ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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44話〜速く、速く、速く。限界のその先へ〜

 

 4月3日。

 阪神レース場。

 GⅡ産経大阪杯の出走時間が迫っていた。

 

 ゲート入りも進んでおり、残りわずか。

 今回走るのは9人。

 

 1枠1番 トーセンダンディ

 戦績 34戦8勝、内1戦降着。

 主な勝ちレース 五頭連峰特別、魚野川特別、古都ステークス、オールカマー。

 左前髪全体が、綺麗に白に染まったウマ娘。

 昨年のジャパンカップ以来久しぶりのレースという事もあり、気合が入っている。

 

 2枠2番 セフティーエンペラ

 戦績 25戦6勝

 主な勝ちレース TVh賞、HTB賞、福島記念。

 前走の中京記念は6着だったが半バ身差という惜しい結果に。

 今回はそのリベンジに燃えている。

 

 3枠3番 アドマイヤグルーヴ

 戦績 14戦7勝

 主な勝ちレース エリカ賞、若葉ステークス、エリザベス女王杯(翌年連覇)、マーメイドステークス。

 掲示板外になったのも2回だけだったりと、実力のあるウマ娘である。

 

 4枠4番 マイネルベナード

 戦績 11戦3勝

 主な勝ちレース 黄菊賞、若葉ステークス。

 前走の大阪城ステークスでは2着にアタマ差届かずの3着。

 その2着のウマ娘も先頭にクビ差届かず。

 1着から5着までが同タイムゴールだった。

 その敗北の悔しさをバネに、今回1着を目指す。

 

 5枠5番 サンライズペガサス

 戦績 17戦4勝

 主な勝ちレース 大阪城ステークス、産経大阪杯。

 このデビュー戦は折り返しのデビュー戦であり、距離を2000mから1800mに変えて走っている。

 昨年は屈腱炎による療養に費やしており、前走中京記念で復帰し2着。

 好調だった前走の勢いに乗り、本レースでの勝利を目指す。

 

 6枠6番 アドマイヤドン

 戦績 23戦10勝

 主な勝ちレース 朝日杯フューチュリティステークス、JBCクラシック(翌年、翌々年連覇)、マイルチャンピオンシップ、フェブラリーステークス、帝王賞。

 JBCクラシック3連覇の実力者。

 芝とダートの両方に挑戦しているが芝の方の戦績が振るわず。

 3戦目のフューチュリティステークスを最後に勝ててはいない。

 果たして芝4勝目を挙げられるのか。

 

 7枠7番 メガスターダム

 戦績 20戦5勝

 主な勝ちレース ホープフルステークス、プリンシパルステークス、中京記念。

 菊花賞後に屈腱炎を発症し療養。

 翌々年12月のオリオンステークスでは復帰し2着となり、年明けから4戦出走して2勝を挙げる。

 

 8枠8番 サイレントディール

 戦績 16戦4勝

 主な勝ちレース 黄菊賞、シンザン記念、武蔵野ステークス。

 アドマイヤドンのように芝とダートの両方に出走しているウマ娘。

 武蔵野ステークスが唯一のダート勝利レースだが、5戦の内掲示板外は3回。

 芝レースでも11走中掲示板外は5回。

 実力はあるがなかなか勝ちきれない悔しさをバネに勝利を目指す。

 

 8枠9番 ハーツクライ

 戦績 10戦3勝

 主な勝ちレース 若葉ステークス、京都新聞杯。

 菊花賞、ジャパンカップ、有マ記念と連続で掲示板を外している彼女。

 年明け1発目を勝利で飾れるか。

 

 全員がゲートに入り、スタートの体勢を取る。

 

(GⅡとか関係ねぇ……ただ勝つ。それだけだ)

 

 ゲートが開いて全員が飛び出す。

 産経大阪杯が始まった。

 

 

 

「師匠ォォォッ!」

 

 レース開始直後。

 スタンド前を走って行くハーツに声の限り声援を送るワンアンドオンリー。

 その隣で文三は腕を組みながらハーツの事を見ていた。

 

