ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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52話〜証明するために〜

 

 夏合宿が終わって9月。

 新学期が始まり、生徒達は秋シーズンに向けて真剣だった。

 

 秋のスプリント王決定戦。

 芝1200mで魅せる刹那の輝き。

 最も強く輝いた者が勝つスプリンターズステークス。

 

 桜の祝福、樫の祝福に次ぐ最後のティアラ。

 最後のティアラを乗せるのは誰か。

 トリプルティアラ最後の一冠秋華賞。

 

 京都芝3000mにて行われる、最も強いウマ娘が勝つと言われるレース。

 二度の坂を超え、掴むはクラシックレース最後の一冠。

 掴み、それを己が頭上に乗せるのは二冠を持つ最強の英雄か。

 はたまたそれを阻む者が現れるのか。

 菊花賞。

 

 春に続いて秋の盾もスズカマンボが手にするのか。

 誰が取る。

 誰が勝つ。

 それとも、今年も秋シニア三冠の奇跡が生まれるのか。

 秋の天皇賞。

 

 その冠はまだ譲らない。

 欲しければ己が手で取ってみよ。

 2連覇の女王が3連覇に記録を伸ばすか。

 それとも新たな女王が誕生するのか。

 エリザベス女王杯。

 

 アキツテイオーが。

 ディクタストライカが。

 そしてオグリキャップが。

 名を刻んだ秋のマイル王決定戦。

 マイルチャンピオンシップ。

 

 世界か。

 日本か。

 砂の王者を決めようか。

 砂塵を舞わせて突き抜けるのは誰か。

 ジャパンカップダート。

 

 八大競走に並ぶ偉大なレース。

 世界よ見よ。

 これが日本のウマ娘だ。

 日本よ見よ。

 これが世界のウマ娘だ。

 ジャパンカップ。

 

 

 

 そして月が変わって12月。

 

 少女達よ。

 クラシックまで待たせずその輝きを今見せてくれ。

 阪神ジュベナイルフィリーズ。

 

 同じく、デビューした彼女達の中から抑えられぬ輝きを持った原石は現れるのか。

 朝日杯フューチュリティステークス。

 

 いかなる苦難もトレーナーと共に。

 どんな困難もチームの支えで。

 飛び越えて見せよう中山大障害。

 

 今年は現れるのか。

 今年こそ現れるのか。

 光を置き去りにして駆け抜けた粒子を超える者が。

 光速を超えてそれを捕まえる者が現れるのか。

 ホープフルステークス。

 

 そして全てのファンよ。

 全てのウマ娘よ。

 レースに関わる全ての人よ。

 数多の奇跡を生み、歴史に名を刻んだレースをその目に焼き付けよ。

 今年も奇跡の予感の有マ記念。

 

 その他にも多くのレースがある。

 

 そんななかでも一際特別なレースがある。

 それはクラシックレースと同じく、生涯で一度しか走れない特別なレース。

 

 その名はデビュー戦。

 1勝もなく、1敗もない。

 0戦0勝0敗に、初めて1を刻むレース。

 

 シンボリルドルフもトウカイテイオーもオグリキャップも。

 数多くのスターも初めはそこからのスタートだった。

 

 9月19日。

 札幌レース場で行われたデビュー戦に、彼女は出走していた。

 

 札幌第5レース。

 晴れ良バ場。

 芝1200mのデビュー戦に諒太のチームのファイングレインが出走しており

 

『先頭はファイングレイン! ファイングレインだ!』

 

「うおぉぉぉぉぉっ! カニとエビが待ってるぜぇぇぇっ! あとウニィィィッ!」

 

 後続に1と1/4バ身差をつけて勝利を収めた。

 デビュー戦でいきなりの勝利だった。

 

「ッシャァァァァァッ!」

 

 そしてその喜びを全身で露わにするファイングレインなのだった。

 

 

 

「す、すげ〜っ……」

 

 その姿を見ていたのは夏合宿中にチームに入ったウオッカ。

 加入してすぐに行われた先輩のデビュー戦。

 

