ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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33話〜目指すは……〜

 

 12月19日。

 阪神レース場で行われたデビュー戦。

 

「なに、あの脚……」

 

「本当に同じデビュー戦の子なのか?」

 

 最後の直線を駆け抜けたウマ娘達を見て観客の誰かが呟く。

 

 レース結果。

 1着ディープインパクト。

 勝ちタイム2分3秒8。

 上がり3ハロンのタイムは33秒1。

 

 2着はコンゴウリキシオー。

 ディープに4バ身差でのゴールとなり、タイムは2分4秒5。

 上がりタイムは34秒1。

 

 3着はテイエムカイブツ。

 リキシオーから3バ身差でゴールし、タイムは2分5秒ジャスト。

 上がりタイムは34秒5。

 

 そのタイムは同じ、阪神レース場でデビューした際のアグネスタキオンのタイムである2分4秒3と上がりタイム33秒8のどちらも上回っていた。

 

 そしてデビュー戦を圧勝で飾ったディープ。

 彼女の背中を見るリキシオー達だが、息を切らしている者もいれば膝に手をついている者もいる。

 

 が対するディープは息を切らした様子は無く、観客に手を振っていた。

 

(……っ、次は負けない)

 

 体を起こしながら、コンゴウリキシオーはディープの背中を見て誓うのだった。

 

 

 

 もちろん、そのレースの中継を他のトレーナー達は見ていた。

 その中の一人に、諒太はいた。

 

(こりゃ……すげぇな)

 

 中継を見て、トレーナー室に戻ってから録画しておいた映像を見る。

 終わっても巻き戻して始めから再生する。

 

 そして見る度にディープのポテンシャルの高さを実感する。

 

(こいつ……)

 

 なんせディープは

 

(ゲートが開いてからスタートしている)

 

 ……何を当たり前の事をだろう。

 レースはゲートが開いてスタートなのだから。

 だがそのスタートにも差はある。

 ゲートが開くと同時にスタートする子。

 ゲートが開いてスタートする子。

 ゲートが完全に開き切ってからスタートする子。

 当然、同時にスタートの方が早く出られる。

 当然、開き切ってからスタートすれば出遅れる。

 

 今回のディープのスタートは完全にゲートが開き切ってからのスタートだった。

 まれにゲートが開いていないのに先走ってフライングしてしまう子もおり、その場合はケガをしていないかの検査等が行われる。

 その結果次第では競争除外となる事もある。

 

 話を戻して諒太は、ディープのスタートとレース展開。

 そしてその結果から、彼女の素質の高さを感じ取っていた。

 

 一応デビュー前にはゲート試験というものが行われる。

 それに合格しなければ、足がどれほど速くてもレースには出られない。

 つまりディープは試験に合格しているのだ。

 

 デビュー戦という事。

 学園とは違う環境から上がってしまう子もいる。

 彼女もそれだろうか、と思いつつ諒太は2着のコンゴウリキシオーに4バ身つけての勝利した彼女を

 

(クラシックはコイツと競うのか……)

 

 警戒していた。

 

 そんな彼が担当するハヤテエンペライザの次走は25日のホープフルステークスを予定している。

 レースまでもう1週間切っており、今もエンペライザは走り込みをしている。

 

 おそらく同じチームのファイングレイン、ソングオブウインド、レジネッタと走っているだろう。

 

(噂じゃ三冠を狙っているらしいし……ぶつかるのは確実だな)

 

 エンペライザも三冠を目指している。

 まだ決まったわけではないが、お互いに目標にしているレースに出られる事になれば、エンペライザはディープとぶつかる。

 

(いや……まずは目の前のレースだな)

 

 世間の話題はすっかり有マ記念一色。

 不満を感じないわけではないが、世間の気持ちも分かる。

 ファン投票によって出走メンバーが決まる有マ記念。

 出走メンバーの発表は4日後の木曜日。

 23日を予定している。

 

(まぁ、注目しているのは世間だけじゃねぇけどな……)

 

 テイエムオペラオー以来達成者のいない秋シニア三冠に王手をかけているゼンノロブロイ。

 

 凱旋門賞は17着だったが、同年に行われた金鯱杯にてサイレンススズカが持っていたレコード記録を0.3秒上回ったタップダンスシチー。

 

 12月4日のステイヤーズステークスにて1着を取り、調子も良いダイタクバートラム。

 

 GⅡの京都記念で勝って以来勝ちから遠のいているが、秋の天皇賞以外で掲示板を外していないシルクフェイマス。

 

 クラシックを終えてから長らくダートレースに出走し続け、この年はドバイのレースにも出て世界を知ったアドマイヤドン。

 

