そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

13 / 84
 アーキバスのACは置物か!





それが独立傭兵の動きだと!? じゃあ俺はなんだ!?

 

 

 

 アーマード・コア……縮めて、AC。

 現代機動戦闘において用いられる、個人で操作する人型機動兵器群の総称だ。

 コア理論を基軸とし、大まかに人の形を模して形成されたこれこそは、各種パーツの組み換えにより高い戦術的優位性と汎用性を両立した、現代の戦場の主役……。

 

 ……であったのは、1世紀程前までの話。

 

 現代において、ACは戦場の主役とは言い難い位置に追いやられている。

 その理由は簡単で、ACを遥かに越える性能を持った機動兵器が、多数開発されているからだ。

 辺境の惑星系たるルビコンにおいても見られる、惑星封鎖機構の「ライト・キャバルリー(LC)」や「ヘヴィー・キャバルリー(HC)」、カタフラクト等の特務機体といった面々がその典型例だろう。

 

 現代機動戦において、ACは一時代前の主役であり、今は斜陽の中にある旧き主人公であり……。

 

 しかし翻って、ルビコン星系での戦いにおいては、未だなおスポットライトの中央にあった。

 

 その理由は、陣営によって多岐にわたる。

 まず企業については、封鎖機構の厳しい監視下にあるルビコン星系には、強力で巨大に過ぎる兵器は持ち込むことができないから。

 10m余りという比較的小型なACだからこそ密航に使えるのであって、これより更に巨大な戦術兵器でも持ち出せば、あっという間に封鎖機構の誇る制圧艦隊のお世話になることになるだろう。

 故に、封鎖を越えて持ち込める戦力として最大の力を持つACが、そしてそれらを操るヴェスパーやレッドガンといった部隊こそが、戦いの中核を担っているのだ。

 

 一方で現地住民であるルビコニアンの方にも、やむにやまれぬ逼迫した事情がある。

 彼らの内の大多数は、その日食べるものにも困る生活を送っているのだ。強大な兵器を作る資金力も開発力があるはずもない。

 若干型落ちであるACを用意するので精一杯……もっと言ってしまえば、ACだって限られた一部の者しか持ち得ていない、というのが現実だ。

 

 そういった事情もあり、ルビコン星系ではAC戦が戦場の趨勢を決めることが多いという、一昔前の戦場のような光景が見られることが多いのである。

 

 本来はその圧倒的な資本によって戦いを優勢に進める企業にとって、単体戦力や個人の素質に依存したこれらの戦いは、不快感の強いものだろう。

 封鎖機構さえいなければ、グリッドごと破壊しかねない戦術兵器や、高い性能を持つ企業の専用機を大量に投入していたに違いない。

 それらを用いての戦いこそが、本来の現代機動戦なのだから。

 

 

 

 ……とはいえ。

 

 歴史上、極稀に現れる、ただ一人で社会や世界を覆すような例外的存在……。

 「イレギュラー」などと呼ばれる者たちは決まって、巨大な戦艦や汎用性を欠く戦術兵器ではなく、小さく無力にも思えるようなACに乗っていた。

 

 それが何を意味しているか。

 何故小さな人型のソレが、誰よりも強き存在になり得るのか。

 

 ACの中核を担う「コア理論」、それが何を示すのか。

 

 ……それは未だ、誰も知り得るところではなかったが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして今、ルビコン星系第一惑星、ルビコン1にて。

 3機のACが、戦場を駆けていた。

 

 噴出するブースターの色は、赤が1つ、青が2つ。

 赤色の炎を取り囲むよう、青色の炎は二手に分断し、挟み込もうと動いているが……。

 赤色の炎を出すAC「scav617MG」はすぐさまその包囲を脱し、どころか敵ACの後ろに回り込み、小さく跳ねるように飛びながらハンドガンを連射する。

 

 敵AC「ロイヤルワン」は振り返り、その手に持つレーザーハンドガンで応戦を試みるが……。

 当たらない、当たらない、ようやく当たっても掠り、そしてまた当たらず。

 苛立ったパイロットが武装をチャージしバースト射撃を行うも、「scav617MG」はQBでそれを綺麗に回避し切り、返刀に左肩のグレネードランチャーを放った。

 

 立ち上がる爆炎の中、辛うじて直撃を避けた「ロイヤルワン」のパイロット、V.D31はたまらず叫ぶ。

 

『馬鹿な、押されているだと!? たった1機の独立傭兵相手に!?

