ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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47話〜並ぶ者〜

 

 晴天に恵まれた5月29日。

 東京レース場。

 コースの状態は良。

 

 そこに現れる18人のウマ娘。

 ファンファーレの演奏に続き、ゲートインして行く。

 

 1枠1番 ブレーヴハート

 戦績 5戦2勝

 前走 青葉賞(GⅡ)3着

 

 1枠2番 ニシノドコマデモ

 戦績 9戦2勝

 前走 青葉賞(GⅡ)2着

 

 2枠3番 ローゼンクロイツ

 戦績 6戦3勝

 前走 皐月賞(GⅠ)9着

 

 2枠4番 エイシンニーザン

 戦績 8戦3勝

 前走 プリンシパルステークス(OP)1着

 

 3枠5番 ディープインパクト

 戦績 4戦4勝

 前走 皐月賞(GⅠ)1着

 

 3枠6番 アドマイヤフジ

 戦績 7戦2勝

 前走 京都新聞杯(GⅡ)3着

 

 4枠7番 インティライミ

 戦績 5戦3勝

 前走 京都新聞杯(GⅡ)1着

 

 4枠8番 シャドウゲイト

 戦績 4戦1勝

 前走 プリンシパルステークス(OP)2着

 

 5枠9番 コンゴウリキシオー

 戦績 7戦3勝

 前走 京都新聞杯(GⅡ)5着

 

 5枠10番 コスモオースティン

 戦績 9戦2勝

 前走 青葉賞(GⅡ)11着

 

 6枠11番 ペールギュント

 戦績 9戦3勝

 前走 NHKマイルカップ(GⅠ)4着

 

 6枠12番 マイネルレコルト

 戦績 7戦4勝

 前走 皐月賞(GⅠ)4着

 

 7枠13番 ダンツキッチョウ

 戦績 5戦3勝

 前走 青葉賞(GⅡ)1着

 

 7枠14番 アドマイヤジャパン

 戦績 5戦2勝

 前走 皐月賞(GⅠ)3着

 

 7枠15番 ハヤテエンペライザ

 戦績 9戦1勝

 前走 皐月賞(GⅠ)2着

 

 8枠16番 シルクトゥルーパー

 戦績 8戦3勝

 前走 NHKマイルカップ(GⅠ)17着

 

 8枠17番 シルクネクサス

 戦績 14戦3勝

 前走 京都新聞杯(GⅡ)2着

 

 8枠18番 ダンスインザモア

 戦績 5戦3勝

 前走 皐月賞(GⅠ)8着

 

 以上の18名が出走メンバーである。

 

 一生に一度の祭典。

 勝ちたいという思いは同じ。

 

 中には距離適性で最初から菊花賞には出られないという子もいるだろう。

 そういう子にとっては今回がクラシック一冠のラストチャンス。

 

 18人それぞれがそれぞれ違う物を背負って前を見る。

 思い描くのは自分が勝つ姿。

 頂点に立った時の光景。

 

 まさに星の輝きのように。

 その名(トゥインクル)の通り。

 刹那の輝きを。

 観客に、ライバルに、チームの仲間に。

 このレースを見る全ての人に。

 

 日本ダービーが始まった(己の勇姿を焼き付けてやれ)

 

 

 

「始まったな」

 

 中央トレセン学園生徒会長シンボリルドルフは静かにそのレースの行く末を見守っていた。

 所用により皐月賞を現地で見る事叶わなかったルドルフ。

 今回は予定をしっかり合わせ、現地に来ていた。

 

「いつ見ても凄いわね」

 

 そう言うのはマルゼンスキー。

 その脚の速さからスーパーカーと呼ばれたウマ娘である。

 

「今年はどんなダービーになるか」

 

 と続くのはミスターシービー。

 ルドルフと同じく、クラシック三冠制覇を成したウマ娘である。

 

 レースは第2コーナーを過ぎて向こう正面に入ろうかというところ。

 先頭はコスモオースティン。

 続いて少し離れてシャドウゲイト。

 外からシルクトゥルーパー、インティライミ。

 内にダンツキッチョウ、外にシルクネクサスと並んでいる。

 ペールギュントの後ろにアドマイヤジャパンがピッタリと。

 少し離されてエイシンニーザン、ブレーヴハート、アドマイヤフジ、ニシノドコマデモが並んでいる。

 ニシノドコマデモの内側にディープインパクト。

 ローゼンクロイツ、ハヤテエンペライザを内からダンスインザモアが抜いて行く。

 そしてコンゴウリキシオーがいてその後ろにマイネルレコルトが追いかける。

 

 1000mの通過タイムは59秒9と1分を切っている。

 

 後ろからのスタートとなったディープはやや後方に控え、落ち着いた様子で走っている。

 おそらく、いや確実に全員が警戒しているだろう。

 そんな事お構いなしという様子でのびのびと走るディープ。

 