 繋靭帯炎から10月に復帰するも秋の天皇賞では16着。

 翌月のジャパンカップでは9着。

 1年近く休養していたからかなかなか勝てないでおり、今回の有マ記念でファンに復活の勝利を見せられるかヒシミラクル。

 

 3着と勝てはしなかったが、前年の有マ記念に出走した際にはナリタトップロード、ファインモーション、ジャングルポケット、エアシャカール、ヒシミラクルに先着して見せたコイントス。

 

 菊花賞で勝ち、続くジャパンカップでは1着のゼンノロブロイと0.6秒差の3着のデルタブルース。

 

 地方所属でありながらクラシック三冠全てに出走。

 ジャパンカップではゼンノロブロイに3バ身差の0.5秒差の2着を取ったコスモバルク。

 

 ダービー2着ウマ娘にして凄まじい末脚の持ち主のハーツクライ。

 前回のジャパンカップ含めて9戦走り、掲示板外になったのは3回。

 それ以外の6レースでは1着3回、2着1回、3着2回と好走をしている時もある。

 

 他にも出走を狙っている子達はおり、投票結果が発表されるのを待っている。

 

 ただ、出走を狙っているメンバー的に注目されて仕方ないかと思う諒太。

 

(時期も時期だしな……)

 

 ホープフルステークスの日は12月25日。

 有マ記念は翌日。

 

(これが翌週とかだったら……)

 

 注目は別れたかなと思うのだった。

 ただそれを一番分かっているのはトレーナーではなく、実際に走るウマ娘達なのだ。

 

 

 

 翌日。

 

「えぇ、皆さんの耳にも入っていると思いますが、今度の日曜日に有マ記念がありますね」

 

 エンペライザは教室で授業を受けていた。

 授業の内容は三冠レースに関して。

 担当している目尻にシワのある男性教師が黒板にレース名を書いていく。

 

「来年皆さんの中にも走る子がいると思うのがこちらの皐月賞、日本ダービー、菊花賞のクラシック三冠レース。それとこちらの桜花賞、オークス、秋華賞のトリプルティアラを目指す子もいると思います」

 

 トリプルティアラ。

 クラシック三冠と並ぶ三冠。

 クラシック三冠達成者はセントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンと5人いるが、トリプルティアラは少ない。

 なんとメジロラモーヌとスティルインラブの二人だけなのだ。

 

 またルドルフはクラシック三冠を無敗で獲得したが、ラモーヌとスティルはどちらも無敗での達成を成せていない。

 そのため、ティアラ路線に進む子は初の無敗での達成を目指す者が多い。

 

 エンペライザが目指すのはクラシック三冠。

 彼女だけでなく、他にもそれを目指す子はいる。

 

 そんなエンペライザ達を見て教師は口を開く。

 

「皆さん。偉業に挑む際には覚悟をして下さい」

 

 と。

 教師は続ける。

 

「偉業達成にも種類があります。先ほど言った三冠達成。春秋天皇賞連覇。有マ記念連覇。いろいろとあります。レコード記録も勿論偉業です」

 

 確かにそうだ、と生徒達は思った。

 そんな彼女達に教師は続ける。

 

「そして偉業達成が迫った時、あるものがあなた達に与えられます。何か分かりますか?」

 

 その問いを考えるも答えられる子はいなかった。

 そんな彼女達に教師は答えを言う。

 

「それは期待です」

 

 期待という言葉に首を傾げる生徒が数名いた。

 

「拍子抜けしましたかね。ですがこれは知っておいて下さい。そして覚えていて下さい。偉業達成に近付けば近付くほど。世間は期待します。その偉業が達成される事に。世間からの期待は大きくなります」

 

 さらに彼は続ける。

 

「別に脅すつもりで言っているわけではありません。ですがこれは必ず訪れます。1番人気に推された時もです。ファンからの期待は常に付き纏います。付き纏いますなんて言ったら失礼かもしれませんが、こう言います。たとえあなた達が望まずとも与えられます。背負わされます。その背中にのしかかります」

 

 真っ直ぐ。

 生徒達を見て彼は言う。

 

「そしてその期待は、簡単に失望に変わります。期待が大きければ大きいほど。反転した時の失望は大きくなります。そしてその失望が常に自分に向くとは限りません」

 

 その言葉でエンペライザはある年の菊花賞と春の天皇賞を思い出した。

 それは、ミホノブルボンのクラシック三冠制覇がかかった菊花賞と、春天3連覇がかがっていたメジロマックイーン。

 その両者を下したライスシャワーという先輩ウマ娘の事だ。

 

