そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 ACVIの続編が出る





しかし身体は闘争を求める

 

 

 

 アーキバスとベイラムの間で蝙蝠ムーブを決め込んだ、その3日後。

 

 合計で15時間に及んだ作戦で疲れ果てたと思しき617が、半日もの間ぐっすりと眠ったり。

 憎きアーキバスに一矢報いてやった記念として、3人(人類2人+新人類1人)で宴会を開いたり。

 パッチがアーキバスに対して流した誤情報や仲介人の偽装などについて聞いたり。

 

 そういった、前回の仕事の事後処理が終わり……。

 ナインと617は、ブローカーが密航の準備を整えるまで、待機することとなった。

 

 617の望みは、可能な限り早く、飼い主たるハンドラー・ウォルターに再会することだ。

 しかし、彼女はウォルターの居場所や拠点を覚えてはいない。

 ウォルターと再会するためには、彼やその猟犬も向かうだろう、ルビコン3現地で合流するしかない。

 

 そして、ルビコン3で発生する事を考えれば、向かうのは早いに越したことはないだろう。

 そんなわけで、資金が溜まり次第さっさと行ってしまうことにしたのだ。

 

 ……もしナインが、もう少し旧人類的な感覚を残していれば、安全を取ってもう少しCOAMを溜めてから、と言い出したかもしれないが。

 彼はコーラルによって拡張された新人類。無限に等しい可能性を秘めた、ヒト種の進化の象徴。

 兵器を用いての闘争から各種電子戦、果てにはコーラルに意思を流すことによる操作と、物理的な肉体を保有しないこと以外にこれといった欠点のない、次世代の霊長となり得る存在だ。

 故にこそ、「まぁ最悪俺が何とかできるか」という万能感があり、このかなり無茶のあるプランを肯定してしまったのであった。

 

 

 

【あと数日でルビコン1ともお別れか。

 ……長いようで短い日々だったな。悪くない日々でもあった】

 

 いつものドック、AC「scav617MG」内部。

 ナインは617の脳内で、しみじみと言う。

 

 彼にとってここは、前世で鬼のようにやり込んだゲームの世界の1つ。

 ゲーム性と共に世界観も愛していた彼からすれば、そんな世界の、けれど本編では語られなかった部分に触れるのは、これ以上なく楽しい経験だった。

 知らない戦場、知らない人物、知らない機体……そんな中で度々見える、知っている相手。

 それらは、間違いなくここが彼の愛したアーマード・コアの世界であると思わせてくれた。

 

 それに……ゲームの主人公であるC4-621の実質的な身内である、617。

 彼女と出会え、そして彼女の生存をサポート出来たことも、ナインにとっては喜ばしいことだった。

 未だに現代日本基準の価値観を色濃く残す彼としては、原則的に死ぬより生きる方が良い、という思いが残っているのだ。

 

 勿論、シリーズを通過してきた者として、最後の最後に満足して死ぬのならそれに越したことはない、とも思ったりはするが……。

 いきなり戦場に放り込まれ、何をどうすればいいかを見失うところだったナインにとって、今にも死に瀕し、けれど手を差し伸べれば救える少女は良い道標になったし……。

 「まだ死ねない」と、そう呟いた617の命を救えたのは、心の支えにもなっていた。

 

 だからこそ、ナインは今でも617のサポーターとして、彼女と共に在るわけで……。

 

 

 

 ……そこまで考えてふと、617をウォルターの元に送り届けた後はどうしようかと、ナインは頭を悩ませた。

 

 結局、617の「ウォルターの元への帰還後もハウンズのサポーターをしてほしい」という申請に、ナインは返答を返していない

 というのも、いきなりわけのわからない状況に追いやられ、唯一関係性がなくもないC4-617という少女がいたから、当面の目標を立てることはできたが……。

 ウォルターの元に彼女を送り届ければ、ある意味でナインは不要となるのだ。

 

 617は、おおよそ1人で生きていくことはできない。

 それは彼女が幼く人を疑うことができず、また戦闘以外のことについて知らなすぎるからだ。

 ……だが、ウォルターの元に戻りさえすれば、彼が617を支えてくれるだろう。

 そこにナインが介在する必要は、ない。

 

