ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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67話〜海外を目指して〜

 

「っつー事で海外レースを目指すが」

 

 文三は続ける。

 

「ぶっちゃけ俺はお前に心配はしていない」

 

 と言うのはハーツの走りもあるが、親戚のトニビアンカがイタリアで活躍していた。

 その事もあり、ハーツは彼女からイタリア語と英語を教わっていたのだ。

 つまり、海外に行っても会話は問題無いのだ。

 

 海外レースに出るのに一番のネックは言葉の壁だろう。

 文三は凱旋門賞を見に行った事から、多少は話せる。

 アルフォンスはそもそもフランス出身である。

 結果

 

「なのでいつも通り練習……強いて言うなら向こうのコースに合わせた負荷をかけての練習になる」

 

 という結論になった。

 そして目指すレースだが

 

「これだ」

 

 文三が取り出したのはとある書類。

 そこにはドバイワールドカップミーティングと書かれていた。

 それは3月にドバイで行われる国際招待レースの総称。

 つまりハーツはそれに招待されたという事になるのだ。

 そして文三が提案しているのはそこで行われるレースのひとつ。

 

 ドバイシーマクラシック。

 ナド・アルシバレース場にて行われる芝2400mのGⅠレースである。

 

「2400の左回りか……」

 

 ダービーやジャパンカップと同じである。

 

「どうだ。行けるか?」

 

「当たり前だ。それに、あの記者に大口叩いちまったからな。やるしかねぇ」

 

 泉助に海外に来いと言ってしまった以上。

 無様な姿は見せられない。

 

「そうか。ならアル。引き続きハーツを頼むぞ」

 

「はい! ……え、良いんですか!?」

 

 海外GⅠへ挑戦するハーツを引き続き任され、驚きを隠せないアルフォンス。

 

「良いに決まってんだろ。それに有マであれだけの走りをさせたんだ。下ろす理由が無い。まぁ、お前が今の自分には荷が重いって言うんならだけど……どうだ。やるか?」

 

 まるで一杯行くかとでも言うような感じで尋ねる文三にアルフォンスは

 

「……は、はい! やります!」

 

 ハーツクライ初めての海外遠征。

 それの担当を受ける事にした。

 

 

 

 そしてその話は瞬く間に学園に広がった。

 その原因は

 

「ウチの師匠海外に挑戦するッス!」

 

「ドバイのレースに行くッス!」

 

「ウチも今から英語を勉強するッス!」

 

 ハーツの弟子のワンアンドオンリーだった。

 さらに彼女は

 

「師匠の応援のために寄せ書きをしたいんス。協力お願いするッス!」

 

 とクラスメイトを初めとする友人にお願いし、色紙を名前で埋め尽くして持って来た。

 しかもその中の名前には皐月賞で競い合ったダイワメジャーだったり、たまたまトレセン学園に来ていたハイセイコーやローゼンカバリーの名前もあったりとかなり豪華な物になり、受け取る際にハーツが緊張で手を振るわせていた。

 

 

 

「そういやハーツ。ひとつ気になってたんだが」

 

 そんなある日の事。

 ふと思い出したように文三が尋ねる。

 

「お前。勉強の方は大丈夫か?」

 

「あ? んなもん……大丈夫に決まってんだろ」

 

「なんだよ今の間は。怪しいな」

 

 というのも海外遠征中は当然座学に参加できない。

 つまり、勉強できない時間が生まれる。

 テレビ通話等で参加すれば良いと言うかもしれないが、行き先の時差ではそれも叶わない。

 

 目標にしているドバイシーマクラシックが行われるドバイとの時差は5時間。

 日本が正午の時、ドバイは朝の7時である。

 つまり、みんなが勉強を始める頃。

 ハーツはまだ寝ているのだ。

 

 そういうのもあってか、一定の成績を取れていれば単位は与えられる制度が用意されていた。

 

「だ、大丈夫だよ。俺追試とか受けた事ねぇし」

 

 と言うハーツ。

 実際成績は問題無い。

 が、いざ言われると不安になるものなのだ。

 

「ま、まだ時間もあるし。しっかりな」

 

「分かってるよ」

 

「頑張らないとね。ハーツ」

 

 と励ますユートピア。

 だが文三は

 

「おう。そういやユートピアも出るか?」

 

 と新しい書類を見せる。

 

 それも先日ハーツに見せたドバイワールドカップミーティングに関する物。

 

 だが今度のには別のレースが記載されていた。

 その名はゴドルフィンマイル。

 距離1600mのダートレースであり、グレードはGⅡ。

 ドバイシーマクラシックと同じく国際招待レースである。

 

