「うおぉぉぉぉぉっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
ドバイへの出立が近付いたある日の放課後。
練習用のダートコースでハーツクライはユートピアと併走をしていた。
ただし普段の仲良し雰囲気はどこへやら。
本番レースでライバルに向ける闘争心剥き出しで走る二人。
前走、前々走と掲示板入りを果たしているが、勝ちから遠のいているユートピア。
海外とはいえ今回のレースは左回りの1600m。
彼女があげた7勝の内4勝が同じ距離であり、5勝は左回り。
得意な条件が整っていると言って良いだろう。
故に彼女の気合の入りようも凄まじい。
(ここで!)
本番に向けて仕上げに入る時期。
併走相手は後輩だが世代最強と言われたディープインパクトを下したハーツクライ。
「ヤァァァァァッ!」
ギアを上げてスパートに入る。
そんな彼女を
「ハッ、行かせるかよ!」
ハーツクライもギアを上げて並ぶ。
全力で走る二人。
遠い彼の地で勝鬨を上げるために。
二人は時間ギリギリまで走り続けた。
「作戦は決まったか?」
翌日の夜。
とある居酒屋。
ドバイ出立前日会見を控えた文三は、アルフォンスにそう尋ねていた。
「えぇ。まぁ」
そう自身ありげに返しながらポテトサラダを食べるアルフォンス。
「……ハーツの様子はどうだ。ちゃんと集中できているか?」
そう尋ねながら焼きシシャモを食べる文三。
「ハーツですか?」
ポテサラを食べながらアルフォンスは練習の時の様子を思い出す。
「……そう、ですね。集中しているようには見えましたが」
「そうか。いやな……有マでの事があるからな」
世代最強と言われ、無敗の三冠を達成したウマ娘。
そして四冠達成がかかっていたディープインパクト。
彼女を下したハーツクライ。
「俺が言っておいてなんだが、結果次第じゃ」
有マはまぐれと言われるだろう。
現に今なお一部からはまぐれ勝ちだと言われている。
今まで追い込みだったスタイルを先行に変えての奇策勝ちだと。
だから次で下手な走りをすれば、その一部はそれ見た事かと来るだろう。
「文三さん」
だがそんな彼にアルフォンスは言う。
「彼女なら大丈夫です」
コースを走る彼女の姿を思い出しながら続ける。
「私は彼女を信じています」
「……そうだな。俺達が信じないでどうすんだって話だな」
そう言いながら文三は笑って続ける。
「よーっし! 今日は飲むぞー!」
もちろん。
次の日に響かない程度に飲むのだった。
そして翌日。
ホテルではドバイのレースに出走するメンバーの会見が開かれていた。
アグネスジェダイ
アサクサデンエン
ガブリン
カネヒキリ
スターキングマン
ハーツクライ
ハットトリック
フラムドパシオン
ユートピア
の9人全員が勝負服姿で席に座っている。
蛍光イエローの石がはめ込まれたシルバーの耳飾りを右耳につけたアグネスジェダイ。
鹿毛色の髪に丸っぽい形の流星。
その勝負服は白いコート。
ファスナーの金具は水色のリングが二つ連なっている。
ファスナーの他にも裾先にも同じく水色のリングが飾りとして取り付けられている。
コートの下にはフード付き袖無しの黄色のパーカー。
スキニーの赤パンツの左脚には付け根から裾に向かって水色の二重螺旋が描かれている。
そして赤いショートブーツの紐は右足から水色で左足が黄色になっている。
その隣に座るのアサクサデンエン。
栗毛の髪に菱形の流星。
右耳には黒のリングタイプの耳飾りを三つ着けている。
勝負服はピンク色のマフラーにピンクのニット帽。
白の袖無しダウンジャケットを羽織り、その下にはピンクのシャツ。
明るいグリーンのホットパンツ。
黒のショートブーツ。
ガブリンは茶色のトレンチコートに茶のハットを被っており、開けた穴から耳を出している。
その右耳にはサメの顎の化石のような、獣の顎の化石のような、鋭い牙が並ぶ耳飾りを着けている。
ハットからは鹿毛色の髪と丸く小さめの流星がチラリと覗いている。
また穏やかな顔もあってか大人びた雰囲気を感じる。
栗毛の髪に細く長めの流星を持つカネヒキリ。
右耳にはX字に区切られた菱形の耳飾り。
右上と左下が青、左上と右下が黄色で塗られている。
その勝負服は黒のタキシードスーツ。
その袖のボタンは右袖のは黒と黄、左袖のは黒と青となっている。
着ているシャツも薄っすらと青みを帯びたものになっている。
腰からは青と黄の境目がギザギザ模様になった布を垂らしている。
短めの栗毛に小さめの流星が入っているのはスターキングマン。
右耳には白い星型に白い房が付いた耳飾り。
そんな彼女の勝負服は丈の長い学ランスタイル。
その左裾には白い星が五つ描かれている。
左袖には白い腕章が取り付けられている。
黒のロングコートを着たハーツクライ。
青鹿毛の髪のハットトリックは左前髪の一部を三つ編みにしている。
その右耳には背中合わせにした二つの3でTを挟むデザインの耳飾り。
その勝負服はグリーンのシャツの上に丈が短い白のジャケット。