 更に、感覚的な話ではあるが……ナインは、恐らく617から別れて行動することもできる。

 エアのように、621としかコンタクトを取れないようなこともない。

 特定の相手──ナインには未だ察しが付かないが、要するに脳深部コーラル管理デバイスを具えた強化人間──であれば、会話をすることは可能だろう。

 そうでなくとも、ハッキングして文章を表示するなりで、誰かとコンタクトを取る方法はいくらでもある。

 

 だから……。

 選択肢の1つとして、617から別れて独自にルビコン3で活動する、という道も考えられるわけだ。

 

 それこそやろうとすれば、謎のワケアリ独立傭兵として前世で磨いた操作技術をお披露目もできるだろう。ケイト・オールマインド・マークソンスタイルだ。

 ルビコン3にはうんざりすることが多すぎる。何を目指すか次第ではあるが、617や621のためにその解消を考えるのなら、むしろ独自勢力として露払いに動いた方が効率的かもしれないまである。

 

 更に言えば、手段だけではなく、その目的についても悩ましい。

 

 せっかく憑依なのか転生なのかよくわからないにしろAC6の世界にやってきたわけで、せっかくならやりたいことやったもん勝ちしよう、と思わなくもないが……。

 そもそもナインはAC6のメインストーリーをめちゃくちゃ気に入っていたし、そこで失われるものや死別する人にも価値を見出すタイプだった。

 故に、一概にそれを否定するのもどうか、というオタク特有の面倒くさい感情もあるのだ。

 

 故に、彼は今後どのように動くか、悩んでいるのだ。

 

 

 

【うーん、しかし……617は十分強いし……ウォルターの下なら俺がいなくても生きていけるだろうし、いっそ俺は離れて……いやあの人割とスパルタというか無理難題なこと言ってくるし……ウォ~ッチッチに617が行くことになれば……】

「だめ!」

 

 響いたのは思考ではなく、合成音声でもなく、未だ幼い少女の声。

 それに驚き……それからけほけほと咳き込む617を感じて。

 ナインは今更ながら、彼女が声を上げたことに気付く。

 

【617、どうした? 大丈夫か?】

 

 喉を焼かれた彼女が声を上げる際には、少なからぬ痛みを伴う。

 それを気遣うナインに、涙目で首輪デバイスを機動した617は答えた。

 

『……駄目です。ナインは、おにいさまは、617から離れては駄目です』

【いや……あ、もしかして今の、また思考を流しちゃったのか? 相変わらず調整の難しい……】

 

 旧人類であった頃と違って、新人類となったナインには、独立した思考や声というものがない。より正確に言えば、それらの概念が完全に刷新されている。

 故に、ただ考えていたはずのことがいつの間にか声に出している、ということも少なくはなかった。

 

 大抵の場合、617はそんなナインの独り言を聞き流してくれるのだが……。

 今回ばかりは、そうもいかないらしい。

 

『617には、……617には、ナインが、おにいさまが必要です』

【そう言ってくれるのは嬉しいが……】

 

 言葉を濁すナインに対し、617は食い下がるように、シートから腰を浮かして言った。

 

『それに、617は、強く……強くありません』

【え? いや、そんなことはない。617は結構強いと思うぞ】

 

 こくりと首を傾げ……ることはできないものの、ナインはそう伝える。

 

 

 

 実際、ナインから見て、617のAC操作技術は高い。

 例えて言うなら……海越えを為した辺りのプレイヤー、くらいの動きだろうか。

 弱点の分からない初見の特務機体をソロ攻略、はまだ厳しいだろうが、僚機がいれば十分に射程圏内だろうし。

 アサルトアーマーやリペアキットが機能を取り戻せば、それこそレッドガンやヴェスパーの上位ナンバー相手にも引けは取らないだろう。

 

 ……その程度か? と思われるかもしれないが、まぁ待ってほしい。

 617は年若く、とてもではないが熟練の傭兵というわけでもない。

 ウォルターに買われてからはまだ半年も経っていないらしく、傭兵キャリア的にはまだ新米もいいところだ。

 それなのに、大資本を持つ企業の下、豊富な資金で装備・練度を高められる最新世代の強化人間たちと互角に張り合えるのだ。

 

