そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
『今回のミッション概要を説明しましょう』
AC『scav617MG』、コックピット内。
パイロットシートの上で操縦桿を握り、まぶたを閉じた617の耳に、どことなく嫌味そうな男の声が響いた。
アーキバス所属、ルビコン1第14調査補給基地副長……通信越しに、長い役職名を自慢気に語った男は、今回のミッションにおける617とナインにとっての雇い主。
新作ACパーツの輸送護衛任務を手配してくれた相手だ。
『ミッション・オブジェクティブは、我らがアーキバスの擁する先進開発局が作り上げた新作ACパーツの護送。
第12基地から第14基地へと輸送機でこれを移動する際、あなたにはその護衛をしていただきます。
我らアーキバスの作るパーツは傑作揃い、野蛮なルビコニアン共にとっては喉から手が出る程に欲しいものでしょう。故にこそ、私たちはパーツを移送する際、必ずACでこれを護衛することになっています。
しかし、今回は残念ながら、AC部隊の大半がこちらの話も理解できない野蛮人共の相手をしています。
故に、流れの傭兵であるあなたに白羽の矢が立った、というわけです。
本部も守らず無謀な攻撃をしかけてくる、頭の回らない野蛮人共を蹴散らすだけの簡単なミッションですよ。我らがアーキバスとの繋がりを深くする良い機会、光栄に思うが良いでしょう』
ナインは、617が微かに不快感を覚えたことを検知し、脳内で彼女をなだめる。
しかし彼女の苛立ちもむべなるかな、この数分のやり取りで、通信相手の高圧的で高慢な性格は伺えた。
なるほどどうして、パッチの言う通り「不快でめんどくせぇ」相手らしい。
アーキバスの事情や社風を知っているナインとしては、この世界でもルビコン3のどこかにいるだろう、第二隊長閣下のことを思い出してしまう。
金髪オールバックのクソメガネなV.IIは、今日もストレスに胃を痛めながら、ルビコン3で陣頭指揮を執っているのだろうか。
……さて、自称企業の変態はさておいて。
ナインは、通信の先のアーキバス社員へと応対するために、617の首輪デバイスを起動させた。
『ああ、アーキバスの製品の優秀さは聞き及んでいる。光栄に思うよ、第14基地副長殿。
さて、こちらは流れの傭兵だ、申し訳ないが礼儀作法には疎くてね。あなたさえ良ければ、早速作戦の詳細について伺いたい』
『ふむ、傭兵にしては殊勝な心掛けを持っているようですね。感心感心、野蛮人共にもそれくらいの聞き分けがあれば良いのですが』
どうやら気を良くしたらしいアーキバス基地副長は、こちらにいくつかの情報を送ってきた。
まずは、今回の輸送任務における出発点、目的地、そして経路。
アーキバスのルビコン1第12基地から第14基地までの道。
ここにはこれといった天然の障害はないが、直線上にはルビコニアンたちの大規模プラントがあり、今回のミッションはあくまで輸送なので、それを避けていくことになる。
結果として、経路の距離はおおよそ500km程度。
輸送ヘリの経済速度が大体時速80から100kmなので、補給時間やバッファも含め、おおよそ8時間のミッションと思えばいいだろう、とのことだった。
……と、ここまではナインの下調べ通り。
特に何の文句もなかったのだが……。
問題は、そこからだった。
『ああそれから、今回の作戦ではダミーの意味も込めて、パーツ輸送ヘリに4機の資源輸送ヘリが同行します。
あなたの判断で囮にしても構いませんが、輸送機が落ちた数に応じて報酬は30,000COAMずつ減算しますので、そちらとしても可能な限り残した方が良いのでは?』
『……その話は、概要を聞いた時には知らされなかったが』
『ええ、あの後上の判断で決まったことです。
先日我らが基地で契約を結んだ際、あなたとの仲介を請け負ったというルビコニアンは、快く契約書に名前を書いて約束してくださいましたよ。
……もしも契約を果たせなかった場合、違約金として300,000COAMを支払うこともね。
ミッションなど成功して当たり前、失敗することなどあり得てはいけませんからね。当然の措置でしょう』
『……なるほどね』
「パッチめ、圧力に負けたな」と、ナインは内心歯噛みする。
