2月12日の京都レース場。
良バ場のなか、きさらぎ賞が行われていた。
距離1800m。
右回り。
芝のGⅢレース。
今回出走しているのは12人。
1枠1番 ドリームパスポート
戦績 5戦1勝
前走 京都ジュニアステークス 2着
2枠2番 アドマイヤメイン
戦績 5戦1勝
前走 ホープフルステークス 4着
こちらのホープフルステークスは中山レース場開催のOPレースの方である。
3枠3番 ディープエアー
戦績 7戦2勝
前走 シンザン記念(GⅢ)5着
4枠4番 マイネルスケルツィ
戦績 4戦1勝
前走 ホープフルステークス(GⅠ)9着
こちらは阪神レース場開催の方である。
5枠5番 クラフトミラージュ
戦績 3戦1勝
前走 未勝利戦 1着
5枠6番 フュノンガルウ
戦績 9戦1勝
前走 若竹賞 3着
6枠7番 メイショウサムソン
戦績 7戦3勝
前走 中京ステークス 1着
6枠8番 ケンブリッジレーザ
戦績 3戦1勝
前走 こぶし賞 6着
7枠9番 グロリアスウィーク
戦績 5戦2勝
前走 シンザン記念(GⅢ)2着
7枠10番 タニノベリーニ
戦績 9戦1勝
前走 未勝利戦 1着
8枠11番 アスタートリッピー
戦績 3戦1勝
前走 白梅賞 2着
8枠12番 ファイングレイン
戦績 2戦2勝
前走 あけび賞 1着
この12名が走る。
(ッ! このっ、このぉっ!)
後方に位置取り、前を追うファイングレイン。
だが
『ドリームパスポート! ドリームパスポートが来たぁ!』
メイショウサムソンの内からドリームパスポートが前に出る。
芝を蹴り上げながら追いかけるファイングレイン。
だが伸びない。
1200mのデビュー戦。
続くあけび賞は距離を1600mに延長して勝てた。
そして今回はさらに距離を200m延長して臨んだ。
その結果は
「クッソォォォォォッ!」
8着でのゴールだった。
1着はドリームパスポート。
2着は半バ身差でメイショウサムソン。
3着は半バ身差でマイネルスケルツィ。
ドリームパスポートがメイショウサムソンを猛追。
最終直線で差し切っての勝利だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
苦しそうな表情で掲示板を見上げるファイングレイン。
そこに自分の番号は載っていない。
(これが、GⅢ……これが、重賞)
3戦目にして初挑戦した重賞レース。
そのレベルに驚愕すると同時に
(やべぇ……)
彼女は
「楽しいなぁ……」
牙を剥くように。
そして楽しそうに。
笑った。
場所は変わってトレセン学園。
京都から戻って来て諒太は早速今日の振り返りをしていた。
(距離が合わなかったか?)
2バ身半差をつけて勝った前走と同じ京都レース場だったが今回。
調子は良かったはずだ。
バ場状態も前回と同じ良だった。
ならば敗北の原因は距離適性だろうかと考えるが、まだこの距離は初めて。
そう判断するのは早いだろうかと考える。
もう1回この距離を走らせてみるか。
それとも距離を戻すか。
選択肢としてはこの2択だろう。
どちらを取るか。
今回は距離に慣れていなかったから負けた可能性を考慮して前者を取るか。
それともここで距離を戻して短距離路線に完全に切り替えるか。
(どうすっかなぁ……)
12人中8着。
7着のクラフトミラージュに1と1/4バ身差をつけられている。
(やっぱ相談するのが良いか)
そう考えながら次の事に頭を切り替える。
翌週の土曜日。
2月18日に行われる京都レース場で行われる未勝利戦と京都記念。
未勝利戦にはソングオブウインド。
京都記念にはハヤテエンペライザが出走する予定である。
今回の未勝利戦はデビュー戦と同じ京都レース場。
バ場も同じダート。
距離も同じ1800mである。
そして京都記念は距離2200mのGⅡレース。
バ場は芝。
そこからシニア期始動となる。
GⅢではダービー卿チャレンジトロフィー。
GⅡでは金鯱杯、産経大阪杯にマイラーズカップ。
GⅠでは春の天皇賞や宝塚記念。
去年よりもレベルが上がったライバル達とのレースが待っているだろう。
