そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
現在、ルビコン星系に進出している星外企業は、大きく分けて2つに分類される。
1つは、シュナイダーを筆頭とする、アーキバス系列の企業。
そしてもう1つが、大豊核心工業集団を筆頭とする、ベイラム系列の企業だ。
つまるところ「ベイラム」とは、アーキバスと並んでルビコンで覇を競っている企業であり勢力の1つなのだった。
アーキバスとベイラムの企業の目的は共通している。
新資源コーラル獲得、及び独占。
相手がコーラルを見つけ出す前にそれを確保し、それを自社のものとするため、アーキバスとベイラムはルビコン3周辺へとその足を伸ばし……。
……お互いを、頻繁に攻撃している。
自らに協力しない企業は、不要なのだ。
本格的に戦争などすれば、互いに兵力と資金力をすり減らし、共通の敵たる惑星封鎖機構へと隙を晒してしまうために積極的に敵対こそしていないが、妨害や資本への攻撃、時にはACによる基地の襲撃は日常茶飯事である。
そして、そんな情勢下。
ナインは密かに、パッチの手引きの元、ベイラムとの間に1つの依頼を取り付けていた。
即ち……今回の作戦で運ばれる新作ACパーツの破壊あるいは強奪、及びアーキバス第14基地への強襲。
「アーキバスから受けた依頼、第12基地から第14基地までの物資の輸送ミッションをこなす」
「そのミッションが終わると同時にベイラムのミッションを開始し、護送したばかりの物資を奪って基地を襲う」
これこそが、ナインがパッチに提案した「悪だくみ」。
対立する企業どちらにも尻尾を振る、半ば裏切りにも近い最低なダブルスタンダードだ。
『……こんなことをしておいて、ただで済むと思うなよ。
アーキバスは強大な企業だ。お前たち独立傭兵など、木っ端のように踏み潰せる。
お前の身元の確認も、仲介者の洗い出しも、すぐに終わるだろう。お前たちはもう逃げられない』
その脅迫に近い言葉を遺言にするつもりか、パイロットは微かな怒りと共にそう告げる。
617はこれ以上ヘリ1機に時間をかける必要はないと判断し、そのハンドガンの引き金を引こうとして……。
【待て、617。体を貸してくれ】
そう、脳内のナインに乞われた。
当然、617に否はない。
おにいさまが体を貸せと言うならば、その必要があるということ。理由など聞く必要性もないのだ。
一度まぶたを閉じ、再び開いた時、617の目は赤く染まっていた。
そうして彼女……もとい彼は、ヘリのパイロットに突飛な台詞を投げかけた。
『搭載したACパーツをくれ』
『……何?』
『今回の俺たちのミッションの目的は、「第14基地」の強襲と、そのACパーツの回収だ。
「第12基地所属」のあんたらを殺せとは言われてないんでね。パーツさえ渡してもらえれば、こっちも無駄弾を使わずに済むんだよ』
「あんたらも命は惜しいだろ」と、冗談めかして言う独立傭兵。
それに対し、パイロットは、むしろ不愉快そうに声を歪めた。
『……俺たちが、それに頷くと思っているのか?
俺たちはただの輸送部隊とはいえ、アーキバスだ。命欲しさに物資を売ると?』
けれど、その威圧に対して、ナインは動じることなく。
先程とは違い、真剣みのある口調で語った。
『いいや? そうは思わないが……そもそも、俺の考え方は違うな。
あんたらは第12基地の所属であり、あくまで第12基地の指令でここに来たはずだ。
そして「物資の輸送」というあんたらの任務は、先程の俺のミッションと同時に終わった。後はさっさとその荷を下ろして、ヘリに乗って帰る。それがあんたらの次の仕事だろ?
