6月5日。
晴れの日曜日。
東京レース場のスタンドは観客で埋め尽くされていた。
バ場状態は良。
そんななか開催される安田記念。
距離1600mで行われる、GⅠに分類される本レース。
「よし、行って来い!」
控え室で文三に送り出されるユートピア。
「去年取れなかった物を取って来るよ」
そう言って彼女は部屋を出た。
『ウマ娘の本バ場入場です』
アナウンスに続くように地下バ場からターフに出走するメンバーが姿を現す。
新勝負服姿のダイワメジャーの姿ももちろんある。
スタンドからの歓声に手を振ったりして応えつつ、ゲートへ向かう彼女達。
今回のスタートは第2コーナーの辺りからとなる。
今回の出走メンバーは18人。
1枠1番 アルビレオ
戦績 23戦6勝(内出走取り消し1回)
前走 マイラーズカップ(GⅡ)8着
1枠2番 フジサイレンス
戦績 35戦7勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)6着
2枠3番 ダイワメジャー
戦績 9戦3勝
前走 ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)1着
2枠4番 オレハマッテルゼ
戦績 20戦6勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)2着
3枠5番 ダンスインザムード
戦績 11戦4勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)9着
海外挑戦の経験あり。
3枠6番 ローエングリン
戦績 30戦9勝
前走 マイラーズカップ(GⅡ)1着
海外挑戦の経験あり。
4枠7番 アサクサデンエン
戦績 23戦7勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)1着
4枠8番 バランスオブゲーム
戦績 20戦6勝
前走 中山記念(GⅡ)1着
5枠9番 カンパニー
戦績 9戦3勝
前走 マイラーズカップ(GⅡ)4着
5枠10番 ボウマンズクロッシング
海外から参加。
前走 チャンピオンズマイル(香港・GⅠ)4着
6枠11番 スイープトウショウ
戦績 11戦5勝
前走 都大路ステークス(OP)5着
6枠12番 サイレントウィットネス
海外から参加。
前走 チャンピオンズマイル(香港・GⅠ)2着
7枠13番 アドマイヤマックス
戦績 19戦4勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)4着
7枠14番 ユートピア
戦績 23戦6勝
前走 かきつばた記念(JpnⅢ)4着
7枠15番 サイドワインダー
戦績 24戦7勝
前走 マイラーズカップ(GⅡ)4着
8枠16番 ブリッシュラック
海外から参加。
前走 チャンピオンズマイル(香港・GⅠ)1着
8枠17番 テレグノシス
戦績 26戦5勝
前走 京王杯スプリングカップ(GⅡ)3着
海外挑戦の経験あり。
8枠18番 ハットトリック
戦績 8戦6勝
前走 マイラーズカップ(GⅡ)9着
というメンバーに。
18人中3人が海外からの挑戦者。
さらに昨年桜花賞のダンスインザムードと秋華賞ウマ娘のスイープトウショウ。
皐月賞ウマ娘のダイワメジャーが出走。
注目を集めていた。
人気としては1番がテレグノシス。
2番人気にダイワメジャー。
3番人気がダンスインザムードとなった。
先ほども言ったが、安田記念は1600m。
人がやる陸上競技にある4×400mリレーと同じ距離である。
2500mのダービーや3000m菊花賞よりも短く、3200m走る春の天皇賞と比べたら半分の距離。
故に、ひとつのミスが命取りとなる。
距離が長ければ挽回のチャンスもあるだろう。
だが短ければそのチャンスが来る確率はぐっと下がる。
短距離のレースよりは長いが、それでもあっという間に終わってしまう。
悠長に相手の出方を伺えば展開に置いていかれ、かと言って焦って仕掛ければ良いというものでもない。
これは全てのレースにおいて言える事だが、簡単に勝てるレースではないのだ。
ファンファーレの演奏がレースの始まりを告げ、各ウマ娘がゲートに入っていく。
全員がゲートに収まり、片足を引いてスタートの姿勢を取る。
『春のマイル王決定戦。安田記念スタートです!』
安田記念が始まった。
先頭争いを制したのはローエングリン。
それに続いてサイレントウィットネス、ユートピア。
オレハマッテルゼ、ダンスインザムードが追いかける。
ダイワメジャーはバランスオブゲームと並んで前目にポジショニングしている。
縦に長めの展開となって進む彼女達。
そうこうしている内に折り返し地点である第3コーナーと第4コーナーの中間を通過。
800mの通過タイムは45秒6というもの。
(ペース的にはオレの時のダービーと同じか……)
ハーツが昨年走ったダービーでの800mの通過タイムは45秒9。
今回とほぼ同じタイムである。
(ま、スタートが坂だし勢いも付くか……)
彼女の視線の先にはユートピアの姿。
前から4番手を走る彼女を見るハーツ。
(勝負はここからだな……ユートピア)
最終直線。
全員が坂を駆け上がって来た。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」
最後の直線。
懸命に走るユートピア。
初の芝GⅠ制覇を。
そして芝とダート両方でのGⅠ制覇を目指して。
「ッ! ハアァァァァァッ!」
出せる全てを出して。
燃やせる物全てを燃やして。
先頭目指して走る。
だが
『サイレントウィットネスとテレグノシスが上がって来る!』
400を切って。
『大外からテレグノシス! テレグノシスが上がって来る!』
伸びない。
徐々に徐々にバ群へ埋もれていく。
(まだ、まだ……まだ終わっていない!)
