ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

65 / 74
65話〜衝撃の叫び〜

 

「うおォォォォォッ!」

 

 下り坂が終わり、第4コーナーを抜けて最終直線。

 先頭に立ったのは

 

『先頭はコスモバルクか? 先頭コスモバルク! コスモバルクが懸命に頑張っている!』

 

 タップダンスシチーを交わしたコスモバルクだった。

 

(あと少し! あと少しでぇっ!)

 

 早めに前に出て良いポジションについていた彼女はそのまま、余力を全て投下する。

 

 残り310mの直線。

 ゴール前180m地点から70m地点にかけての110mに待ち構える上り坂。

 そびえ立つ高低差2.2mの坂。

 

(上等ォッ!)

 

 歓声を浴びながら坂へ向かって猛然と突っ込んで行く。

 

『外からディープ! 外からディープインパクトォォォッ!』

 

 その歓声を更なる大歓声が飲み込む。

 

「まだまだぁ!」

 

 だが残り200m付近の所で

 

「お先……」

 

 ハーツクライが外から交わした。

 

「チッ!」

 

 交わし返そうと追いかけるが、ギアを上げたハーツはグングンと加速して行く。

 

 手を緩めるわけにはいかない有マ記念。

 もっと先へ。

 もっと速く。

 加速しろ。

 引き離せ。

 

 そう自分に言うが

 

「ッ!?」

 

 限界が。

 彼女の前に。

 立ちはだかった。

 

 まるで鎖が巻き付いたかのように。

 脚が、腕が。

 重くなるハーツ。

 腕を振りたくても触れない。

 脚が前に進まない。

 

 上り坂に入ったからではない。

 2300m走って来ての疲労が上り坂を駆け上がる力を奪っているのではない。

 

 加速が止まる。

 止まってしまう。

 

(ちくしょう!)

 

 後ろからディープが迫って来るのを感じる。

 

(行けよ! 行けよ!)

 

 このまま追い付かれるのか。

 もう終わりなのか。

 嫌だ。

 嫌だ。

 負けたくない。

 勝ちたい。

 

 そう思うハーツを

 

 

 

「決まったわね」

 

 その様子を見てマルゼンスキーが言う。

 領域に入り、限界を超えた剛脚を発揮するディープから逃げ切れる者はいないだろう。

 

「これで史上初の四冠達成、かな?」

 

 そう言うのはミスターシービー。

 マルゼンスキーと同じく、生徒会のメンバーである。

 

 そしてその二人に挟まれるようにして立ち、レースの行く末を見ているのは生徒会長である皇帝シンボリルドルフ。

 

「いや……」

 

 皇帝が小さく口を動かす。

 

「その結論に達するには、まだ尚早のようだ」

 

 

 

(……ここまでか)

 

 ディープに迫られるハーツの姿に、文三はそう思った。

 いや、最強にここまで粘ったのだから御の字だろうか。

 だが、また2着か。

 と、そう思ってしまう。

 

 が

 

「文三さん。顔を上げてください文三さん」

 

 隣に立つアルフォンスが言う。

 

「まだ……勝負はまだ。終わっていません!」

 

「……でも」

 

 言われ、顔を上げる。

 いや、担当として。

 勝とうが負けようが最後まで見届けるのが責任だと。

 顔を上げる。

 

 するとそこに広がっていたのは……

 

 

 

 ハーツクライは脚が少し外を向いていた。

 いわゆる、外向というやつだ。

 それでも矯正するほどのレベルではなく、医師に診てもらった際も走るのに問題は無いと言われていた。

 

 そして成長し、中央トレセン学園に入学した。

 これから自分もトゥインクル・シリーズで頑張るんだと。

 夢を叶えるんだと胸を躍らせて飛び込んだ。

 

 そんな彼女を待っていたのは

 

「そんな脚で走れるの?」

 

「無理無理。レースはそんな甘くないから」

 

「とてもじゃないけど走らないでしょ」

 

「私は勝てる子を担当したいの」

 

「悪いけど他行ってくれる?」

 

 担当契約を断られる日々だった。

 

 脚が普通だったらこうじゃなかったのだろうかと思う日々だった。

 それでも医師が言ってくれた言葉を支えにした。

 走りに問題は無いと保証する。

 そう言ってくれたから頑張れた。

 

 それでも担当契約をしてくれる者はなかなか現れなかった。

 

 そんな時だった。

 

