ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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68話〜その前に〜

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

 1月29日。

 京都レース場。

 

「行けー! ウインドー!」

 

 諒太はこの日のデビュー戦に出走しているソングオブウインドの応援に来ていた。

 ダート1800mのデビュー戦。

 

 果たしてその結果は……

 

 

 

「惜しかったな。でも次は勝てるって!」

 

 1と1/4バ身離されての2着だった。

 37秒1という上がり3ハロン最速のタイムを出すも、スタートから彼女の前を走っていたシロキタベガを捉える事ができなかった。

 

 でも良いレースをできたとは思っている。

 次はきっと勝てるだろう。

 そう思いながら諒太は彼女と共に帰路に着くのだった。

 

 

 

「って事でだ。ドバイ行く前にフェブラリーステークス行くぞ」

 

 フェブラリーステークス。

 その名の通り2月に行われるレースで、今年は19日に行われる。

 ダート1600mのGⅠレースで、東京レース場で開催される。

 去年と一昨年にも出ているが8着と15着という結果に終わっている。

 

 ゴドルフィンマイルと同じ距離で左回り。

 前哨戦としては良いかもしれないと文三が判断したのだ。

 それに対してユートピアから異論は無い。

 新調した勝負服を着ての走り心地を確かめたいというのもあってか、ドバイ前にどこかで走っておきたいと思っていたのだ。

 

「2ヶ月連続でのレースになってすまないが。行けるか?」

 

「大丈夫。行けますよ」

 

 と文三に返すユートピア。

 

「そうか。なら頑張れよ」

 

 と背中を押すのだった。

 

 

 

 場所は変わってとある喫茶店。

 そこで泉助は取材メモを見返していた。

 

(にしても中々絞り込めんな……)

 

 メモを見ながら思い出すのは先日の話。

 ハーツに海外に一緒に来いと言われた事だ。

 その翌日から彼は、ドバイワールドカップミーティングに出るメンバー特集を組もうとしていたのだが

 

(うーん……)

 

 難しかった。

 日本でジャパンカップが行われる際は海外から日本に来てくれるので取材もやりやすいが、今回は海外のレースだ。

 海外に世界中から集まる以上。

 出走メンバー全員に取材する事は困難だった。

 

 ならば

 

(来月まで待って日本勢特集を組む……それが一番現実的か?)

 

 いやいや

 

(むしろ予想出走メンバー特集みたいにするか?)

 

 と考えて

 

(ま、来月になったら海外のメンバーも分かるか)

 

 という答えに行き着くのだった。

 

 

 

 月は変わって2月。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 

「オォォォォォッ!」

 

 ユートピアはハーツと併走をしていた。

 ウッドチップが敷き詰められたコースを走る二人。

 その様子はレース本番さながらだった。

 

「あまり飛ばし過ぎてへばるなよー」

 

 と、思ってもない事を言う文三。

 文三としてはこの程度でへばる二人でないと分かっている。

 だがこう言う事で多少セーブさせ、他にも走っているウマ娘に注意を向けさせようと思っていたのだ。

 練習をしているのは彼女達だけではなくないのだから。

 

 だが無理もないだろう。

 フェブラリーステークスと海外遠征を控えるユートピア。

 同じく海外遠征を控えるハーツ。

 この状況で練習に熱が入らないと言われたら困り物だ。

 

(さて、この後は……)

 

 これからの予定を確認していると、ジャージに着替えたアルフォンスが走って来る。

 

「お、遅くなりました〜」

 

「いや、良いタイミングだ。ハーツの方は頼むぞ」

 

「はい! 任せてください!」

 

 そんな二人の元へ、ちょうど走り終えた二人が合流した。

 

 

 

「京都記念、ですか」

 

「あぁ。どうだ?」

 

 とエンペライザに尋ねる諒太。

 京都記念とはその名の通り、京都レース場にて行われるGⅡレース。

 芝2200mの右回りである。

 

 今年はフェブラリーステークスの前日である18日の土曜日に開催予定となっている。

 

 シニアクラス一発目。

 GⅡレースではあるが、今のエンペライザなら問題無いと諒太は思っていた。

 戦績は13戦1勝だが掲示板入りした回数は12回。

 3着以内は8回。

 しかもその8回の内の1回は香港ヴァーズである。

 