諦めずに走るが
『ここで先頭に立ったのはサイレントウィットネス! 外からスイープトウショウも上がって来ている!』
そこへ、右耳に三つの輪が描かれたピンクの札状の耳飾りを右耳につけた
『そして! アサクサデンエンも上がって来る!』
アサクサデンエンが襲いかかるように駆け上がる。
残り200を切って戦闘争いを繰り広げる3人。
内からサイレントウィットネス、アサクサデンエン、スイープトウショウ。
先頭を走るサイレントウィットネス。
上がって来るアサクサデンエンから逃げようと、少しでも前に出ようと足を前へ前へと出す。
地を蹴る。
蹴って蹴って蹴って。
芝を蹴って前へと進む。
祖国に戻って。
家族に、学友に。
海を渡って勝って来たぞと伝えるために。
だが
『わずかに!』
が、ゴール直前で
『アサクサデンエンが抜けた!』
アサクサデンエンが交わして。
『デンエンだデンエン!』
出て。
『アサクサデンエン! アサクサデンエンだぁぁぁっ!』
差し切った。
勝ちタイム1分32秒3。
上がり3ハロンのタイムは34秒3。
2着はスイープトウショウ。
アサクサデンエンとはクビ差の同タイム。
上がり3ハロンのタイムは34秒。
3着はサイレントウィットネス。
スイープトウショウとはアタマ差。
タイムは1分32秒3と接戦となった。
ユートピアは14着。
タイムは1分33秒。
ダイワメジャーは8着でタイムは1分32秒8。
ユートピアは芝ダート両方でのGⅠ制覇はならず、メジャーも復帰後GⅠ制覇とはならなかった。
こうして彼女達の安田記念は幕を閉じた。
「やっぱり芝は難しいですね〜」
と帰路。
文三が運転する車の中で振り返るユートピア。
「何言ってんだ。去年の安田記念じゃお前4着だったじゃねぇか」
文三の言う通り去年も安田記念に出た彼女は4着と掲示板入りを果たして見せていた。
その結果もあり、芝も走れると思っていたのだが
「やっぱり私はダート専の方が良いのかもしれません。トレーナー」
「……お前がそう言うのなら、次はダートにするか」
「はい。お願いします」
と微笑むユートピア。
だがその顔をハーツは後部席から確かに見ていた。
(……宝塚記念)
今日は外ではなく屋内のトレーニング室にいたハーツ。
ランニングマシーンやダンベルといった機材でのトレーニングを終え、今は休憩中。
そんな彼女が見ているのはスマホのカレンダー。
(……26日)
6月26日の欄には阪神レース場と書かれている。
その日が宝塚記念の日なのだ。
(オレが、勝つ)
ダンスインザダークの菊花賞を取って以来、文三のチームはGⅠを取れていない。
だからというわけではないが、自分が勝ってGⅠタイトルを獲る。
そして文三に二つ目のGⅠタイトルを。
(必ず……オレが!)