「俺のとこ来るか?」

 

 文三が声をかけてくれたのは。

 そしてそのまま彼のチームに入ってユートピアと出会った。

 自分の事を気にかけてくれる先輩。

 脚の事なんか気にする事無いと言ってくれた事が嬉しかった。

 

 そんな文三のチームで頑張って。

 トレーニングをして。

 その時も言われた。

 

「あんな脚で勝てるもんか」

 

「あいつと走ったら勝ち確定だな」

 

「あいつは警戒しなくて良いな」

 

 と。

 

 そうして迎えたデビュー戦。

 結果はハーツの勝利だった。

 それも2着の相手に1と1/4バ身差をつけてだった。

 

 次走のきさらぎ賞では3着になるもその次の若葉ステークスで勝利。

 続く皐月賞は14着と大敗するも次の京都新聞杯で再び勝利。

 だがそこからしばらく勝ちが遠のいた。

 

 一番惜しかったのは前走のジャパンカップと宝塚記念だろう。

 ハナ差とクビ差届かなかった両レース。

 

 悔しかった。

 片方(宝塚記念)は文三にGⅠ勝利を届けられなかった事が。

 もう片方(ジャパンカップ)はアルフォンスをGⅠトレーナーにしてあげられなかった。

 

 勝ちたかった。

 

 それと同時に限界を感じていた。

 目の前にそびえる限界の壁。

 

 ガラスのように透き通っていて向こうが見えるのに。

 叩けば割れそうなほど薄いのに。

 見上げれば果てしない程高く、叩いても割れない限界の壁。

 

 それを超えるのに。

 それを壊すのに。

 何かが足りなかった。

 それを探した。

 

 なんだ。

 何が足りない。

 今の自分に何が足りない。

 

 それでも走る。

 走らなきゃ追い付かれる。

 

(勝ちたい……勝ちたい! 勝ちたい!)

 

 重い脚を動かして懸命に走る。

 だが、その背中がディープの存在感を。

 プレッシャーを感じ取る。

 

 もうすぐそこまで迫っている。

 

(ここまで、なのか?)

 

 アルフォンスが考えた作戦も通じないのか。

 

(俺はここまでなのか?)

 

 そう思った時だった。

 

「ハーツ! まだ終わってないぞ!」

 

 声が聞こえた気がした。

 その方を見るとそこにいたのはスタンドから自分に声援を送るチームの仲間達。

 

 口に両手をメガホンみたいに当てているユートピア。

 スタンドの柵を掴み、身を乗り出すようにしているワンアンドオンリー。

 祈るように手を合わせているダイタクリーヴァ。

 彼女達だけじゃない。

 ダンスインザダークが。

 ロジックが。

 スリープレスナイトが。

 ローズキングダムが。

 クラレントが。

 リーチザクラウンが。

 そしてローゲンクロイツが。

 ハーツへと声援を送る。

 

 その時だった。

 

(あぁ、そういえば……)

 

 唐突に思い出した。

 トゥインクル・シリーズを目指した理由は色々あった。

 テレビで見たあの輝く世界に自分も行きたいと。

 観客を熱狂させたいと。

 勝ってファンを喜ばせたい。

 テレビで見ていた時みたいに、今度は自分が誰かの夢になりたいと。

 

 そして走るようになって。

 勝つ事が大変だって実感した。

 現実はそう甘くないと知った。

 それでも負けたくないと前を向いた。

 勝ちたいと前へ進んだ。

 

 でも根本を忘れていた。

 勝ちたいという思いがそれに背を向けさせてしまっていた。

 

(そうだったな……俺は、俺はただ)

 

 幼い頃の自分を思い出す。

 

 彼女が何故。

 トゥインクル・シリーズを目指したのか。

 それは

 

(走りたかったんだ)

 

 ただただ純粋な思い。

 胸に抱いていた思い。

 小さい頃に公園を走り回った。

 友達と駆けっこをした。

 初めて頬で感じた風の感触。

 初めて嗅いだ芝の匂い。

 

 何故走るのか。

 勝ちたいからか?

 違う。

 負けたくないからか?

 違う。

 

 もっと簡単だったのだ。

 だって、だって。

 

(あぁそうだ。そうだ! 俺は。俺は!)

 

 もう忘れない。

 

(走りたかったんだ!)