だがまずは目の前の京都記念だ。
出走届を出しているメンバーの中には一昨年の菊花賞ウマ娘のデルタブルース。
そのデルタブルースをアルゼンチン共和国杯にて下したサクラセンチュリー。
その他にも先輩ウマ娘が登録している。
どんな走りをするのか。
どんな走りをさせてあげられるのか。
(最後の追い込みだな……)
ソングオブウインドには初勝利を。
エンペライザには2勝目を。
それぞれ取らせてあげたい。
そう思いながら練習メニューを組むのだった。
翌日。
学園内のダートコース。
ユートピアはハーツクライに併走相手をしてもらっていた。
京都記念翌日の19日に行われるフェブラリーステークス。
東京レース場で行われる、距離1600mのダートのGⅠレースである。
出走予定メンバーも実力揃い。
文乃のチームにおり、昨年の神戸新聞杯後からダート路線に転向。
転向直後から2戦2勝を上げ、前走平安ステークスではアタマ差同タイムの2着。
路線を変えてから調子の良いヴァーミリアン。
前走ジャパンカップダート勝者のカネヒキリ。
昨年フェブラリーステークス2着のシーキングザダイヤ。
東京大賞典2連覇。
昨年の東京大賞典、そして前走の川崎記念にてシーキングザダイヤを抑えて勝利したアジュディミツオー。
前走川崎記念、前々走東京大賞典で3着が続くタイムパラドックス。
昨年フェブラリーステークス勝者のメイショウボーラー。
昨年のジャパンカップダートにてカネヒキリとシーキングザダイヤを相手に1着争いを繰り広げ、3着に入ったスターキングマン。
彼女達以外にも強力なライバルが出るフェブラリーステークス。
出る以上は勝ちを目指すユートピア。
さらに言うと来月行われるドバイワールドカップミーティング。
そこで開催されるゴドルフィンマイルを目指している。
フェブラリーステークスの結果次第ではそれをやめる事だってあるのだ。
世界に挑む。
その前哨戦でもあるのだ。
ハーツも目指しており、出る予定のドバイのレース。
共に行くために。
不甲斐ない結果は出せない。
最低でも掲示板入りは絶対だ。
(それに……)
まだ行けるはずだ。
ここが自分の限界点じゃないはすだ。
そう思いながら、隣を走るハーツに食らいついて行った。
そして時間は過ぎて金曜日。
レースを翌日に控えたエンペライザは、最後の練習を終えて寮へと向かっていた。
すると
「やぁ」
「どうも」
デルタブルースと会った。
相手もジャージ姿なのを見ると、どうやら練習上がりのようだ。
デルタブルース
ハーツクライの同期であり、現戦績は16戦5勝。
内2勝は重賞レースであり、片方は菊花賞である。
前走の有マ記念は11着だった。
が、掲示板入りをした回数は13回。
16回走って13回入っているのだ。
ちなみにだが同期であるハーツクライの掲示板入り回数は16戦中11回。
エンペライザの場合は13戦中12回である。
そんなデルタブルース。
仕上がりは良さそうだ。
「京都記念に出るって聞いたよ。一緒に走るのは初めてだけれど、楽しみにしているよ」
そう言って歩いて行ってしまうデルタブルースの背中を見てエンペライザは思う。
確かに相手は菊花賞ウマ娘。
強敵である事に変わりはない。
だが、だからと言って意識し過ぎない。
意識はするがし過ぎないようにする。
意識し過ぎてしまえば、そちらに集中するあまり実力を出しきれない。
昨年ディープに勝てなかったのはそれもあるのではないかと考えていたのだ。
だからまずは全力を出し切る事だけを考える。
全力を出して勝つ。
2勝目を上げる。
そしてちゃんと強くなって。
自分も歴史に名を刻むようなウマ娘になってやるのだと。
その思いを胸に。
明日の京都記念へ闘志を燃やすのだった。
そして翌日の京都レース場。
第2レース。
ソングオブウインドが走る未勝利戦が行われていた。
出走メンバーは16人。
1枠1番 ディープヴィート
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 13着
