ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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53話〜菊より大きなバラを〜

 

 10月8日。

 土曜日の京都レース場で行われた第5レース。

 8人のウマ娘によるデビュー戦。

 

 その8人の中に、文三のチームに所属するロジックはいた。

 

 黒鹿毛の髪は短く切られて整えられており、立派な流星を前髪に持っている。

 

 そんな彼女のデビュー戦結果はライバルに1と1/4バ身つけての1着。

 見事白星スタートを切った。

 

 

 

「ハーツ先輩! 併走お願いします!」

 

 翌日。

 ハーツに併走を頼むのはローゼンクロイツ。

 23日の菊花賞に向けてトレーニング中の彼女の頼みにハーツは

 

「あ〜、悪い。今日はユートピアとトレセンの外を走る予定なんだ。午後でも良いか?」

 

 と、あっさり気味。

 ハーツはハーツで30日の秋の天皇賞に出走するためにトレーニング中だった。

 

「では私もお供します!」

 

「え、いや……いいよ」

 

 良い。

 承諾の方ではない方のいいよなのだが

 

「快諾ありがとうございます!」

 

「ちょっと待って話聞いて?」

 

「では午後は併走よろしくお願いします!」

 

「おーい。話を聞……行っちゃった」

 

 午後は休もうと思っていたのにと思いつつ、後輩に頼られるのも悪くないと思うハーツ。

 そんな彼女の耳に

 

「師ぃ匠〜っ! 併走しましょー!!」

 

 ワンアンドオンリーの声が聞こえた。

 

(……待たせているし、さっさと行くか)

 

 その声をスルーし、彼女はユートピアと待ち合わせしている校門へと行くのだった。

 

 

 

「なるほど。それでクロイツちゃんも来たのか〜」

 

「急にすみません……あの」

 

「いやいや良いの良いの。熱心なのは良い事だからね。ハーツもそう思うでしょ?」

 

「まぁ……否定はしねぇよ」

 

 河岸を走りながらそんな会話をするハーツ、ユートピア、クロイツの3人。

 普通に近所の人の散歩コースでもあるのでそこまでスピードは出さないようにしている。

 

「そういえばユートピア先輩。南部杯出るんでしたっけ?」

 

「そうだよ。明日マイルチャンピオンシップ南部杯に出るよ」

 

 マイルチャンピオンシップ南部杯。

 盛岡レース場にて行われるダート1600mのレースである。

 格付けとしてはJpnⅠに分類されている。

 

 昨年も同レースを制したユートピア。

 2連覇のかかる彼女の様子はかなり良い。

 

「勝つ自信はどれぐらいですか!」

 

「うーん。そりゃもちろん。勝つ自信しかないよ」

 

 と走りながらクロイツに返すユートピア。

 

「それは誰だって同じだろ」

 

 と言うハーツ。

 

「まぁ、そうだね」

 

 と笑って答えるユートピア。

 

「明日は勝つよ」

 

 去年のマイルチャンピオンシップ南部杯以後8レースに出ているが、5回掲示板に入りはしたが勝てていないユートピア。

 1年ぶりの勝利をその手で掴むために。

 

(負けるのはもう嫌だからね……)

 

 彼女はクロイツの横を走りながら思うのだった。

 

 

 

 同日午後。

 東京レース場。

 ダイワメジャーは毎日王冠に出走していた。

 

 復帰4戦目。

 前走は夏合宿期間中である7月31日に行われた関屋記念。

 新潟レース場で行われたGⅢレース。

 距離は1600m。

 バ場は芝。

 

 そのレースでは昨年のダービーにて骨折が判明し、療養していたコスモサンビームが復帰戦として走っていた。

 

 その関屋記念でメジャーはサイドワインダーに半バ身届かずの2着。

 

 そして今回の毎日王冠。

 出走するライバルは強力だ。

 まずは前走宝塚記念覇者のスイープトウショウ。

 昨年のダービー3着のハイアーゲーム。

 昨年の皐月賞2着のコスモバルク。

 昨年の神戸新聞杯にてキングカメハメハに次ぐ2着だったケイアイガード。

 4人目の小倉三冠を達成し、なおかつ初めて同年小倉三冠達成し、前走小倉記念をレコード勝ちしたメイショウカイドウ。

 デビューして9戦走り、6勝上げたハットトリック。

 昨年の毎日王冠覇者のテレグノシス。

 等々強豪ぞろいである。

 

 そんな彼女達含む17人で行われた毎日王冠。

 その結果は

 

『内をついてダイワメジャー3番手!』

 

 一時的に3番手を走るも

 

『サンライズペガサス! サンライズペガサスが先頭だ!』

 

