ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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34話〜クラシックへの船出〜

 

 12月25日。

 世間はクリスマスで賑わいを見せる中、阪神レース場は別の理由で盛り上がっていた。

 

 ホープフルステークス。

 かつてアグネスタキオンがレコードタイムを収めた重賞レースである。

 距離は2000m。

 バ場は芝。

 

 多くの観客が来ており、出走の時を今か今かと待っている。

 

 そんなレース場の控え室では……

 

 

 

「これが私の……」

 

 初めて袖を通す勝負服にやや興奮気味なのは、文三のチームのローゼンクロイツ。

 赤い十字が入った黒のネクタイにワインレッドのシャツ、黒のブレザーにスキニー系の黒いパンツ。

 右足が白のショートブーツで左足は黒のロングブーツ。

 ショートブーツはベルトで留めるタイプ、ロングブーツは編み上げタイプとなっている。

 シャツの袖のボタンは赤いバラを模したデザインになっており、左胸のポケットには青いバラの刺繍が入っている。

 

「……そろそろ時間だ」

 

「まだ、見ていたい」

 

「着ろ」

 

 文三に言われ、クロイツはハンガーにかけておいたコートを手に取る。

 真っ黒なコート。

 それに袖を通すクロイツ。

 襟は立てるタイプになっており、左襟には二筋の黄色のライン、右襟にはX字の赤いラインが走っている。

 左袖の縁を一周するように二筋の黄色いラインが入っている。

 

 最後に白手袋を着けて完了だ。

 そして

 

「すぅ〜……ふぅ」

 

 深呼吸をして

 

「……行ってくる」

 

 控え室を出た。

 

 

 

『ウマ娘。本バ場入場です』

 

 アナウンスに従い、今回出走するウマ娘がコースに姿を現す。

 

 その中にクロイツの姿はあり、コースの状態を確かめている。

 

 そんな彼女から少し離れた所にいるのはハヤテエンペライザ。

 黒いドレスに身を包んだ彼女。

 スカートの部分は多くのカラスの羽を重ねられたようなデザインとなっており、スカートの丈は右足側が膝まで、左足側が足首近くまでの左右非対称となっている。

 右手に白手袋、左手は黒の手袋。

 靴は両足共に白のショートブーツタイプ。

 黒いタイツを履いており、右足のタイツには黄色の縦ラインが入っている。

 そして黒猫のポシェットを斜めかけにしている。

 

 そんな彼女の前を横切り、ゲートへ向かうのはアドマイヤジャパン。

 その勝負服はブレザーをオフショルダーにしたようなデザイン。

 澄んだ空を思わせる水色オフショルダーブレザーの下に雪のように白いインナーを着ており、ブレザーと同色のプリーツスカートを履いている。

 ブレザーの袖は海を思わせる青色。

 水色と青の境目はギザギザ模様になっている。

 左肩にはブレザーの袖と同じ青色のペリースを着けている。

 明るめの黒いニーハイストッキングを履いており、シューズは両足共にショートブーツ。

 ブーツは右足に黒、左足に白を履いている。

 

 そして自信に満ちた足でゲートに向かうのはヴァーミリアン。

 右肩だけオフショルダーの真っ赤なドレス。

 裾はまるで、無数のバラの花弁を重ね合わせたようなデザインをしている。

 それに加えて黒のコルセット。

 コルセットの紐は鮮やかな赤で染められている。

 両肩には透けて見えるほど薄く、そよ風ですら靡きそうなほど軽い黒のマント。

 そして黒タイツ、シューズは赤いヒールタイプの物を履いている。

 

 そんな4人を含めた9人がゲートへ向かい、入っていく。

 そんな彼女達の枠順はこうなっている。

 

 1枠1番アドマイヤジャパン

 2枠2番ローゼンクロイツ

 3枠3番グランロワイヤル

 4枠4番ケイアイヘネシー

 5枠5番ハヤテエンペライザ

 6枠6番マイネルシルバート

 7枠7番シルクネクサス

 8枠8番トーセンマエストロ

 8枠9番ヴァーミリアン

 

 以上の9名がスタートの時をゲートの中で待つ。

 

 クラシック期前最後のレース。

 ここで勝ち、弾みを付けてクラシックに挑む。

 そう考える9人のウマ娘がスタートの体制を取り

 

『スタートしました!』

 

 ホープフルステークスが始まった。

 

 

 

(1000メートル通過タイムが約1分5秒か……スローペースだな)

 

 レースを見ながら諒太はそう思っていた。

 

 今回のホープフルステークスでは、緩やかな下り坂の途中からスタートする。

 その後急な上り坂が待っている。

 

 現在レースは、スタート直後から先頭を走るシルクネクサスが引っ張る形で進んでいる。

 そんな彼女を追うヴァーミリアン。

 続く形でケイアイヘネシー、マイネルシルバート、ローゼンクロイツがほぼ差無しで走る。

 エンペライザは後方で様子を伺いながら仕掛け所を探っている。

 

(もう少し前を取れれば良かったんだがな……)

 

