そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 封鎖機構本気の殲滅作戦開始。
 うーんこれは悪しき独立傭兵が排除され、輝かしき封鎖に基づく平和が訪れるんやろなぁ……。
 まさかレッドガンでもヴェスパーでもない名もなき一般通過独立傭兵にボッコボコにされて涙目敗走なんてせんのやろなぁ……。





綺麗な花火ですね

 

 

 

 パッチ、ザ・グッドガイは、自身が世界の主人公でないことを誰よりも知っていた。

 

 

 

 人によっては、彼を成功者であると言って来る者もいる。

 そしてそれは、一面においての真実なのだろう。

 

 MTに乗って小規模な戦場で死骸漁り(スカベンジャー)をしている内に、幸運にも状態の良い企業製ACのパーツをいくつか手に入れ、それらを売却して得た資金を元手に商売を開始。

 主にACやMTの武装に用いられることのある弾薬や、出処の怪しい各種武装を運ぶ、死の商人となったが……。

 

 ……ハッキリ言ってしまえば、彼に先見の明はなかった。

 そもそも、既に新資源コーラルは燃やし尽くされ、ただの辺境の資源星系に堕ちていたルビコン1で、どうやって弾薬や武装を売るつもりだったのか。

 若き日の経験不足故の判断は、今のパッチですらその根拠を思い出せない、あやふやなものだった。

 

 

 

 が。

 彼には先見の明こそなかったが、その代わりに運だけはあった。

 

 安価で大量に商品を仕入れ、いざ売ろうとした頃になって……。

 さる独立傭兵が、ルビコン3にはまだコーラルが残っていることを、企業にリークしたのだ。

 

 寂れた辺境星系は一転、華やかで殺気立った戦場となった。

 惑星封鎖機構のシステムと武力による封鎖、それを潜り抜けて侵入し新資源を求めるアーキバスやベイラムによる潰し合い、そして二者に抵抗するルビコニアンたちの決死の抵抗。

 今やパッチの故郷の星系は、欲と血に塗れた戦場となってしまった。

 

 しかし、何も悪いことばかりではない。

 パッチにとってこれは、途轍もない追い風ともなった。

 

 なにせ、需要がないからこそ安く仕入れることができた商品の価値は何十倍に跳ね上がり、笑うしかない値段で売れるようになったのだ。

 それによってパッチは莫大に過ぎる金銭を得、また企業とも若干の繋がりを作ることができ、一気に商売の手を広げていった。

 

 

 

 パッチは、本当に運が良かった。

 

 運良く安く商品を仕入れ、運良くそれらの需要が上がり、運良く高く売ることができた。

 運良く企業と繋がって、運良く襲われても生き残り、運良くビジネスの経験を積む事ができて……。

 

 ……そして運良く、恐ろしい程の強者と知り合いになった。

 

 全ては、運が良かったからこそできたことだ。

 

 パッチは、自分の手で成功を掴んだのではない。

 全ては運によるものであり、仮にその幸運を得たのがパッチでなければソイツが成功を掴んでいただろうし、運を得られなければパッチは既に死んでいた。

 

 パッチは「選ばれた」わけでもないし、「例外」ではない。

 ルビコン星系に住まう、ただ極端に運が良かっただけの、一般人に過ぎないのだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……だからこそ。

 

 それは、運の揺り戻しという意味で、当然の展開だったのかもしれない。

 

 

 

「ちっ……俺も、勘が鈍ったかね」

 

 パッチは、自身が所有するACのコックピットの中、独り言ちる。

 

 メインカメラに映るのは、闇夜の中の鮮やかな赤。

 瓦礫の上に無造作に転がる人だったものとその中身、壁に打ち付けられた血と、油の上の炎。

 それらの尽くは赤く、まるで2つ隣の惑星に残る、火種を思わせる色だ。

 

 そして、そんな中。

 額から流れる血によって片目を開けないまま、パッチは操縦桿を握っていた。

 

 

 

 急変した事態に気付いたのは、つい5分前。

 パッチの舎弟が「封鎖機構が来た!!」と駆け込んで来た時のことだった。

 

 彼も報告を受け、急ぎパッチに伝えてくれたのだろうが……。

 人が情報を伝達するスピードよりも、エクドロモイと呼ばれる封鎖機構の特務機体の方が速く。

 

 パッチが慌てて表に出た時には、既に戦闘は始まっており、街は火の海。

 必死に彼の愛機が収納されているドックへと走る中、落ちて来た瓦礫が頭を掠ったり、舎弟が隠れ損ねてMTによって銃殺されたりと、吐き気を催す事も起こりはしたが……。

 