 ライスシャワーはその両レースにて偉大な記録に待ったをかけ、勝った。

 そんな彼女に向けられたのは両ウマ娘ファンからの心無い言葉。

 菊花賞ではブルボンの勝利を望んでいたファンの悲鳴とため息。

 春天でも同じだった。

 ヒールだと言われた。

 そんな彼女が思い浮かべたのは、ヒールと言われて春天出走を回避しようとした自分を励ました、一人のウマ娘の姿だった。

 

「ですから」

 

 教師は言う。

 

「皆さんは強くなって下さい。期待を背負って走れるぐらいに。ここで学んでください。クラスの子や先輩から学んでください。私達に聞いてください。トレーナーのいる子はトレーナーやチームの子にも聞いてください。そして強くなって。走って。無事にゴールをして下さい」

 

 教師として。

 一人の人間として。

 そしてトゥインクル・シリーズのファンとして。

 生徒達に言う。

 

「私が言って良い事ではないと思いますが皆さん。記録が全てではありません。出るレースのグレードが全てではありません。そればかりを見て自分の走りを忘れないよう。頑張ってください」

 

 そう言い終わると同時に授業終わりのチャイムが鳴った。

 

 

 

 その日の放課後。

 

「フッフッフッフッ……」

 

 アドマイヤジャパンは練習用のダートコースを走っていた。

 栗毛の髪を右側で纏め、サイドテールにしている。

 その髪を揺らしながら走る彼女だが12月5日のデビュー戦に出たばかりである。

 結果は1着。

 1番人気に応え、2着のオールインサンデーに2バ身差をつけての勝利となった。

 

 そんな彼女の隣。

 ダートコースの隣にある芝コースを

 

「ハァァァァァッ!」

 

 同じクラスのローゼンクロイツが走っている。

 その後ろをダイタクバートラムとハーツクライが走っている。

 そんな3人に

 

「ラストだクロイツ! 走りきれ!」

 

 文三が声を張る。

 

「ハーツ! バートラム! 先輩の意地を見せてやれ!」

 

 その言葉にハーツとバートラムは一際強く地面を踏み込むと二人は一気に加速。

 クロイツを抜き去り、仮ゴール板目掛けて競い合う。

 二人とも有マ記念を目指しており、ファン投票の結果待ち。

 それでも選ばれて出走できるとなった時、しっかり走れるようにトレーニングしている。

 現に二人はまるで本当のレースをしているかの勢いで走っている。

 

(凄い……)

 

 その光景にアドマイヤジャパンは足を止め、見てしまっていた。

 そんな彼女の目の前で、ハーツとバートラムはほぼ同時にゴールした。

 

 

 

 その後。

 アドマイヤジャパンは走り終えたハーツの元へと向かっていた。

 

(いた……)

 

 彼女が見つけた時、ハーツは蛇口から出した水を頭から被っていた。

 気が済むまで浴びたハーツは頭をブルブルと振って水を飛ばし、髪をかき上げると

 

「なんか用か」

 

 振り返り、そう尋ねた。

 

「あ、えっと……私」

 

「……あぁ。この前デビューした1年か」

 

「知っているんですか?」

 

「まぁ、良い走りしてたからな。で、何の用だよ」

 

 まだ髪に残っている雫をタオルで拭きながら歩き出すハーツ。

 そんな彼女を追いかけながらアドマイヤジャパンは言う。

 

「どうしたら先輩みたいな末脚を出せるか教えて下さい!」

 

「……突然だな」

 

「か、勝ちたいんです。私。初めての重賞レース。2戦目でですけど、出るからには勝ちたいんです」

 

「そりゃみんなそうだろうな」

 

「だから!」

 

「……オレの走りが欲しいってか」

 

「……私に限った事じゃないです。先輩も同世代に強い方がいるから分かると思います」

 

 その言葉にハーツは思い出す。

 皐月賞では最初から最後まで前目に付け、最後の直線でブチ抜いたダイワメジャー。

 ダービーにて他者を圧倒し、最強の大王と異名を与えられたキングカメハメハ。

 クラシック最後のレースに出走し、意地を見せて勝利したデルタブルース。

 桜花賞とオークスで敗れるも秋華賞を制したスイープトウショウ。

 そしてなにより中央に所属せず、地方に所属したままクラシック三冠レース全てに登録し、ダービー以外は掲示板内に入ってみせたコスモバルク。

 朝日チャレンジカップ勝者のスズカマンボ。

 

 対するアドマイヤジャパンの方には10月のデビュー戦からいきなり勝ちを見せたヴァーミリアン。

 デビュー戦は2着ながら続く未勝利戦で勝ち、続くGⅡデイリー杯ジュニアステークスにて8着に沈むも次走京都ステークスではヴァーミリアンに次ぐ3着でゴールしたハヤテエンペライザ。

