ダービーを終え、次の日曜日に安田記念を控えた6月1日水曜日。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
安田記念制覇を目指すユートピアはハーツクライと併走していた。
そのレースにはダイワメジャーも出走を表明しており、昨年の皐月賞ウマ娘と走れる事にユートピアは楽しみで仕方がなかった。
ハーツはハーツで宝塚記念を目指しており、練習に熱が入る。
ファン投票で出走メンバーを決める宝塚記念だが、現時点では出走圏内に入っていた。
最終結果発表まではどうなるか分からないが、選ばれた時の事を考えてしっかりトレーニングする。
それが文三の方針だった。
(さて……)
見た所二人の調子は良い。
これなら行けるだろうと思う文三。
(明日だな……)
明日。
木曜日は出走メンバーが発表される日だ。
(さて、どんなメンツが出るのやら)
どんな相手であれ、やるだけの事をやるだけだと思いつつ、二人を呼ぶ文三なのだった。
そして翌日。
6月2日木曜日。
安田記念の出走メンバーが確定し、発表された。
アサクサデンエン
アドマイヤマックス
アルビレオ
オレハマッテルゼ
カンパニー
サイドワインダー
サイレントウィットネス
スイープトウショウ
ダンスインザムード
ダイワメジャー
テレグノシス
ハットトリック
バランスオブゲーム
フジサイレンス
ブリッシュラック
ボウマンズクロッシング
ユートピア
ローエングリン
の18名である。
まだ枠順は決まっていないので、50音順で紹介。
さらに今回出走するサイレントウィットネス、ブリッシュラック、ボウマンズクロッシングは海外からの参加となる。
さらに昨年の桜花賞ウマ娘のダンスインザムード、昨年オークス2着に加えて秋華賞を制覇したスイープトウショウも出走。
昨年皐月賞ウマ娘にして喘鳴症から復帰したダイワメジャー。
彼女達を初め、注目ウマ娘達の出走となった。
その日の午後。
「まずはダービー制覇おめでとうございます。無敗の二冠となりましたが、今のお気持ちをお聞かせ願えますか?」
「ありがとうございます。今の気持ちですか……一言で言うのでしたら楽しかった、ですかね」
「楽しかった。と言いますと?」
ディープは藤井記者の取材を受けていた。
普段は関西弁の彼だが、取材の時は標準語を使っている。
さらに彼は海外のウマ娘と通訳無しで話せるほど語学に堪能だったりする。
「皆さんが本気で走っていましたから」
共に走った17人のライバル。
彼女達が本気を見れたから。
これからもっと強くなるだろうと。
その時にまた一緒に走るのが楽しみで楽しみで仕方がないと。
「なるほど……では最後によろしいでしょうか」
「はい。何でもどうぞ」
ニコリと笑むディープに藤井は言う。
「次の目標は菊花賞。無敗での三冠でしょうか?」
その問いにディープは
「もちろん。取ります」
菊花賞とは言わない。
簡潔に。
一言で。
ただ取りますと。
それだけで決意が伝わって来た。
(これやこれこれ! こういう子を待っとったんや!)