(今回でここを走るのは3回目。ある程度慣れた、とは思うが)

 

 若葉ステークス、神戸新聞杯にて阪神レース場は経験済み。

 さらに言うとその二つのレースは今回のレースと同じ距離を走る。

 つまりペース配分等の感覚も掴めているはずだ、と文三は考えていた。

 

 距離2000mのこのレースではスタート直後に登り坂が待っている。

 それを登り切ってゴール板前を通って第1コーナーへと入る。

 一応スタート地点が下り坂だが、登り坂に比べると緩やかめとなっている。

 できる限りそこで勢いを付けて坂を登りたいところ。

 

 だがそこばかりに集中すれば、二度目の登り坂を駆け上がる体力が無くなってしまう。

 

 ただハーツの阪神レース場での戦績は2回とも掲示板入りしている。

 しかも1回は1着を取っている。

 

阪神(ここ)との相性が良いのか。それとも距離適性が合っているのか……それとも右回りの方が得意なのか?)

 

 実際そういう相性はある。

 レース場に対しても得意不得意のある子もいる。

 右回り左回りで得意不得意がある子もいる。

 

 だが文三はその考えを改める。

 

(左回りはまだ2回。ダービーとジャパンカップしか走っていねぇ。その2回で苦手だと判断するには材料が足りん。それに皐月と菊と有マは掲示板外だ。苦手ならあのダービー2着の説明もできん……やはり単純にこことの相性か?)

 

 そう考えると彼はターフビジョンで向こう正面を走るハーツ達を見る。

 現在先頭はサイレントディール。

 続いてトーセンダンディ。

 大きく差が開いてセフティーエンペラ、サンライズペガサスとメガスターダム。

 マイネルべナード、アドマイヤドン、アドマイヤグルーヴ。

 少し差が開いてハーツクライとなっている。

 

 現在最後方を進むハーツ。

 だが

 

(焦る必要はねぇ……まだ勝負はこれから)

 

 文三は焦っていなかった。

 3度目の阪神レース場。

 同レース場3度目の2000m。

 10走中8走は重賞レース。

 経験値はあるはず。

 

(落ち着いて行けよ)

 

 自分が担当するハーツを信じて。

 

(お前なら勝てる)

 

 その行く末を見守るのだった。

 

 

 

(まだ余裕はある……)

 

 第3コーナーに入りながらハーツは前の様子を伺っていた。

 脚の調子は良い。

 第4コーナーを抜け、直線で一気に前を抜く。

 

(少し動いたか……)

 

 先頭はサイレントディールのまま。

 次がトーセンダンディ。

 メガスターダムがセフティーエンペラとサンライズペガサスを抜いて3番手に上がり、アドマイヤグルーヴがアドマイヤドンを抜いて前に出る。

 その様子を最後尾から見ているハーツ。

 

(このぐらいなら……)

 

 慌てる状況ではない、とまだ仕掛けない。

 仕掛けるのは

 

(ここだっ!)

 

 第4コーナーを抜けて直線に入る。

 先頭はサイレントディール。

 それを追うメガスターダム。

 その外からサンライズペガサスが。

 内からはセフティーエンペラ。

 

 そして大外からハーツが上がって来る。

 

 そんななか、残り200を切った辺りでの事。

 一気にサンライズペガサスが駆け上がって行き、サイレントディールを交わした。

 サイレントディールから先頭を奪い返そうと粘るサイレントディール。

 そんな彼女に外からアドマイヤグルーヴが迫る。

 

(行かせるものか! 2着は私が……)

 

 2着を死守しようと走るサイレントディール。

 そんな彼女をハーツが大外一気で交わす。

 

 だが

 

「私がぁっ!」

 

 先頭を突き進むサンライズペガサス。

 2度の屈腱炎を乗り越えて再び昇った陽に照らされ、翼をはためかすように。

 天高く舞う天馬のように。

 

「勝つんだぁぁぁぁぁっ!」

 

 そのまま先頭でゴール板を駆け抜けた。

 

 勝ちタイムは1分59秒。

 