 

 その直後。

 彼女に巻き付いていた鎖が吹き飛び、前にあった限界の壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。

 

 

 

『ディープが捉える捉える!』

 

 熱の入る実況。

 盛り上がる歓声。

 その二つが坂を駆け上がるディープの背中を押す。

 

(差す! 差し切る! それで私が先頭に!)

 

 この程度の坂なんて苦じゃないと。

 

 そう思いながらハーツクライを追うディープ。

 もうゴールまで100mちょっとだ。

 だが、その時だった。

 

「……えっ?」

 

 ゾワッと。

 ハーツクライの存在感が一気に膨れ上がったようにディープは感じた。

 そして次の瞬間彼女は見た。

 ハーツクライから噴き出した物を。

 

 実際に噴き出した訳ではないが、そのように彼女は感じた。

 

 それはまるでオーラと言うよりは黒い炎と金色の雷に近かった。

 

 それをディープは直感で理解した。

 あぁ、そうか。

 ハーツクライも“領域"に入ったのか、と。

 

「面白い!」

 

 やはり勝負はこうでなくては。

 勝利は良い。

 圧勝も良い。

 

 だが、だが。

 強者を倒してこそ。

 強者を乗り越えてこそ。

 勝利の余韻は深くなる。

 

「絶対に差し切る!」

 

「来いよ! ディープインパクト!」

 

 先頭争いは完全にこの二人になった。

 コートの裾をバタバタと暴れるようにはためかせながら逃げるハーツクライ。

 腕より長くデザインされ、余った袖の残像が見えるのではないかと思うほど振りながら追うディープインパクト。

 

「行け行けディープ!」

 

「差せぇ! 差せぇ!」

 

「届けぇ!!」

 

 スタンドからはディープへの声援が湧き上がる。

 

 そんな光景を。

 顔を上げて見た文三は

 

「い、行け……行け……行け! 行けぇ! ハーツ! 行ってくれぇ! ハーツ!」

 

 普段は決して上げない声を出して。

 スタンドの柵を掴んで応援した。

 

 それが届いたのか。

 ハーツは文三の方を見ると一瞬だけキョトンとした顔をし、直後にニッと笑って見せた。

 

 そして最後の100mへと突入する。

 上り坂は残り30m。

 この最後が辛い所だ。

 

 それでも懸命に粘り、逃げるハーツクライ。

 その背中を追いかけ、差し切ろうと迫るディープ。

 

 だが、だが!

 

『ハーツクライが来ている! ハーツクライが来ている!』

 

「お、おいおい……嘘だろ」

 

「冗談、だよな?」

 

「や、やだやだ! そんな!」

 

 大歓声に包まれていたスタンド。

 そこから戸惑いの声が上がり始める。

 だって、なんとハーツとディープの差が縮まらなくなったのだ。

 

『ハーツクライ! ディープインパクト! ハーツクライか! ハーツクライか! ハーツクライ先頭! 先頭はハーツクライ!』

 

「まだまだぁぁぁっ!」

 

 さらにギアを上げ、差し切ろうとするディープインパクト。

 

「負けねぇ! 勝つんだ! 俺が! 俺がぁ!」

 

 対するハーツクライも

 

「勝つのは」

 

 ズンッと踏み込んで

 

「俺だァァァァァッ!」

 

 加速して逃げる。

 

 坂を駆け上がって残り70m。

 最後の踏ん張りどころへと入る。

 

 50m。

 後続も必死に食らいついてくる。

 

 30m。

 歓声と戸惑いの声が入り混じるスタンド。

 

 20m。

 先頭を譲らないハーツ。

 

 10m。

 最後まで諦めずに追うディープ。

 

「ディープ!」

 

 文乃が。

 

「ハーツ!」

 

 文三が。

 

「ハーツさん!」

 

 アルフォンスが。

 それぞれのトレーナーが見守る中。

 

「ウオォォォォォッ!」

 

「ハァァァァァァッ!」

 

『ハーツクライ! ディープインパクト! なんと! 勝ったのは!』

 

 

 

 先にゴール板前を駆け抜けたのは

 

 

 

『ハーツクライだぁぁぁっ!』

 

 半バ身差をつけて。

 ハーツクライが逃げ切った。

 

『ディープインパクト敗れる! ディープインパクト敗れる! 勝ったのは! 勝ったのはハーツクライ!』

 

 その瞬間、スタンドは大きなどよめきに支配された。

 