今回のミッション報酬は100,000COAM。もしも襲撃があって資源輸送ヘリが全て落とされでもすれば、タダ働きどころか大きなマイナス、あちらへの補填をせざるを得なくなる。
それどころか、本体のヘリが落とされてしまえば、報酬は入らずにマイナス300,000だ。
とてもではないが、いきなり輸送機破壊任務放棄パーツ入手、とはいけなくなってしまった。
パーツが300,000以上で売れるのならばそうしてもいいが、その可能性に賭けるくらいなら真っ当にミッションをこなした方が儲かる可能性が高い。
なるほど確かに、パッチの言う通り、ルビコン1のアーキバスは契約を遵守させることを重視しているらしい。
傭兵の自由意志など信じられないと、ガチガチに縛りに来たわけだ。
【…………いいや、違う。逆か】
ナインは首輪デバイスを通すことなく、617の脳内で独り言を漏らす。
むしろ、アーキバスとしてはそれが狙いなのかもしれない。
パッチに対して「みみっちい資金繰り」などと揶揄したナインだが、あるいはこちらの方が酷い可能性が見え始めた。
【……まぁ、6ではごすのおかげでご無沙汰だったが、これも傭兵の常か。
成功すれば有用な傭兵をマークできるし、運び次第ではタダ働きに近い形にできるかもしれない。
失敗した場合は違約金とある程度のタダ働き……いや、俺たちを走狗にして煮るつもりなら、狡猾な兎と後詰めの狩人がいるか。
となるとミッション後は……いや、617ならやれるか?】
『?』
脳内で独り言を漏らすナインに、617は小さく首を傾げた。
* * *
ブリーフィングが行われてから、数時間後。
ナインと617はAC「scav617MG」を駆り、今回のミッション開始地点である、アーキバスの第12基地へと赴いていた。
この惑星もマークしている惑星封鎖機構に見つからないためだろう、峡谷の中に隠すように置かれた基地は、強固な外壁に囲まれており……。
その前には、作戦時間まではそこそこの猶予があるというのに、既に5機の輸送ヘリが並んでいた。
それを確認し、617は先んじて指示された通りに回線を切り替え、ヘリに通信を繋ぐ。
『……こちら、傭兵「617」です。通信状態を確かめるため、応答を願います』
首輪デバイスから言葉を発した彼女の瞳は、青のまま。
つまるところ、ナインではなく、617の発言だった。
ナインと617は、このミッションに挑むにあたって、ある決まり事を作っていた。
それは、依頼人との会話やブリーフィングまではナインが担当するが、戦場での通信や判断、敵との戦闘は基本的に617が担当する、というもの。
これを提案したのは勿論ナインで、狙いは617の成長である。
幼く純粋な彼女には、腹の探り合いや弱みを見せないようにする会話はまだ早いだろう。
その辺りの、以前はハンドラー・ウォルターが請け負っていただろう部分は、今のところナインが代替する予定だ。
だが、作戦中の会話や指示出しは必要に駆られてのものが多く、時と場合によっては礼儀を欠いても許されることも多い。
それなら617でも十分にこなせるはず。
というか、そういう場でないと傭兵は対人経験値を稼げない。
そうして培った人との繋がりが、彼女の未だ幼い情緒を……どういう形になりこそすれ、育ててくれればいい。
きっとウォルターもそれを望むだろうと、ナインは判断したのだ。
一方、戦闘も617が担当するのは……。
単純に、「ナインは長期間戦うことができない」という逼迫した理由からだった。
前回のミッションでカタフラクトと戦った後、ナインは自身の持つリソースのようなものが削がれていることを感じていた。
その感覚が何なのかを考えた結果……。
疑似プライマルアーマーやスリップダメージの強制、ENの消費の大幅軽減と大盤振る舞いしたこともあってか、恐らくは自身が操作可能なコーラルの量が消耗してしまったのだろうと理解した。
詳細はわからないが、ナインはどうやらコーラルを操作することができるらしい。
しかし、当然ながら、コーラルは有限の資源だ。自己増殖によってゆっくりと量を増やしていくとはいえ、使い過ぎれば消耗して戦えなくなってしまうのだろう。
カタフラクトは速攻で片付けたこともあり、まだ幾分かの余裕はあったが……。