(いつか俺もあんな風に……)

 

 いつか来るデビューの日を夢見るウオッカなのだった。

 

 

 

 月末の24日。

 

「あれ、ハーツとアルフォンスさんは?」

 

 放課後、トレーニングが始まったにも関わらずハーツとアルフォンスの姿が見てない事から文三に尋ねるユートピア。

 そんな彼女に文三は

 

「あぁ。あいつらなら服屋に行ってるよ」

 

 と返す。

 

「ほら、ハーツのやつ夏にそのー……なんだ。あれだ」

 

「……別に彼女に言うわけじゃないんですから言って良いのでは?」

 

「そ、そうか。その、あいつデカくなっただろ? それでサイズが変わったみたいでな。勝負服がキツくなったみたいなんだよ」

 

「あ〜、なるほど。それでいっそ新調みたいな感じですか」

 

「そういう事だ。まぁ背も伸びてたしな。良いんじゃないかって言ったら案外乗り気でな。デザイン描いたりしてたよ」

 

「へぇ。まぁ自分が着る物ですしね」

 

 自分の時も全部ではないが一部デザインを描いて要望を出した事を思い出すユートピア。

 そして担当した洋服屋はそれを見事に形にしてくれた。

 

「ちゃんと良いのができると良いですね」

 

「そこは大丈夫だろ。なんせ相手は服のプロだからな」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 ユートピアと話す文三だが、今回ハーツがどんな勝負服をお願いしたのかは知らない。

 だからこそ彼も楽しみだったりするのだが、それを顔には出さずに

 

「さて、トレーニング始めるか」

 

 と、号令をかけるのだった。

 

 

 

「いかがでしょうハーツクライさん。キツいところとかはございませんか?」

 

 場所は変わって洋服屋。

 それもウマ娘の勝負服を専門に扱う店。

 彼女がクラシック出走前。

 つまり今まで着ていた勝負服を担当した店で、彼女は仕上がった服を着て確かめていた。

 

「あぁ、うん。良い感じだ」

 

 試着室から出て来たハーツが着ているのは二代目の勝負服。

 

 左裾にイエローのラインが入ったロングコート。

 黒のブレザーに黄色のインナー。

 両側面にイエローのラインが縦に1本走る黒のズボン。

 フィンガーレスタイプの黒の手袋。

 右が黒で左に白のショートブーツ。

 

「おぉ〜。かっこいいですよハーツさん!」

 

「ふん。当然だ」

 

 とアルフォンスの言葉に得意げに返すハーツ。

 

 ロングコートには裾にスリットが入っている他、腰には青と黄色のチェッカー柄のベルト。

 

 そのベルトとは別にズボンのループにベルトを2本通している。

 1本は普通にだがもう1本は斜めにしている。

 2本とも黄色を基調に、普通に通している方は黒、斜めにしている方は青いラインが走っている。

 

 ブーツだが、側面にあるベルトで留めるタイプになっている。

 

 そして最後。ツバの部分が青いマリンキャップを指にかけてクルクル回すハーツ。

 その帽子だが、被った時に耳を入れるカバーが付けられている。

 右耳側はベルトと同じく青と黄色のチェッカー模様、左耳側は黒になっている。

 ツバの左側にはフェイクジッパーが付けられている。

 

 そしてこれが最大だが、新しい耳飾りを着けるハーツ。

 今度のデザインはハート型。

 ピアスやイヤリングのように小さめのデザインとなっている。

 イメージとしてはリングタイプをハート型にした感じである。

 それを二つと、チェーンのようにリングピアスにハートの飾りを付けた物の合計三つを着けている。

 またレースの際、帽子をかぶっても付けられるように右耳側のカバーには通す用の穴が開けられている。

 

「流石はマスターだ。完璧満点だぜ」

 

「ありがとうございます」

 

 注文から1週間。

 きっちりと要望に応えたマスター。

 

「にしても凄いですね……早い」

 

 と感心するアルフォンス。

 だがマスターは

 

「いえいえ。決して早くなどありません。これが普通です」

 