『悲願のGⅠ初制覇! 早めにレースを進めたハーツクライが勝ちました! この瞬間。史上初の無敗の四冠が無くなった。敗れましたディープインパクト!』

 

 信じて疑わなかった最強の英雄の勝利。

 史上初の無敗の四冠ウマ娘の誕生。

 それは半バ身差で潰えた。

 

 3着にはリンカーン。

 4着にコスモバルクが入り、5着はコイントスとなった。

 

 勝ちタイムは2分31秒9。

 上がり3ハロンのタイムは35秒。

 

 ディープのタイムは2分32秒。

 上がり3ハロンのタイムは34秒6だった。

 

「お、おいおい……嘘、だろ?」

 

「はは……ディープが負けるなんて。夢、だよな? 俺、夢見てんだよな?」

 

「嘘! 嘘! 絶対嘘! ディープが負けたなんて絶対嘘!」

 

 スタンドから上がるのはディープの敗北を信じられないという言葉。

 無理もないだろう。

 ここまで全戦全勝無敗だったディープが敗れたのだから。

 

 ただ、それほどディープの勝利を望んでいたのだろう。

 無敗の四冠誕生を見たかったのだろう。

 スタンドからは歓声ではなく、ため息や無念といった声が上がっていた。

 

 さらには

 

「なんで勝つかなぁ……俺達はディープが勝つ所を見に来たってのによ」

 

「空気読めっての」

 

「マジディープ可哀想」

 

 そんな声まで聞こえてくる。

 

「……フン」

 

 分かっていた事だと言うようにハーツはスタンドに背を向ける。

 この景色は見た事がある。

 

 菊花賞でライスシャワーがミホノブルボンを破った時も。

 天皇賞・春でライスシャワーがメジロマックイーンを破った時も。

 同じような空気が流れていた。

 

(別に良いさ……)

 

 あの時の空気よりはマシだと思うハーツ。

 その背中に

 

「おめでとー!」

 

「ずっと応援していたぞー!」

 

「ハーツー! カッコ良かったぞー!」

 

「このヤローやるじゃねぇか! でも次はディープ負けねぇからなー!」

 

「ディープに勝ったんだ! 次負けたら許さねぇからなー!」

 

 祝福の声が届く。

 

「ッ!?」

 

 思っても見なかった言葉に思わず振り返るハーツ。

 

「お前がチャンピオンなんだぞー!」

 

「チャンピオンらしくしろー!」

 

「次も応援してるからねー!」

 

 その言葉に口をわなわなと振るわせ、帽子を目深に被るハーツ。

 

(んだよ……不意打ちかよ)

 

 だが口元には笑みが。

 直後顔を上げた彼女は、右手を高く高く上げるのだった。

 

 

 

 レース後。

 

「ディープ……」

 

 地下バ道にてディープを出迎えた文乃。

 

「と、トレーナーさん……すみません負けちゃいました」

 

 と言うディープ。

 だが、そんな姿を見て文乃は彼女がいつもと違う事に気付く。

 

 息切れしているのだ。

 今までレースを走り終えた後にそんな事は無かった。

 流石に走り終えた直後は多少乱れていてもすぐに元通りになっていた。

 

 そのディープが息を切らせ、肩を上下に動かしている。

 

(まさか!?)

 

 レース中にどこか故障したのだろうか。

 そう思って駆け寄る文乃。

 だが近付いて分かった。

 

 故障などではない。

 

(これは……そうか)

 

 息を切らせるほどに。

 それほどまで疲れるほど。

 全力を出して走ったのだと。

 それで届かなかったのだと。

 理解すると同時に故障でない事に安堵する。

 

「また、鍛え直しだな」

 

 そう言って微笑む文乃にディープは

 

「はい! またよろしくお願いします!」

 

 と笑顔で返す。

 そんな二人の横をハーツが通り過ぎる。

 すると

 

「あの!」

 

「あ? あぁ。ディープインパクトか。なんか用か?」

 

 呼び止められ、振り返るハーツにディープは

 

「次は負けません!」

 

 と宣戦布告。

 それに対してハーツは

 

「安心しろ。次も負けねぇからよ」

 

 ニッと笑って返し、コートの裾をなびかせながら背を向けて歩いて行った。

 

「負けません。次は負けませんから! 絶対に負けませんからー!」

 

 その背中にディープが言うと、背を向けて歩きながら右手をヒラヒラと振ってハーツは返すのだった。

 

 