その熱意に自然と笑みが出てしまうのだった。
「取材お疲れ様。ディープ」
「トレーナー。あっ、ありがとうございます」
取材を終えたディープに缶ジュースを持って来たのは担当トレーナーの文乃だ。
「疲れてないかい?」
「はい。大丈夫です」
ここの所ディープへの取材は多い。
デビューして未だ無敗。
注目されないはずがなかった。
(この注目が悪い方に向かなければ良いのだが……)
そう思う彼女の前で、
その日の夜。
都内にあるとあるホテルでは、安田記念の会見が行われていた。
出走するウマ娘とそのトレーナーが出席する会見。
ユートピアは文三と共に来ており、会見前の軽い食事会を楽しんでいた。
立食形式の会場。
記者はいるが積極的に動かない。
今はウマ娘同時が交流する時間。
自分達の時間はこの後だと分かっているからだ。
そしてここにいる者に、抜け駆けをしようとする者はいない。
「調子はどうだユートピア。食べてるか?」
「ご覧の通り。ちゃんとバランス良く食べてますよ」
文三に皿に取った料理を見せるユートピア。
会見に合わせて勝負服姿の彼女。
紫のイヤーカバーを着けている彼女。
着ている勝負服は黒を基調としたジャケット。
首周りには縁がギザギザになった黄色いレース状のパーツ。
袖は肩から肘にかけて生地が無く、脇側の生地で繋がっている。
肘から袖にかけて青い帯状のパーツが3つ取り付けられており、ヒラヒラと揺れている。
服の裾は入れておらず出したまま。
下は黒のパンツスタイル。
裾の前面には切れ込みが入っており、歩くたびに足が見えてい。
左手に白手袋をはめているが、手の甲側は生地がしっかりあるが掌側は指にしか生地が無い独特なデザインとなっている。
履いている靴だが一般的な物と違って全面に生地が無い。
爪先部分を覆うようにカバーがあるが、履いた際に親指と小指の横に来る辺りから帯状のパーツが伸びており、それが足首前で交差し、そのまま足首をぐるっと回っている。
足首から踵周辺は普通に生地がある。
そのため、足の甲と真横に生地が無いデザインとなっている。
因みに帯の色は紫。
生地の色は右足が黒で左足が白となっている。
そんな彼女の元へ
「ユートピア先輩と走るのは初めてですね」
勝負服姿のダイワメジャーが来た。
しかも勝負服は療養前に着ていた物と違い、新調された物となっている。
上は袖が分離しているロングコート。
生地は鮮やかなブルーに染め上げられている。
分離した袖は二の腕辺りで白いベルトを締めて固定。
袖は少しゆとりを持たせたデザインの物になっている。
更にその上から青地に白のラインが入ったポンチョを被っている。
下はダメージジーンズなのだが、両裾共に付け根からバッサリと切られている。
白いタイツを両足に履いている。
右は青の、左は白のベルトを使い、太ももで留められている。
靴は編み上げタイプの白いロングブーツ。
ふくらはぎの辺りに青いラインが走っている。
タンと呼ばれるパーツが長めになっており、ベロッと前に折り返されている。
紐は明るめの青に染めてある。
左手に白の手袋をはめているが、こちらの手袋は指部分に布が無いタイプ。
さらに首には青いチョーカーとロザリオを、左手首には灰色の正方形にイエローのラインが入った飾りのブレスレットを着けている。
療養明け。
心機一転の新衣装というわけだ。
その新勝負服を
「とても素敵ですよ」
と褒めるユートピア。
その言葉にメジャーは隠す事なく嬉しそうにして見せる。
そんな彼女にユートピアは
「話を戻すけど、そうね。走る前にあなたは療養に入っちゃったから」
だから
「日曜日が楽しみよ」
先輩ウマ娘として。
また皐月賞ウマ娘と走れる事が。
とても楽しみだと笑顔で言う。
「ッ!」
その言葉と笑顔にゾクゾクした物を感じるメジャー。
「負けませんよ」
「私こそ」
お互いに宣戦布告。
良い勝負をしよう。
言葉にせずともお互いに相手の考えている事を理解し、別れた。
その後行われた記者会見はスムーズに進み、予定時間内に終了。
各ウマ娘はそれぞれ部屋で着替え、トレーナーと共にトレセン学園へと帰って行った。
戦いの日は6月5日。
場所は東京レース場。
距離は1600m。
マイル王決定戦とも言われる安田記念が始まる。
翌日。
6月3日金曜日。
日本を飛び出して海の向こう。
イングランドにあるエプソムダウンズレース場。
約2420mの距離で行われる芝GⅠレースのコロネーションカップ 。
そのレースを、濃紺のインバネスコートに身を包んだ、鹿毛色の髪をショートカットにした青い目のウマ娘が制していた。
彼女の名はイェーツ。
戦績は今回のを含めて5戦4勝。
内3勝は重賞レースであり、今回GⅠ初出走で初勝利となった。
その勝利に盛り上がる会場。
観客へと手を振るイェーツ。