 外から駆け上がって来るテレグノシスを振り切り、サンライズペガサスがそのままゴール。

 タイムは1分46秒5。

 

 2着は1と3/4バ身差でテレグノシス。

 タイムは1分46秒8。

 

 3着は1バ身差でケイアイガード。

 4着はバランスオブゲーム。

 そして5着にダイワメジャーが入った。

 この3人は1分47秒と同タイム。

 着差もクビ差ハナ差だった。

 

 スイープトウショウは半バ身差で6着となった。

 

「ッ……はぁ……」

 

 掲示板にこそ入りはしたがスイープトウショウとは半バ身差だったメジャー。

 わずかな差で掴んだ掲示板入り。

 

 だが

 

(まだまだだ……)

 

 その結果で満足しない。

 

(もっと強くならないと……)

 

 でなければ、自分の復帰を待っていてくれたファンに申し訳ない。

 そう思っていたダイワメジャー。

 

 ダービー卿チャレンジでの復帰戦は見事1着だった。

 だが次の安田記念は8着。

 続く関屋記念は2着。

 そして今回。

 

 復帰戦以来勝利を掴めないでいる彼女。

 

(体の調子は良いんだけど……)

 

 トレーニングの結果も良い。

 療養のためとはいえ、半年近くレースから離れていた影響は大きかった。

 

(やっぱり練習通りには上手くいかないか……)

 

 練習が上手くいったからって本番もそうとは限らない。

 観客の声援が、ライバルの闘志が。

 練習時に出せなかった力を引き出させる事だってある。

 それはライバルも同じである。

 

(いや、焦るな……)

 

 焦っても良い結果は出ない。

 今の自分に合ったトレーニングをして結果を出せば良い。

 

(来年必ず)

 

 GⅠを再び取る。

 そう近い、地下バ道へと向かうのだった。

 

 

 

 そして翌日の盛岡レース場。

 マイルチャンピオンシップ南部杯当日。

 平日でありながら、スタンドには多くのファンが来ていた。

 

 そんなファンの前に14人のウマ娘が姿を現す。

 

(今日はトレーナーだけね……)

 

 平日開催という事もあり、今回チームメンバーの応援はいない。

 

(ま、中継で見てくれてるかな)

 

 と、カメラの方を一瞬見てからゲートへと向かう。

 そんな彼女達の事を実況が紹介が始まる。

 

 

 

 1枠1番 アパティア

 戦績 49戦4勝

 前走 オータムカップ 9着

 

 2枠2番 ユウキュウ

 戦績 63戦13勝

 前走 姫路チャレンジカップ 4着

 

 3枠3番 コウエイシャープ

 戦績 66戦6勝

 前走 さざんかテレビ杯(JpnⅡ)10着

 

 3枠4番 プリサイスマシーン

 戦績 25戦12勝

 前走 マイラーズカップ(GⅡ)2着

 

 4枠5番 マツリダブロッコ

 戦績 41戦11勝

 前走 エクセレント 1着

 

 4枠6番 オースミエルフ

 戦績 25戦3勝

 前走 さざんかテレビ盃(GⅡ)8着

 

 5枠7番 ローランボスコ

 戦績 22戦5勝

 前走 青藍賞 2着

 

 5枠8番 タイムパラドックス

 戦績 39戦14勝

 前走 ブリーダーズゴールドカップ(JpnⅡ)2着

 

 6枠9番 シーキングザダイヤ

 戦績 14戦5勝

 前走 エアラインズ・カップ(シンガポール・GⅠ)7着

 

 6枠10番 エアウィード

 戦績 39戦12勝

 前走 青藍賞 1着

 

 7枠11番 マイネルレガリア

 戦績 63戦3勝

 前走 オータムスプリントカップ 6着

 

 7枠12番 ユートピア

 戦績 25戦6勝

 前走 帝王賞(JpnⅠ)4着

 

 8枠13番 エビスイーグル

 戦績 27戦6勝

 前走 青藍賞 3着

 

 8枠14番 パーソナルラッシュ

 戦績 14戦7勝

 前走 エルムステークス(GⅢ)1着

 

 今回のレースは交流レース。

 簡単に言うと中央のウマ娘と地方のウマ娘が競い合うレースである。

 

 今回は4番プリサイスマシーン、8番タイムパラドックス、9番シーキングザダイヤ、12番ユートピア、14番パーソナルラッシュの5人が中央所属である。

 

 そんな中央組に地方組から鋭い視線が向けられる。

 

(あれが中央の……)

 

(どれほどの走りか見させてもらうわ……)

 

 トゥインクル・シリーズの重賞レースに出走する中央組。

 地方とは次元が違うと言われ、まさに憧れの存在と言っても良い。

 そんな相手と走るのだ。

 普段走らない相手。

 設備も環境も違う相手。

 

 そんな中央のウマ娘と自分達。

 果たしてどんなレースになるのか。

 

 もしかしたら勝てるかもしれない。

 

 そんな期待を抱く者もいた。

 かつて地方から中央に移籍し、一大ムーブを巻き起こしたオグリキャップ。

 自分もそんなウマ娘になりたい。

 地方のウマ娘だって凄いんだぞと伝えたい。

 

 そのためにも今日このレースで。

 

(必ず勝つ!)