1枠2番 ナムラバビロン
戦績 3戦0勝
前走 妙見山特別 7着
2枠3番 エドノスキー
戦績 1戦0勝
前走 デビュー戦 7着
2枠4番 ソングオブウインド
戦績 1戦0勝
前走 デビュー戦 2着
3枠5番 ファイブアロー
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 3着
3枠6番 ウォークライ
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 5着
4枠7番 アリスマティック
戦績 1戦0勝
前走 デビュー戦 3着
4枠8番 ワイズユース
戦績 6戦0勝
前走 未勝利戦 4着
5枠9番 エーケーリープ
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 11着
5枠10番 ノーブルハーモニー
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 6着
6枠11番 メイショウシャフト
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 2着
6枠12番 ハイコート
戦績 3戦0勝
前走 未勝利戦 9着
7枠13番 セレスダーリング
戦績 1戦0勝
前走 デビュー戦 10着
7枠14番 ルガーナ
戦績 3戦0勝
前走 未勝利戦 8着
8枠15番 アドマイヤミラクル
戦績 2戦0勝
前走 未勝利戦 4着
8枠16番 ボストンキング
戦績 3戦0勝
前走 未勝利戦 7着
全員が初勝利を願って、求めて走る。
16人が目指すのは勝利。
ただ一人にのみ与えられる栄冠。
その勝負の決着は1分54秒でついた。
1着と2着の差はクビ。
スタート直後から前を行ったメイショウシャフトがそのまま押し切る形で勝利。
それを懸命に追いかけ、迫ったファイブアローが同タイムでゴール。
3着にはソングオブウインドが1と3/4バ身差でゴールした。
(……分かっていた。分かっていたさ)
そのレース結果を見て、諒太はスタンドで下唇を噛んだ。
勝つのはただ一人だと。
さらに言えば生涯未勝利という子だっている。
勝てず、夢破れて故郷に帰る子だっている。
デビューすらできない子だっている。
3着だ。
4着のナムラバビロンに3バ身つけての3着だ。
タイムだって1分54秒3。
1着とは0.3秒差だ。
実力はある。
今回だって惜しかった。
そう言える。
でも、でも
(ちくしょう……)
思ってしまう。
(勝てるって、勝たせてやれるって……思ったのに……)
自信はあった。
ソングオブウインドが先頭でゴール板を駆け抜けると。
その姿を思い描いていた。
だが、だが。
ライバルはそれを上回って行く。
(悔しいなぁ……)
担当を勝たせてあげられない自分が不甲斐無い。
そんな諒太に
「大丈夫ですよトレーナー」
エンペライザは言う。
「今日は勝ちますから」
その言葉には、強い想いが込められていた。
午後。
京都記念出走時間が迫った頃。
エンペライザは地下バ道を歩いていた。
今日は勝負服姿では無い。
体操着姿だ。
それでも挑む姿勢に変わりはない。
(数字は変わっていなかった……)
毎朝起きたら必ず水晶を磨く。
その水晶は変わらず1という数字を映していた。
その意味は分からない。
もしかしたら今日のレースで1着を取るのかもしれない。
初めて映した数字は3だったし、そこから2に変わって1になった。
もしかしたら1着を取るレースまでのカウントダウンかもとも思った。
だが今はもう良い。
今集中すべきは目の前のレースだ。
『本バ場入場です』
菊花賞以来。
京都レース場のターフに。
彼女は立った。
今回京都記念に出走するのは10人。
1枠1番 ハヤテエンペライザ
戦績 13戦1勝
前走 香港ヴァーズ(香港・G I)2着
2枠2番 トウショウナイト
戦績 18戦4勝
前走 白富士ステークス 5着
3枠3番 デルタブルース
戦績 16戦5勝
前走 有マ記念(GⅠ)11着