そんな彼女を見るのは右耳に赤い菱形の耳飾りを着けたウマ娘。
てっぺんを囲うようにぐるっと6つの赤いダイヤ模様が描かれた帽子をかぶっている。
先月行われたジョッキークラブステークス。
それに出た時とは違い、今日は勝負服を着ている。
黒地に無数の赤ダイヤが描かれたマント。
マントの縁を沿うように、モコモコした白い生地が取り付けられている。
そのマントの両サイドには帯状の白いパーツ。
黒いジャケットの左胸ポケットにはマントと同じく赤ダイヤが描かれている。
下は黒のパンツスタイルだが、右足は付け根からバッサリカットされている。
その代わり右足には黒のタイツを着用。
タイツの縁はギザギザにカットされており、それに合わせるように赤いダイヤ模様がぐるっと描かれている。
左足には太もも辺りに赤いベルト状のパーツが取り付けられており、裾には膝下辺りまで大きく切り込みが入っている。
靴は両足共に黒のロングブーツとなっている。
彼女の名前はアルカセット。
(
イェーツの背を見て思うアルカセット。
そんな彼女にイェーツは振り返ると
「
と勝負を讃えた。
その言葉にアルカセットは
「
とリベンジを誓うのだった。
そんな彼女が目指すのは11月下旬に日本で行われるレース。
国際招待レースであるジャパンカップ。
東京レース場で行われる芝2400mのレースである。
国際招待レースという事もあり、海を超えて海外のウマ娘も出走する。
昨年の優勝ウマ娘はゼンノロブロイ。
一昨年はタップダンスシチー。
その前年にはイタリアから来たファルブラヴがジャングルポケット、シンボリクリスエス、ナリタトップロード達を下して優勝した。
ただしファルブラヴの時は東京レース場が改修工事をしていた事もあり、中山レース場で開催。
そのため、東京レース場での海外ウマ娘の優勝者はエルコンドルパサー優勝の前年に出走したイギリスのピルサドスキー以来いなかった。
なので次は私がとジャパンカップ制覇を狙っていたのだ。
タマモクロスとの激闘を制したオベイユアマスターのように。
オグリキャップに勝ち、レコード記録を叩き出したフォークインのように。
エアグルーヴとの勝負を制したピルサドスキーのように。
自分もあの地で輝きたい。
そのために
(
ただその前に
(……
と思う彼女なのだった。
翌日。
6月4日土曜日。
日本。
翌日に安田記念を控えた文三は、ユートピアのトレーニングを軽めの物で済ませ、あとは休養とさせていた。
本当なら1日全休にしたかったのだが、ユートピアに頼まれて仕方なく軽めのメニューを急遽組んだのだ。
(まぁ、休んでもられねぇか)
レース前日は遠足前夜のようにソワソワする者もいるだろう。
ユートピアも走らずにはいられないのだろう。
ウマ娘の本能がそうさせるのだろうか。
ただ、もうユートピアはトレーニングを切り上げて休んでいる。
やれるだけの事はやった。
後は明日の本番だ。
そしてそれが終われば
「次は宝塚、か」
6月26日に阪神レース場で行われる宝塚記念。
上半期最後のGⅠレースである。
ファン投票の状況だが、ハーツは出走圏内に入っている。
ケガや体調を崩した等がなければ出走はできるだろう。
ただ
(……通用するかどうか)
不安に感じていた。
後方からの一気を得意とするハーツ。
だがそれが不発に終わっている。
去年の京都新聞杯で勝って以来勝ちが無い。
もう1年以上勝ちが無い。
自分の教え方がハーツに合っていないのではないだろうか、と思ってしまう。
いや、1着を取るウマ娘がいれば取れないウマ娘も同時に存在する。
それは仕方のない事だ。
だが1年以上勝たせてやれない事に対して文三は悩んでいた。
もし自分のスタイルがハーツと合っていないのなら。
別のチームにハーツを移籍させる事も考えねばならない。
もしそうするのならば早い方が良い。
彼女達のピークなんていつ終わるか分からないほど儚いもの。
もちろん、ハーツのピークがまだ来ていない可能性もある。
ピークが終わったからと言ってすぐに衰えが来るわけとも限らない。
が、もしも相性の悪いペアでピークの時間を無駄に使わせる事だけは避けたい。
そう文三は考えていた。
(アイツには……GⅠを狙える素質があるんだ)
何かに悩んでいた様子だったが、それが吹っ切れたのか練習にも集中しているハーツ。
そんな彼女を勝たせてあげたい文三。
(……次の宝塚記念。結果を出せなかったら)
チーム移籍も視野に入れよう。
全ては26日の結果次第である。
その日の夜。
「うーん……」
アルフォンスは今日もハーツのレース映像を見ていた。
(どうしたら勝たせてあげられるか……)
遅くまで研究をするのだった……
お読みくださりありがとうございます。
勝負服を考えるの凄く楽しいんですけど、文字に表すのがすごい大変…
でも、楽しいんですよ〜!
次回も楽しみに!