 それでも、なんとかACに乗り込むことには、成功。

 メインシステムを通常モードすっ飛ばして戦闘モードで起動し、これからどうするかを考えている……というのが、今の状況だった。

 

 

 

 まず、大前提として。

 パッチではこの封鎖機構の襲撃に抗しようがない。

 

 流石に軽MTやドローン相手に負けることはないだろうが、それも複数に囲まれてしまえば怪しいし、四脚などの重MTになれば勝てない可能性が高い。

 当然ながら、化け物じみた性能のLCやら特務機体には勝ちようもないし、今もうるさく騒いでいる強襲艦に狙われでもしたら死以外に道はなくなる。

 

 そう。「選ばれた存在」ではないパッチには、どうしようもないのだ。

 

 ……が。

 今まさに強襲艦が出て来いと叫んでいる、「選ばれた存在」であれば。

 この勢力すらも、返り討ちにできるかもしれない。

 

 そしてパッチは、その存在の居場所を知っているし、話ができるだけの立場も有している。

 「頼んだ」と一言伝えれば、彼女たちは封鎖機構を蹴散らしてくれるかもしれない。

 

 

 

 ……しかし。

 

「都合が良すぎるなぁ、そりゃあ」

 

 パッチは自嘲気味に苦笑を浮かべ、脳内に湧いた選択肢を切り捨てた。

 

 617、あるいはナイン。

 そう名乗る、二重人格の……凄腕の傭兵。

 確かに、封鎖機構を二度に渡って壊滅させた彼女たちなら、可能性はあるだろう。

 

 特に目の赤い方、ナインだ。

 「アーキバスざまぁ記念豪遊会」で、何故かややテンションの高かった617から聞いた話、ナインは絶技と言っていい操作技術を有しているらしい。

 ……特務機体を無被弾で圧倒した、というのは流石に吹かしだろうとは思っているが、というかそう思いたいが、少なくとも単騎で封鎖基地を壊滅させるだけの力は持っている。

 

 であれば、この強襲部隊も撃滅できる可能性は、確かにある。

 ある、のだが……。

 

 もうパッチには、彼女たちを頼ることはできない。

 何故なら、単純な話、差し出せるものがないからだ。

 

 

 

 617たちの目的がルビコン3への密航であるということは、前々から聞いていた。

 だからこそパッチは、ブローカーへの手引きやミッションの報酬という形で両者に得のあるウィンウィンの状況を作り、彼女たちの凄まじい力を利用してきた。

 

 だが、既に617の密航は明日に迫っている。

 今から封鎖機構の強襲部隊を相手にするなんていう、ハイリスク極まる行為を取る必要はないだろう。

 その上、パッチは現在商売道具と私財を燃やされている最中だ。払うべき報酬、然るべきCOAMすら残るかはわからない。

 

 他に考えられる、彼女たちを動かせる方法は、それこそ人情に訴えることくらいだろうが……。

 

「ハッ……メスガキに乞うとかありえねぇ。伊達男、名乗れなくなっちまうからな」

 

 本来戦場に出るべきでない、子供の女。

 そんな相手に、対価もないのに戦ってほしい、自分が死ぬ可能性を呑み込んで人を殺して欲しいなどと、そんなことを言うのは……。

 パッチの「普通」の感性が、許さない。

 

 

 

 ……しかし、それならどうするか。

 

 逃げる、わけにはいかないだろう。

 幸運は二度もやってこない。特に、自分のような「選ばれた」わけでもない人間には。

 商売道具を燃やされてしまえば、再起のチャンスなどないだろう。

 

 ここから逃げて、この辺境星系で、ただ死んではいないだけの余生を送る……。

 それよりはまだ、自分の運が良いままである可能性に賭けた方がいい。

 

「……やるしかねぇか」

 

 パッチはため息を吐き、愛機の操縦桿を強く握る。

 

 半ば、ここが自分の死に場所であることを確信しながら。

 せめて、あの変わり者の二重人格者が、自身の望みを果たせるようにと、そう願って……。

 

 

 

 

 

 

『──ッチ! パッチ! パッチ、ザ・グッドガイ! 応答しろ!