4枠4番 シルクフェイマス
戦績 31戦9勝
前走 アメリカジョッキークラブカップ(GⅡ)1着
5枠5番 ビッグゴールド
戦績 53戦6勝
前走 小倉大賞典(GⅢ)14着
6枠6番 サクラセンチュリー
戦績 22戦7勝
前走 ステイヤーズステークス(GⅡ)3着
7枠7番 ブルートルネード
戦績 19戦5勝
前走 石清水ステークス 1着
7枠8番 タガノマイバッハ
戦績 21戦6勝
前走 平安ステークス(GⅢ)16着
8枠9番 ヴィータローザ
戦績 31戦6勝
前走 中山金杯(GⅢ)1着
8枠10番 マーブルチーフ
戦績 27戦3勝
前走 日経新春杯(GⅡ)4着
今回エンペライザが一番年下であり、他のメンバーは彼女より先にシニア入りしている。
経験豊富な先輩を相手にするのだ。
もちろん緊張はする。
だが
(……トレーナー)
スタンドにいる諒太を見て。
未勝利戦で敗れた後輩を見て。
(見ていて……)
ゲートに向かいながら
(私の走りを)
集中力を高めた。
ゲートインが始まった頃。
トレセン学園のエンペライザの部屋。
その窓辺に置かれた水晶玉。
1という数字を映し、彼女に見せた水晶玉。
窓から差し込む陽光が照らしている。
毎朝大事に磨かれているのだろう。
その表面には汚れひとつ無い。
その水晶の表面に。
なんの前触れもなく。
小さな傷が走った。
ゲート入りがスムーズに終わり、ゲートが開いて京都記念は始まった。
ブルートルネードとデルタブルースが出遅れるもエンペライザは良いスタートを切った。
1枠1番と最内枠からスタートした彼女はいつも通り後方にポジショニング。
スタンド前を駆け抜けて第1コーナーへ。
先頭に立ったタガノマイバッハがレースを引っ張り、あっという間に第2コーナーから向こう正面へと抜ける。
(凄い……これが先輩)
スタートで出遅れたデルタブルースの右前を走りながらエンペライザは思った。
後ろから3番手。
内側を走りながら自分のペースで走る。
前を行く先輩達。
上り坂に入っても落ち着いている。
そんな先輩の背中を追いかける。
数多のレースを駆け抜けて来た先輩。
同じレースを走るライバル。
自分よりも圧倒的に経験豊かな相手をどう攻略するのか。
レースは坂を下って佳境に入った。
『坂を下って来て。第4コーナー回って直線! 先頭はマーブルチーフか! マーブルチーフだ!』
マーブルチーフ先頭で最終直線へと入る。
それを追いかけるのはシルクフェイマスとサクラセンチュリー。
芝が舞って。
土が舞って。
マーブルチーフを2番手で追いかけるシルクフェイマス。
その猛追から懸命に逃げるマーブルチーフ。
その二人を3番手の位置から交わすタイミングを伺うサクラセンチュリー。
前を行く二人の意識が自分から逸れるのを待つ。
そのタイミングは必ず来る。
その時に
(差し切る!)
そして勝つ。
だが
『追い上げて来たハヤテエンペライザが! 4番手から3番手を伺う!』
大外から来た。
いや、来たと言う言葉では緩い。
では猛追か。
いや違う。
「舐めるなよ。私は」
言うならば
「史上最強の、1勝ウマ娘だぞ!」
大外からの強襲だった。
史上最強の1勝ウマ娘。
未勝利戦しか勝てていない彼女。
だがその後のレースの結果から、ファンやマスコミは彼女をそう呼んだ。
最強。
そう言われても彼女は素直に喜べなかった。
だって最強ではないから。
最強とは文字通り、最も強い者の事だ。
自分が勝ったのはデビュー戦後の未勝利戦だけだ。
その自分のどこが最強だと言うのか。
そう思っていた。
確かに彼女の戦績は13戦1勝。
未勝利戦の次走であるデイリー杯ジュニアステークスでは8着だった。
だが、それ以外の全てのレースで掲示板に食い込んでいる。
さらに言えば8回は3着以内。
2着だった皐月賞は12番人気。
3着だったダービーでは7番人気。
4着だった菊花賞は2番人気。
クラシック三冠レースでは勝てなかったが、その評価をひっくり返して見せた。
故に付けられた。
史上最強の1勝ウマ娘。
もしデビューがあと1年ズレていたら結果はちがったかもしれない。