二の腕には長めの赤い革バンドが締められており、先がヒラヒラしている。
白のデニムジーンズを履いているが、裾は根本からバッサリ切られている。
靴はグリーンのラインが2本、グルッと入った白のロングブーツ。
フラムドパシオンは芦毛の短髪。
その右耳には赤い炎を包み込むように激しく燃え上がる白い炎を模した耳飾り。
毛先に行くに連れて美しい白の髪。
そんな彼女だが、口元を隠すように黄色のラインが2本入っている黒のマフラーを締めている。
彼女の勝負服は黒のセーラー服。
襟の部分には赤いラインが入っており、リボンを通す所は赤のX字。
その上から黒のコートを羽織っている。
そして最後に黒の袖なしロングコートに着物風セーラー服のユートピア。
ズラッと並ぶ光景はまさに圧巻の一言に尽きる。
司会による紹介が終わり、各々が意気込みを話していく。
それぞれベストを尽くす、勝ってみせるといった内容である。
「では続きまして。昨年の有マ記念覇者のハーツクライさん。お願いします」
「俺は……」
マイクに向け、口を開きながら彼女は思い出す。
あの日の事。
ダービーの時に追いかけた背中の主が見た景色。
それを自分も見た。
多くの者が望みながらも立つ事叶わず見れぬ景色。
共に走った
最強を下して見た景色。
最強に勝った自分は何者だろうか。
ダービーを共に走ったコスモサンビームは2月に行われた阪急杯で胸に違和感を感じ、最終直線で自らレースをやめた。
その後の検査で心臓に疾患が見つかり、トゥインクル・シリーズを引退。
同じくダービーを走ったアドマイヤビッグも復帰していたが成績が振るわず、昨年の7月に引退していた。
その他にダービー後に故障していたキョウワスプレンダ、フォーカルポイント、マイネルデュプレ、ヴンダーは復帰して走っている。
共に最強の大王の背を追いかけた仲間に、今の自分は最強だと言えるだろうか。
「……俺は」
言えないのなら
「有マに続いて」
言えるように
「海外GⅠも取る。そして」
なれば良い。
世界の頂に立つ。
そうすれば胸を張って最強を名乗れるかもしれない。
少なくともあの日、共にダービーを走ったライバルには言えるだろう。
そのために
「誰もが認める最強になって帰って来る。絶対に」
そう宣言した。
(やるやんけやるやんけ! 文三さんとこの!)
その会見を見ていた藤井泉助は胸の昂りを感じていた。
当人から名指しで現地に来いと言われていた彼。
出立の支度をしつつ会見を見ていたが、こうも言われた記者魂に火が点くというものだ。
(バッチリ撮ったるからな!)
愛用のカメラを撫でながら、ニイッと笑みを作るのだった。
そしてその会見をディープインパクトも見ていた。
(ハーツクライ先輩……)
あの日の敗北で気を引き締めた彼女。
そんな彼女はこの日阪神大賞典に出走し、2着相手に3バ身半差をつけて勝利を納めていた。
先輩相手でも通用する走りを見せた彼女の次の目標は春の天皇賞。
目指すはシニア2勝目。
そしてハーツクライへのリベンジだ。
(その時まで負けないで下さいね。先輩)
そう思いながらテレビを見ていた。
翌日の放課後。
(……そろそろ良いかもな)
部室で一人。
諒太が見ているのはウオッカのトレーニングの様子の映像。
ファイングレインとソングオブウインドと共に併走をしているが、二人に引けを取らない走りをしている。
その様子から、早ければ数ヶ月以内にはデビュー戦に出られるだろうと考えている諒太。
他にもレジネッタ、ディープスカイ、アサクサキングス、レッドディザイアもデビューを目指して頑張っている。
その中でもアサクサキングスも今年中にデビューできるかもと考えていた。
ただそうなると大変だ。
すでにデビューしているソングオブウインドにファイングレイン。
そこにさらに二人加わるのだ。
スケジュール管理も大変になってくる。
(……まぁ、エンペライザも手伝ってくれているし)
先日、屈腱炎にて引退したエンペライザ。
彼女は彼女で新しい道を見つけており、将来は後進育成に携わりたいと考えていた。
そのため諒太のもとに残り、勉強する事にしたのだ。
おかげでだいぶ楽ができている諒太。
チームのメンバーも知った相手にサポートしてもらえるため、変に緊張せずに済んでいるようだ。
また諒太は諒太で作業が減った分、次のクラシック戦線での注目ウマ娘を調べていた。
一人は奈瀬文乃のチームに入ったアドマイヤオーラ。
菊花賞では惜しくも2着だったアドマイヤジャパンの妹である。
次は北原のチームにいるフサイチホウオー。
同じく北原のチームに所属するダイワスカーレット。
秋の天皇賞にてシンボリルドルフを下したギャロップダイナと同じチームに入ったスクリーンヒーロー。
宝塚記念にてハーツクライを下したスイープトウショウと同じチームに入ったドリームジャーニー。
他にもいるが、諒太はこの5人を警戒していた。
(来年も楽しみだな)
そう思いながら窓の外を見る。
窓からは、外で走る子達の足音が聞こえた。
お読みくださり、ありがとうございます。
次回もお楽しみに!