 と言う。

 

「皆さんプロのアスリートですから。レースで汚れたり、それこそ破れてしまう事もあります。その度その度に直すのに時間がかかっていてはレースに間に合いません」

 

 だから1週間で仕上げるのだと。

 完成しても試着して違和感を感じられたらすぐに直す。

 満足のいく品物を受け取ってほしいから。

 だって

 

「私もプロですから」

 

 と。

 

「プロ……」

 

 その言葉にアルフォンスは視野が広がるのを感じた。

 今まではトレーナーやチームが主に支える力だと思っていたからだ。

 だが違った。

 そこには勝負服を作るプロもいたのだと。

 

「あ、それとハーツ様。こちらを」

 

「ん? これは……」

 

「以前までお使いになられていた耳飾りを元に作りました。勝手だとは思いましたが、よろしければ」

 

 マスターが差し出したのはひとつのアクセサリー。

 凧形の白い飾りが3つ繋がった先に、中にhcと入ったハートが繋がっている。

 ベルトのループに付けられるよう、カニフックが付けられている。

 

 ハーツの耳飾りも作って来たマスターだから作れた代物だろう。

 

「……ありがとうな」

 

 それを右ポケット近くのループに付けるハーツ。

 

「秋こそ勝ってくるぜ」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 ここで勝負服を作った全員にそう言う。

 だがその言葉は本心からくるものだ。

 全員に勝ってほしい。

 

 何度汚れて。

 何度も破れても。

 その度に自分が直すから。

 

 だからどうか。

 どうか。

 

 全員が無事に走り切れますようにと。

 その祈りを込めて送り出すのだ。

 

 

 

 その帰り道。

 

「そうだハーツ。次のレースなんだけど」

 

「あぁ、何にすんだ?」

 

「天皇賞にしようと思う」

 

「秋天か……じゃあその前に何に走るか」

 

「その前って言うか、次のレースは天皇賞にしようと思う」

 

「おう。だからその前に……ん? お前、まさか……」

 

 アルフォンスの言葉が理解できたのか、ハーツは恐る恐る尋ねると返って来たのは

 

「うん。秋の天皇賞にそのまま行く」

 

 前哨戦も何もなし。

 秋天直行という答えだった。

 

「確かに前哨戦出てなくても条件的には」

 

 出られる事は出られるだろう。

 そんな彼女に

 

「前にレースを挟むより、天皇賞だけに絞った方がトレーニングにも集中できると思うんだ」

 

 とアルフォンスは言う。

 

(確かにそれはそうかもしれねぇが……」

 

 と思うハーツ。

 

「……ま、今の俺のトレーナーがそう決めたんなら反対はしねぇよ」

 

 と返す。

 オレから俺。

 夏以降少しニュアンスが変わったハーツ。

 精神的にも少しゆとりが見られるようになり、アルフォンスの事も信頼している。

 

 そんな彼にハーツは言う。

 

「ま、結果出さなかったら文三に戻るだけだしな」

 

「ちょっ、ハーツ!?」

 

 まさかの言葉に慌てるアルフォンスの姿にハーツは笑ってからこう言った。

 

「それが嫌なら。俺のトレーナーでいたいんなら」

 

 少し先を歩きながら。

 肩越しに

 

「俺を勝たせろよ。トレーナー」

 

 それは彼女なりの信頼の証だった。

 

「言われなくても。今年中にGⅠを取らせてみせる。いや取らせるよ」

 

 それに対してアルフォンスはハーツを見てそう返すのだった。

 

「と言っても走るのはハーツなんだけどね」

 

 あはは、と笑って歩き出すアルフォンス。

 その背中を見てハーツは

 

(トレーナーにそこまで言わせたんだ。必ず取ってやるよ。G I……)

 

 と、胸に誓うのだった。

 

 

 

 そして翌日。

 9月25日。

 阪神レース場。

 

 神戸新聞杯当日。

 

『外からディープインパクト!』

 

 最終直線。

 彼女の走りにスタンドから歓声が上がる。

 

『ここからが! ここからが速いディープインパクト! あっという間に抜け出した!』

 

 エンペライザを一気に交わす。

 いつも通り並ぶ事なく交わして抜き去る。

 

(このっ!)