 V.D48、貴様手を抜いているのではないだろうな!』

『あり得ません、戦場で手を抜くなど愚の骨頂。そちらこそ、先程から動きが精彩を欠いていますよ!』

『うるさい! 我らヴェスパーが……アーキバスに、敗北など認められんのだ……!』

 

 V.D31と、V.D48。

 アーキバス専属AC部隊「ヴェスパー」の、予備部隊の2人。

 

 彼らを相手取るAC「scav617MG」の中には、ナインが傍受した相手方の通信が聞こえてきていた。

 

 忙しなく操縦桿とそれに付属したスイッチを操作する617には、それに反応する余裕はなく。

 だからこそ、ぼそりと感想を漏らしたのは、彼女の頭の中に住むサポーターの方。

 

【……この操作精度、粗製というか、ノーマルというか。

 いや、真人間は普通こんなものか。元を辿ればルビコニアンの兵士だったみたいだし。

 やっぱこれ、本編がおかしいんだよな。戦うのいっつも上位世代の強化人間ばっかだったし……】

 

 ナインの呆れるような、憐れむような、複雑な声音が617の頭の中に響く。

 戦闘に集中する617の言語野はそれを正確に理解するところまでは進めず、ただ受け流すのみに留めた。

 

 仮に聞けたとしても、617はその言葉の大部分を理解できなかっただろうが……。

 少なくとも、相手の2機の操作精度が甘いという点には、同意を返したかもしれない。

 

 実際にACを駆って戦っている617からしても、目の前のAC2機は、緊張感を誘う相手ではなかった。

 

 逆関節の軽量AC「ロイヤルワン」は、機動力という最大の強みを全く活かせてないし。

 中量二脚のAC「サンズゴールド」はずっとふわふわと浮くばかりで切り返しが甘く、ブースターの制御ができていない。

 簡単に銃弾を当てられるし、簡単に照準を振り切れる相手だ。

 

 そして、それだけではない。

 姿勢制御、射撃精度、反動抑制、先読み、武装の活用、そして咄嗟の判断。

 ありとあらゆる面で、617から見た2機のACは、脅威とは思えなかった。

 

 ……まぁ、この場合、より正確に言うなら。

 ヴェスパーの2人が劣っていたというより、617の基準があまりに高すぎたのだ。

 徹底的な教育とAIによる最適化を施し、構成員の殆どが熟練以上の腕前を持ち、更にはACを遥かに越えるスペックを持つ機体を用いる、惑星封鎖機構。

 彼女はそれと戦うため、ウォルターの下で厳しい訓練と実戦を行ってきたのだから。

 

 そして極めつけは、あの赤い光の光景。

 ナインの操作するACの動きと比較すれば……目の前の2機は、それこそよちよち歩きの赤子のようなものだった。

 

 

 

 「scav617MG」は正面に「ロイヤルワン」を見据え、ブースターを噴かして並走していた状態から、左前にQB、そしてすぐさま右前にQBしながら、体を捻り反転。

 三角跳びのような容量でACの裏を取った617は、即座に左肩の2連装グレネードランチャーを放つ。

 

『なっ、がっ!!』

 

 617はどちらがどちらかよくわかっていないが、V.D31だか48だかは、「scav617MG」の動きをカメラで追うことすらできず。

 2発のグレネードに直撃して、そのACSが限界を迎える。

 

 すかさず617はアサルトブーストを起動、その脚を叩き付けるようにコアパーツにぶつけ……。

 蓄積したダメージが、ついに限界を超えた。

 

『なっ、ジェネレーターが!? まず、V.D48、助け────』

 

 即座にQBで跳び下がった617の視界の中で、逆関節のACが爆散する。

 

 

 

【V.D31、AC「ロイヤルワン」、撃破。

 残るはV.D48……右に!】

 

 脳内に流れるサポーターの声に従い、617はQBで右に跳ぶ。

 直後、そこに降り注ぐミサイル群。その場にプラズマの磁気嵐を咲かせるが、既にAC「scav617MG」はその範囲から逃れていた。

 