もしかしたら勝利数を増やせていたかもしれない。
そう言うファンもいた。
だが、そう言わせてしまう事が申し訳なかった。
自分が勝てていたらそんな事を言わせないで済んだのに、と。
だが。
だがそんな自分を。
ファンのみんなは応援してくれた。
今もそうだ。
大歓声の中に確かに聞こえる。
自分を応援する声が。
耳に届く。
そんな声を聞かされたら
(頑張るしか、ないじゃないか……)
そう、サクラセンチュリーを外から追いかけながら思っていた。
そして
「舐めるなよ。私は。史上最強の、1勝ウマ娘だぞ!」
ここだというタイミングでスパートをかける。
サクラセンチュリーが前を行くマーブルチーフに仕掛けるタイミングで。
自分も動く。
『サクラセンチュリーとハヤテエンペライザが追い込んで来た! ハヤテエンペライザ追い込んで来る!』
「くっ! 行かせるものかぁ!」
内で粘るサクラセンチュリー。
そんな彼女を追い抜かんと歯を食いしばるエンペライザ。
マーブルチーフも懸命に逃げるがじきに捕まるだろう。
先頭争いは、まだ先頭に立っていないのにこの二人に絞られた。
(負けられない……負けたくない!)
地を踏み締めて。
横を走るサクラセンチュリーと競い合うエンペライザ。
まだややサクラセンチュリーの方が前だ。
このまま行けばギリギリで彼女が勝つだろう。
(くそっ……また。また)
負けるのか。
自分はやはり勝てないのか。
届かないのか。
そう思ってしまう。
そんな時だった。
「エンペライザァァァッ!」
諒太が。
「せんぱぁぁぁぁぁい!」
ウオッカが。
「負けるなァァァッ!」
「行けェェェッ!」
「差せぇ! 差せぇ! 差し切れぇ!」
ファイングレイが。
ソングオブウインドが。
レジネッタが。
「がんばれぇぇぇっ!」
ディープスカイが。
「もう少し! もう少しぃぃぃっ!」
アサクサキングスが。
「届けぇぇぇっ!」
レッドディザイアが。
エンペライザのチームから。
声の限りの応援が耳に届く。
(……あぁ、もう)
薄く。
笑う。
(そんな事言われたら……)
前を見る。
前だけを見る。
力強く。
ゴールではなく、その先を見て。
(頑張らないとなぁ!)
彼女はその時。
その一瞬。
自分の限界を超えた。
(ッ!? 落ちないだと!?)
「うおぉぉぉぁぁぁっ!」
落ちるどころかさらにスピードを上げるエンペライザに驚愕するサクラセンチュリー。
走る前に相手の情報は調べていた。
相手が世代最強のディープインパクトとはいえ、1勝だけのエンペライザ。
戦績から実力はあるのだろう。
だが勝ちきれない。
そう分析していた。
だから
(侮ったつもりはなかった)
だが
(油断したつもりもなかった)
だが
(なんで、そこにいる!?)
現実は違った。
追いつかれ、並ばれ。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
そのまま二人。
並んでゴールを駆け抜けた。
結果は。
1着 ハヤテエンペライザ
タイム 2分13秒5
上がり3ハロンタイムは本レース最速の35秒3。
2着 サクラセンチュリー
タイム 2分13秒5(ハナ差)
彼女の上がり3ハロンタイムは2番目に速い35秒5だった。
3着 マーブルチーフ
タイム 2分13秒6(3/4バ身差)
彼女の上がり3ハロンタイムは4位タイの36秒だった。
その日史上最強の1勝ウマ娘は2勝目を。
そして重賞初勝利を上げた。
その様子に。
ゴールした彼女の背中を見て。
(次は私が勝つ……)
(いつか俺も!)
後輩やチームメイト達はそう思うのだった。
こうして京都記念は幕を下ろし、エンペライザはウイニングライブで二度目のセンターをやるのだった。
場所は変わってトレセン学園。
生徒寮のエンペライザの部屋。
その窓辺に置かれ、1を映していた水晶玉。
それはエンペライザがゴールした時に二つに割れ、何も映さなくなっていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
……次回も、お楽しみに。