ウマ娘〜想いを背負って繋いで〜   作:にゃんころもち(黒糖)

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8話〜夢と想いを込めて〜

 

 きさらぎ賞を終え、次の若葉ステークスに向けてトレーニングをしながら迎えた3月。

 ハーツは文三と共に服屋に来ていた。

 

「いかがでしょうか。どこか苦しかったりは」

 

「ん〜……特にはねぇかな」

 

 私服ではない。

 トレセン学園の制服でもない。

 レースの時に着ていた体操服でもない。

 

 黄色のインナーに黒のジャケット。

 左の二の腕あたりにブルーのリング。

 黒のパンツ。

 ロングブーツは右足が黒で左足が白。

 

 GⅠレースの時のみ着る、勝負服である。

 今日はそれの調整に来ていたのだ。

 なんせ早ければ皐月賞の時に着るのだ。

 若葉ステークスが終わってからでは時間が足りない。

 

 なので、予め余裕を持って発注していたのだ。

 そして今日は完成品を試着。

 違和感やここをこうして欲しい直して欲しい所の確認に来ていたのだ。

 

「あ、でも……」

 

「どこか気になる所が?」

 

「靴は短い方が良いかな……」

 

 どうやらロングブーツだと走りにくいようだ。

 すると

 

「そうですか。でしたら」

 

 なんと仕立て屋はショートのブーツを出して来た。

 色はロングと同じで、右足用が黒で左足用が白となっている。

 

「これは……」

 

 と思わず尋ねるハーツに仕立て屋は言う。

 

「いえ。ご依頼を頂いた際に、ショートの方も見ていましたのを思い出しまして。もしかしたらと作っておいたんです」

 

 こんな感じが良い。

 こういうデザインが良い。

 そういう発注を受ける際にカタログを見る事もある。

 その際にハーツは靴の欄でショートブーツの事をチラチラ見ていたのを、仕立て屋は見ていたのだ。

 

「ぜひ履いてみて下さい」

 

「あ、あぁ……おう」

 

 勧められ、試しに履いてみるハーツ。

 履き心地は最高の一言しかなかった。

 まるで足と一体化したかのようなフィット感。

 これで走れば最高のレースができるだろう。

 

(すげぇ……)

 

 これを履いて早く走りたいと思ってしまう。

 

「では大きな変更は特に無しで、このまま作業を進めさせていただきますね」

 

「あぁ。よろしくな」

 

 そう言って店を出るハーツ。

 そんな彼女に文三は

 

「着るのが楽しみだな」

 

 と、声をかけるのだった。

 

 

 

 勝負服。

 先ほども言ったが、ウマ娘がGⅠレースに出る時のみ着て走る特別な服。

 専門のデザイナーがおり、それぞれのウマ娘が希望のデザインを提出し、それに則って作成される。

 当然、GⅠに出なければ着る事ができないので、デビューできずに着れないで終わる者もいる。

 そしてその服に込められるのは様々な人の想い。

 

 1着を取れますように。

 最後まで無事に走り切れますように。

 

 そういった想いが、それを着るウマ娘に力を与える。

 中には数着持っている者や、普段着として使う者もいるが、それは極一部である。

 

 そしてここにも

 

「ありがとう。私の理想を形にしてくれて」

 

 自分の勝負服の様子を見に来ていたウマ娘が一人いた。

 どうやら納得いく仕上がりだったらしく、満足そうだ。

 

「じゃあ、またね」

 

 そう言って店を出るウマ娘。

 

(戻ったら今度のレースに向けてのトレーニングして、後は……)

 

 その時だった。

 

「ようキング。お前も仕立てか?」

 

「あら、これはブラックタイドさん。えぇ。今度のマイルカップで着る勝負服の調整を。そちらは?」

 

「俺は今日オフだったからな。ちょっと外にな」

 

 そう言うブラックタイドの手には紙袋。

 中は何だろうかと気になったが、チラッと見えたリボンから誰かへのプレゼントだろうと察したキング。

 尋ねるのは野暮かと言葉を飲み込む。

 

 そんな時だった。

 

「タイドお姉様〜!」

 

 一人のウマ娘が駆けて来た。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

「やぁぁぁぁぁっ!」

 

 場所は戻ってトレセン学園。

 そこではアルティマトゥーレとファルカタリアが練習用コースを走っていた。

 いつか来るデビューの日に向けて、二人とも真剣に走っている。

 

 ほぼ同時に仮ゴールを駆け抜ける二人。

 お互いに相手を見ると、ほぼ同時に走り出す。

 

 いつか来るデビューの日を勝利で飾れるように。

 トレーニングに励むのだった。

 

 

 

 皆、それぞれの目的に向かって走る。

 無事にレースを終えられるようにと願いながら勝負服を作る者。

 夢を叶えられるようにと願う者。

 彼女達の姿を応援する者達。

 

