そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 やぁレイヴン、久しぶりだな。密航以来か。
 積もる話もあるが、おさらいに入ろう。

 617:強化人間C4-617。イレギュラーの素質を持ったハウンズ。銀髪薄幸美少女傭兵。本編開始前に死ぬはずだったが色々あって生還、脳に生えて来た謎の脳内サポーター「ナイン」をおにいさまと呼び、ルビコン1で傭兵活動をしていた。AC操作技術はそこそこ高い。

 ナイン:転生したらコーラルだった件。どこぞの野良犬が起こしたリリースによってコーラルに焼き付いた人格、それが別次元からC4-617の脳深部コーラル管理デバイスまで流れ着いたもの。メンタルや倫理観は現代日本人だが、既に人類種でなくなっていることから殺人への抵抗感は薄く、また精神性が闘争に強く寄っている。AC操作技術はイレギュラーな上に本気を出すとACを実質ネクスト化することが可能。





Chapter1前編
To Ravens, Welocome to the Rubicon.


 

 

 

 ID:ISB2262、惑星ルビコン3。

 自己増殖し、燃料として転用可能な新資源「コーラル」が再発見されたことにより、この星は今、戦乱の真っただ中に置かれていた。

 

 

 

 現在この星で争っている勢力は、大きく分けて3つ。

 

 まず1つ目が、惑星封鎖機構。

 AIシステムによって管理されるこの組織が標榜するのは、「封鎖による秩序」。

 人類の開発により危険な状態になった惑星、あるいはその惑星にある資源や環境を管理することで、人類に対して与える害をなくそう、というのがその行動理念だ。

 

 この勢力の最大の特徴は、やはり徹底したシステムによる管理だろう。

 惑星封鎖機構において、上層部の決定から現場での判断まで、その尽くはAIによって行われ、人が個別の判断を下すことはない。

 人の手や思想に委ねない組織運営は、良くも悪くも一切の腐敗や派閥の形成を許さない。

 大企業と渡り合うだけの資本力を持つこの巨大組織はしかし、その末端構成員に至るまで、惑星封鎖の行動理念から一切ブレることがなく行動できるという、脅威の団結力を有している。

 ひとえに、その全てをシステムに依存することによる思考停止の果てであった。

 

 更に言えば、50年前に発生した「アイビスの火」以来長らくこの惑星を封鎖していたことで、この勢力は企業群よりもルビコン3について多くの知識を蓄えている。

 企業が何より欲している、大量のコーラルが眠る場所も……そして、それを守るための兵器群も、手中に収めている状態だ。

 

 そしてその徹底した監視網と張り巡らせた衛星砲による厳重な警戒により、企業は大規模兵器をルビコンに持ち込むことすらできない。

 現在ルビコン3において覇を唱えているのは、頭1つ抜けて惑星封鎖機構だと言えるだろう。

 

 

 

 2つ目の勢力は、企業。

 更に分けるのであれば、アーキバス系列とベイラム系列に大別されるが……。

 その目的が共通している以上、これは現時点においてある意味1つの勢力と捉えていいだろう。

 

 企業が目指しているのは、新資源コーラルの獲得だ。

 自己増殖する燃料など、夢の資源と言って差し支えない。

 これを確保し、どうやって危険性を排除するか、どう活かすべきかの研究を進めるため、星外にある企業の本社へと輸送する。

 それがこのような田舎惑星にまで足を伸ばした企業の目的であった。

 

 しかし、当然ながら惑星封鎖機構はこれを許さない。

 50年前に星系を滅ぼしかけた事件、「アイビスの火」。これを引き起こしたのは、大量のコーラルの爆発的な燃焼であるとする説が主流。

 である以上、そのように危険な物質を星外に持ち出されるわけにはいかない。

 現在も徹底した監視網と定期的な威力偵察により圧をかけ、企業の歩みを遅らせている。

 

 企業の第一目標は、ベイラムアーキバス両者間で出し抜かれないよう互いを牽制しながら、ルビコン3のどこかにあるはずのコーラルの集積地点を探すことであり。

 そして第二目標が、この惑星封鎖機構の目を欺き、あるいはこれを撤退させることで、コーラルの星外への輸送路を確保することだ。

 

 どちらの企業がこれを叶えるかによって、ベイラムとアーキバスの企業間パワーバランスは、大きく傾くことになるだろう。

 

 

 

 そして最後、3つ目の勢力が、ルビコン解放戦線。

 現地住民であるルビコニアンたちが組んだ反抗ゲリラ的組織であり、その主目標は星外から来るよそ者である封鎖機構と企業、この両名をルビコン3から退去させることである。

 

 はっきり言ってしまえば、解放戦線は他2つの勢力に比べ、非常に、あるいは非情に、パワーが弱い。

 当然の話と言えるだろう。巨大な資本力を持つ二勢力と違い、彼らは貧しい開発惑星の原住民に過ぎないのだ。

 高い団結力と士気、そして誰より現地を知るが故の土地勘や補給路の確保によって、なんとか均衡状態に持ち込もうとしているが……それにも限界がある。

 