『くっ……独立傭兵617、なるほど賢しさと共に、ある程度の操作技術も持ち合わせているようですね』

 

 もう1人のヴェスパー隊員を囮に使って相手を測っていたV.D48は、しかしついには数的アドバンテージを失い、その言葉の上に焦燥を乗せた。

 V.D31と違い、戦闘に熱狂することなく戦場を俯瞰していた彼は、617の駆る「scav617MG」との間に大きな戦力差があることを悟っていた。

 

 ……故にこそ、生き残るため、策を弄する。

 

 AC『scav617MG』の内部スピーカーに、若干のノイズと共に、声が響いた。

 

『強化人間……しかし、ヴェスパーの上位構成員程の最適化された動きではない。

 察するに旧型ですか。実験動物が逃げ出し、我らアーキバスに噛みつくとは……。

 あなたもあなたの飼い主も、全員が無惨に死ぬことになりますよ。それは理解していますか?』

 

 敢えて敵機と回線を繋ぎ、上から目線の言葉を投げる。

 

 V.D48は、先程死んだヴェスパー隊員と違い、戦場でも頭が回る自負があった。

 故に、可能な限り時間を稼ごうと、相手の思考の余裕を削ごうとしているのだ。

 

 強化手術に失敗して完全に廃人となった場合を除いて、人が人である以上、相手の言葉が耳に入ればそれを理解しようと努めてしまう。

 故に、そうして言葉を投げかけること自体が、相手への妨害に繋がるのだ。

 

 

 

 ……しかし、彼には不幸なことが、2つあった。

 

 1つは、強化人間C4-617は手術に比較的「失敗」した例であり、戦場で敵から投げられた言葉を理解しようとするだけの、高等な情緒までは取り戻せていなかったこと。

 

 そして、もう1つが……。

 

「『今すぐ投降するというのなら、私たちは寛大な心を以てそれを許すと約束しましょう』……くっ、増援はまだですか!?」

 

 彼が、すぐ傍の第14基地からの支援を当てにしていることだ。

 

 V.D48は、目の前の独立傭兵に単騎で勝つことはできないと察していた。

 そもそも真人間である彼は、ACの操作精度の点で強化人間に大きく劣っている。

 その上、目の前の傭兵は、自分より上位のナンバーであるV.D31を軽傷で撃破した手腕を持っている。

 熟練のAC乗りであるヴェスパーの本隊、あるいは大量の物量を以て対処せねばならない相手だろう。

 

 である以上、V.D48が真っ当に戦って勝てる可能性は皆無だ。

 今彼がすべきは、可能な限り時間を稼ぎ、第14基地が異常に気付いて応援を向かわせるまで耐え忍ぶこと……。

 

 ……そのはず、だったのだが。

 

 

 

『応援は、来ません。

 第14基地は、既におにいさまが壊滅させました』

 

 

 

『…………あ?』

 

 ずっと無言だった敵機から帰って来た通信に、V.D48は唖然とした声を漏らした。

 

 彼は、気付いていなかった。

 いいや、気付いてはいても気にしてはいられなかった、と言うべきか。

 

 V.D31とV.D48と戦っている最中、ポッドへの換装を終える度に、「scav617MG」は右肩の垂直ミサイルを発射していた。

 それ自体は、おかしなことではない。

 高誘導の垂直ミサイルは、ACS負荷の維持に有用だ。

 弾薬費はかかるが、贅沢を言っていられないAC戦においては常に撃ち続けた方が有効かもしれない程に。

 

 V.D48が気付かなかったのは、そこから先。

 ポッドから発射された垂直ミサイルは、実のところ、彼らではなく明後日の方角に向かって飛んでいた。

 具体的に言えば……彼らが戦っていた近辺の基地外壁、その内側へと。

 

 

 

『まさか、ミサイル、で……い、いいえ、あり得ない。あり得るわけがない。

 基地の内部にスキャンを飛ばし、マルチロックでミサイルを飛ばす……そんな素振りは一度もしなかった。

 一切振り向きもせずロックするなど、正しく人間業ではない。それこそV.Ⅰだってそんなことは……!』

 