 2着はハーツクライ。

 タイムは1分59秒2。

 着差は1と1/4バ身。

 3着はサイレントディール。

 タイムは1分59秒4。

 こちらの着差も1と1/4バ身。

 

 上がり3ハロンのタイムはサンライズペガサスが34秒6。

 ハーツが34秒2。

 そしてサイレントディールが35秒6。

 全体の上がり3ハロンタイムは35秒2というものだった。

 

「やった! やった! やっ、たぁぁぁっ!!」

 

 全身で喜びを表し、天に向かって吠える。

 

「はぁ……ははっ……」

 

 その背中を見てハーツは苦笑いして思う。

 

(もう少しだったんだけどな……)

 

 腰を支えるように両手を当てて。

 空を見上げて。

 

(あぁクッソ。悔しいなぁ……)

 

 自然と。

 笑みが溢れた。

 

 

 

 その日の帰り。

 

「ハーツ。今日はもう休んどけ」

 

「あと一回……」

 

「そう言ってもう5回目だぞ」

 

 新幹線の中で。

 文三は先ほどのレースの映像を見返すハーツに休むよう促していた。

 

「仕掛けるのが遅かったか? いや……」

 

 ブツブツと映像を見返しながら敗因を洗い出している。

 

(へこんではいないみたいだが……)

 

 へこむよりかはマシかと思いつつ、適当な所でやめるように言って席に戻る文三なのだった。

 

 

 

 翌日。

 

「さて次はお前さんだな。クロイツ」

 

「はい!」

 

 ローゼンクロイツは出走する予定の皐月賞。

 まだ文三の担当ウマ娘の中で勝てていない皐月賞。

 ダイタクリーヴァがクビ差でエアシャカールに破れた2着。

 出られなかったダンスインザダーク。

 14着だったハーツクライ。

 

 先輩が取れなかった皐月賞タイトルを自分が取るんだと気合十分のクロイツ。

 

 17日に行われる皐月賞まで残された時間を有意義に使うべく、集中してトレーニングに励むクロイツ。

 ハーツ達にチームメイトも併走相手をしたりとクロイツのクラシック獲得へ協力する。

 

 そんな日が続いて迎えた7日。

 ある知らせがあった。

 

 スプリングステークス2着のウインクルセイドが右脚に屈腱炎を発症したのだ。

 脚を診た医師によると復帰は秋以降。

 そう発表があったのだ。

 

 レースまで2週間を切ってのその知らせにクロイツ達は驚いた。

 ライバルのクラシック離脱。

 気にはなるが気にしてばかりではいけない。

 彼女が走れなかった舞台に出るのだから。

 

 無様な走りをするわけにはいかない。

 

 その思いでトレーニングに一層励むクロイツ。

 

 そうして17日を迎えた。

 

 

 

 4月17日。

 中山レース場。

 そこの控え室ではクロイツが文三と最後の打ち合わせをしていた。

 

「いろいろと立てはしたがレースに想定外はつきものだ。最終的な決定権はお前にある。お前の走りやすいように走れ」

 

 その言葉に頷き、勝負服のコートを着るクロイツ。

 

「やれるだけの事はやった。あとは全部出し切るだけだ」

 

 その言葉を聞きながら襟を整えるクロイツ。

 そうだ。

 やれるだけの事はやった。

 

(ハーツ先輩達にも手伝ってもらったんだ)

 

 後は実力を出すだけ。

 その思いを胸に、彼女は部屋を出た。

 

 

 

 別の控え室では。

 

「うぅー、ドキドキしてきたぁ……」

 

 勝負服に着替えたエンペライザが、忙しなく部屋の中を行ったり来たりしていた。

 

「少しは落ち着けって。GⅠ走んの初めてじゃねぇだろ」

 

「でも今回はクラシックレースなんですよ!? あぁ……スタートで転んだらどうしよう」

 

 と考えてしまうエンペライザに諒太は

 

「転ぶような練習してたのか?」

 

 と言う。

 

「違うだろ。勝てるように練習したんだろ? ならその、練習してきた自分を信じてやれ」

 

「……なんか、トレーナーみたいな事言いますね」

 