全力で戦えば相応に消耗するとわかった以上、常にナインが戦っていれば、いざという時に本気を出せなくなる可能性も生まれる。
である以上、基本的には617が戦いを担い、ピンチになったらナインが交代して本気を出すという、フロムあるある第二形態戦法が有効になるだろうと思われた。
……そして何より、617本人が「617の価値は戦闘能力にあります。それによって、おにいさまと協力をしたいと望みます」と主張した。
これによって、戦場では基本的に617が主体となって行動することが決定的となったのだった。
閑話休題。
通信を繋げ、輸送ヘリのパイロットに声をかけた617に、返答が返ってくる。
『こちら輸送ヘリパイロット。感度良好、問題なく聞こえている。
……傭兵「617」。そちらが何を考えているか、正体が誰なのか。そういったことを詮索するつもりはない。
副長殿に何を言われたかはわからないが、封鎖機構の基地を壊滅させたというその実力を見せてほしい』
『617はあなたたちの護衛を請け負いました。その役目を果たします』
思わせぶりなパイロットの言葉を、しかし617は深く理解することはなく、淡々と言葉を返す。
一方でナインは、617の視界の端でぱしぱしと光り、呆れた感情を脳内に響かせた。
【おいおい、直属ではないにしろ部下にまで疑われとるやんけ……あの副長どんだけ嫌われとるんや……】
『ナイン?』
【ん、ああいやすまん、なんでもない。今は作戦に集中してくれ】
『了解しました』
【よし……改めて、仕事の時間だ、617】
メインシステム、戦闘モード起動。
無機質なCOMの音声を聞き、自らの感覚が深くACと繋がることを感じながら……。
617はそのまぶたを閉じ、祈るように囁く。
『……おにいさま、617のサポートをお願いします』
本来なら無為に消えるだろう呟きに、けれど答える声が1つ。
【勿論だ。俺は君のサポーターだからな】
* * *
ナインは色々と警戒していたが……。
結果から言って、作戦開始から6時間が経っても、これといったハプニングは起こらなかった。
【COMスキャン、敵性存在感知できず。俺のサーチでも異常は見当たらない】
617の脳内に、ナインの声が響く。
定期的にかかるそれを除けば、ACの内部に聞こえてくるのは、輸送ヘリのプロペラが回る音とACのブースターの噴出音だけ。
無愛想というよりは、ナインも617も、そして輸送ヘリのパイロットたちも、それぞれが業務に集中しているが故の静寂だ。
……その静けさを打ち切ったのは、僅かなノイズを伴った、パーツを搭載したヘリからの通信だった。
『こちら、アーキバス輸送ヘリ。この盆地地帯を越えて暫く行けば、第14基地が見えてくるはずだ。
その上で、提案させてもらう。航行速度を上げて残った距離を早急に駆け抜けたい。傭兵617、そちらとしては問題ないだろうか』
『意図を伺います』
『……想像するに、何かが起こるとすればここからだ。
第14基地まで程近く、またこの辺りの地形は死角が多く奇襲が容易。あらゆる意味で奇襲がかけやすい。
俺たちに与えられた任務は「パーツと物資の輸送」であり、それ以上でもそれ以下でもない。それを十全に果たすための最善手はこれだと判断した』
どうすべきでしょうかと、617は脳内のサポーターに呼びかける。
ナインは殆ど考えることもなく、即答を返した。
【受けよう。ただしヘリの陣容は崩さないように、と伝えてくれ。固まらないと守れない】
『了解』
617は言葉をそのままにパイロットに伝え、あちらからも了承の声が返って来る。
5機の輸送ヘリはその速度を上げ、おおよそ時速140km、やや燃費の悪くなる速度へと上昇させた。
……そして、それから30分。
いよいよ盆地地帯を抜けるための谷間に差し掛かり、第14都市が見えるか見えないか、という辺りで……。
【敵性反応検知! ドローン3機、MTが13機、ACが1機! 識別は……やはり、ルビコニアンか!】
予期していた……そして予定されていた通りに、襲撃が始まった。
初ミッション:封鎖機構の基地壊滅(固定砲台やLC、武装ヘリに特務機体あり)
今ミッション:MTとドローン、ルビコニアンのよわよわAC1機
難易度の格差が酷い。まるでAC6みたいだぁ(直喩)