 あり得ないと、そう言葉に出して否定するV.D48。

 しかし、もしもその言葉が正しいのなら、第14基地からいつまで経っても増援が来ないことに説明が付く。付いてしまう。

 現在彼らヴェスパー予備隊を除き、ACや重MTを配置していなかったはずの第14基地は……数十発のミサイルを以てすれば、確かに制圧できるだろう。

 

 だが、それはあり得ないのだ。

 強化人間はACと感覚を接続する。

 つまるところ、ACのメインカメラが映す光景こそが、パイロットにとってメインの情報源になる。

 ミサイルのマルチロックも、あくまでも光学ロックオン。メインカメラの映像とスキャンデータを元に構築される、視界と同調する網膜上のロックオンサイトから主だった操作を行う、という話だったはず。

 

 つまるところ、常にヴェスパーの2人に視線を向け続け、一度として基地の方を見続けなかった「scav617MG」が、基地内の敵性存在をマルチロックできるはずがない。

 

 

 

 ……それこそ。

 ACに2人が同時に乗り込んで、それぞれの視界から、それぞれの担当武装を操作でもしていない限りは。

 

 

 

 勿論、V.D48にそんな発想は抱けない。

 ただあり得ないと、ある訳がないと、忘我したように現実から目を逸らすことしかできず。

 

【やれ、617】

『はい、おにいさま』

 

 ……その隙こそが、彼のいずれ来るだろう死期を、致命的に早める要因となった。

 

 

 







 本日の傭兵事情

・アセン
 前回より変化なし

・収支
 -27,359c

[アーキバス、輸送ヘリ護衛]
 +100,000c(基本報酬)
 +28,000c(AC1機の撃破)
 +13,000c(軽MT13機の撃破)
 +1,200c(汎用兵器4機の撃破)
 +20,000c(護衛完了による特別加算)
 +10,000c(ボーナス、特別加算)

[ベイラム、新作パーツ奪取及び基地強襲]
 +160,000c(基本報酬)
 +60,000c(AC2機の撃破)
 +21,600c(軽MT18機の撃破)
 +24,000c(砲台8基の破壊)
 +3,200c(汎用兵器8機の撃破)
 +50,000c(依頼の完全な遂行による特別加算)
 +40,000c(ヴェスパー撃破による特別加算)

[経費]
 -50,000c(パッチ、ベイラムへの『誠意』代)
 -5,000c(パッチ、偽装工作費)
 -2,021c(武装修理費)
 -8,862c(外装修理費)
 -611c(内装修理費)
 -58,210c(弾薬費)
 -5c(必需品購入)
 -3c(交際費、アーキバスざまぁ記念豪遊)
 -200,000c(密航代)
───────────────────────
 +178,899c



《ナイン追記》
 やったぜ。借金完済と密航代稼ぎ、無事コンプリート。模範的蝙蝠ムーブを決め込んだ甲斐があった。
 恨まれたってその時には名義変えて密航してるしセフセフ。バレなきゃ裏切りじゃないんですよ。
 ……しかし、170,000強残ったけど、これだと高性能パーツ購入はやや厳しいか? 理想ではみんな大好きエツジン先生とか意味不明弾速ハリス先生とかタキガワの技術の結晶ブッタとかとっつきとかレザスラとか買いたいけど無理め。遠距離FCS売ればもうちょい金になるかな。
 企業からの信頼もない(というかアーキバスはマイナス)だからパーツ購入解禁もないし……。BAWS系列の武器もルビコン3に入らないと買えないし、色々厳しい。やっぱり武装揃えようと思えば最前線に行くのがベストか。
 アーキバスは相変わらずカスだしEN系武器そう好きでもないし、パッチからの反感情強いから今回は切り捨てることになったけど、密航して名義変えたら、617の選択次第じゃそっちにすり寄りしなきゃかな。
 ウォルターとの再会もそうだけど、その辺りは全部617の意思と選択次第だ。俺はあくまで物語のエキストラ、サポーターとして彼女の選択を支えよう。
 ……この世界の運命を変えるのなら、それは俺じゃなく、彼女の選択であるべきだろうからな。

《617追記》
 ……頑張ったけど、おにいさまみたいに、すごい動きができない。
 617は、強くないと意味がないのに。
 おにいさまにとって、617は無価値?
 どうしよう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。