 

 中央組に勝ってやると意気込む彼女達。

 

 だがその気持ちは

 

(おーおー)

 

(すごいやる気だねぇ)

 

 中央組も感じていた。

 こういう感情を向けられるのは初めてではない。

 交流レースに出ると、もっとライバル意識を剥き出しにする子もいるからだ。

 

 ただそこにあるのはレースに真っ直ぐ向き合う気持ち。

 地方レースをもっと盛り上げたい。

 話題を作りたい。

 そういう思いもあるのだろう。

 

 ならばこそ

 

(まぁ……)

 

 彼女達は

 

(手加減するわけにはいかないし)

 

 なにより

 

(勝ちたいのは一緒なんですよ)

 

 負ける気は無かった。

 負けてやる気は無かい。

 

 出走する全員が思うのは同じ。

 出る以上は勝利を目指す。

 

 ただそれだけを胸に、彼女達はゲートに入る。

 そして

 

 カッタン

 

 という音を立ててゲートが開いた。

 

 

 

(これが……これが中央ッ!)

 

 レース後。

 自身の控え室でエアウィードは驚愕していた。

 

 思い出すのは最終直線での事。

 

 分かっていたはずだった。

 中央のウマ娘が強いと。

 

 理解していたはずだった。

 自分達より恵まれた環境でトレーニングしていると。

 

 だが

 

(ここまでだったなんて!)

 

 ユートピアを先頭にシーキングザダイヤ、タイムパラドックス、プリサイスマシーン、パーソナルラッシュが走り、そのままその順番でゴールイン。

 

 エアウィードは7着となった。

 

 そして、その実力差を改めて実感した。

 先に言うが、彼女が中央組と走るのは今回が初めてではない。

 前々のけやき賞とさらにその前のマーキュリーカップ。

 その2レースで中央組と走っている。

 その結果だがけやき賞は4バ身差の2着。

 マーキュリーカップは3着と1バ身差の4着だった。

 

 そして今回。

 同じ地方所属のマツリダブロッコに1バ身差でのゴール。

 そしてそのマツリダブロッコは5着のパーソナルラッシュに3バ身差だった。

 

 さらに言うと今回は差が凄まじかった。

 2着のシーキングザダイヤはユートピアと1と1/4バ身。

 3着のタイムパラドックスは2着のシーキングザダイヤと5バ身。

 4着のプリサイスマシーンはそのタイムパラドックスと5バ身。

 そして5着のパーソナルラッシュはプリサイスマシーンとクビ差。

 

 最低でも13バ身。

 それだけの差があった。

 

 それで心が折れたか。

 いや、折れなかった。

 彼女は中央との力量差を改めて実感し、己を鍛えた。

 その結果、次走の北上川大賞典と翌年の2レースで1着を取る事になるが、それを彼女はまだ知らない。

 

(……まだまだ頑張らないとな。私!)

 

 負けたからといって腐らない。

 泣く暇があったら上を見て。

 次のレースで勝つ。

 自分を応援してくれるファンに。

 トレーナーに。

 そしてなにより頑張る自分に。

 勝利を届けるために。

 

 

 

 場所は変わって中央トレセン学園。

 文三の部室。

 マイルチャンピオンシップ南部杯の中継を見終わったハーツ達は寮に戻る前に軽く片付けをしていた。

 

「にしても凄かったッスね! ユートピア先輩!」

 

 興奮した様子で、中継のお供として食べていたお菓子の袋を片付けているのはワンアンドオンリー。

 その隣では

 

「本当に凄かった……」

 

 ジュースの空きボトルを片付けるローゼンクロイツの姿があった。

 

 今回のレースだが、ユートピアは最初から先頭を走っていた。

 外枠もなんのその。

 あっという間に前に出るやそのまま先頭に立ち、レースを引っ張った。

 さらに最終コーナーも最内を通って先頭死守。

 最内を通った事で距離ロスする事もなく最終直線に入り、そのまま逃げ切ってゴール。

 

 その実力を示してみせた。

 

 が

 