である以上、たとえ今ここで荷が奪われたって、それはあんたらの責任じゃない。なにせ、荷がここに運び込まれたことは第14基地副長殿が確認している。この基地の防備の問題になるだろう。
契約やルールを重視するアーキバスにおいて、あんたらが追及される謂れはない。……違うか?』
『ふざけるな、言葉を弄することに何の意味がある。みすみす物資を奪われる兵がどこにいるというのだ!』
『それを言うなら、自社の社員をぶち殺そうとする企業の基地副長がどこにいる。そんなことが当然のように許される世界で、つまらん意地に命を使って何の意味がある?』
『っ……!』
ルビコン星系に進出している大企業は2つ、アーキバスとベイラム。
その片割れたるアーキバスの最大の特徴は、そのEN系兵装への拘りだ。
ルビコンにおいて流通しているEN兵装は、パルス系の一部を除いて、殆どはアーキバス系列の企業が独占開発しているもの。
アーキバス専属のAC部隊ヴェスパー、その武装の大部分をEN系武器が占めていることからしても、この企業のEN武装推しが見て取れるだろう。
ジェネレーターによる出力に依存するため、アセンブルを最適化しなければ真価を発揮しないそれは、基本的には玄人向けの兵装であることが多く……。
実弾兵装重視のベイラムや、劣悪なAC適性のパイロットが多いルビコニアンたちがこれを用いることは、殆ど絶無と言っていい程に少ない。
……そして、今回の輸送任務中の、ルビコニアンたちの襲撃。
その直後に飛んで来たのは、3発のプラズマミサイル。
3連プラズマミサイル……Vvc-703PM。
それはVCPL……アーキバス傘下の企業の手になるものだ。
それをベイラム所属やルビコニアンのACが持っているわけもなければ、使って来るわけもない。
あのヘリへの攻撃は、明らかに、アーキバスによるものだった。
恐らくは自作自演でヘリを落とすことで、617に渡す報酬の減算を狙ったのだろう。
狙われたヘリはパーツを搭載したヘリ以外、つまりは資源輸送ヘリ。
ブリーフィングで「囮にしてもいい」と言っていたことからしても、その実中には資源など積まれておらず、最初から落とすつもりだったのだろう。
なんなら、その前のルビコニアンによる襲撃も予定されていた可能性が高い。
あの襲撃が終わってからプラズマミサイルが飛んでくるまでには、617の緊張感を僅かとはいえ緩めるだけの、いやらしい空白があった。
過激派のルビコニアンに敢えて情報を流して襲撃を誘引、それを迎撃して油断を誘ったところに、出処不明のミサイルでヘリを撃墜、という計画か。
これに対してどこまで対処できるかで617がどれだけ「使えるか」を測れるし、ヘリさえ不意打ちで落とせてしまえば大きくコストカットできる。
ヘリ撃墜で報酬から減算される30,000COAMは、一見少ないように見えるが、資源輸送ヘリを2機は作れるだけの大金。
つまるところ……人的被害と、本当に積んでいるかもわからないACパーツ以外の物資さえ考慮しなければ、むしろ撃墜した方が利益になるのだ。
……全く以てパッチを笑えない、みみっちい資金繰りだった。
改めて、ナインはパイロットに語りかける。
『せっかく繋いだ命を、アーキバスじゃなく、この第14基地のクソ共のために無為に捨てるか。
あるいは、必死に生き繋いで、俺の情報を持ち帰った勇気ある社員として褒賞されるか。
ちなみに言っておくと、今現在ここ近辺の通信は完全に遮断している。俺たちの会話は決してデータに残らない。疑うのなら本部に通信でもしてみるがいいさ。
……できれば、誇りとか信念以上に、会社の実益で考えてほしいな。おたく、そういう社風でしょ?』
滔々と、しかし真剣に語られるナインの言葉。
その意味を、617は理解できない。
その内容もそうだが……。
何より、何故「敵」にそんな言葉をかける必要があるのか、を。
今、617は、ベイラムの依頼を受けて働いている。
つまり、アーキバスは敵だ。勿論、ここにいるヘリのパイロットも。
であれば、殺せばいい。それを躊躇う理由はない。
戦い、勝ち、殺し、奪う。
それが戦場で生き残る、唯一の方法なのだから。
強化手術で記憶と人格を失い、ウォルターの薫陶はありつつも、実質的には戦場で育ったと言っていい617。
そんな彼女だからこそ、どうしても、ナインの抱く「余分なもの」が理解できなかった。
……しかし、きっとおにいさまがそう言うのなら何か必要性があるのだろう、と。
ひとまず今は、理解できない色々な裏事情と共に流すことにした。
どちらにしろ、617とナインには後から話す時間などいくらでも取れる。今この瞬間、おにいさまを邪魔してはいけない、と。
『…………』
今回の輸送部隊の隊長であり、他4機のヘリの乗組員全員の命運を決める権利を持つパイロットは、無言で考え込み……。
……少ししてから、返答を告げる。
『……当部隊は、物資を第14基地に届けて間もなく、反転し帰還した。その後のことは与り知らない。
随伴予定であったMT部隊は現地に現れなかったため、伴わず単独での帰路となった。
傭兵617に暴走の気配は見えなかった。忠実に、俺たち輸送護衛部隊を守ろうとしていた』
