神様。今日はハロウィンだ。
私の名前? ……まぁ名も無きモブウマ娘Aとかでいいんじゃないか。
重要な事は、私はハロウィンの怪物を目の前にして硬直しているって事だ。
今、私の前には背の高いワーウルフが居た。知ってる? 狼男とか月見ると変身しちまうヤツ。
それが、私の目の前にいる。
「トリックオアトリート~♪」
うーん。ケモセーフ。
……いや、なかなかレベルの高い仮装だな。薄手の着ぐるみと、顔の辺りは特殊メイクだろうか。
「タイキさん。気合い入ってますね」
そう声をかけると、ふんすと鼻息を鳴らすように、腕を組んでいる。
「イエース。ウェアウルフデス!」
「タイキさんは女性だからワイフウルフでは?」
「ノンノン、ワイフウルフという語は、正しくないデス」
曰く、ウェアウルフ自体に「狼人間」の意に近いから男女まとめてソレでいいらしい。
他国の言語というのはなかなか小難しいが、そういうものなのだろう。
それはそれとしてウェアウルフの仮装は、女性としては大柄なタイキシャトルによく似合っている。
私は自然と、彼女の胸の膨らみに目が行った。……ふわふわだ。
タイキシャトルはそれを見逃さない。
「触ってみマス?」
ニコニコした表情から察するに、ちょっとしたイタズラ心だろう。
私は、ぶんぶんとかぶりを振った。
「着ぐるみ越しとはいえ、他人の胸を触るのはちょっと」
そう答えると、彼女は愉快そうに笑った。
「オウ、sorry。それは失礼シマシタ! てっきり、そういうコミュニケーションがお好みかと……」
……いや、それはまぁ確かに。仲の良い女学生同士で胸を触る子もいるでしょうけれども。それはそういう気心の知れた仲だからこそ、でしょう。
再び、着ぐるみの胸部に視線を落とす。元々タイキシャトルが胸の大きいウマ娘というのもあってか、それを覆う着ぐるみの胸部も、大変ふくよかな実りを誇っている。
ふわふわ。ぽよぽよ。その両方を併せ持つそれは、獣人キャラクター特有の魅力に溢れている。
………………いや……私は、同性をそういう目で見る趣味は……。
私の葛藤を他所に、タイキシャトルは期待のこもった目でこちらを見ている。
「……ヤッパリ触りマス?」
……………………。
あくまで着ぐるみの布地だけを触るつもりで、私は手を伸ばした。
私の指先が、着ぐるみの胸部に食い込む。
新品の着ぐるみ特有の柔らかさ。ふわふわとして、そして毛を指で摘まんでみるとキュッキュと鳴った。合成繊維の感触ではなく、洗い立ての犬猫の毛の感触。
私がそのように胸を触るのを、タイキシャトルは止めなかった。
彼女はニコニコと、満足げな顔をしている。
「ドウデス? ウェアウルフ」
正直言って、実にいい触り心地である。今日一日だけというのが惜しい。
……いっその事思う存分堪能してみようか。思いっきり抱きしめてみたい。
周囲を見回す。自分達以外誰も居ない。
正面に向き直る。キラキラと期待するようなまなざしを向けてくる。大型イヌ娘。もといウマ娘。
背丈がだいたい同じくらいだから、その熱視線が真っ直ぐに注がれる。
「……失礼します」
一応確認を取るような仕草で、タイキシャトルに腕を回し、ぎゅっと力を込めて引き寄せる。
新品の抱き枕か、あるいは風呂上がりから乾燥終わりのゴールデンレトリバーを抱いている感触。
着ぐるみ越しとはいえど、タイキシャトルの体温の熱が、私の体に伝わってくる。暖かい。
……なんだろう。抱いてて心が安らぐ。ひなたぼっこしている時のような、"太陽の匂い"がする。
「bowwow~~」
タイキシャトルは犬のように吠えて、尻尾を振った。
「どうデスか? ウェアウルフの抱き心地は?」
正直、寮に帰る毎に1抱きしたいくらいには気に入った。けど、それをいったら絶対後悔する事になるだろう。たぶん寮に帰る毎に突進を喰らう。
私は名残惜しい気持ちを抱えながら、彼女から身を離した。
「ありがとうございます。堪能しました」
そういって、自分を納得させた。タイキシャトルも満足いったように頷く。
「ハグがしたいなら、いつでも構いませんヨ!」
そういって自らの胸をトンと叩くタイキシャトル。
……いや、まぁ、彼女とハグするのはこの機会限りだろう。彼女のハグは、絵面的にも衝撃的にも刺激が強すぎる。
一応、社交辞令としてこう返す。
「えぇ、タイキさんもハグしたい時があれば私を頼ってください」
タイキシャトルはその返しにひとしきり笑うと、改めて私の目を見つめてきた。
「……トリックオアトリート?」
甘い囁きが聞こえてきて、はたとポケットに手を突っ込み、持ち合わせのお菓子が残っているか確かめた。
しかし。残ってなかった。そういえばウインディちゃんお手製びっくり箱で驚いてる間に全部持ってかれた。
今現在、私はお菓子を持ってきていないのだ。
するとタイキシャトルは、尻尾をわさわさと大げさに動かしてみせる。
「…………トリックオアトリートー?」
彼女の視線と、大型犬が甘えてくる時の声。
――突進ハグの気配。
「待っ