 そのまさかの誘いにユートピアは

 

「えっと、でも……その」

 

 最近の戦績を気にしているのだろう。

 夏明けの4戦では1着1回、2着1回、8着2回となっている。

 それでもマイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ)連覇。

 ダービーグランプリ(JpnⅠ)制覇。

 全日本ジュニア優駿(JpnⅠ)制覇。

 ユニコーンステークス(GⅢ)制覇等。

 戦績は29戦7勝。

 掲示板入りは21回。

 内3着以内は13回。

 戦績は申し分ない。

 

 また1着を取った7回の内の4回はゴドルフィンマイルマイルと同じく1600mのレース。

 また7回の内の5回は左回りのレース。

 以上の事から文三は、相性は悪くないだろうと考えていたのだ。

 

「まぁ、お前が嫌なら無理にとは言わんが……どうだ?」

 

 と尋ねる文三にユートピアは

 

「……そこまで言われて断るほど、私も弱くはありませんよ」

 

 こうしてユートピアの海外遠征も決定した。

 

「んじゃせっかくだし、お前の勝負服も新しく作るか!」

 

 と文三の言葉により、新しい勝負服作りが決定した。

 

 のだが

 

 

 

「マジかぁ……」

 

「申し訳ありません。来年のクラシックに出る子達の注文が重なっておりまして……」

 

「いや、そういう事ならな。悪いな」

 

 行きつけの服屋に行き、ユートピアの勝負服の注文に行ったのだが余裕が無いと言われてしまったのだ。

 

(あそこが断るって相当だぞ……さて困ったな)

 

「あの、別に今のでも……」

 

 今のままで良いとユートピアは言うが、言葉はどこか沈んだ様子。

 

「いや、まだ時間はある。俺に任せておけ!」

 

 と明るく言って胸を叩く文三。

 

 

 

(とは言ったものの……)

 

 服屋の伝手があるわけでもない彼は悩んでいた。

 

 せっかくの海外遠征なのだ。

 それも国際招待レース。

 今までの慣れたのも良いが、新調してあげたいと思っていた。

 

 ちなみに本来GⅡは勝負服を着ないのだが、開催元がせっかく海外から招待するのだから勝負服でやろうとしたのだ。

 

(あいつは別にって言っていたけど)

 

 チームの中では大人な部類のユートピア。

 自分のトレーニングもあるのに、文三を初め周囲のサポートもしている。

 日頃の感謝も兼ねて、新しい勝負服をプレゼントしたかったのだ。

 

「ぬぁ〜……どうしたら」

 

 と、そんな時だった。

 

「あれ、文三さん?」

 

「ん、おう。北原か」

 

 キングカメハメハやダイワスカーレットを担当する北原穣がいた。

 

「聞いたぜ。キングが復帰するんだってな」

 

「えぇ。それを聞いてチームの仲間もやる気出てて。モチベーションがすごいですよ」

 

「そうか。そりゃ良かったな」

 

 と話しながら文三は思い出す。

 

「そういやお前カサマツにいた事あったよな」

 

「え、えぇ。ありましたけど」

 

 カサマツはカサマツで地方レースが行われている。

 地方GⅠでは勝負服を着る機会もある。

 

「お前の知り合いに勝負服作る店。ないか?」

 

 ダメ元で尋ねる。

 すると

 

「服屋って事ですか? まぁ、一人だけ」

 

「あるのか!? 頼む! 紹介してくれ!」

 

 ガッシリと北原の肩を掴み、前後に揺さぶる文三。

 

「おわっ!? ちょちょちょっ! 文三さん落ち着いてー!」

 

 揺さぶられ、目を回す北原なのだった。

 

 

 

 そして翌週。

 

「えぇっと……あ、いたいた」

 

 カサマツ駅にて。

 待ち合わせなのだろう。

 月毛のウマ娘は目当ての人物を見つけるとそちらへ歩いて行く。

 

「渡橋文三さんとユートピアさんですね。迎えに来ました」

 

 二人を出迎えた彼女の名前は

 

「ルディレモーノです」

 

 オグリキャップの友人の一人。

 ルディレモーノだった。

 

「突然すみません。本当に助かりました」

 

「いえいえ。北原トレーナーからの頼みでしたら」

 

 と言う彼女。

 だがそんな彼女を北原達が見たら間違いなく別人だと思うだろう。

 そんな彼女に案内されて連れて行かれたのは

 

「こちらです」

 

 彼女の実家である呉服屋だ。

 当然呉服屋なので、生地選びから仕立てまでやってくれる。

 割と地元のウマ娘が勝負服の注文をしたりするので、そのノウハウはあるのだ。

 