 皐月賞2着。

 ダービー3着。

 菊花賞4着。

 三冠レースを落としはしたが、その全てで掲示板入りを果たしているのだ。

 

 決して実力が無いわけではない。

 これから伸びて来るだろう。

 そう判断しての京都記念だ。

 

 ただシニアクラスレースという事もあり、先輩達とも走る事になる。

 今まで走って来たレースよりも高いレベルが要求されるだろう。

 だがそこも心配していなかった。

 

 というのもすでに海外レースを走っている彼女。

 海外のではあるが、先輩ウマ娘とすでに走っているのだ。

 国は違えど雰囲気は分かっただろう。

 

 それに海外で2着という結果を出している。

 2バ身ちょっと離されはしたが、それでも2着だった。

 その結果からエンペライザの将来が楽しみな諒太。

 

 彼としては春は3月の日経賞や4月の産経大阪杯を考えていた。

 春天も考えてはいるが菊花賞での結果を踏まえるとまだ様子見。

 

 春天の距離はその菊花賞よりも200m長い3200m。

 今の所エンペライザが走った中で最長距離なのは菊花賞。

 その時の結果は4着だった事もあり、行けるとは思っている。

 が、菊花賞とは違ってシニアクラスの先輩ウマ娘も出走するため、少し慎重になっていたのだ。

 

「そうですね。出ようと思います」

 

「分かった。登録の届けを出しておく。大丈夫。お前なら勝てるって」

 

 とエンペライザの肩を軽く叩く諒太。

 

 

 

 そして

 

(さて、と……)

 

 部室に戻った諒太はエンペライザ以外の担当の予定を考えていた。

 

 デビュー戦2着だったソングオブウインドの次走。

 前走あけび賞を見事勝ち、デビューから2連勝のファイングレイン。

 他にもデビューを目指すレジネッタ、ウオッカ、ディープスカイ、アサクサキングス、レッドディザイアのトレーニングメニューを考えねばならない。

 

 やる事は多い。

 だがやらねばならない。

 自分を信じてこのチームに入ってくれたのだ。

 

 ならばその信頼に応えねばならない。

 

 エンペライザだけを見るわけにはいかない。

 

(各々のトレーニングメニューはこれで良いとして……)

 

 悩むのはソングオブウインドの次走だ。

 まだ勝っていない彼女の次走は未勝利戦となる。

 問題はどこのタイミングで出すかだ。

 

 ファイングレインは2月12日のきさらぎ賞に登録している。

 初重賞レース出走である。

 

 このまま勝って3勝目を取りに行く。

 無敗での3勝がかかっている事もあり、ファイングレインのモチベーションは高い。

 

 そしてソングオブウインドの未勝利戦だが

 

(デビュー戦の走りは悪くなかった……ならあまり期間を空けない方が良いか?)

 

 期間を空けてその時の走りを忘れない方が良いだろうかと考える諒太。

 

 同じ日とは京都記念の開催日である2月18日。

 その日に行われるレースは京都記念だけではない。

 もちろんその日にも未勝利戦は行われる。

 

 その名の通り、まだ勝てていない子達が出る未勝利戦。

 デビュー戦で勝てなかった子の他に、未勝利戦で勝てなかった子も出る。

 全員が勝利を目指して出走する。

 

 ソングオブウインドも同じだ。

 彼女も初勝利を目指してトレーニングに励んでいる。

 

(気合。入れねぇとな)

 

 そう思いつつ窓の外を見る諒太。

 外からは、夢に向かって励む生徒達の掛け声が聞こえた。

 

 

 

 その頃。

 

(やっと走れる)

 

 トレーニング用コースに立つ一人のウマ娘。

 

 彼女の名前はブラックタイド。

 ディープインパクトの姉である。

 一昨年の皐月賞の後に屈腱炎を発症し、療養離脱していたのだ。

 その療養を終え、リハビリを終え。

 やっと練習の許可が降りたのだ。

 

(長かったな……)

 

 走れない日が続いたが、決して退屈な日ではなかった。

 妹のレースを現地に行って応援したりもした。

 三冠達成ももちろん現地観戦した。

 有マ記念も見た。

 あの敗北を彼女は姉として、良い勉強になっただろうと思っていた。

 勝ちからは得られない、負けからしか得られない事もあると思ったからだ。

 