 封鎖機構を、そして相手の企業を敵視するアーキバスやベイラムからすれば、彼らは害虫のようなものだ。

 上手く相手にけしかければ多少の得はあるかもしれないが、基本的にうっとおしく邪魔になる存在。

 しかし、わざわざ本格的にこれと事を構えれば、もう一方の企業に隙を突かれるだろう。

 更に言えば、彼らを攻撃する行為は、現地住民からの覚えが非常に悪い。補充や補給を考えれば、積極的に行うことはデメリットも大きい。

 そのため、解放戦線は弱小ながら、それでもルビコン3において1つの勢力と言えるレベルで活動することができている。

 

 一方で、封鎖機構にとっては、現地住民である解放戦線は特段の敵対対象にはならない。

 彼らからすれば、とにかく危険なものを外に持ち出すことだけは避けさせねばならないわけで、むしろ企業への反抗勢力である解放戦線は利用できる存在だろう。

 少なくとも現時点において、システムは解放戦線への締め付けを強化するという判断は下していない。

 

 逆に解放戦線から見れば、外との通商ルートを封じ、ルビコニアンたちの貧困の原因を作ってもいる封鎖機構は決して肯定できる存在ではない。

 ……が、同時、封鎖機構は企業の搾取を押し留めている最大の抑止力でもある。

 そもそも戦力的に敵う相手でもないが、もしも封鎖機構がいなくなれば、彼らはまず間違いなく現状よりも酷い状況に置かれるだろう。

 故にこそ、解放戦線も封鎖機構よりも企業を優先して排除しようと動いているのだ。

 

 

 

 以上が、大まかなルビコン3の勢力圏の様子であり。

 この惑星ではほぼ常時、各地で三勢力による戦闘が繰り広げられている。

 

 時にそれは、ベイラムとアーキバスが互いを攻撃するものであり。

 時にそれは、封鎖機構が過剰戦力となりつつある企業を叩くものであり。

 時にそれは、解放戦線が企業に対して小規模な嫌がらせを行うものであり。

 

 そして、その日のそれは……。

 やり過ぎた解放戦線に対して、ベイラムが「お灸をすえる」、というものだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 べリウス南部、グリッド135の眼下に広がる、汚染市街。

 進みすぎた開発によって汚染され、ここに住んでいた人間は皆、上空に建築したグリッド135に逃げ込んだ。

 結果として、この汚染市街は既に住居としては使われていない……が。

 

 実のところ、そこは今、住居ではなく解放戦線の基地として使われている。

 汚染されていると言っても放棄当時とは違い、一時の逗留には耐えられるレベルの弱い毒性になっていること、グリッド135との距離感を含め地理的な条件が良いことなどからここが選ばれた形だ。

 

 いつもならば、解放戦線のメンバーが次にどうすべきか、どこに攻撃するべきかを話し合っているそこで……。

 

 

 

『死に晒せや猿どもォ!!』

 

 凄まじい声量で、広域放送がバラまかれた。

 

 次いで爆ぜるのは、バズーカから放たれた榴弾。

 『DF-BA-06 XUAN-GE』。大豊が開発したAC搭載の大型バズーカは凄まじい威力と爆発力を発揮し、そこにいたMTを強引に爆散させる。

 

『ハッハァ! てめぇらがこのハークラー様に! レッドガンに! 勝てるわけねぇだろうがァ!!

 ここで無様に屍晒せや雑魚がァ!!』

 

 吹き上げる爆炎の中をクイックブーストで突き抜けたのは、その全身をベイラム系列企業の製品で固めたAC。

 ベイラム専属AC部隊レッドガン、その構成員の一人、識別名G7(ガンズセブン)「ハークラー」が駆るAC、「ストレングス」だ。

 

 ハークラーは、傭兵支援システムによるアリーナにおいて、ランク22/Dに相当する存在。

 つまるところ……このルビコン3にいるAC乗りの中で、その戦闘能力は上から数えて22番目。

 その操作技術のみを見れば、レッドガンの上位ランカーたるG3五花海(ウーフアハイ)とすら並ぶ程の実力者だ。

 

 そんな彼が下位ナンバーであるG7の立場に甘んじているのは、企業所属のAC乗りとして相応しい「品位」や、AC操作技術を除けばこれといった能力を持たないが故であり……。

 逆に言えば、一切の遜色なく、ただ純粋な強さだけで精鋭たるレッドガンのAC乗りに認められた男でもあった。

 

 

 

 そんな彼が今回任されたミッションは、この汚染市街を「不法に占拠する」現地住民たちに、「穏便にご退去願う」こと。

 このところ妨害工作甚だしい解放戦線に、牽制の意味を込めて打撃を加える、というものだった。

 

『ベイラムを敵に回すってことがどういうことなのか、その血で理解させてやる!!』

 

 両肩のミサイルポッドを起動し、また左手に持つアサルトライフルを乱射して、彼は解放戦線のMTを蹴散らしていく。

 