 こうして彼女の実家に来た二人はそこで生地を選び、採寸をし、デザインを伝える。

 完成までは1週間ほど。

 完成したらまた連絡をするので、微調整をするためにまた来て欲しいと言われてその日は帰った。

 

 

 

 そして1週間後。

 連絡を受けて店に行き、試着をしたユートピアはただ一言。

 

「凄い。ピッタリです」

 

 微調整をと言っていたがプロの技。

 そんなもの必要無い仕上がりだった。

 

 彼女の新しい勝負服。

 そのベースは黒。

 上はセーラー服の袖を着物風にした物。

 その上から黒の袖無しロングコート。

 また着物風セーラー服の袖はロングコートを着やすいように本体から分離しており、二の腕辺りで帯でキュッと締めるデザインになっている。

 下はプリーツスカートに青のソックス。

 履き物は黒のロングブーツだが履き口の所が折り返されたデザインになっており、鮮やかな黄色が覗いている。

 

 またセーラー服の袖口とコートの裾には金糸による月桂樹の葉を模した刺繍が入っている。

 スカートの方は縁を一周するように白いラインが入っている。

 

 そして最後に帯。

 そのデザインは幅を細めにした物になっている。

 色は青を挟むように黄。

 その黄を挟むように黒という配色になっている。

 

 黒、黄、青の3色で作られた新しい勝負服。

 

 これを着て。

 彼女は世界を目指す。

 

 

 

 その頃諒太は

 

「来週はー!」

 

「デビュー戦!」

 

「日曜日ー!」

 

「デビュー戦!」

 

「勝つぞー!」

 

「おー!」

 

 とソングオブウインドと気合を入れていた。

 そんな二人が気合入れをしている部室の中では

 

「というわけで、行く前に提出書類の確認をしっかりして下さいね。不備とかあると入国に時間かかっちゃいますから」

 

「なるほどな」

 

 エンペライザがハーツに海外遠征について教えていた。

 エンペライザはエンペライザでまだ一度しか行っていないが、それでも行った事のある彼女から聞いた方が調べるより早いと思ったハーツが訪ねて来たのだ。

 

「一応向こうにも日本製品を扱っているお店はあると思うので、そこのチェックは大事です。現地の水が合わないって事もありますので」

 

「なるほど……確かに食べれないと力出ないからな」

 

「そうです。食は大事なんです!」

 

 と力説するエンペライザと、彼女の言葉をメモするハーツ。

 

「あと心配なのは時差ですね。私は香港だったので割と大丈夫でしたが……」

 

 エンペライザが行った香港と日本の時差は1時間。

 日本の方が早い。

 ドバイの5時間よりは楽だろう。

 

「時差か……」

 

 行きはしたが時差ボケで練習もできませんめした。

 なので実力を出せませんでしたでは意味が無い。

 

「あとは……やはり環境の変化ですかね」

 

「環境?」

 

「はい。私は昼間に走りましたけど、調べた所ハーツ先輩が出る予定のレースは夜に行われるみたいですので」

 

「あぁ。環境ってそっちか……」

 

 と返しながらハーツは思う。

 確かにそうだ。

 今までハーツが出たレースは全て日中に行われたデイレース。

 日が沈んでから行われるナイターレースには出た事が無い。

 

(そこはダートの先輩達に聞いてみるか……)

 

 なんならユートピアに聞くのも良いだろう。

 彼女はダートレースに出ているのだ。

 

(確か帝王賞は夜だったな……今度聞いてみるか)

 

 夜の走り方は夜走った事のある者に聞くのが手っ取り早いだろうと思うハーツ。

 

「ありがとうな。助かったよ」

 

「いえいえ。お役に立てたのなら良かったです。後は……応援、ですかね」

 

「応援? あぁ、チーム全員は行けねぇからな」

 

 海外にチーム全員で行く事はできない。

 出走するメンバーとトレーナーぐらいだ。

 だから

 

「私も。私も日本から応援しています。私だけじゃないです。日本中が応援していますから。それは忘れないでください」

 

 行けない分。

 日本からたくさん応援すると伝える。

 

「……ハハッ。そういうのは行く直前に言うもんじゃないか? まぁでも、ありがとうな」

 

 そう言うとハーツは

 

「絶対に勝つからよ」

 

 誓うように。

 右手を硬く握って言う。

 そんな彼女にエンペライザは

 

「また何かあったら来てくださいね」

 

 柔らかい微笑みで見送った。




お読みくださり、ありがとうございます。

やはり勝負服とかのデザインを考えるのは楽しい!

次回もお楽しみに!
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