 クソ、もっと帯域を広げるか……? いや、これ以上は封鎖機構に傍受される。ただでさえ危険を冒しているのにこれ以上は……! おいパッチ、いないのか!?』

 

 

 

 

 

 

 ……唐突に、どこにも繋がっていないはずの通信機から、声が届いた。

 

 パッチは一瞬、それに応えを返すべきか迷い、しかしそれが何の意味もない躊躇であると思い直して、マイク機能をオンにする。

 

「馬鹿野郎が! なんで来やがった!?」

 

 叫ぶパッチに、けれど相手は会話を続けることはなく。

 

『その声、パッチだな! ちょっと待てよ逆探知する!

 ……よしきた、617、目標をマーカーに出すぞ!』

『了解。パッチ、可能な限り身を隠して、その場で待機してください』

 

 問答することすらなく、一方的に言うだけ言って、パッチの知り合いであるワケアリの独立傭兵はブツリと通信を切断した。

 

 胸の中に到来する動揺と苛立ちから、「いっそ逃げて慌てさせてやろうか」なんて思わなくもなかったが……。

 結局のところ、パッチにはそうするだけの勇気もなく、面の皮も厚くはなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 待つこと、2分程。

 一度は出た整備用ドックの中に戻り、機体をハンガーにかけ、整備中の無人機体に見せかけていたパッチの愛機「ハンサム」の元へ、独立傭兵……617とナインはやってきた。

 

 ロックしておいた扉を強引に蹴り開け、パッチも見慣れた機体であるAC「scav617MG」が入って来る。

 

『周囲に敵影なし……というか全員倒したな。エクドロモイは東部で暴れて、強襲艦は外縁で待機してる。

 この区画はしばらくは安全だと思っていい。……俺たちが出ていかない限りは、だが』

『パッチ、無事ですか』

 

 同じ合成音声で、けれど全く異なる話し方のそれらは、間違いなくパッチの知っているもので……。

 

 だからこそ、パッチは眉間の皺を深くする。

 

 

 

「……てめぇら。さっきも言ったけど、なんで来やがった。

 俺は依頼なんざ出してねぇ。てめぇらに払う金なんざ1COAMもねぇぞ」

 

 彼女たちに強気に出られたのは、商売人の演技力故だった。

 

 目の前に降り立ったACは、化け物だ。

 APが500も残っていない状況で奇襲されても、平然と受け流して逆転し。

 パッチ自身が使えるかギリギリだと判断したジャンクパーツを用いて、封鎖機構の防衛部隊を全滅させ。

 アーキバスとベイラムの間で平然とコウモリをし、大企業を裏切っておきながら「まぁ刺客が来たら殺せばいいだろ」とへらへら笑う。

 

 パッチとは住んでいる世界、見えている次元が違う、「例外的な」独立傭兵。

 

 彼女たちの機嫌を害せば、きっとパッチは呆気なく殺されてしまうだろう。

 

 

 

 ……けれど今は、そんなことはどうでも良かった。

 

 傍から見ているだけでも、彼女たちが……特に目の青い617の方が、ルビコン3に向かうことに相当執心していることはよくわかった。

 それもあって、パッチは彼女たちに救援を求めることはなかった。

 引き留めるだけの報酬もなく、手段もなく……何より、そうしていい程の義理もないのだから。

 

 独立傭兵と依頼主は、商人と客と同じ。あくまで対等な関係だ。

 傭兵の仕事というサービスに対し、適切な報酬という対価を払うことで、初めて成立する。

 パッチは商人だからこそ、その関係性をどこまでも冷徹に理解していた。

 

 つまるところ、報酬を払えないパッチにとって独立傭兵617は赤の他人に過ぎず……その逆もまた然り。

 本来はまだ遊び回っているべき子供が、赤の他人のために無駄に命を賭けることなど、あってはならない。

 

 故に、パッチは彼女たちの背を蹴り飛ばそうとした。

 

 今からでも、密航のための合流地点に向かえと。

 自分のようなケチでつまらない商売人のことなど忘れて、さっさと進めと。

 

 

 

 ……しかし。

 

『いいえ。617は、あなたから報酬をもらう約束をしています』

 

 その言葉に、パッチは「は?」と首を傾げる。

 

 彼はこれでも商人だ。

 口約束だろうが、支払う受け取るの約束を忘れることは決してない。それこそ酒に酔っていようと。

 

 しかし、そんな彼をして、617たちに何かを支払う約束をした覚えはなかった。

 何の話だと、パッチは沈黙を以て話の先を促し……。

 

 

 

『言ったはずです。青だけでなく、赤い髪飾りを用意する、と。

 617はまだ、その報酬を受け取っていません。然るべき報酬を受け取るために障害があるのなら、独立傭兵として、617はそれを排除します』

 

