ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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43話〜再びターフに立つ日〜

 

 3月27日。

 中山レース場で行われたマーチステークスでは

 

『200を通過してクーリンガーが抜けた! ユートピアも食い下がって残り100メートル!』

 

「ッ!」

 

 ユートピアは前を走る芦毛のウマ娘クーリンガーを追いかけていた。

 そこへ

 

『ここで大外からサミーミラクル! サミーミラクルだぁぁぁっ!』

 

 サミーミラクルがまるでビデオの早送りをしているかのような加速でグングンと前へ前へと駆け上がってくる。

 

『サミーミラクル! クーリンガーに迫る!』

 

 ユートピアを交わし、そのままクーリンガーと先頭争いへ。

 

『クーリンガーとサミーミラクル! 並んでゴールイン!』

 

 1着はクーリンガー。

 2着はクビ差でサミーミラクル。

 ユートピアは1と1/4バ身差で3着となった。

 

(また、負けた……)

 

 追いつけなかった。

 5連敗に苦しい顔のユートピア。

 だが3着なのだ。

 4着に2バ身半つけているのだ。

 実力はある。

 

(にしても……)

 

 チラッとスタンドの方を見る。

 そこにいるのはクーリンガーのトレーナーとテイエムオペラオー。

 二人ともクーリンガーの勝利に喜んでいる。

 

 というのもクーリンガーがいるのは、テイエムオペラオーのトレーナーのチームなのだ。

 彼女の他にはワンダーアキュートやミッキーロケット、キセキ、ディープボンドがいる。

 

(世紀末覇王のチーム、か……いったいどんな教え方をしているんだろ)

 

 やはりオペラオー主導でオペラをしながらなのだろうか、と想像するユートピア。

 

(にしても、かっこいい所見せたかったな〜)

 

 両手を腰に当てて思う。

 先日の毎日杯で勝ったローゼンクロイツに、先輩としてかっこいい所を見せたかったのだ。

 

(にしても良い子だよな〜クロイツちゃん)

 

 勝っても増長せず、まじめにトレーニングに参加している。

 

(ハーツの併走が効果あったかな?)

 

 ハーツが併走の際に見せた本気。

 それに追いつきたいクロイツ。

 驕る暇があるのなら己を鍛えると言うように、文三の言葉を聞いてはメモを取り、毎日トレーニングをしている。

 

 目指すはクラシック三冠最初のレースである皐月賞。

 

 去年はダイワメジャーが勝ち取った冠を狙う。

 

(……がんばれ。後輩)

 

 そう胸の内で応援しながら、彼女は地下バ道へと入って行った。

 

 

 

 そうしてまたレースに向けてトレーニングをする日々を送る生徒達。

 1週間はあっという間に過ぎて週末。

 

 月が変わって4月。

 新入生の入学シーズンになり、去年入学した生徒の中には初めて後輩ができる事にソワソワと緊張する子もいる。

 

 そんな4月3日。

 日曜日の中山レース場。

 晴れの中迎えたメインレース。

 GⅢレースのダービー卿チャレンジトロフィー当日。

 

 そこの控え室では

 

「約半年ぶりのレースだが」

 

「分かってるよトレーナー。心配性なんだから」

 

 ダイワメジャーが雅弘に軽く返していた。

 

「だが今回は」

 

「だから分かってるって。去年のオークスウマ娘が出るんでしょ? そのぐらいリサーチ済みさ」

 

 それだけではない。

 彼女の同期はオークスウマ娘含めて3人。

 それ以外は全員は全員先輩。

 シニア級で揉まれて来た先輩ウマ娘と走るのだが

 

「そんなの、去年の秋天でもうやったからね。負けないよ。それに」

 

 椅子から立ち上がって彼女は言う。

 

「もう喉は負けの言い訳にならないからね」

 

 それほどまでに回復したと言い切る。

 

「まぁ見てなってトレーナー」

 

 フッと、笑みを浮かべて彼女は言う。

 

「勝って来るからさ」

 

 それだけ言って彼女は部屋を出た。

 

 

 

 晴天のもと、良バ場に恵まれた中山レース場。

 そのターフに16人のウマ娘が姿を現す。

 

 館内アナウンスによる紹介を受けながらそれぞれゲートへと向かう。

 

