ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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45話〜打倒に向けて〜

 

『こちら、皐月賞ウマ娘のディープインパクトさんです』

 

 皐月賞から数日後。

 部室に置かれたテレビではレース後の取材の様子が放送されていた。

 

『見事な走りでしたね』

 

『ありがとうございます。みなさん本当に強くて、本当に楽しかったです!』

 

『奈瀬文乃トレーナー。今回の彼女の走りはどうだったでしょうか?』

 

『トレーニング通りの完璧な、それこそ飛んでいるように見える走りでした』

 

『次はやはり日本ダービーでしょうか?』

 

『はい。そのように考えています』

 

 リポーターの取材に簡潔に答える文乃。

 その後も少し会話が続く。

 そのテレビを

 

(あの走り……)

 

 3着だったアドマイヤジャパンが、レースの事を思い出しながら見ていた。

 

(ハヤテさんも凄かった……)

 

 自分に1バ身差をつけて2着になったハヤテエンペライザ。

 最後の直線で追い上げている際、並ぶ事すらできなかった。

 

 そんな彼女が追いつけなかったディープインパクト。

 

 幸いジャパンは3着だったのでダービーへの優先出走権を獲得。

 これによりダービーに向けてトレーニングに集中できる事となった。

 だがこれは、自分より先にゴールしたディープインパクトとハヤテエンペライザも同じ事。

 

(次は……)

 

 ディープとエンペライザに勝つ。

 いや

 

(ダービーを取るんだ)

 

 世代最強の座を勝ち取る。

 ダービーウマ娘になる。

 そこに自分の名を刻む。

 

 そして昨年キングカメハメハが樹立したレコードを更新してみせる。

 そう思い、目標を胸に部室を出るのだった。

 

 

 

「ラストストレート! 気を抜くなー!」

 

 練習用コースを走るエンペライザを見る諒太。

 皐月賞は2着。

 だがディープに2バ身半差。

 タイムは0.4秒差。

 たったの0.4秒。

 1秒に満たないその差でディープは彼女に2バ身半もの差をつけてみせた。

 

(悔しいが、完成度が……いや、もっと根本的な所の格が違う)

 

 諒太のトレーナーとしての目はそう分析していた。

 だが

 

(だからって負けると決まったわけじゃない)

 

 そう。

 諦めてしまえばそこまでだが、エンペライザ自身が諦めていない以上は追い付ける可能性がまだある。

 自分はそれを手伝うだけだ。

 そう思う彼の前をエンペライザが駆け抜けた。

 

 

 

「……よし。良いタイムだ」

 

 春の天皇賞を目指し、トレーニング中のハーツクライ。

 そんな彼女をローゼンクロイツはただ見ていた。

 

 本当ならトレーニングに入りたいのだが、文三からの指示で今日は休みとなっていた。

 曰く、疲れているように見えた、のだそうだ。

 そんな状態で練習しても怪我に繋がるので、休めという事だ。

 

(平気なのに……)

 

 そう思いつつも疲れを感じていた。

 皐月賞での結果は9着。

 タイムは2分0秒3だったが、同距離のレースでは最速のタイムを出していた。

 皐月賞前までは前走の毎日杯の2分2秒2が彼女の2000mでの最速タイム。

 それを1秒以上も縮めたのだ。

 

 もちろん、レース場が違ったりと条件も違うので一概には言えないが、それだけの走りをしたのだ。

 肉体に疲労という名のダメージが無いはずがない。

 

 それを踏まえて、文三の判断は間違いではなかった。

 

「よし、一旦休むか」

 

 文三の言葉に走るのをやめ、ワンアンドオンリーからボトルを受け取るハーツ。

 彼女が目指す春の天皇賞。

 距離3200mの芝GⅠレース。

 京都レース場で開催されるそれがハーツの次の目標だった。

 

 昨年の菊花賞は7着だった彼女。

 距離適性的に不安はあるが、文三的には去年より成長したハーツなら行けるだろうと思っていた。

 

「次は……ロジック! お前の番だ。クラレントとリーチ! 併せの相手をしてくれ!」

 

「は、はい!」

 

 呼ばれてコースに入るロジック。

 丸メガネを額に乗せた、ウェーブのかかった黒鹿毛色の髪のウマ娘だ。

 人なっっこそうなほんわかとした雰囲気を纏っている。

 

 彼女と一緒にコースに入るのはクラレントとリーチザクラウン。

 

 そのまま3人による併走が始まった。

 先を走るクラウンとクラレント。

 その後ろを走るロジック。

 

「……どうだアイツら」

 

「ん? まぁ、まだ荒削りな所を感じるがロジックは今年中にはデビューさせられるだろうな」

 

「そうか」

 

「お前の弟子はまだもう少しかかりそうだけどな」

 

「別に弟子とか……まぁ良いか。ちょっと歩いてくる」

 

「おう」

 

 そう言って気分転換の散歩に出るハーツを見送る文三。

 

「あれ? 師匠は?」

 