 と、エンペライザの走りを見ながら思う諒太。

 その理由は先ほど言った坂にある。

 下り坂で勢いを付け事はできるが、それでも上り坂はキツい。

 故に、差し気質の子はやや不利なのだ。

 

(気張れよ……)

 

 彼が見守る中レースはカーブを進んで残り600mを切り、ペースが上がる。

 先頭は変わらずシルクネクサス。

 続く2番手はヴァーミリアン。

 それを追いかけるのは内からケイアイヘネシー、マイネルシルバート、ローゼンクロイツと先ほどのまま。

 少し差を開けてアドマイヤジャパン。

 ハヤテエンペライザは後ろから2番目を走っている。

 

 そして

 

『4コーナーカーブをシルクネクサス先頭でリードはおよそ1バ身ほど。続けてヴァーミリアン、外からローゼンクロイツ。間にマイネルシルバートで4人が横に広がって最後の直線に入ります!』

 

 ゴールへ続く最後の直線へ。

 9人がなだれ込むように駆け込む。

 

 その時だった。

 

「ッ!」

 

 ヴァーミリアンが仕掛けた。

 シルクネクサスをかわすや先頭に躍り出る彼女。

 マントとスカートを優雅に荒々しく暴れるように靡かせ、芝を蹴り上げながら突き進む。

 

「行かせるかァァァッ!」

 

 ギアを上げるローゼンクロイツ。

 

「勝負はまだッ、ここから!」

 

 外から追い上げるアドマイヤジャパン。

 

「負けない! 私が勝つ!」

 

 内側から外側へ進路を変え、アドマイヤジャパンを並ぶように前へ出るハヤテエンペライザ。

 

 だが先頭はヴァーミリアン。

 変わらずヴァーミリアン。

 まるで風に乗って舞う薔薇の花びらのように。

 朝日を浴びて咲き誇る薔薇のように。

 力強く、そして可憐な走りを見せ、魅せるヴァーミリアンが先頭を突き進む。

 

「ッ! クソッ!」

 

 それを懸命に追うローゼンクロイツ。

 

「まだッ! まだ終わっていない!」

 

 エンペライザをかわし、3番手に上がったアドマイヤジャパンも追いかける。

 

 だがいずれも薔薇の舞に届かない。

 捉えられない。

 

『先頭はヴァーミリアンだヴァーミリアン! 2番手はローゼンクロイツ! 3番手はアドマイヤジャパン!』

 

 ローゼンクロイツとアドマイヤジャパンが追い上げる。

 グイグイと追い上げて来る。

 距離を縮めて来る。

 だが、だが足りない。

 ゴールまでの距離が足りない。

 

 一輪だけ見事に咲き誇る薔薇に届かない。

 

『先頭変わらずヴァーミリアンゴールイン!』

 

 そのままヴァーミリアンがゴール。

 2着はローゼンクロイツ。

 3着にアドマイヤジャパン。

 エンペライザは4着という結果だった。

 

『ホープフルステークスを制しましたヴァーミリアン!」

 

 勝ちタイム2分3秒5。

 上がり3ハロンのタイムは33秒7。

 

 クロイツは1バ身差の2分3秒7。

 アドマイヤジャパンは半バ身差の2分3秒8。

 エンペライザは1バ身半差の2分4秒。

 

 8着までが1秒差。

 9着でも1秒1差となった今回のレース。

 

(誰にも勝つ可能性はあった。その中でヴァーミリアンが飛び抜けていた……)

 

 それはトレーナーの差なのか、と諒太は思った。

 決して、決して。

 エンペライザのポテンシャルが負けていたとは思わない。

 現に彼女は4着を取れていた。

 

(俺の力不足だろうな……)

 

 諒太がそう思う原因は他のウマ娘のトレーナーが彼の先輩であるという事。

 

 現にヴァーミリアンの文乃はオグリと競い合ったスーパークリークのトレーナーだった。

 クロイツの文三だってダンスインザダークと菊花賞を取っている。

 アドマイヤジャパンのトレーナーである遊佐もかつてコスモドリームというウマ娘でオークス、ベガで桜花賞とオークス、ブゼンキャンドルで秋華賞を制している。

 

 自分がまだまだだから勝たせてあげられなかった。

 こんなまだまだの自分の指導だったにも関わらず、エンペライザは4着を取ってくれた。

 その事に感謝すると同時に、次こそは勝たせてあげたいと思いつつ、控え室へと向かうのだった。

 

 

 

「負けちゃいました〜」

 

 控え室に戻るなり、諒太やチームの仲間にそう言うエンペライザ。

 

「ま、頑張った方だろ」

 

 と足を組みながら椅子に座り、月刊トゥインクルを読みながらファイングレイン。

 

「つ、次は勝てますよ!」

 

 とレース場グルメを堪能しながらソングオブウインド。

 

「次は勝ちなさいよね」

 

 と髪型を確認しながらレジネッタ。

 一見すると興味無さげな仲間達だが、実際には自分より他の二人の方が慰めた方知ってるだろという感じである。

 

「は、はは……とまぁ、お疲れ様だったな。結果はまぁ惜しかったが、次があるからな」

 

「はい!」

 