 そんな人達の想いを背負って彼女達は走る。

 

 そして

 

「1着はハーツクライだぁぁぁっ!!」

 

「先頭はブラックタイド! ブラックタイドそのままゴール!!」

 

 3月20日にハーツクライが若葉ステークスで1着を取り、翌3月21日にブラックタイドもスプリングステークスで1着を取り、両者共に皐月賞への切符を手にした。

 

 

 

 そして3月27日。

 阪神レース場。

 キングカメハメハ、毎日杯出走。

 2着に2バ身半の差をつけての1着勝利だった。

 

 その走りを見ていたハーツ達。

 ダービー制覇を目指すウマ娘達は、キングに対する評価を変えていた。

 

「5月が楽しみだ……」

 

 少しずつマークされるなか、キングは静かに呟いた。

 

 そして月は変わって4月。

 世間は皐月賞の事で盛り上がっていた。

 

 

 

「さぁて。ダービー目指して頑張るかァ!」

 

 皐月賞を取り、ダービーも制覇するべく、ブラックタイドは校内のコースを走り

 

「タイドお姉様〜!!」

 

 出そうとした時、彼女に向かって駆けて来るウマ娘がいた。

 その子は先日、ブラックタイドが外で会っていた子だった。

 そんな彼女はこの4月に新入生としてトレセン学園に入学していたのだ。

 

 そんな彼女を見つけたブラックタイドは走ろうとしていたのをやめ相手に向き直る。

 

「お〜、来たか!」

 

 手を振り、笑顔で迎えながらその名を呼ぶ。

 

「ディープ!」

 

 相手の名はディープインパクト。

 ブラックタイドの妹だった。

 

 

 

 その日の夕方。

 デルタブルースは、17日に行われる未勝利戦に向けてトレーニングをしていた。

 

 次の未勝利戦こそ勝ちたい。

 もう4月なのだ。

 ここで勝たなければ、クラシック後半戦のレースに響く。

 

 もちろんそれが自分だけでない事は分かっている。

 同じレースに出る者達からは焦りのようでありながら、執念に近い物を感じる。

 おそらく自分からも出ているのだろうと思いながら走るデルタ。

 

 同室のハーツは先日の若葉ステークスで1着を取り、ブラックタイドもスプリングステークスで1着を取った。

 二人とも順当に皐月賞に駒を進める中、自分は何をしていると思ってしまう。

 

 そんな矢先のキングカメハメハの走りだ。

 危なげなく毎日杯を制し、次はNHKマイルカップ。

 そしてダービーを目指している。

 

 ウマ娘だから分かる。

 異常なローテーションだ。

 

 以前、似たローテーションを組んでダービーに出たウマ娘がいる。

 タニノギムレットというウマ娘だ。

 彼女の場合、皐月賞に出てからNHKマイルカップに出走し、ダービーに出た。

 その結果は皐月賞3着、NHKマイルカップ3着、ダービー1着。

 だがその疲れが出たのか、はたまた限界だったのか。

 秋、左足に屈腱炎を発症。

 全治6ヶ月と診断されたそれは治ってからもレースに戻れるかは不明。

 結果彼女はターフを去った。

 

 一部ではキングもそうなるのではないかと不安視されている。

 だがキングはそんな話どこ吹く風といった様子。

 

「はぁ……はぁ」

 

 一旦休憩と、コースから出るデルタ。

 

(……呑気ね)

 

 そんな彼女の視界に入ったのは、コース脇にある坂。

 青々とした芝で覆われたそこで昼寝をしている一人のウマ娘である。

 

 その彼女をデルタは知っている。

 皐月賞に出走する事が決まっている。

 スプリングステークスでは惜しくも3位だったが、皐月賞への優先出走権を獲得したウマ娘。

 明るい茶の髪、前髪の一部分が幅広めの白に染まっている。

 名前をダイワメジャーと言う。

 

 制服姿で寝ているので、おそらくトレーニングの休憩というわけでもなさそうだ。

 

 そんな彼女を見て呑気だと思ってしまった自分に、余裕が無いと気付くデルタ。

 

(落ち着け……大丈夫。勝てる。次こそ勝てる)

 

 自分に言い聞かせ、先頭でゴールする光景をイメージする。

 勝つイメージができなければそもそも勝てない。

 走り抜けるあの感じを。

 観客の声援を。

 そしてなにより、1着を取って喜んでいる自分を。

 

(イメージしろ……)

 

 休憩を終え、コースに戻る。

 

(私が勝つ光景を……)

 

 目を閉じ、ゆっくり深呼吸をして

 

(ただその光景にたどり着く事だけを、イメージしろ)

 

 目を開けて走り出した。




お読みくださり、ありがとうございます。
今回はちょっと短めですが、楽しんでいただければ……

次回もお楽しみに!
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