「ん? あぁ。散歩だそうだ」

 

「自分も行くッスー! 待つッスよ師匠ーッ!」

 

 砂煙を巻き上げながら、ハーツが行ったのとは真逆の方向に走り出すオンリー。

 

「あ、おい! ハーツが行ったのはそっちじゃ……まぁ良いか」

 

 やれやれと言った様子で頭をかきつつ、若いって良いなと思う文三なのだった。

 

(さて、と……)

 

 頭を切り替えて考えるのは

 

(ダービーだな……)

 

 手元の資料を見ながら、クロイツの作戦を考える。

 今回の皐月賞の結果から、優先出走権を得られなかったクロイツ。

 だが獲得ポイントや抽選枠もあるので出走の道が無いわけではない。

 

 なんせ彼女の成績は1着3回、2着2回、9着1回。

 獲得したポイント的には十分出走権内だったのだ。

 

(下手に走らせて消耗させるわけにもいかんしな……)

 

 ここは無理に走らせて優先出走権を得られたとしても、疲労が残っていて走れませんでした潰れましたでは意味が無い。

 なによりそうなった際、彼女の両親が悲しむ。

 

(ま、なんとかなるだろ……)

 

 と思いながら手元の資料から顔を上げ、併走中のロジック達を見るのだった。

 

 

 

「というわけで、次は京都新聞杯に出る。そこで勝ってダービーに行くぞ」

 

 担当トレーナーの棚山(たなやま)から今後の予定を聞いているのはアドマイヤフジ。

 皐月賞では5着となり、優先出走権を得られなかった彼女。

 ここで勝ってポイントを増やし、ダービーに行こうというものだった。

 

(5着……)

 

 4着のマイネルレコルトとは同タイムのクビ差届かずだった。

 悔しかった。

 だからこそ次は負けたくない。

 

 クラシック三冠レースのひとつである日本ダービー。

 世代最強を決めるレースとも言われるそのレースで勝つ。

 勝ってみせる。

 

 だがその前にはまず京都新聞杯で勝つ。

 そのために

 

「で、今日のトレーニングメニューだが」

 

 練習に励むのだった。

 

 

 

「疲れたー……」

 

「お疲れ様ディープ」

 

 部室に入るなりグッタリ気味なのは皐月賞ウマ娘のディープインパクト。

 どうやら学園内で取材を受けていたようだ。

 

「にしてもあの金髪メガネの記者さん。話うま過ぎ……話すの本当楽しくって気付いたら」

 

「あぁ、藤井さんですね。あの方なら知っていますよ」

 

 それは文乃がスーパークリークというウマ娘を担当している頃。

 世間を騒がせたオグリキャップの記事を書いていた記者だ。

 今も記者は続けており、時折学園内で見かける。

 

 飄々とした態度を嫌う人はいるがその腕は確か。

 見出し等で多少誇張した表現が見受けられるが、記事は全て自分の足で取材して得られた情報から書いている。

 そのため、彼の主観は入るがレース前に作られる出走ウマ娘の記事にある情報は確かなものとなっている。

 

 あの頃から記者として人間として成長しており、相手が気持ち良く話せるような話題振り、さらには言葉を引き出す取材力を武器に今日も取材をしている。

 

「ディープちゃん。お茶が入りましたよ〜」

 

 そう言ってお茶を置いたのはスーパークリーク。

 今はトゥインクル・シリーズを引退し、ドリームトロフィーリーグに移籍。

 そちらで走っている先輩ウマ娘だ。

 

「ありがとうございます〜! クリーク先輩が淹れてくれたお茶、本当に美味しいです!」

 

 と、生き返った様子のディープを見て朗らかな笑みを浮かべるクリーク。

 

 と、こんな感じで普段は明るい少女なディープ。

 だがレースになれば変わる。

 練習の時からその様子は変わる。

 

 幼い頃から走るのが大好きなディープはあっという間に靴底をすり減らし、気付けば裸足で走っていた事もあったそうだ。

 

 が、皐月賞でよディープの走り身を見た文乃はある事を考えていた。

 それは

 

「ディープ。これを履いてみてくれないか?」

 

 文乃は新しい靴を置いた。

 それは従来の方法で蹄鉄を固定するのではなく、特殊な接着剤で固定していた。

 一応だが、もちろんルール違反していない物をしようしている。

 中敷きもクッション性の高い物に取り換え、足への負担を極力取り除いた物になっている。

 

 というのもディープは体が柔らかかった。

 柔軟性に富んだ肉体が生み出す脚の広い可動域。

 それにより彼女は力強い走りを可能にしていた。

 さらに彼女の一歩の感覚はかなり広く、さらに一歩一歩の感覚は短かった。

 簡単に言えば大股早歩きである。

 

 そんな走りをすれば普通脚に大きな負担がかかる。

 が、ディープの体格が小さめな事と体重が軽い事が幸いした。

 が、念には念をと脚に負担がかかりにくい靴を用意したのだ。

 