『ああ、そうだね。それが丁度いい現実だ。そうしよう』
パイロットの苦い声に、喜色の見える合成音声でナインが応えた。
* * *
現在アーキバス第14基地全域は、ナインによるコーラルの電波干渉により、一切の通信が不可能になっている。
そのため、大きな混乱と怒涛の中、防壁の外側で行われていたことには気付かれていない。
異常に気付かれる前にと、輸送ヘリの乗組員たちは、大急ぎで内部ハッチからACパーツを吊るし出す。
それを見て、果たして最新パーツとは何なのだろうと、内心かなりワクワクしていたナインは……。
ガクリと、肩を落とすこととなった。
【……
決して、悪いものではない。
むしろ、今「scav617MG」が使っているFCSに比べれば、ずっと性能は良いと言える。
ただ……VE-21Bは遠距離戦を想定してその性能を高めており、近距離戦となれば今のパーツとそう性能は変わらない。むしろ悪いまである。
そして、優秀なACSが用いられる現代機動戦において、遠距離からの攻撃は通りにくい。
例外は着弾時に爆発するグレネード系の武装や、同じくプラズマの爆風を巻き起こすプラズマ系の武装くらいだ。
つまるところそれは、かなり玄人好みする……どこぞの戦闘狂な真人間が喜びそうなFCSなのだった。
現在の「scav617MG」のアセンブルは、短距離ハンドガンのダブルトリガーという超近接特化の構成。
残念ながら、今のところ、ナインたちがこのFCSを活かし切ることは難しいだろう。
更に言えば、ナインの個人的な嗜好としても、遠距離戦の塩試合より近距離線でのドッグファイトを好むところがあるため、あまり嬉しいものではない。
では中間を取って中距離基準に武装を組み直すかと言えば、それには金がかかりすぎるし、それならもうこのパーツを売って近中距離FCSを買った方が良いかもしれない。
……まぁ、保持するか情報ごと売るかは、後で決めるとして。
ひとまず新規ACパーツ入手ということで、ナインはホクホク顔でFSCチップをコアパーツの余剰スペースに詰め込んだ。
『よし、確かに受け取……じゃなくて、強奪完了。
それじゃ、アーキバス第12基地輸送部隊、さようなら。二度と再会しないことを祈るよ』
『……物資の輸送は完了。第12基地輸送部隊、基地への帰還を開始する』
ナインの言葉に答えることなくヘリのパイロットはそう言い、機体のプロペラを回転させ始める。
ナインは基地の襲撃の前に、彼らを生かした責任として、それを見送ろうとし……。
【……来たか、敵性反応!】
メインシステム、戦闘モード起動。
「scav617MG」の右肩に据えられた垂直ミサイルのポッドが開き、12発のミサイルが飛ぶ。
まるで先程の再現のように、内6発は乱れ飛ぶプラズマミサイルを空中で撃ち落とし。
残る6発は、異なる軌道から下手人たちを追い……。
……しかし。
瞬間的な高機動を叶えるブースターの噴出は、遠くから迫るミサイルの大半を簡単に躱させしめ。
優秀なACSを具えた兵器は、ミサイル1発程度で揺らぐ程、脆くなかった。
『ほう……驚いたな。まさかあの撃墜、偶然ではなかったのか?』
『あり得ませんね。不意打ちかつ高速で迫るプラズマミサイルに、マルチロックを合わせたとでも?
ヴェスパー本隊ならばともかく、所詮はただの独立傭兵。ただの偶然でしかありませんよ、これは』
『まぁ、どうでもいい。2対1で勝てるわけもない、囲んで潰すぞ。
……我らアーキバスを裏切った、輸送部隊共々な』
2機の機体が、高台から降り立つ。
より効率良く物を壊し、より効率良く人を殺せるように作られた……人の形を模す、殺人機械。
アーマード・コアが。
【……敵性AC、2機。
識別、アーキバス所属……ヴェスパーに予備部隊なんてあったのか。
相手はV.D31と、V.D48。アーキバスが非正規に抱え込んだパイロット……真人間たちだ】
617には、その言葉の意味はよくわからない。
アーキバスという企業も、ヴェスパーや再教育という言葉も。
知らないことが多すぎて、情報がさっぱり頭に入ってこない。
そんなことよりも、次に言われた言葉の方がずっと理解しやすく、そして馴染み深かった。
【この場面を見られた以上、生かしては帰せないな。……まぁ、元より、生きて帰す気なんてなかったが。
撃破するぞ、617。2度目の、仕事の時間だ】
『了解しました。617、目標を撃破します』
通信記録:ヴェスパー予備部隊
アーキバスのMTから抜き取った、部隊内での通信ログ。
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またヴェスパーの予備部隊が問題を起こしたのか?
アイツら、使い捨てのくせに調子に乗りやがって……。
まあそう言うなよ。多少図に乗るくらい大目に見てやれ。
なにせ後期ナンバーは、再教育で自分がルビコニアンだってことも忘れて、ノリノリで故郷を攻めてるんだぜ。
憐れな奴らだ。それくらいの良い目は見てもいいだろ。
はっ、いっそ正気に戻ってほしいね。
最初の任務で、自分の家族や恋人を銃殺してたって知ったら、アイツらの顔はどんな形に歪むかね?