 デビュー戦2着ながら次走の未勝利戦で勝つとその次の京都ステークスでヴァーミリアンとエンペライザを下して1着を取ったローゼンクロイツ。

 7月のデビュー戦で勝って以来トレーニングに集中しているアドマイヤフジ。

 そして先日のデビュー戦にて2着に4バ身差を付けたディープインパクト。

 

「私は、勝ちたいんです」

 

 勝つために強くなりたい。

 そのためには

 

「先輩の末脚が欲しいんです!」

 

 貪欲に技術を欲する。

 それは間違いではないだろう。

 

 だがその願いをハーツは

 

「……なら、オレに頼るのは間違いだな」

 

 断った。

 

「例えオレから教えられて、その時は勝てたとしても通用しない時が来るぞ」

 

 そう返しながらハーツは自販機で人参サイダーを買うと

 

「……オレが言えた事じゃないけどな」

 

 と言いながら買った人参サイダーをアドマイヤジャパンに渡し

 

「ホープフル。頑張れよ」

 

 そう言って練習に戻るのだった。

 

 

 

(通用しない、か……)

 

 キングの影を追い越したくてどうしたら良いか分からず、先輩のフォームを参考にしようか考えていたらハーツは、自分は何を言っているんだろうか、と思ってしまうのだった。

 

 

 

「休憩はもう良いのか?」

 

「……あぁ」

 

 練習に戻ったハーツは文三にそう言うと

 

「おいオンリー。併せ付き合え」

 

 ちょっとアップを終えたワンアンドオンリーを併走に誘った。

 その誘いにオンリーは

 

「ウッス! 全力で走らせてもらうッス!」

 

 気合い万全で返す。

 

「クロイツ。あの二人と走れ。ユートピアもだ。バートラムも行けるか?」

 

 文三がさらに併走メンバーを増やす。

 

(……ハーツも気合いはあるみたいだが体重がかなり落ちているな。これでどこまで仕上げられるか)

 

 走り出すメンツの中、ハーツを見て思う。

 食欲が落ちたのか食べる量が減り、ここ最近体重が減る一方。

 一度に食べれないのなら、間食でフルーツ等を食べてみてはどうかと文三は提案したが、ハーツは問題無いとそれを突っぱねた。

 文三としてはレースも近いので食べて欲しいのだが、当人が嫌がるものを無理強いはできない。

 無理に食べさせればそれがストレスとなって調子を崩してしまう可能性があるからだ。

 

(まぁ……本当にヤバかったら当日取り消しも視野に入れなきゃだが)

 

 現時点でハーツは体調を崩しているとかは無い。

 ウマ娘も生きているのだ。

 レース前に体重が増減する子はいる。

 

(無理だけはしないで欲しいけどな……)

 

 それはハーツだけでなく、自分のチームの子達全員に対しても思うのだった。

 

 

 

 そして皆がレースに向けて練習するなか、有マ記念の出走メンバーが発表された。

 

 アドマイヤドン

 グレイトジャーニー

 コイントス

 コスモバルク

 シルクフェイマス

 ゼンノロブロイ

 ダイタクバートラム

 タップダンスシチー

 ツルマルボーイ

 デルタブルース

 ハイアーゲーム

 ハーツクライ

 ピサノクウカイ

 ヒシミラクル

 ユキノサンロイヤル

 の15名となった。

 

 注目はやはり、テイエムオペラオーに次いで秋シニア三冠達成がかかるゼンノロブロイだろうか。

 その偉業を彼女が達成するか、誰かがそれに待ったをかけ勝利を手にするのか。

 注目度は高かった。

 

 

 

 そんな有マ記念の前日に行われるホープフルステークス。

 その出走メンバーも発表された。

 そのメンバーは

 アドマイヤジャパン

 ヴァーミリアン

 グランロワイヤル

 ケイアイヘネシー

 シルクネクサス

 トーセンマエストロ

 ハヤテエンペライザ

 マイネルシルバート

 ローゼンクロイツ

 の9人。

 

 しかも9人の内、シルクネクサスとハヤテエンペライザ以外の7人は重賞初挑戦となる。

 9人全員がレースに向けて集中し、最後の追い込みをかけ、そしてその日を迎えた。

 

 

 

 12月25日。

 阪神レース場。

 ホープフルステークスが始まる。




お読みくださり、ありがとうございます。

やっとここまで来れました。
ハーツ達の次の世代も本格的に走り出します!

次回もー!
お楽しみにー!!
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