 本編主人公のC4-621があまりにイレギュラーすぎるだけで、彼女も十分すぎる程に強者の域にあると言っていいだろう。

 実際、彼女はハウンズの中で飛び抜けた実力を持っていたらしく……だからこそ、仲間たちは617を庇って先に死んでいったのだと、彼女はそう語っていた。

 

 だからこそ、戦力的な意味においては、ナインが617から離れるのは問題ない。

 なんなら、621とかいう一般通過イレギュラーと共に作戦に挑める分、ウォルターが時々言ってくるとんでもない無茶ぶりが良識的なミッションに化けるまであった。

 

 

 

 ……と、ナインはそう思っていたのだが。

 どうやら、617が問題としているのは、そういう即物的な部分ではないらしい。

 

『……617は、ナイン程に、強くはありません。

 カタフラクトを前に、ナインが見せてくださった、動き。それに比べて、617は』

 

 ああ、なるほど、と。

 そこまで聞いて、ナインは納得する。

 

 ナインの操作技術は、プレイヤー視点で見れば最上位で済むだろうが、この世界基準で見るとイレギュラーの範疇だろう。

 実際、初見の敵はともかく、原作で登場した敵には全て無被弾で勝つくらいの自信はあった。

 この前617を助けた時も、いつも通りに前方やや斜めでふよふよしながらスタッガーを取っててきとうにぶっ飛ばして余裕で勝ったわけだし。

 

 ……しかし、そんなナインの戦いは、同時に悪い影響ももたらした。

 

 恐らく617は、ナインの戦いを見て自信を失ってしまったのだろう。

 自分は強いと思っていたのに、世界の広さを知ってしまった。

 カタフラクトもそうだし、ナインもそう。世の中にはどうしても勝てそうにない強者がいる。

 

 だから、圧倒的な強者であり味方であるナインがいなくなることに、不安を感じてしまうのだろう……と。

 ナインの考察はそんなところ。

 

 

 

 勿論、これは間違いである。

 

 

 

 617は、殊更に操作技術に自信を持っていたわけではない。

 ハウンズの中でも抜けていたこともあり、ある程度の自負はあったが……。

 同時、強化人間特有の情緒の薄さでそれを客観視していたため、高慢にまではならなかった。

 

 そんな彼女がナインの戦いを見て、その心に僅かに抱いたのは……。

 羨望と、尊敬と……そして何より、悔しさと焦り、だった。

 

 617はウォルターに、意味を与えられた。

 ACを駆り、戦い、殺す。

 闘争こそが、今の617の生きる意味なのだ。

 

 だからこそ、617は強くあらねばならない。

 ウォルターのために、ハウンズの皆のために、誰より強くあらねばならなかった。

 

 ……それなのに。

 

『617は……おにいさまより、弱い』

 

 カタフラクトとの戦いで見せた、ナインのAC捌き。

 勿論それは、ナインの不可思議な力によって、駆動の最適化やCOMの細部調整などされているのだろうが……。

 そもそもそれ以前の、単純な動かし方の時点で、617は敗北感を覚えざるを得なかった。

 

 小さく跳ねるようにジャンプし、かと思いきやQBで真逆に切り返し。

 後ろに下がって接近を誘い、かと思いきや相手のガトリングがオーバーヒートすると、一気に距離を詰め。

 まるで相手が距離を離すと読んでいたように、先んじて開始していたアサルトブーストで後を追い。

 619が、620があれほど悩まされ、結局1度も回避できなかった拡散レーザーショットさえ、ただジャンプするだけで回避してみせた。

 

 ……そして彼はその全てを、617と話しながら、片手間に行っていた。

 

 隔絶した差が……いいや、断絶とすら呼んでいい程の違いが、そこにはあった。

 強くあるべき、戦うことで自らを明かすべき617はしかし……。

 ナインに比べて、ずっとずっと、弱い。

 

 では。

 ナインにとって、617には、何の価値があるのか。

 

 交渉も、索敵も、オペレーションも、そして戦いも。

 全ての面でナインが優るのなら……もう、617は、不要だ。

 

 あれ以来、617の心には微かな、けれど強い恐れが生まれていた。

 ウォルターからもらった自らの価値が失われ……ナインに、おにいさまに、見捨てられることを。

 自分を助けてくれた人たちに、「お前は必要ないのだ」と、そう言われることを。

 

 彼女は、恐れているのだ。

 