「まぁ、プレッシャーはあったと思うけどね」

 

「確かに。中央ってだけで強いって見られちゃうからね」

 

 そう言うのはダンスインザダークとダイタクリーヴァ。

 

「まぁ、それもそうだな」

 

 とハーツも頷く。

 地方トレセン学園よりも設備のレベルが高く、充実している中央。

 さらにそこに所属するトレーナーのレベルも高い。

 

 資合格者が出ない年が普通にあるのが中央トレーナーの資格試験だ。

 その試験を通過したトレーナーに見てもらえるのだ。

 

 それだけ受けられるトレーニングの質も高くなる。

 そんな恵まれた環境で鍛錬するウマ娘が弱いわけがないと思われてしまう事もあるのだ。

 

 つまり

 

「無様な走りはできない。そういう事ですね」

 

「そういう事」

 

 リーチザクラウンの言葉にダイタクバートラムが頷く。

 人間の学校で言うならば、スポーツ強豪校のチームだから弱いはずがない、といった具合だろう。

 

 もちろんその日の調子もあるが、そんな事関係無いと言うように期待される。

 そんな環境でトレーニングを受けれても、デビュー後に1勝もあげられない子もいれば、デビューすらできないウマ娘もいるのだ。

 

「こっちはこっちで大変なんだけどね」

 

「ヤ……ヤバいッスね」

 

 リーヴァの言う通りだ。

 トレーナーがついたからといって、必ずデビューできるわけではないのだ。

 チーム内での競走。

 周囲との実力差。

 そういったものに打ちひしがれ、学園を去る者は決して少なくない。

 

 それに耐えてデビューしたとしても勝てるとは限らない。

 各レースでの勝者は一人だ。

 夏合宿期間も含て月に1回出走して年間12回。

 それだけあればどこかで勝てると思うかもしれないが、そう上手くはいかない。

 

 勝てたとしても次がある。

 その次もある。

 勝ち続ける事は大変なのだ。

 

 だからこそ、記録が達成されると大騒ぎになるのだ。

 シンボリルドルフの無敗三冠達成。

 ルドルフをはじめとする三冠ウマ娘の誕生。

 テイエムオペラオーの年間全勝。

 秋シニア三冠。

 

 それら全て。

 成し遂げる事自体非常に難しい。

 ハードルの高い事なのだ。

 

 その話を聞いて

 

(三冠……)

 

 クロイツは思った。

 無敗の三冠達成がどれほど凄い事なのか。

 勝てば勝つほど増すファンからの期待。

 それを力に変えられれば良い。

 変えられず、その重圧に潰されてしまう子もいただろう。

 

(ディープ……)

 

 そしてその無敗の三冠がかかる同期。

 共に菊花賞に出る相手を思う。

 

(……でも、負けたくない)

 

 勝ちたい。

 記録を阻止してしまう事になったとしても。

 出るからには勝ちたい。

 

(私だって……)

 

 やれるはずだ。

 

 かつて菊花賞で菊の季節に桜が満開と実況に言わせたウマ娘がいた。

 

 そのレースにはダービーウマ娘のメリービューティー。

 ダービー2着のルナスワロー。

 100年に一人の美少女ウマ娘と言われながら実力も兼ね備えたゴールドシチー。

 その3人が出ていたなか、彼女は勝利を掴んだ。

 

(私だって……)

 

 勝ってやる。

 今度は桜じゃない。

 バラを咲かせてみせる。

 

 菊の季節に、その菊を覆い隠すほど大きなバラを。

 この手で咲かせてみせる。

 そう誓うのだった。

 

 

 

「ふんふんふ〜ん」

 

 その日の夜。

 寮の部屋で占いをしているエンペライザ。

 水晶玉を手をかざして鼻歌混じりに占っている。

 

(楽しい気持ちが良い事を呼び寄せるからね)

 

 占いは楽しい気持ちで。

 笑う門には福来る。

 それが彼女の心情。

 果たしてその占い結果は……

 

「……3?」

 

 水晶に浮かび上がる3という数字。

 

「も、もしかしてこれ……菊花賞は3着って事!?」

 

 次走の菊花賞の結果なのか、と驚愕するエンペライザ。

 だが

 

「いや、3連勝するという可能性も……」

 

 と考える彼女。

 

「うーん……なんの3なんですかー!」

 

 その答えは神のみぞ知る。

 

 

 

 そして時は流れ、日は過ぎて10月23日。

 京都レース場。

 

 クラシック三冠最後のレース。

 菊花賞当日を迎えた。




お読みくださり、ありがとうございます。

地方も頑張ってるぞー!
中央だけじゃないぞー!

次回もお楽しみに!
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