 1枠1番 トレジャー

 戦績 42戦4勝

 デビュー戦、水仙賞、日高特別、都大路ステークスにて勝利。

 以降善戦するもなかなか勝てず、芝ダートにて走り続けて来た先輩である。

 

 1枠2番 シルキーラグーン

 戦績 19戦6勝

 デビュー戦、こでまり賞、河北新報賞、クリスマスカップ、オーシャンステークス、翌年オーシャンステークスにて勝利。

 彼女のデビュー戦は折り返しのデビュー戦と呼ばれるもの。

 今はもうなくなったのでデビュー戦で勝てなかった場合は未勝利戦での勝利を目指す事になる。

 

 2枠3番 ダイワエルシエーロ

 戦績 10戦4勝

 デビュー戦、デイリー杯クイーンカップ、オークス、京阪杯にて勝利。

 昨年のオークス制覇ウマ娘であり、2着のスイープトウショウに3/4バ身差で勝利している。

 

 2枠4番 マイネルソロモン

 戦績 15戦4勝

 デビュー戦、山藤賞、プリンシパルステークス、NST賞にて勝利。

 掲示板外には5回しか入っていない彼女。

 今回は昨年11月ぶりのレース出走となり、7月のNST賞ぶりの1着を目指す。

 

 3枠5番 ダイワメジャー

 戦績 8戦2勝

 未勝利戦、皐月賞にて勝利。

 昨年の秋天を最後に喘鳴症の治療とリハビリに専念しての復帰戦。

 約半年ぶりのレースである。

 

 3枠6番 マイネルゼスト

 戦績 15戦4勝

 未勝利戦、1勝クラス、ジュニアカップ、葵ステークスにて勝利。

 去年の5月に葵ステークスで勝って以来勝利から遠ざかっている彼女。

 久方ぶりの勝利を目指す。

 

 4枠7番 エルカミーノ

 戦績 35戦6勝

 デビュー戦、1勝クラス、2勝クラス、錦秋特別、香取特別、難波ステークスにて勝利。

 19回の掲示板入りをしており、内11回が3着以内と実力のあるウマ娘。

 だが今年に入っての3戦は掲示板を外しており、掲示板入りと1着を目指す。

 

 4枠8番 ジンクライシス

 戦績 12戦4勝

 未勝利戦、黒竹賞、猪苗代特別、ブラジルカップにて勝利。

 デビューして全てのレースで掲示板入りをしており、内11回は3着以内を取っている。

 前走の仁川ステークスが唯一の5着。

 今回が二度目の芝レースへの挑戦。

 芝初勝利を目指す。

 

 5枠9番 ダンツジャッジ

 戦績 30戦6勝、内1戦出走取り消し

 デビュー戦、れんげ賞、葵ステークス、ダービー卿チャレンジトロフィー、ディセンバーステークス、アメリカジョッキーカップにて勝利。

 彼女の勝ったデビュー戦もシルキーラグーンと同じく折り返しのデビュー戦である。

 

 6枠10番 フジサイレンス

 戦績 32戦6勝

 未勝利戦、1勝クラス2回、セレブレイション賞、ノエル賞、バレンタインステークスにて勝利。

 今年に入って既に3戦出ているが1着1回、2着1回、4着1回と掲示板入りが続いており、調子も良い。

 そしてこの好調のまま1着を目指す。

 

 6枠11番 ロイヤルキャンサー

 戦績 37戦7勝

 未勝利戦、1勝クラス、須磨特別、翌年須磨特別、2勝クラス、フリーウェイステークス、NSTオープンにて勝利。

 昨年9レースに出るも戦績は0勝。

 今年もすでに2戦出ているが勝てておらず、今回こそ勝利を目指す。

 

 6枠12番 エイシンシャイアン

 戦績 21戦6勝

 未勝利戦、1勝クラス2回、甲東特別、東山特別、斑鳩ステークスにて勝利。

 昨年の斑鳩ステークス以来勝ち星が遠い彼女。

 遠く輝く勝ち星目掛けて出走。

 

 7枠13番 ナリタダイドウ

 戦績 60戦5勝

 未勝利戦、さざんか賞、ゴールデンサドルトロフィー、石清水ステークス、桂川ステークスにて勝利。

 1番のトレジャー以上に場数を踏んだ大先輩。

 その豊富な経験で勝利を目指す。

 