 

 こうしてこの年の有マ記念は幕を閉じた。

 

 

 

 が、まだ終わりではない。

 

 

 

(まぁ、今更こんな事言ったらディープのファンに後出しだ言われると思うけど)

 

 レース後。

 ウイニングライブを待ちながら泉助は思っていた。

 

(ディープが負けるとしたらここやろなとは思っとったで。絶対やないけど……)

 

 ハーツクライは会見の時からマークしていた。

 前走ジャパンカップでの好走。

 秋の天皇賞の敗北は彼女には不向きなスローペースからの瞬発力勝負だった事から、作戦はその苦手な展開に巻き込まれないようにする内容だろうと思っていた。

 

(まさか前目につけるとは思わなかったけどな)

 

 だがよくよく考えてみればそれで正解だろう。

 いやそもそもハーツは先行型だったのかもしれない。

 ただ今までは体が仕上がっていなかったので先行争いに加われなかった。

 

 それでもダービー2着等の記録。

 10回。

 15回走って掲示板に入った回数だ。

 さらに3着以内に入った回数は9回。

 そして今回の有マ記念を加えると、16戦中11回が掲示板内という事になる。

 

(ちょっと考えれば分かる事やんか)

 

 彼女は決して実力が無いウマ娘ではない。

 大器晩成型だったのだ。

 だが

 

(大変なのはこっからやで)

 

 なんせあのディープインパクトを倒したのだ。

 それも今までのスタイルから一転させて。

 この先の戦績次第では今回はその策のおかげで勝てた一発屋と思われてしまう。

 

(さて文三さん。次は何のレースはなんや。京都記念か? 中日新聞杯か? 阪神大賞典か? それとも思い切って春天か?)

 

 と次のレースを想像する。

 

(まぐれ勝ちやない事を証明するには生半可なレースじゃ納得してくれへんで)

 

 それほどまでに今回の白星は大きかったと泉助は思っていた。

 

(さて……これからが楽しみや!)

 

 来年のトゥインクル・シリーズはきっと盛り上がる。

 そう思う彼の耳に、ライブのイントロが届いた。

 

 

 

 ステージの下で。

 ハーツは珍しく緊張していた。

 

(これがGⅠライブのセンター……良いねぇ!)

 

 だが、それと同時にその緊張を楽しんでいた。

 

 初めてのGⅠセンター。

 昨年5月の京都新聞杯以来のセンター。

 

(やっと、やっとここに立てた……)

 

 歓喜と緊張が混ざった感情が手をわずかに振るわせる。

 だが今はそれすら心地良いと感じてしまう。

 

「皆さん。スタンバイお願いしまーす」

 

 ライブの時間なのだろう。

 係の人が声をかける。

 

 すると不思議と手の震えは消えていく。

 

(さて……)

 

「行きまーす!」

 

 係の人がボタンを操作すと足元の床が競り上がり、彼女達をステージ上へと押し上げる。

 

 そして

 

「最後まで楽しんでってくれよな!」

 

 とリンカーン。

 

「ライブまでいてくれて、ありがとー!」

 

 とディープインパクト。

 

「さぁて、行くぜ! お前らぁ!」

 

 センターでハーツクライが吼える。

 

 それに応じるように無数のペンライトが振られる。

 

 有マ記念を締めくくるウイニングライブが幕を上げる。

 

 そしてそのライブを見て

 

(いつか師匠みたいになってやるッス! いや、超えるッス!)

 

 ペンライトを振りながら改めて夢を抱くワンアンドオンリー。

 

(いつか私も主役に……あそこに立ってみせる。舞台の、真ん中に!)

 

 赤い髪のウマ娘も夢を抱いた。

 

(私もなれるかな……グランプリウマ娘に。なりたいな。ううん、なるんだ!)

 

 クルッと捻りが加えられた、白地に赤いラインが斜めに入った長方形の耳飾りを左耳に着けた黒鹿毛のウマ娘も夢を抱く。

 

(早く私も走りたいな……)

 

 右耳にダイヤ型の耳飾りを着けたウマ娘。

 その耳飾りは2色で塗り分けられている。

 上半分が緑、下半分が黒。

 そのため緑と黒の三角形を合体させたようにも見える。

 そんな彼女も目を輝かせた。




お読みくださり、ありがとうございます。

これにて有マ記念終了。
彼女達の走りはまた新しい子達の夢に…

次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。