな2着のホオキパウェーブだが上がり3ハロンで35秒1という、今回菊花賞に出たウマ娘で最速のタイムを出している。
そして3着はホオキパウェーブに半バ身差だったオペラシチー。
先頭をずっと走っていたコスモバルクはオペラシチーにハナ差の4着。
5着は半バ身差でストラタジェム。
そしてハーツクライは
「はぁ……はぁ、はぁ……」
5着のストラタジェムにアタマ差で6着を取ったスズカマンボにクビ差の7着。
皐月賞で14着を取って以来掲示板外になった事のなかった彼女だったが、今回二度目の掲示板外となった。
そんな彼女はデルタブルースの方を見ていた。
「はぁ、はぁ……んだよ。クソッ」
いや、厳密にはその少し先を見ている。
そこにいるのは、いないはずのキングカメハメハ。
勝負服に身を包んだ彼女の姿。
それを幻だと分かっていた。
それを見たのは最後の直前でのスパートの時。
自分の脇をすり抜けるようにして姿を見せた彼女。
超えてみろ。
そう言うように、すり抜ける時にチラリとコチラを見た幻。
(今のままじゃ、届かねぇ……)
デルタが見せたキングに近い領域。
キングは金色、デルタは赤混じりの黒のオーラ。
(あれがなけりゃ、超えられないのか……)
幻影のキングは、デルタ追い抜いて遥か先。
第1コーナーの辺りにポツンと立ってハーツの方を見ていた。
(待っていろ……オレは、必ず)
幻の口が動く。
私を超えてみろ。
「お前を、超えてやる……」
静かに呟かれたその言葉は、デルタブルースを祝福する大歓声にかき消された。
お読みくださり、ありがとうございます。
これにてクラシック三冠は終了。
でも彼女達のレースは続きますし、年を越せばまた新たな子達のクラシックレースが始まります。
ハーツは果たして超えられるのか……
次回もお楽しみに!