 7枠14番 チアズメッセージ

 戦績 23戦5勝

 デビュー戦、エルフィンステークス、ファイナルステークス、京都ウマ娘ステークス、都大路ステークスにて勝利。

 彼女のデビュー戦も折り返しのデビュー戦での勝利である。

 昨年のダービー卿チャレンジトロフィーにも出走していたがその時の結果は2着。

 今回の出走で1着を目指す。

 

 8枠15番 イシノミューズ

 戦績 30戦6勝

 未勝利戦、こでまり賞、1勝クラス、有明特別、久多特別、清水ステークスにて勝利。

 彼女もまた多くのレースに出ており経験豊富。

 その勝負感を発揮し、1着を目指す。

 

 8枠16番 ミッドタウン

 戦績 18戦6勝

 デビュー戦、山藤賞、水郷特別、アメジストステークス、東風ステークス、ニューイヤーステークスにて勝利。

 今年に入ってから1月に二度走っているが結果は1着と10着。

 疲れもあっただろうが今回は万全の体制で挑む。

 

 この内ダイワエルシエーロ、マイネルゼスト、ジンクライシスはメジャーと同期である。

 

 そんな彼女達がゲートインしていく。

 

 1番人気はマイネルソロモン。

 2番人気はフジサイレンス。

 3番人気はダイワメジャー。

 

 皐月賞ウマ娘の復帰戦というだけあってか、その期待と注目は3番人気という形で表れていた。

 

 それを迎え撃つライバル達。

 経験豊富な先輩陣。

 オークスを取った同期。

 約1年ぶりの勝利を目指す同期。

 掲示板外になった事のない同期。

 

 全員がゲートイン完了。

 その時を待つ。

 

(慢心はしない。油断もしない……)

 

 皐月賞ウマ娘として。

 

(手も抜かない)

 

 トゥインクル・シリーズで共に輝くライバルへの敬意として。

 

(絶対に)

 

 ゲートが開いて

 

(勝つ!)

 

 ダービー卿チャレンジトロフィーが始まった。

 

 

 

「始まったな」

 

 場所は変わって阪神レース場スタンド。

 そこで文三は携帯でメジャーのレースを見ていた。

 

 画面の中ではダンツジャッジ、シルキーラグーン、ダイワエルシエーロ、トレジャーの4人が先頭争い。

 その後ろをダイワメジャーが走っている。

 がすぐに速度を上げ、シルキーラグーン、ダイワエルシエーロ、トレジャーの3人を瞬く間に追い抜いてダンツジャッジの左後ろに付くメジャー。

 

(前目に付けたか……)

 

 皐月賞の時も前目に付けていたなと思いつつレースの様子を見る。

 

(あの時は最後の直線で一気に抜け出していたな……)

 

 1年前の事を思い出す文三。

 

(さて、半年振りの復帰戦。どうなるか……っと)

 

 携帯を消してしまい、顔を上げる。

 

(俺はこっちを見てやんねぇとな)

 

 産経大阪杯の本バ場入場が始まり、地下バ動からハーツクライ達が姿を現す。

 

(さぁ、行って来い。ハーツ)

 

 出走の時まで後わずか……

 

 

 

 場所は戻って中山レース場。

 

(前から2番手……)

 

 メジャーのトレーナーである雅弘はレースの行く末を見守っていた。

 

 1600mの当レース。

 距離的にはマイルレースだろうか。

 皐月賞より400m短いこのレース。

 

(仕掛け所を間違えなければ……)

 

 勝てる。

 そう信じて見守る雅弘。

 そんな彼の視線の先で、先頭が第3コーナーへと入っていった。

 

 

 

(ッ!? このッ!)

 

 第3コーナーから第4コーナーへ向かいながら、ダンツジャッジはメジャーを引き離せないでいた。

 

(復帰戦でこれなの!?)