「俺はトレーナーだぞ?」

 

「ハッ!? そうでした!」

 

「おいおい……ったく」

 

 と、和やかムードに。

 

(緊張は取れたようだな。これなら行けるかもな)

 

 とエンペライザの様子を見て安心し、送り出す諒太なのだった。

 

 

 

 また別の控え室では

 

「……行って来ます」

 

 目を閉じ、精神統一をしていたアドマイヤジャパン。

 目を開き、静かにそう言って部屋を出た。

 

 

 

 出走する18人のウマ娘が地下バ道を通り、コースへと向かう。

 晴天に恵まれた空の下。

 

 観客の歓声が彼女達を出迎えた。

 

 

 

(これがGⅠ! クラシック三冠レース!)

 

 歓声を受け、胸の内に熱いものを感じたのはディープインパクト。

 今回がGⅠ初出走となる彼女。

 当然勝負服姿も今回が初となる。

 

 そんな彼女の勝負服はドレス風のデザインで黒を基調としている。

 濃紺色のコルセットを着けている。

 スカート部分は二重になっており、外側の生地は向こう側が透けて見えるほど薄い。

 袖はかなり長く、いわゆる萌え袖並みに長い。

 さらに袖はフリル状になっており、同じくフリル状の青い袖が見えている。

 黒いストッキングに白いショートブーツ。

 ブーツは側面が編み上げデザイン。

 紐は普通の物ではなく平たいデザインの物となっており、半分が青と残り半分が黄色の物を使用。

 二色が綺麗に交差している。

 

 そんな彼女のそばを通るアドマイヤフジ。

 彼女も今回が初GⅠ。

 初めて着る勝負服。

 白いシャツの上に袖無しの青い袖無しブレザーと白ネクタイ。

 背中には大きな水色のマント。

 マントは首周りが白になっており、白と水色の境目はギザギザ模様になっている。

 白いパンツに黒の編み上げブーツ。

 ブーツは編み上げとは別に側面にベルトが付けられている。

 左手首に青と水色のブレスレットを着けており、こちらも境目はギザギザ模様になっている。

 

 アドマイヤフジにも声援が送られる。

 彼女だけではない。

 クロイツにもエンペライザにもアドマイヤジャパンにも。

 出走する全員に声援が送られる。

 

 その声援に背中を押されて。

 彼女達はゲートへ向かう。

 

 

 

 1枠1番 アドマイヤフジ

 戦績 5戦2勝

 デビュー戦、若葉ステークスにて勝利。

 5戦全てで掲示板入りを果たしている彼女。

 1着2回、2着1回、3着2回と好走が続いており、クラシックタイトルの獲得を目指す。

 

 1枠2番 トップガンジョー

 戦績 9戦2勝

 未勝利戦、青葉賞にて勝利。

 5度目の未勝利戦で初勝利を果たす。

 1着2回、2着1回、3着3回、4着1回、掲示板外2回。

 掲示板外の時は両方とも二桁順位だが前走のスプリングステークスは3着に入り、本レースの優先出走権を獲得した。

 

 2枠3番 マイネルレコルト

 戦績 6戦4勝

 デビュー戦、ダリア賞、新潟ジュニアステークス、朝日杯フューチュリティステークスにて勝利。

 1着4回、3着1回、5着1回と全レースで掲示板入りを果たしている。

 

 2枠4番 コンゴウリキシオー

 戦績 5戦3勝

 未勝利戦、くすのき賞、きさらぎ賞にて勝利。

 1着3回、2着1回、3着1回。

 

 3枠5番 ヴァーミリアン

 戦績 5戦2勝

 デビュー戦、ホープフルステークスにて勝利。

 前走スプリングステークスでは14着と大敗。

 今回3勝目を目指す。

 

 3枠6番 ビッグプラネット

 戦績 2戦2勝

 デビュー戦、アーリントンカップにて勝利。

 2戦目にしてGⅢに挑戦してこれに勝利。

 現在無敗であり、無敗の3勝目にしてクラシックタイトル獲得を目指す。

 