 

 

 しかし、617はその感情の名前を知らない。

 恐れなど兵士には不要なもので、ウォルターも殊更にそれを教えはしなかった。

 故に617は、自分が本当に望んでいることが何なのかもわからないまま、心の中に発生した非常に不快な「もやもや」を解消しようと、ナインに乞う。

 

『617は……より強く、ハウンズとして、より強くならねばなりません。

 おにいさまには、617のオペレーターをすると同時、617の戦力を向上させる手伝いをさ、しさ……して、いただきたいと、思っています』

 

 彼女自身、内心で語りたい言葉が定まっていないのだろう、首輪から発されたのは曖昧でたどたどしい言葉。

 

 ナインはそれを聞き、一瞬だけ何かを考え……。

 

【……あまり、人に教えられるものでもないんだけどね】

 

 617の視界の隅で、まるで肩をすくめるように、その赤い光の上部をひょこっと動かした。

 

【ま、アリか、それも。進化の現実ってヤツを見せてもらうのも悪くない。

 承った。……いずれ来るかもしれないいつかの日まで、俺は変わらず君をサポートしよう】

 

 

 

 ……実のところ。

 ナインは、617のACの操作精度に、可能性を感じていたのだ。

 

 ACを駆り始めてそう長いわけでもなく、企業専属AC部隊のように十全なサポートを得ているわけでもなく。

 それでもなお、617の動きは、秀でている。

 

 その理由は簡単だ。

 彼女は殊戦いにおいて、非常に強いハングリー精神を持っており、おおよそ学ぶことをやめないから。

 

 この前の、アーキバスとベイラムの依頼の時などが良い例だ。

 彼女はACと戦う中で、新たな戦い方を試していた。

 前々回のミッションでは見られなかった動きを……恐らくはナインの操作を模したのであろう動きをして、その有効性を確かめていた。

 少しでも操作の精度を上げようと、誰かを殺す効率を上げ自分が死ぬ確率を下げようと、作戦に支障をきたさない範囲での試行錯誤を、決して止めなかった。

 

 617は、強さの探求に、貪欲だ。

 それこそ今617に乞うていることからもわかるように、自身の強さを、ハウンズとして戦うこととその誇りを、非常に重要視している。

 

 それを追求する手段は闘争であり、そしてそれを披露する目的の場もまた闘争。

 彼女の魂は、尊厳は、人生は、強く強く闘争に依存している。

 

 ……そして、恐らくは。

 その飽くなき闘争こそが、最大の素質なのだ。

 

 「イレギュラー」、「ドミナント」、「レイヴン」、「リンクス」、「人類種の天敵」、「黒い鳥」。

 様々な呼称で呼ばれる、絶対的な力を持つ存在になるための、素質。

 

 ナインボールの名を借りる自分がイレギュラーを育てようとするなどなんという皮肉かと、そう思わないでもないが……。

 それ以上にナインは、興味を持ってしまった。

 

 C4-621という、恐らくはこの世界でイレギュラーとなり得る人物の他にもう1人、最強の存在がいれば。

 そこには果たして、どのような可能性が生まれるのか。

 3つの結末、3つの答え以外の、4つ目の答えが現れるのか?

 

 

 

 ……そして、もう1つ。

 これは、ナイン自身も気付いていない、無意識下での興味ではあったが。

 

 617は、果たして……。

 

 ──自分を倒せる程に、強くなるのか?

 

 その疑問が、興味が、高揚が……。

 強者と鎬を削りたい、研ぎ澄ました武器の切れ味を証明したい、あるいはもっと単純に……『戦いたい』という闘争本能が。

 

 既に存在しない、彼の胸を熱くさせていた。

 

 

 

 だからこそ。

 ナインはそれまでの間、617を守り、育てようと決断する。

 

 この世界にあるかもしれない3つのエンディングを超えた、4つ目の道の先。

 そこに、かつてはナインも望んでいた、大切な人たち全てが救われる、大団円の結末があることを……。

 

 ……そして、その果てに。

 新たなる闘争の可能性を、夢見て。

 

 

 







 純愛(今の所一方通行気味)

 世界を破滅させそうな力使うし、統合し再現された人格に過ぎないし、心が戦いを求めちゃってるし、実質死神部隊隊長。
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