 と、早速来年始まるクラシックへの作戦を考える事に。

 こうして彼女の、クラシック前最後のレースは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

「クロイツ。2着だってさ」

 

「……そうか」

 

 場所は変わってトレセン学園のトレーニングコース。

 ジャージ姿で走るハーツに、チームメイトのユートピアがクロイツの結果を伝える。

 

 ハーツは翌日の有マ記念に向け、クロイツの応援に行っていなかったのだ。

 今までなら文三が引っ張ってでも連れて行ったのだが、今はサブトレーナーのアルフォンスがいる事もあり、ハーツの事をアルフォンスに任せていたのだ。

 

 任せる、といっても全てではない。

 ハーツにやらせる練習メニューは予めアルフォンスに伝えており、ハーツはハーツで勝手に練習を行う。

 そのため、アルフォンスがするのは記録ぐらいだ。

 後は

 

「お疲れ様ですハーツ。飲み物用意できましたよ」

 

「……どうも」

 

 練習後のドリンク準備だ。

 

「おや、もう慣れた?」

 

「あ、いえ。今日はハーツだけなので」

 

「なるほど。間違える心配がないわけだ」

 

「はい」

 

 と、ユートピアの言葉に苦笑いするアルフォンス。

 そんな二人の会話を聞きながらハーツは

 

(……少し薄いな)

 

 と思うのだった。

 

「にしても淡白だったね」

 

「あ? 何がだよ」

 

「いやほら。可愛い可愛い後輩が2着だったんだよ? もっとこうさ。ない?」

 

「ないな」

 

「ないのか〜」

 

「ない」

 

 キッパリ即答するハーツ。

 

「じかに目の前の相手に言えるのならまだしも、アイツは今はいない。それに、オレが嘆いてもアイツの順位は上がらない。むしろそれは、本気でレースに出たアイツに対して失礼だろ」

 

 と、ドリンクをアルフォンスに返しながらユートピアに言うハーツ。

 

「ま、確かにそうだね」

 

「そういうお前はちゃんとトレーニングしてんのか? 今度の水曜日だろ? 東京大賞典。油売ってて良いのか?」

 

 東京大賞典とは大井レース場で行われる、距離2000mのGⅠダートレースの事である。

 創設当初は2600mのレースだったが、途中から3000mに変わり、また途中から2000mに変わって現在に至る。

 過去の優勝者には永世三強としてオグリキャップやスーパークリークと名を連ねたイナリワンがいる。

 

「ん? ……まぁ、それなりにしっかりやってるよ。私なりね」

 

 とハーツに返すユートピア。

 

「……なら良いけどよ。オレと話し込んでて練習できなくて負けましたなんて言われたくねぇからよ」

 

「あははっ。それは言わないよ。それこそ、本気で走る相手に失礼になる。それにそもそも、負ける気は無いけどね」

 

 と、笑みを見せるユートピア。

 そんな彼女にハーツは

 

「……明日も早いし、後一本走ったら上がるよ」

 

 と、コースの方を見て言う。

 

「うん、それが良いね。それじゃあ私は片付けをしておくよ」

 

「あぁ、悪いな」

 

「じゃ、また後でね」

 

「あぁ……」

 

 コースの方を見たまま、ユートピアの方を見ずに言うハーツ。

 その彼女の目には

 

「後でな……」

 

 キングの影が見えていた。

 そんなキングの影が走り出すや、それを追いかけるように。

 ハーツも走り出した。

 

 後一本。

 そう言ったはずが、気付けば日が暮れるまで走っていたハーツ。

 黙って見守っていたユートピアが、いい加減終わりにしようと言って切り上げた彼女。

 だが結局一度として、キングの影には追い付けなかったのだった。

 

 

 

 そうして終わった12月25日。

 

 

 

 そうして始まる12月26日。

 

 クラシック、シニア問わずファン投票によって選ばれたウマ娘が走る本レース。

 今年は15人のウマ娘達が選ばれ、出走する。

 

 その走りを見るべく、中山レース場に集まるファン。

 

 普段トゥインクル・シリーズのレースを見ないけれど有マ記念は見ると言う人がいる。

 それほど注目度の高いレース。

 それが有マ記念。

 

 数多くの名勝負が行われて来た本レース。

 皇帝シンボリルドルフの芝GⅠレース7勝の内の2勝。

 当時最強と謳われた白い稲妻タマモクロスと芦毛の怪物オグリキャップが競い合った。

 写真判定の結果、ハナ差でスーパークリークを下したイナリワン。

 5枠のダイユウサク。

 ケガから復帰し、約1年ぶりの出走で見事勝利したトウカイテイオー。

 

 現レコードは2分30秒5。

 昨年シンボリクリスエスが叩き出した記録。

 それを超える者は現れるのか。

 

 今年の有マ記念が幕を上げる。




お読みくださり、ありがとうございます。
お気に入り登録10人!
ありがとうございますー!
本当に嬉しいです!

当時GⅢだったホープフルステークスですが、勝負服でのレースにさせていただきました。
理由としては……Open the doorとだけ。

次回は有マ記念!
お楽しみに!
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