 4枠7番 ペールギュント

 戦績 7戦3勝

 未勝利戦、デイリー杯ステークス、シンザン記念にて勝利。

 前走スプリングステークスは6着だったが、今まで1着3回、2着1回、3着2回と実力は十分。

 その実力を発揮し、クラシックタイトルを目指す。

 

 4枠8番 ストラスアイラ

 戦績 6戦2勝

 未勝利戦、芙蓉(ふよう)ステークスにて勝利。

 今レースにて重賞初制覇とクラシックタイトル獲得を目指す。

 

 5枠9番 ダイワキングコン

 戦績 6戦3勝

 未勝利戦、カトレア賞、伏竜ステークスにて勝利。

 前走の伏竜ステークス含む3勝レース全てがダートレース。

 芝レースでは弥生賞にて掲示板入りを果たすも1着を逃しており、皐月で初勝利を目指す。

 

 5枠10番 ハヤテエンペライザ

 戦績 8戦1勝

 デビュー戦で2着だったが未勝利戦にて勝利。

 その後の戦績は2着1回、3着1回、4着3回、8着1回となかなか勝てないレースが続く彼女。

 今レースにて2度目の勝利を目指す。

 

 6枠11番 パリブレスト

 戦績 3戦2勝

 デビュー戦、クロッカスステークスにて勝利。

 前走スプリングステークスが13着と大敗を喫しており、距離適性が合わないかと思われたが夢を追いかけ出走。

 芦毛の髪を靡かせてゲートインした。

 

 6枠12番 タガノデンジャラス

 戦績 8戦2勝

 未勝利戦、つばき賞にて勝利。

 前走若葉ステークスではアドマイヤフジに3/4バ身差で惜しくも2着。

 本レースではそのリベンジと勝利を目指す。

 

 7枠13番 ローゼンクロイツ

 戦績 5戦3勝

 未勝利戦、京都ジュニアステークス、毎日杯にて勝利。

 1着を逃したデビュー戦とホープフルステークスの両レース結果は2着。

 それもデビュー戦はクビ差、ホープフルは1バ身差というもの。

 好調好走の勢いのまま。

 クラシックタイトル獲得を目指す。

 

 7枠14番 ディープインパクト

 戦績 3戦3勝

 デビュー戦、若駒ステークス、弥生賞にて勝利。

 全然全勝1番人気。

 3戦目にしてGⅡに出走して勝利し、GⅠ初挑戦の彼女は果たして。

 どんな走りを見せるのか。

 

 7枠15番 エイシンヴァイデン

 戦績 8戦3勝

 デビュー戦、フェニックス賞、野路菊ステークスにて勝利。

 野路菊ステークス以降4レースに出ているが勝てない状況が続く彼女。

 それでも掲示板外は2回と底力を感じさせる。

 皐月賞ではどのような走りを見せてくれるのか。

 

 8枠16番 アドマイヤジャパン

 戦績 4戦2勝

 デビュー戦、京成杯にて勝利。

 前走弥生賞ではディープインパクトにクビ差2着で敗北するも同タイムを出した彼女。

 今回はそのリベンジに燃えている。

 

 8枠17番 スキップジャック

 戦績 6戦2勝

 デビュー戦、京王杯ジュニアステークスにて勝利。

 6戦の内で掲示板外になったのは二度のみ。

 デビュー戦では1バ身、ジュニアステークスでも1と1/4バ身差をつけて勝利している。

 

 8枠18番 ダンスインザモア

 戦績 4戦3勝

 デビュー戦、1勝クラス、スプリングステークスにて勝利。

 唯一1着を逃した寒竹賞でも4着に入っており、高い実力を窺わせる。

 

 以上18名が今年の皐月賞に出走するメンバー。

 

 ゲートインがスムーズに進む中、リベンジに燃えるアドマイヤジャパンはその思いから昂ってしまい、ゲートに入ろうとしないでいた。

 そんな彼女も深呼吸して落ち着き、またレース場の職員に促されてゲートインした。

 

 数多のウマ娘の憧れであるトゥインクル・シリーズ。

 さらにそこで憧れのレースであるクラシック三冠レース。

 その中で最も速いウマ娘が勝つと言われる皐月賞。

 