スマホの画面を消し、決意をその目に宿して顔を上げる。
世話になっている文三に。
チームに。
GⅠタイトルを。
安田記念を制覇して届けると。
「ハアァァァァァッ!」
翌日の放課後。
「ハーツ先ぱっ……待っ」
「し、ししょ……ししょうっ」
ローゼンクロイツとワンアンドオンリーと併走をしていたハーツだったが、気が付けば二人を置き去りにしていた。
まるで勢いが違う。
仕上がりが違う。
「ウラァァァァァッ!」
「おいおい……」
その光景に文三は言葉を失っていた。
それほどまでに彼女の勢いは凄まじかった。
「……こりゃぁ狙えんぞ。宝塚ァ」
思わず笑みを浮かべてしまう文三。
それもニィッという好戦的な笑み。
そんな笑みを浮かべてしまうほど、ハーツの調子は良かった。
そして各々がトレーニングに励み、その日を迎えた。
「……来たか、ハーツ」
放課後。
ハーツは部室に来ていた。
「前置きは良い。結果を言え」
「ん、おう……」
テーブルに置いた書類を手にし、その文面側をハーツに見せる文三。
そこに書かれているのは宝塚記念のファン投票結果。
アドマイヤグルーヴ
ヴィータローザ
コスモバルク
サイレントディール
サンライズペガサス
シルクフェイマス
スイープトウショウ
スティルインラブ
ゼンノロブロイ
タップダンスシチー
トウショウナイト
ハーツクライ
ビッグゴールド
ボーンキング
リンカーン
50音順。
ファン投票の結果、出走する15人にハーツクライは選ばれていた。
「……当然だな」
調子は良い。
「全員、オレがブチ抜いてやるよ」
こちらもまた、好戦的な笑みを浮かべて見せるのだった。
そして翌日。
とあるホテルでは宝塚記念前の記者会見が行われていた。
出走する15人全員が勝負服姿で参加している会見。
その豪華なメンバーに取材陣のカメラが止まらない。
それも当然だろう。
エリザベス女王杯2連覇のアドマイヤグルーヴ。
大阪ーハンブルクカップにて勝利した後はなかなか勝利できずにいるが好走してみせたヴィータローザ。
ジャパンカップではゼンノロブロイに敗れるもの2着に入り込んだコスモバルク。
芝ダート両方のレースにて勝利を収めているサイレントディール。
昨年は休養したがその休養明け2戦目で2着、3戦目では1着を取ったサンライズペガサス。
昨年宝塚記念2着のシルクフェイマス。
昨年秋華賞ウマ娘のスイープトウショウ。
トリプルティアラウマ娘のスティルインラブ。
昨年秋シニア三冠を達成したゼンノロブロイ。
昨年の宝塚記念覇者であるタップダンスシチー。
今年に入って1着1回、2着2回、4着1回と全レースで掲示板入りを果たしているトウショウナイト。
重賞レースで6回掲示板入りを果たしているハーツクライ。
今年に入って3戦全てで掲示板入りを果たしており、内2戦では1着を取っているビッグゴールド。
デビュー戦、弥生賞、皐月賞ではあのアグネスタキオンと走り、その後のダービーではジャングルポケットとダンツフレームと競い合ったボーンキング。
昨年宝塚記念3着にしてリンカーン。
その15人に記者が次々と質問を投げかける。
意気込みを聞く者。
ライバルに一言はあるかと聞く者。
その返答を記録する者。
「ではそろそろ時間ですので最後に……そちらの方」
「ありがとうございます。藤井です。えー……最後に、投票してくれたファンに一言お願いします」
という藤井の言葉に
「勝つ。今度こそ勝つ。GⅠ初制覇をファンと共に」
とコスモバルク。
「去年のリベンジを!」
とリンカーン。
その後も他のウマ娘が続く。
タップダンスシチーが連覇を目指すと言った次にハーツが口を開く。
「何枠だろうが関係無い。オレが勝つ」
昨年のハーツとは違う。
落ち着きつつも力が込められた声で。
勝利を宣言した。
「
イギリス。
「
そこで
「
彼女は次のレースに向けて調整をしていた。
「
自分の担当に彼女は言う。
調子を確かめるように地面を数回蹴る彼女。
「……
次のレースが楽しみだと言うように。
彼女は空を見上げた。
お読みくださり、ありがとうございます。
果たして宝塚記念を制するのは誰なのか!
次回もお楽しみに!