 

 その背中を追いかけるエンペライザ。

 だが、だが。

 

『ゴールまで残り200メートルを通過!』

 

 二冠ウマ娘の走りに歓声が上がる。

 交わされたエンペライザ。

 その背中を追いかけるローゼンクロイツ。

 

『先頭はディープインパクト! 2番手はハヤテ! ハヤテエンペライザ!』

 

 そのエンペライザにクロイツが迫る。

 猛然と。

 襲いかかるように。

 

(並ばせるもんか!)

 

(逃すもんか!)

 

 ディープを追いながら。

 追い抜かんと。

 逃げ切らんと。

 駆け抜ける二人。

 

 だがそんな彼女達よりも

 

『先頭はディープインパクト!』

 

「おいおい……」

 

「すげぇ……」

 

「こりゃ三冠確実だろ」

 

 スタンドの視線を独り占めして。

 

『三冠へ向けて6連勝ゴールイン!』

 

 ディープインパクトはゴール板を駆け抜けた。

 

 1着ディープインパクト

 2着ハヤテエンペライザ

 3着ローゼンクロイツ

 

 勝ちタイムは1分58秒4とレコードタイムだった。

 

 

 

(手は抜いていなかったのに……)

 

 そう思うのは2着のエンペライザ。

 着差は2バ身半。

 タイムは1分58秒8とディープに0.4秒差でたり、前レコードを上回るタイムだった。

 

 3着までに入れば菊花賞の優先出走権を与えられる神戸新聞杯。

 GⅡレースだからと言って手は抜かなかった。

 それでこの差だ。

 

(みんな……ディープの事見ていた)

 

 今なおどよめきが収まらないスタンドを見て思う。

 ただそれを思っているのは

 

 

 

(負けた……)

 

 クロイツも同じだった。

 

 自分達よりも注目を集めていたディープの背中を追いかけた。

 懸命に走って追いかけた。

 

 そんな彼女のタイムは1分58秒9。

 前レコードと同タイムで走っていた彼女。

 エンペライザとは3/4バ身差で届かなかったが、4着相手に5バ身差をつけるなどその力を示した。

 

 だが負けた。

 前レコードと同じタイムで走ったが負けた。

 

 2着にも届かなかった。

 それでも。

 彼女もディープ、エンペライザと共に菊花賞への優先出走権を獲得した。

 

 菊花賞が行われるのは来月。

 10月23日。

 約1ヶ月ある。

 

 その間に鍛えて強くなる。

 そして菊花賞で勝って初GⅠタイトルを獲得する。

 

(必ず勝つ。勝って……)

 

 勝利のバラを咲かせてみせる。

 そう強く誓うのだった。

 

 

 

 

 

「楽しみだな。菊花賞」

 

 その日の夜。

 神戸新聞杯で見事勝ったディープインパクト。

 無敗のクラシック三冠制覇がかかる菊花賞。

 シンボリルドルフ以来の偉業達成がかかるディープ。

 

 だが彼女は

 

(勝ちたいなぁ……)

 

 勝てばみんなが喜んでくれるから。

 それが嬉しいから。

 だから勝つ。

 

 ライバル達と走るのも楽しいから好きだ。

 

 だがやはり。

 ファンの喜ぶ顔が見たい。

 1番でゴールを駆け抜けた際の文乃の顔が見たい。

 チームのメンバーの顔が見たい。

 

 だから勝つ。

 負けない。

 次も。

 その次も。

 そのまた次も。

 

 そして

 

(見ててね……お姉ちゃん)

 

 自分の姉に。

 ブラックタイドに。

 自慢できる妹になるために。

 

(私、勝つから)

 

 月を見上げて誓った。




お読みくださり、ありがとうございます。

新勝負服と共に、秋シーズン開幕です!

次回もお楽しみに!
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