(さて、と……)

 

 軽く準備運動を済ませ、コースを走るタイド。

 久しぶりの走り。

 足から伝わる芝の感触。

 頬を撫でる風の感触。

 

 ブランクの長さから療養前の走りからはほど遠い。

 それでも

 

(あぁ……良いな)

 

 彼女はそう思いながら走った。

 

 

 

「だいぶ良い走りをするようになって来たな」

 

 2月のある日。

 諒太はウオッカの走りを見ていた。

 デビューを目指す彼女。

 トレーニングを始めた頃は良くも悪くも普通だと諒太は思った。

 

 が、それが間違いだとすぐに気付かされた。

 練習を行う度に彼女はぐんぐんと成長していった。

 キレのある走りを見せるようになったウオッカ。

 

 そんな彼女は同チームのウマ娘だけでなく、他チームではあるがデルタブルースやハットトリックといった先輩ウマ娘と併走をする事もあった。

 

 それほどまでに高い素質を秘めており、すでにその頭角を現し始めていた。

 

 その走り。

 様子を見て諒太は夏頃にはデビューできるだろうと考えていた。

 

 そんな彼が見守るウオッカの姿を見る子がいた。

 室内トレーニング場での予定を終え、プールへ移動中だった彼女はふと足を止めてウオッカの姿を見ていた。

 

 運命的ななにかを感じつつもプールへと歩き出す彼女。

 彼女の名前はダイワスカーレット。

 ダイワメジャーの妹である。

 

 そしてスカーレットの姉であるダイワメジャーはというと

 

 

 

「トレーナー。ちょっと休むよー」

 

「分かった。それじゃ……15分ぐらいで良いか?」

 

「オッケー」

 

 練習用コースから出てタオルで汗を拭き、ドリンクを飲むダイワメジャー。

 彼女は彼女で2月26日に行われるGⅡレースの中山記念を目指してトレーニング中だった。

 

 GⅡだろうと関係ない。

 出るレースは全部勝ちに行く。

 その意気で練習に励んでいたメジャーは

 

「良い風だね〜」

 

 木陰で横になっていた。

 

 頑張る時は全力で頑張り、休む時は全力で休む。

 今は全力で休む時だと言うように、メジャーは気持ち良さそうにしていた。

 

 そんな彼女の耳には

 

「まだまだァァァッ!」

 

「ま、待って師匠……は、速、い」

 

 併走中のハーツクライとワンアンドオンリーの声が聞こえた。

 さらにそこに

 

「私もいるんだけどね!」

 

 ユートピアも加わる。

 

(おーおー。やってるねぇ)

 

 賑やかな声を聞きながらの休憩。

 そんな平和な時間と疲労が合わさり、うとうとし始めた彼女はそのまま欠伸をして眠り始める。

 

 そんな彼女を

 

「全く……仕方ないな」

 

 トレーナーの雅弘は少し寝かせてあげる事にするのだった。

 

 

 

 こうして2月も進んでいく。

 

「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ドバイを目指すハーツとユートピア。

 

 

 

「ここからぁぁぁっ!」

 

 京都記念を目指すエンペライザ。

 

 

 

「次は負けない……」

 

 阪神大賞典を目指すディープインパクト。

 

 

 

「早く走りたいのに……」

 

 1月の日経新春杯後に骨折が発覚し、療養中のアドマイヤフジ。

 

 

 

「天皇賞では負けない……」

 

 目指すは菊花賞でのリベンジ。

 だがその前にまずは産経大阪杯での勝利を狙うアドマイヤジャパン。

 

 

 

「必ず咲いてみせる」

 

 目指す中京記念で重賞2勝目を狙うローゼンクロイツ。

 

 

 

 それぞれの想いを胸に。

 彼女達は走り続けるのだった。

 

 

 

「にしても……」

 

「あ、起きたか」

 

「うん。賑やか過ぎる」

 

 そして彼女達のやる気に満ちた声でメジャーは起き、練習に戻るのだった。




お読みくださり、ありがとうございます。

次回もお楽しみに!
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