僕/私 と 貴方/貴女 の
甘く、苦く、長いけれど、短い青春。
『ゆーと、もう朝だよ!起きて!』
優しくて大人びたお淑やかな女子の声が頭に走る。そして僕、玖条悠斗はベットから飛び起きる。
シャワーと朝食、身支度を済ませ、仏壇の前に座る。
「遥、おはよう…」
お香を焚き、目を瞑り、手を合わせて。
「…今日で、5年」
目を閉じたまま、僕は深く、深く、思いを馳せた。
これは、僕が高校2年のことだった。趣味はゲームで、友人と深夜まで遊ぶ毎日だった。僕は時間にとてもルーズな性格をしていて、いつも寝坊し学校に日々遅刻するマイペースな生徒だった。そのくせ学校では授業の他にも部活や資格勉強、特に生徒会の議長と多忙な生活だった。
そんなある日、隣に人が越して来た。インターホンが鳴って、ドアを開けて。挨拶に来ていたのは『桐谷遥』だった。頭に電流が流れた気がして、挨拶した時の出来事を何も覚えちゃいなかった。せめて「はい」とか「そうです」とか言えていただろうか。
そこから僕らの付き合いは始まった。登校中の電車の中で内緒話をしたり、家の前まで一緒に並んで帰ったり。お互いがお互いに心配で目を離せなかったんだろう。なにせ僕と遥は真逆だから。
僕はサボりがちで、不真面目で、生徒会で議長なんてやっておきながら、
責任感なんて無くて。成績も中の上くらい。
遥は勤勉で、真面目で、責任感もある。成績はトップクラス。
更には元トップアイドルだったらしい(「知らない」と言った時には少し驚いていた)。
だから僕は遥が心配だった。『いつか倒れてしまうのでは』と。
きっと遥は僕が心配だった。『いつか忘れ去られるのでは』と。
毎日が楽しかった。性格も、通っている学校も、歩く道も、見ている景色も違うけど。
いつも二人揃って歩いていて、一緒にカフェに行ったり(「ゆーとも食べるでしょ?」とスイーツを全種類2個づつ頼んだ上に僕が食べきれなかった分もしっかり平らげた)、ゲームセンターに行ったり(音ゲー以外はてんでダメらしく慌てる姿は可愛かった)、誕生日プレゼントも交換したり(毎年違うペンギンのグッズを渡す度に目を輝かせていた)。
とにかく何をするにも一緒だった。傍から見ればただのカップルだったのだろうけど、当の僕は、
気持ちを伝えようとするとどうしても尻込みしてしまう(多分遥も)。だから、きっと違う。
何年か経って、変わらなくても楽しい日が続いたある日、遥が事故に遭った。頭が真っ白になった。何も考えたくなかった。エンドロールはいつか流れるって分かっていたけれど。
医者が言うには、頭の打ちどころが悪く、即死しないで今も生きていることが不思議らしい。
もって三ヶ月、よしんば治ったとしても植物状態は確実だそうだ。
そこからの日々はひたすらに寂しかった。電車は静かで、歩く音は一人分。
毎日欠かさずお見舞いに行って、手を握って、今日何があったかを伝えて。
気が付けば半年経っていた。奇跡だったのだろう。でも分かっていた。明日には遥が死んでしまうと。もう何もできないと。
次の日、僕は変わらず見舞いに行って、僕の両親と遥の両親が仕事で来れなくなった。
何度も顔を合わせているから、僕の両親も遥の両親も、薄情者でない事は分かっている。
ただ、絶対に外せない仕事が入ってしまった。それだけだ。それだけなんだ。
今日も僕は手を握って、何があったかを伝えて。
スマホの電源を落とすみたいにぷつりと切れた。
さよならはふたりぼっちで、言葉に出すことも出来なくて。それでも伝わっていると信じて。
「―よし。遥、行ってきます。」