 

 

 その返答に、唖然とした。

 

 次いでかかる、ナインの声。

 

『ま、そういうことだよ。617と、ついでに俺に感謝するといい。

 ……ああでも、完全に無償とは言えないけどね。悪いが弾薬費とか修理費、あと偽装工作分はそっち持ちってことで。

 命あっての物種ってヤツだ。……この言葉って残ってる?』

 

 相場から考えて、グリッド15に到来した封鎖機構レベルの大規模部隊を相手にするのは、基本報酬に400,000から500,000COAM出し、更に特別加算がかかってしかるべき大仕事だ。

 ……そもそもルビコン1には、そんな破滅的なミッションを請け負う傭兵などいないだろうが。

 

 対して、ナインが求めたのは、どれだけ増えても数万COAM程度の弾薬費と修理費だけ。

 偽装工作にかかる費用など、元よりパッチが持って然るべき費用である。

 

 破格、というレベルではない。

 617もナインも、何も得をしない取引だ。

 言葉を濁さず言えば、それは搾取にも等しく……。

 

『おっと余計なことは言いっこなしだぜ?

 ……617にとって、お前の存在と赤い髪飾りは、それだけ価値があるってことだ。

 人によって物に感じる価値は違う。商人ならその程度わかってんだろ?』

 

 しかし、開きかけた口を、ナインが閉ざさせた。

 

 ……ああ、確かに、それは道理だ。

 砂漠地帯で乾ききった人間にとって、一杯の水が無限に等しい価値を持つのと同じように……。

 617にとってそれは、きっと相応の価値があるもの、ということで。

 

 ならば、商人たる自分が、それを否定するわけにはいかない。

 

 

 

「……ったく、ガキのくせに、俺以上にカッコ付けやがって」

 

 パッチはどこか楽し気にぼやきながら、操縦桿から手を離し……。

 ゆっくりと、自分のズボンのポケットを上から撫でる。

 

 その中に入った、値段にして1COAMにも満たないものが繋いだ、縁と命。

 

 どうやらパッチの運は、未だ絶頂にあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、それと』

 

 そして、不意に飛びこんで来たナインの言葉に……。

 

『これから起こることは詮索無用だ。記録には残さないし、歴史上にも刻まれることはない、闇の中に葬られる出来事になるんでね。

 617にある程度経験を積ませた後は……今の俺が全力を出したらどこまでやれるか、本格的に確認しときたいんだ。悪いが付き合ってくれ。

 下手に動いたりするなよ? そちらが巻き込まれたら最悪死ぬから、まぁそのつもりで』

 

 ……もしかしたら、絶頂と思った運は底の底だったのではないかと、パッチは禿げ頭を抱えた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ルビコン1、グリッド15。

 不可思議なことに、連絡も観測も記録もできなくなったそこで……。

 

 綺麗な赤い花火が、何度も、咲き乱れた。

 

 

 

 残ったのは、不可解な破壊と侵食痕の残った惑星封鎖機構の強襲部隊の残骸と、これだけの戦力に攻められたにしてはあまりにも軽い被害に終わったグリッド15。

 

 そして、戦場の真ん中に無造作に転がった……。

 「scav617MG」と呼ばれていた、頭部の吹き飛んだACの残骸だけだった。

 

 

 

 独立傭兵、617。

 その名は長いこと、ルビコン1にて語り継がれることとなる。

 

 流れの傭兵で正体不明、誰一人としてその姿を見た者はおらず……。

 けれど、その有り余る力をルビコニアンのために振るってくれた、親愛なる隣人。

 恩ある友人とグリッドを救うため、最期まで外敵と戦い続けた、英雄として。

 

 

 

 それを飾るのは、とある幸運な商人にとって最後の、そして唯一対価を求めぬ商品であった。

 

 

 







 封鎖機構システム「敵性ACが撃破されてる! やったか……!?」
 真レイヴン「^^」
 ナイン「^^」



 今回でchapter0、ルビコン1編は終了。
 次回からはいよいよ本編の舞台、ルビコン3へ突入します。

 ここまではオリジナル要素が多すぎて、考えるの楽しいけど大変でした。設定ミスもあって恥ずかしみが強い。
 ここからは原作描写と共に、ミッションとか戦闘描写ももっと増える予定。

 想像以上に多くの方に楽しんでいただけて、めちゃくちゃ嬉しかったです。素敵だ……♡
 一度書き溜めのお時間をいただき、chapter1もストックが出来次第一括投降します。お楽しみに。
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