 そこで最速の輝きを見せるのは誰か。

 

 注目の中、皐月賞が始まった。

 

 

 

 スタート直後に躓きよろめいたディープは後方2番手からのスタートとなった。

 

 スタンド前を駆け抜けて。

 第1コーナーから第2コーナーへ。

 先頭を引っ張るのはビッグプラネット。

 その後ろコンゴウリキシオー、エイシンヴァイデン。

 ダイワキングコンを内からアドマイヤジャパンが抜いてわずかに前に。

 

 少し差が開いてパリブレストがおり、そこにヴァーミリアンが内側から並ぶ。

 パリブレストを外からはダンスインザモアが追いかける。

 その後ろに外からマイネルレコルト、スキップジャック、トップガンジョーがほぼ並ぶ。

 その真後ろにハヤテエンペライザがポジションを取っているがそこに外からディープインパクトが迫る。

 自分達を追い抜くディープを見ながら自分のペースで走るアドマイヤフジ。

 その後ろに内からペールギュントとローゼンクロイツ。

 そして後方にストラスアイラ、タガノデンジャラス。

 

(59秒代か……)

 

 スタンドで走る子達を見ながら手元のタイマーを見る諒太。

 1000m通過タイムが59秒6。

 エンペライザは現在中団やや後方に位置取りしており、仕掛けどころを探っている様子。

 

(大丈夫。お前の末脚なら……)

 

 きっと届く。

 そう思う彼から離れた所では

 

(もうそこまで上がって来たか……)

 

 文乃がディープを見ていた。

 第3コーナーへと差し掛かった彼女達。

 現在のディープの位置は中団辺り。

 

(さぁ、行け……)

 

 彼女が思った時。

 第4コーナーを抜け、ビッグプラネットを先頭にしてウマ娘達が最終直線へと駆け込んで来た。

 

 

 

(これがGⅠ……!)

 

 走る前にも同じ事を思っていた。

 でも実際に走ってみると同じ感想でも違うものに変わった。

 

 スタンドから送られる観客の声援。

 それぞれが応援する相手に向けられた声援。

 それがまるで塊となって自分達へと向けられる。

 本当に塊のようだと思った。

 

 けれど

 

(あぁ……)

 

 これだけの舞台。

 その頂点に立ったら何が見えるだろうか。

 

 視界の端では懸命に走るビッグプラネットの姿が見え隠れする。

 コンゴウリキシオー、エイシンヴァイデン、マイネルレコルトが彼女を追いかけて走っている。

 

 目指す先は同じ。

 この頂き。

 たった一人にしか与えられない栄冠。

 

(あぁ……そうね)

 

 それは

 

(私も)

 

 ディープも

 

(欲しい!)

 

 誰よりも欲しい。

 そこに立ちたい。

 そこからの景色を見たい。

 

(あぁ、あぁ……取る!)

 

 皐月賞を。

 

(取る!)

 

 クラシックタイトルを。

 

(取る取る取る!)

 

 クラシック三冠を

 

(取る!!)

 

 それは外から駆け上がり、マイネルレコルトと並んだ時だった。

 

 雑音が消えた。

 歓声が消えた。

 声援が消えた。

 

 まるで世界が彼女一人になったように。

 

 静かになった。

 

 それと同時に

 

(あぁ……)

 

 彼女は世界がゆっくりになったように感じ

 

(これなら行ける……)

 

 目の前で何かにヒビが走るのを感じる。

 

(行ける……)

 

 芝を踏み締めて

 

(これなら!)

 

 蹴り出した。

 

 

 

「ッ!」

 

 マイネルレコルトを交わした。

 

「っ!?」

 

「っ!!」

 

 コンゴウリキシオーとエイシンヴァイデンが息を呑むのが伝わった。

 

「くっ!」

 

 ビッグプラネットの声も聞こえた。

 そんな彼女達を抜き去って。

 ディープは

 

(トレーナーに三冠を!)