 スーッと流れるように。

 ニシノドコマデモの前を通って内から外へと進出する。

 

「良い走りだね」

 

 同じ追い込み型だからだろうか。

 腕を組みながらそうこぼすシービー。

 

 縦長の展開で各々がどう走るのかを見る3人。

 

 3人だけではない。

 スタンドのファンが、チームメイトが。

 中継を見る人達が。

 多くの人が見守る中、先頭が第3コーナーへと入る。

 

 

 

「まだ、まだぁっ!」

 

 先頭を走るコスモオースティン。

 そんな彼女にシャドウゲイトが外から、内からインティライミが迫る。

 

 意地で逃げる。

 第4コーナーも。

 意地で逃げる。

 逃げてみせる。

 

(なるんだ。なるんだ……ダービーウマ娘に!)

 

 そして

 

(トレーナーを、ダービートレーナーにっ!)

 

 ずっと先頭を走って来た。

 17人のライバルを引っ張って来た。

 夢を叶えるために走って。

 走って。

 走って。

 

 第4コーナーを抜けて最後の直線に入る。

 待っているのは上り坂。

 

 そこでだった。

 内から機を伺っていたインティライミが、彼女と内ラチの間を通って前に出て先頭の座を奪い取った。

 

「待っ……」

 

 待って。

 そう言い切る頃にはインティライミの背は。

 彼女との距離は開いていた。

 

 

 

 インティライミ。

 デビューして5戦3勝。

 前走京都新聞杯ではハナ差でコメディアデラルテに勝利。

 重賞初勝利を挙げた。

 

 前走では追い込みスタイルだったが、今回は一転して先行スタイルでレースに挑んでいた。

 

 内ラチ沿いにポジションを取っていた彼女。

 最終直線に入るやギアを上げ、コスモオースティンと内ラチの間にできた隙間をすり抜けるように駆け抜けて先頭へと躍り出る。

 

(私が取る!)

 

 前髪がめくれ上がるほどの勢いで坂を駆け上がって行く。

 後続をグングンと引き離して行く。

 芝を蹴り上げて。

 地面を蹴って前へと進む。

 

 腕を振れば振るほど。

 地を蹴れば蹴るほど。

 グングンと加速して行く。

 

 勝負服の黄色のマフラーを尾と共に靡かせて。

 胸元の赤いクロスリボンを踊らせて。

 グングングングンと加速する。

 

(わ、私がっ!)

 

 ダービーウマ娘になるんだ。

 そう思った時だった。

 

『外からディープインパクトが上がって来る!』

 

 彼女が仕掛けた。

 

 

 

 日本ダービー。

 もっとも運のあるウマ娘が勝つと言われているレース。

 距離は2400m。

 バ場は芝。

 グレードはGⅠ。

 全てのウマ娘の憧れの舞台のひとつと言っても良いだろう。

 

 運のあるウマ娘とはなんだろうか。

 良い枠を引くだろうか。

 得意なバ場状態な事だろうか。

 相手が自分以外をマークしていたおかげで自由に走れる事だろうか。

 

 全て運が良いに当てはまるだろう。

 

 だが、こういうことわざもある。

 運も実力の内。

 

 もしそのことわざの通りならば、もっとも運のあるウマ娘というのはもっとも実力のあるウマ娘と言えるのではないだろうか。

 

 彼女が芝を踏み込み、地を踏み込み、蹴り上げて駆け上がる。

 その姿に大歓声が上がる。

 

(あぁ……)

 

 その歓声を受けて。

 

(やっぱり……)

 

 ゴールまで、残り400を切って。

 

(レースって、楽しい!)

 

 ディープは領域へと入った。

 

 

 

(負けるもんかぁ!)

 

 横目にチラチラと映るディープに負けじと限界までギアを上げるインティライミ。

 

 だが

 

『内の方でインティライミ頑張っているが!』

 

 だが

 

『ディープインパクトが先頭か!』

 

 並ばない。

 並ばせない。

 競わせない。

 

 抜く。

 交わす。

 

『インティライミも頑張った!』

 

 残り200を切り、会場がさらに盛り上がる。

 

「まだ終わっていない!」

 

 実況の頑張ったという言葉にまだ勝負はついていないと懸命に走るインティライミ。

 

「まだぁぁぁぁぁっ!」

 

 スカートの裾を暴れさせて。

 腕を全力で振って。

 前の二人を追いかけるエンペライザ。

 

「ここまで、ここまで来て……負けられるかぁぁぁっ!」

 

 マントをバタバタと暴れさせて走るアドマイヤフジ。

 

 それでも

 

『ディープだディープ! ディープインパクト!』

 

 先頭は変わらない。

 懸命に追いかけるライバル達を振り切るように。

 グングンと距離を広げて行く。

 