 

 並びかけられ、メジャーの姿が視界の端にチラチラと入る。

 

「ッ! ここは譲らない!」

 

 第4コーナーを抜け、最終直線へと入る。

 ここから一気に千切ってやる。

 引き離してやる。

 そう思ってギアを上げた、この瞬間だった。

 

「……ぇっ?」

 

 並ばれた。

 そう思った次の瞬間にはダイワメジャーは彼女を交わして先頭を奪い取っていた。

 

 

 

『先頭は残り200を通過してダイワメジャー! ダイワメジャーが抜けた抜けた!』

 

 交わしてからはまるで皐月賞のリプレイのようだった。

 グングンと加速するダイワメジャー。

 その加速は止まらず、後続を引き離していく。

 そんななか

 

『2番手は横に広がってきた!』

 

 後続がこれ以上引き離されんと追い上げて来る。

 

『トレジャーが追い込んでくる! ダンツジャッジも頑張っている!』

 

 メジャーの背中へと。

 先頭の座を奪わんと。

 だが

 

『大外からチアズメッセージ来ている! 果たして2番手に届くか!?』

 

 実況の泉本の言葉が全てだった。

 行われるのは2番手争い。

 

 つまり勝者は

 

(侮ったつもりはなかった)

 

(油断したわけじゃなかった)

 

(ここまで差があるなんて!)

 

 追いかける3人がそれぞれ思う。

 一切スピードは緩められない。

 

 先輩陣営が培った経験値。

 それを元に組み立てた戦術。

 

 それらを丸ごと振り切る速さで

 

『ダイワメジャー復活ゴールイン! 昨年の皐月賞ウマ娘堂々の復活!』

 

 ダイワメジャーが先頭でゴール板を駆け抜けた。

 

 2バ身差。

 それがメジャーが復帰戦で、2着相手につけた差。

 勝ちタイムは1分32秒3。

 

 2着はチアズメッセージ。

 3着はトレジャー。

 

 ダンツジャッジはゴール前でエルカミーノとマイネルソロモンに差し切られての6着となった。

 

 ゴール後。

 膝に手をついて息を整えるライバル達の前で、メジャーは堂々としていた。

 まるで、まだ本調子ではないと言うように。

 本来の走りはもっと上だと言うように。

 

(あれが私達の世代の皐月賞ウマ娘……)

 

 ゴール後。

 汗を滴らせ、荒れる息を整えながらその背中を見るジンクライシス。

 

(何あの走り……同期、だよね?)

 

 先輩陣相手にメジャーが見せた走り。

 その走りに驚愕するマイネルゼスト。

 

(同期だからって侮っていたわけじゃなかった……でも)

 

 苦しそうに息を吐くダイワエルシエーロ。

 オークスを取って自信があった。

 トリプルティアラの内のひとつを取ったという事実が。

 樫の女王になったという事実が自信を与えていた。

 上体を起こし、腰に手を当ててメジャーの背を見て思う。

 

(……一からまた鍛え直さなきゃ)

 

 彼女だけじゃない。

 その場にいる全員が。

 メジャーの背を追いかけた全員がそう思っていた。

 

 もっとも速いウマ娘が勝つと言われている皐月賞。

 そのレースで勝ったダイワメジャー。

 その格言通り、最速の足を見せつけた彼女。

 

 奇しくも今回レースが行われたのは皐月賞と同じ中山レース場だった。

 

 

 

 その頃の阪神レース場。

 本バ場入場を終え、ハーツ含む9人のウマ娘がゲートへと向かっていた。

 

 産経大阪杯スタートの時が刻一刻と迫っていた。

 

「しーしょーっ! ファイトッス師匠ォーッ!!」

 

 スタンドでは師匠一番、史上一番とそれぞれ書かれたうちわを持ったワンアンドオンリー。

 

「ハーツせんぱーい! 頑張ってくださーい!」

 

 両手を口元に添えて声援を送るローゼンクロイツ。

 その他にも文三のチームのメンバーが応援に駆け付けていた。

 

(有マぶり久々のレース。今回いる同期はマイネルベナードだけ。それ以外はシニアクラスの先輩……しかも今回は)

 

 彼の視線の先には3番ゼッケンのウマ娘。

 文乃のチームに所属するウマ娘で、左耳に下半分が水色で上半分が青いカバーを着けている。

 明るめの鹿毛色の髪。

 前髪には流星が一筋走っている。

 

(楽に勝てるとは思わんが、やるだけの事はやった。あとはあいつ次第)

 

 視線の先には軽く肩を回して調子を確かめるハーツの姿。

 

(さて、どうなるか……)

 

 GⅡ産経大阪杯が始まる。




お読みくださり、ありがとうございます。

遂に、遂に復活の皐月賞ウマ娘!

そしてハーツも走ります!

次回もお楽しみに!
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