 

 限界を超えた向こう側へ。

 領域へと。

 足を踏み入れた。

 

 その凄まじい剛脚はみるみると後続を引き離していく。

 

「くっ!」

 

「行かせない!」

 

 アドマイヤジャパンとエンペライザも追うように上がって来る。

 

 だが、だが、だが引き離す。

 

 圧巻の走りで。

 他者を凌駕する脚で。

 一歩。

 袖が空を切る。

 一歩。

 スカートが風に暴れる。

 また一歩。

 芝が舞う。

 踏み出す度に加速する。

 

 そんな彼女を追う二人。

 アドマイヤジャパンとエンペライザ。

 だが

 

「行かせ、なっ!」

 

「くっ! まだぁぁぁっ!」

 

 アドマイヤジャパンをエンペライザが交わして2番手になる。

 だが

 

(私が……)

 

 加速はやまない。

 

(私が)

 

 追いつかせないと。

 

(私が!)

 

 追いかけて来るエンペライザに言うように。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 最後までスピードを緩めずに

 

『先頭はディープインパクト!』

 

 まるで飛ぶような走りで。

 他を寄せ付けぬ走りで。

 一気に突き放して。

 先頭でゴール板を駆け抜けた。

 

『奈瀬文乃、三冠ウマ娘との出会い! まずは皐月を! 第一関門を突破しました!』

 

 まだ一冠。

 まだ三冠取っていないのに。

 それでも三冠制覇を期待させる。

 実況の泉本を興奮させる。

 それほどの走りだった。

 

『2着はハヤテエンペライザ! 彼女が飛び込んで来ましたぁっ!」

 

 ゴール後、ゆっくりスピードを落として止まるエンペライザ。

 ディープに2バ身半差でのゴールだった。

 

「はぁ……はぁ、はぁ……っ、はぁ、はぁ」

 

 信じられない物を見るような目。

 それがゴール後に彼女がディープに向けた目だった。

 

(な、なにあの脚……)

 

 全く追い付けなかった。

 食らい付けなかった。

 いや、そんな次元じゃなかった。

 

 前走の弥生賞ではアドマイヤジャパンにクビ差だった。

 今回はそれ以上だった。

 約1ヶ月。

 その間に何があったのだと言いたくなるほどの成長。

 まるで飛んでいるような。

 

 エンペライザが気を抜いていたわけではなかった。

 油断したわけじゃなかった。

 

 現に今回の彼女のタイムは1分59秒6。

 弥生賞の時のディープのタイムは2分2秒2。

 レース場は違うが同じ距離のレース。

 タイムは勝っていた。

 

 だが今回ディープが出したタイムは1分59秒2。

 上がり3ハロンのタイムは34秒。

 タイムに至っては3秒縮めていた。

 ちなみにエンペライザの上がり3ハロンのタイムは34秒2だった。

 

 エンペライザだけではない。

 彼女の後ろでは、ゴールしたウマ娘達が息を整えながらディープを見ていた。

 

(あれだけの走りをして……)

 

(ほとんど息が乱れていないなんて……)

 

(何なんだ……いったい)

 

 ケロッとした様子でスタンドの方を見るディープを見て思う。

 スタンドからの歓声を受けている彼女を見て思う。

 ほとんど汗もかいておらず、肩も上下していない。

 

 文字通り

 

(レベルが違う……)

 

 そう思わされてしまう。

 が、それと同時に

 

(まだ負けていない)

 

(負けたくない)

 

 三冠ウマ娘との出会い。

 思わずそう言わせてしまう走りだったのは認める。

 だがまだ2レース残っている。

 

(次は勝つ)

 

 勝ってその場所に立つ。

 実況がライバル達の心に火を点けた。

 

 そして

 

(あぁ、これが……)

 

 歓声を受けながらディープはてっぺんからの景色を見ていた。

 そんな彼女は自然と左手を挙げる。

 それに従い袖が下がり、顕になる左手。

 その人差し指を立てて見せるのだった。




お読みくださり、ありがとうございます。

気付けばこんなに長く…
書いてて楽しかった…
勝負服とか考えるのが凄く楽しかった!

次回もお楽しみに!
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