『インティライミは2番手! 外からハヤテエンペライザが追いすがる! 真ん中からはアドマイヤフジが追い込んでくるが体制は変わらない!』

 

 先頭を走るディープ。

 必死に、懸命に追いかける後続。

 だがそのまま

 

『このスピード! そしてこの強さ! 圧勝ゴールイン!』

 

 ディープインパクトが

 

『無敗の二冠ウマ娘誕生! そして秋の京都へ衝撃は引き継がれます!』

 

 ミホノブルボン以来無敗の。

 そしてネオユニヴァースに次いで。

 二冠を達成した。

 

 勝ちタイムは2分23秒3。

 なんと昨年キングカメハメハが樹立したレコードタイムのタイ記録だった。

 

 その走りに。

 その姿に。

 スタンドからディープコールが巻き起こる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……くぅっ!」

 

(なんて、速さ……)

 

(届かな、い……)

 

 最後まで頑張ったインティライミは2着。

 ハヤテエンペライザは3着。

 懸命に追い上げたアドマイヤフジは4着となった。

 

 その視線の先。

 歓声を受けながらディープは右手を挙げ、指を2本立てて見せた。

 

 

 

「……まさか、ここまでなんて」

 

 レースを見てそう呟いたのはマルゼンスキー。

 

「彼女もこちら側、か」

 

 ディープが領域に達している事を察したルドルフはそう呟く。

 

「はは……いやぁ、凄いね。あの子」

 

 と、言葉を出すのがやっとなシービー。

 

 彼女達3人とも、ディープの走りに圧倒されていた。

 というのも、先ほども言ったように1着はディープ。

 ただし、2着に5バ身つけてだ。

 

 この場にいる3人の内、ルドルフとシービーはダービーに出ている。

 だが共に1と3/4バ身差での勝利である。

 

 参考までにだがシリウスシンボリとトウカイテイオーは3バ身差。

 ミホノブルボンは4バ身差。

 ナリタブライアンとスペシャルウィークが5バ身差。

 メリービューティーが6バ身差。

 昨年のキングカメハメハは1バ身半差である。

 

「……」

 

 次の言葉が見つからない。

 それほどの走りだった。

 坂を駆け上がり、並ばずに交わす。

 

「彼女も良かったんだけどね」

 

 やっと口を開いたのはシービー。

 彼女が言っているのはインティライミの事。

 最内を通っての理想的なレース展開だった彼女。

 3着のエンペライザに2バ身半差をつけてのゴール。

 

 だがディープがそれを上回った。

 上がり3ハロンのタイムは彼女一人だけが33秒4。

 次がニシノドコマデモの34秒4。

 その次がエンペライザとマイネルレコルトの34秒5。

 

 そう。

 彼女だけが。

 ディープだけが33秒台だったのだ。

 

 まさに1番人気に応える圧巻の走りと言えるだろう。

 

 そんな3人の視線の先でディープはケロッとしており、その他のメンバーは膝あるいは腰に手を当てて息を整えている。

 

(……スタミナが彼女の武器か)

 

 その走りに驚愕しつつもルドルフはそう分析していた。

 

 

 

「マジかよ……」

 

 スタンドでそう呟くのはハーツクライ。

 クロイツの応援に来ていたのだが見せられたのはディープの圧倒的な走り。

 

 クロイツはいまだに息を整えており、その様子から全力を出していたのは明らかだ。

 そんな彼女の順位は8着。

 7着のエイシンニーザンと半バ身差だった。

 

「……や、やばいッスね。アイツ」

 

 普段師匠師匠とハーツに来るワンアンドオンリーが圧倒されている。

 その言葉はなんとか絞り出したと言った感じだ。

 

「……あいつ」

 

 だがその中でハーツ一人が

 

(並びやがった……)

 

 圧倒されてながら。

 それでいながらディープを見ていた。

 

 自身が届かなかった大王の背中。

 その大王にディープは並んだのだから。

 

 

 

 そしてその大王は

 

「……凄いな」

 

 他と同じように圧倒されていた。

 自分よりも凄まじい炎が放つ熱気で自身の炎をかき消されるように。

 

(いや……)

 

 待て。

 

(なんで……)

 

 走るのをやめたのに。

 この感情は何だろうか。

 

 知っている。

 まだ自分が大王と言われる前に感じた感情。

 

 それはいつの事だったろうか。

 

 あぁそうだ。

 デビューして。

 3戦目のレース。

 ただ一度。

 1着を逃したレース。

 京成杯で3着を取った時の感情だ。

 

(……あぁ、そうか。私は)

 

 ディープインパクトが自分と同じ記録を出した事が

 

(悔しいんだ……)

 

 火種を覆い尽くすしている灰からかすかに。

 か細い煙が立ち昇った。




お読みくださり、ありがとうございます。

これで二冠達成。
三冠まで、残りひとつ…

次回もお楽しみに。
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