 既に護衛らしき独立傭兵のACは撃破し、戦場にACの影はない。

 勿論解放戦線がACを超える戦力を保有しているわけもなく、もはや残るはMTのみである。

 

 つまるところ、ハークラーの快進撃、あるいは暴虐を止められる者は、今この場にはいなかった。

 

 

 

 当然と言えば当然の話ではあるが、アリーナの上位ランカーは企業所属のAC乗りが多い。

 潤沢な資金と設備、ハウツーの元に進められる人材育成は、現地での叩き上げである解放戦線のやり方よりもずっと効率良く、優れた人材を輩出できる。

 

 ……というより、そもそも解放戦線には、AC乗り自体が多くはなく。

 その中で、企業の正規ナンバーに数えられるAC乗りに張り合える人材となれば、更に少なく……。

 

 少なくとも、この汚染市街に詰めた部隊には、そんな者は一人もいなかった。

 

『ぶ、部隊長! このままでは……!』

『今は耐えろ、もうすぐ救援が到着する!』

『しかし、やはり独立傭兵では企業専属には……! モンキーだって何もできずに死んだんですよ!?』

 

 都市に隠れる解放戦線のMTたちの間では、怒号のような通信が飛び交っている。

 

 熟練のAC乗りに対し解放戦線は、それ自体で対抗することはできない。

 故にこそ、ルビコン3に密航してきた独立傭兵、企業にのみ阿ることのない彼らを頼ることになるのだが……。

 

 彼らが懇意にしていた独立傭兵モンキー・ゴードは、先程ハークラーによって撃墜された。

 

 MT乗りに過ぎない解放戦線の戦士たちから見ても、二者の戦力差は隔絶していた。

 周囲を機敏に旋回するハークラーに、モンキーはまともに反応すらできず、罵倒に苛立って突撃しようとしたところにバズーカの一撃をもらって……。

 AC対ACの戦闘は、1分も続かなかった。

 

 AC乗りの中でも、企業専属AC部隊であるヴェスパーやレッドガンは、戦闘能力が群を抜いている。 

 たとえ上位ナンバーでなくとも、下手な独立傭兵程度なら瞬殺できる程に。

 

 だからこそ兵士たちは皆、あまりにも暗い未来に、そして次々と数を減らしていく同志たちに悲鳴を上げ……。

 

 

 

 しかしただ一人、部隊長は、隊員たちの指揮を振るい立てるように叫んだ。

 

『ヤツはアリーナのランカーだ、圏外のヤツとは違う!』

 

 彼がつい先日契約を結び、そして先程救援を求めた独立傭兵は、強者だ。

 傭兵支援システムオールマインドが運営している仮想戦闘シミュレーション「アリーナ」にて、ハークラーには及ばずとも30番以内には入っている「ランカー」である。

 

 ランク圏外だったモンキー・ゴードよりは、ずっと使えるはずだ。

 仮にハークラーに直接は勝てずとも、自分たちMTが援護しさえすれば、撤退に追い込むくらいはできる……と、そう願いたいところで。

 

 どちらにしろ、もはや彼らには、その独立傭兵に期待することしか生き残る術はない。

 

『そろそろヤツの到着予定時間だ……今はとにかく散らばって耐えるのだ!

 コーラルよ、ルビコンと共にあれ!』

 

 

 

 部隊長が、解放戦線に伝わる警句を口に出した、その時。

 

 不意に、ずっと繋いでいた通信機にノイズが乗り、そして……。

 中性的な、合成音声が聞こえてきた。

 

『……聞こえるか、解放戦線。こちら……』

『遅いぞ独立傭兵! 急げ、こちらは既に半壊状態にある!』

 

 待ちかねたその声に部隊長が叫び返すと、向こうはどこか苦笑の感情を滲ませる。

 

『一応、巡航の最大速度で飛ばしてきたんだがね。

 ま、緊急の依頼ってことで報酬割り増しの約束だ、これ以上野暮なことは言うまいて。

 ……さて、それでは改めて』

 

 こほんと軽く咳払いして、声はどこか余裕を滲ませ、言う。

 

 

 

『こちら、独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー専属オペレーター。

 リンクスはちょうど今、作戦領域に到達した。これよりベイラム専属AC部隊レッドガン、識別名G7ハークラーの撃破を開始する』

 

 

 







 識別名:G7 ハークラー
 AC:ストレングス/STRENGTH
 ランク:22/D 
 戦闘ログ:銀(2pt)

 ベイラムグループ専属AC部隊 レッドガンの7番手。

 純粋な暴力に惹かれてベイラムに入社した彼は、そのAC操作適性から驚異的な早さでレッドガンに入隊し、同じく驚異的な早さで総長ミシガンに鼻っ面を叩き折られたという。
 それ以来彼の目指す先は、曖昧模糊な最強の座から、G1ミシガンの隣へと変わった。

 自分よりも後に入隊し、先に上位ナンバーへと駆けあがっていったG6レッドのことを一方的に敵視する彼は未だ、組織での戦いの意義も、最強という言葉の意味も理解できてはいない。
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