 そしてそれを履いたディープは

 

「……良い」

 

 ただ一言。

 そして

 

「ダービーはこれで出ます!」

 

 目を輝かせて言った。

 

 

 

 その翌日。

 

「やぁ。ダービーウマ娘のキングさんじゃないか」

 

「おや、皐月賞ウマ娘のダイワメジャーさんじゃないか」

 

 練習のためコースに来ていたメジャーはそこでキングを見つけ、声をかけていた。

 

「どうだい? たまには走ってみる?」

 

「遠慮しておくよ。それに、たまに併走はしているから」

 

「そうかい。ならまた今度」

 

 軽くアップをしながらメジャーは話し続ける。

 

「なんとか復帰できたよ」

 

「……それは、良かったね」

 

 喘鳴症で一時離脱したダイワメジャー。

 屈腱炎で引退したキングカメハメハ。

 

「いきなりのシニアレースだったからどうなるかと思ったけど。まぁ、良かったよ」

 

 と、先日のダービー卿チャレンジトロフィーの事を思い出す。

 

「……この前の皐月賞。君の目にはどう映った?」

 

「どうって?」

 

「あのディープインパクトの走りはどうだったかなって」

 

「ははっ。最強の大王が急にどうしたのさ」

 

 と、メジャーはカラコロと笑って返す。

 そんな彼女にキングはこう続ける。

 

「あの子は強いよ」

 

 と。

 

「へぇ……君にそこまで言わせるんだ」

 

「強い。うん。強い……」

 

「それは、君よりも?」

 

 メジャーのその言葉に、二人の間を流れる時が一瞬止まった。

 

「……それは」

 

「まぁ、負ける気は無いけどね」

 

 ギラッと。

 一瞬だけメジャーの目の奥が輝いたようにキングには見えた。

 

「彼女と戦う時。私は勝つ。勝ってみせるよ」

 

 自信満々に言う。

 

「凄い自信ね……」

 

「まぁね。少なくとも、皐月賞のタイムは私の方が速いからね」

 

 そう。

 ディープのタイムは1分59秒2。

 対するメジャーのタイムは1分58秒6。

 0.6秒だがメジャーの方が速いのだ。

 

「ブランクはあっても皐月賞を取ったからね。私にもプライドがある」

 

 それがいつになるかは分からないが、当たった時は勝ってみせると言い切る。

 

「それは……凄い自信だね」

 

「まぁね」

 

 伸びをしつつメジャーは続ける。

 

「私の復帰のためにいろんな人が力を貸してくれたから。だから今度は走りでお返しをする番。前以上の最高の走りをしてみせる」

 

 スッと目を細めて彼女は言うと

 

「ま、ブランクあるからそう簡単にいくか分かんないけどね!」

 

 と屈託のない笑顔で締めた。

 

 

 

 メジャーと別れた後、キングは練習用コースを見ていた。

 

(まだ走れるんだけどね……)

 

 脚の調子は良い。

 だがもう自分は引退したのだと自分に言い聞かせるように胸の内で呟く。

 

 ドリームトロフィーリーグへの誘いも来ているが断っている。

 

 自分が制したダービー。

 その時の走りは己の限界を超えた物だったと。

 そしてそれが選手生命を縮めたのだと。

 なんとなく思っていた。

 

 文字通り命を燃やして限界を超えたのだと。

 

(……私はもう)

 

 燃え尽きれば残るのは灰。

 そんな自分に何ができるだろうか。

 どう走れば良いのだろうか。

 灰の中で種火が燻っていたとしても、今の彼女ではその火を大きくはできない。

 

 そんな彼女の目に

 

「ウオォォォォォッ!」

 

「ハァァァァァァッ!」

 

 ローゼンクロイツと併走するハーツの姿が目に入った。

 

(凄いな……)

 

 燃えている。

 ただひたすらに燃えていた。

 勝利を掴むために。

 轟々と音を立てて燃えているように見えた。

 その姿はまるで、殻を破ろうともがいているように、そして殻に入ったヒビから漏れ出る光のように見えた。

 

「……」

 

 そんな二人に背を向けるキング。

 

「私は、もう……」

 

 その言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだった。

 

 こうして各々それぞれがトレーニングに励み、力をつけていった。

 

 

 そして時は過ぎて翌月。

 5月1日。

 イングランドにニューマーケットレース場。

 そこではGⅡレースのジョッキークラブステークスが行われていた。

 約2414mで行われる芝のレース。

 

 そのレースを

 

『勝ったのは!』

 

 右耳に赤い菱形の耳飾りを着け、黒地にてっぺんを囲うように6つの赤いダイヤ模様が描かれた帽子を被ったウマ娘が勝利していた。

 

This makes it four wins(これで4勝)……」

 

 美しく、明るい、サラサラ気味の鹿毛色の髪を風に靡かせ、帽子を被り直して勝者は呟いた。




お読みくださり、ありがとうございます。

燻る火種に誰が薪をくべるのか……

次回もお楽しみに。
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