そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを 作:アリマリア
そうでなければ、誰が泥船になど乗るものか…
汚染市街上空を巡航基準速度のアサルトブーストで駆ける、AC「フォーアンサー」。
そのコア、コックピット内には、一人の少女が座っていた。
小柄の矮躯、いっそ不健康な程に白い肌。
それらとはどこか不釣り合いにすら感じられる、輝いて見える程に艶のある銀の髪。
右に青、左に赤の髪飾りを付けて分けられた前髪の奥では、青色の瞳がACのメインカメラから送られてくる映像を映している。
網膜上に投射されるACのUIシステムに目を通しながら、少女は目標地点を目指してACを駆り……。
そんな彼女の喉にかけられた首輪状のデバイスから、彼女の意思を介さず、合成音声が流れ出る。
『こちら、独立傭兵リンクス・ウィズ・カラー専属オペレーター。
リンクスはちょうど今、作戦領域に到達した。これよりベイラム専属AC部隊レッドガン、識別名G7ハークラーの撃破を開始する』
中性的で、どこか余裕を感じる声。
それは、通信機器の向こうへの語りかけ。
少女は、発声に合わせるようにちくちくと揺れる、視界の片隅の赤色を確認し……。
【よし。617、マイク切っていいぞ】
脳内に響いた声に従って、通信機のマイク機能を切った。
『……今回の作戦時間は、まだ少し先であると思いますが』
【予定変更は傭兵にはままあることだ。ハークラーとやらが功を急いたのかもしれない。
まぁどちらにしろ、俺たちの仕事は変わらないさ。
下位ナンバーとはいえ、相手はレッドガンの正規隊員。君にとっては良い経験になるだろう】
『ナインは、可能な限り手を出さないようお願いします』
【勿論。敗北寸前になれば対処するが、基本は一切手を出さないよ。
COMに手を入れたり、誘導補正も一切しない。君だけの力で、この1ヶ月の努力の成果を実感するといい】
脳内に響く、彼女にのみ聞こえる声と会話を交わす少女。
彼女こそは、ルビコン1より密航してきたハンドラー・ウォルターのハウンズの1人、銀髪薄幸美少女傭兵こと強化人間C4-617。
そしてその脳内に響く声は、脳深部コーラル管理デバイスに住まう転生コーラル擬きこと、ナインだった。
2人にとって、ルビコン3において何度目かの依頼は、解放戦線の基地を攻めて来るらしいレッドガン部隊のG7ハークラーの迎撃。
現地の解放戦線MT部隊と協力し、最低でも力を見せつけて撃退、可能であれば撃破することだ。
傭兵支援システム「オールマインド」を介せば誰でもアクセスできる、仮想戦闘シミュレーションシステム「アリーナ」。
それにおいて、ハークラーはランク22/D……つまりは上から22番目の実力者として評価されている。
アリーナは、蓄積されたデータを元に再現された他の企業所属AC乗りや独立傭兵の機体と、シミュレーター上で戦闘できるシステムだ。
企業の専属AC乗りや名うての傭兵はほぼ例外なく、自らの愛機をこれに登録している。
所詮は再現データに過ぎないとはいえ、蓄積されたそれは本人に近い動きを可能とし、それに勝てれば自らがどれだけ優れた傭兵なのかを他者へとアピールできるからだ。
故に、アリーナにおけるランクは殆ど直結して、企業所属の強さ、あるいは独立傭兵としての作戦遂行能力を示しており、部隊内での立ち位置や来る依頼、報酬の量に繋がっている。
特にランク30位以内は「ランカー」と呼ばれ、それだけで一定以上の実力を認められる程だ。
アリーナにおいてその順位を決めるのは、同ランク内で行われた戦闘の勝利数と勝率。
ハークラーは、複雑な策や戦術を考える脳こそないが、そのランクが示す通り、ルビコン3において最上級の敵の再現データを相手にしてもなお高い勝率を維持しており……。
つまるところ、レッドガンにおいても有数の実力者だ。
それだけの相手であれば、617の良い練習相手になるだろう、と。
そして、彼が求める「答え」には差し障らないだろう、とも。
ナインは冷静に、相手の戦力と命を値踏みしていた。
そうこうしている内に、「フォーアンサー」のメインカメラ上でナインがタグ付けした、ハークラーの反応が迫ってくる。
どうやらハークラーの機体である「ストレングス」は、今も解放戦線のMTを潰して回ることに夢中なようで、近付いてくるAC反応に気付く様子も見られない。
あるいは、その辺りの警戒心などもまた、彼が上位ナンバーに選出されない理由なのかもしれないが……。
617とナインにとっては、好都合だ。
【さあ、練習台だ……やれ、リンクス】
『はい、オペレーター』
2人のその会話を契機とし、AC「フォーアンサー」は、その腕に持つマシンガンを放ち始める。
『っ、なんだ!? てめぇAC、アーキバス……じゃねえな、その節操のねぇアセンブルは独立傭兵か!』
着弾によってようやく敵性反応に気付いたハークラーは、咄嗟にクイックブーストを噴かし、奇襲して来たACから距離を離そうとし……。
けれど、それを読んでいた「フォーアンサー」は、巡航速度から強襲速度へと切り替えたアサルトブーストを止めることなく詰め寄り、迷いなくアサルトアーマーを起動する。
『てめぇ!?』
ACの機能の1つであるクイックブーストは、瞬間的に高い加速力を得るが……その分、ブースターに強い負荷をかける。
その結果、ブースター自体の冷却性能にもよるが、これを使ってからもう一度ブースターを噴かすまでには、おおよそ1秒強の時間がかかる。
つまり、直前にクイックブーストを使いブースターの機能が死んでいた「ストレングス」は、「フォーアンサー」のアサルトアーマーから、逃れる術を持たない。
パルスの爆風、その爆心地にあった「ストレングス」は、処理し切れない衝撃の嵐によってACSの負荷限界に追い込まれ、強制的にスタッガー状態へ。
左肩の武装、
最後に再びアサルトブーストを噴かし、「ストレングス」を強かに蹴りつける。
その一連の動きには、戸惑いや躊躇は見られない。
明らかに、クセになるまで体に沁み込ませた流れだった。
『ぐあああっ!? クソ、クソが! やってくれたなァ雑魚傭兵!』
手痛い奇襲を受けたハークラーは叫び、再起動したブースターでクイックブーストを行い、今度こそ距離を引き離す。
アサルトブースト、そしてパルスブレードの展開でENを使っていたからだろう。「フォーアンサー」はそれ以上詰めてこようとはせず、けれど引き離されない程度の距離を保って、「ストレングス」に並走し始めた。
システムがスタッガーから復旧すると同時、ハークラーはリペアキットを2つ一気に使う。
システムを緊急保全しAPをある程度回復させるそれは、不意の強襲によって残り2割程度にまで擦り減った「ストレングス」のAPを、ほぼ万全な状態にまで引き戻した。
しかし、それまでの作戦で1つ使っていたこともあり、「ストレングス」に搭載されたリペアキットは今ので打ち止めだ。
これからは、残るAPの数字がそのまま「ストレングス」の耐久値を、そしてハークラーの命を示す。
保険を失ったという意味では、危機的状況と捉えるべきだったのかもしれないが……。
『不意打ちなんてコスい真似しやがってよォ……そうでもしなきゃ勝てねぇんだろうがなァ! 仕留め切れなかったことを後悔しやがれ!!』
むしろ、ハークラーは激昂し、操縦桿を握る力を強めた。
彼には誇りがある。矜持がある。
ベイラム専属AC部隊、レッドガン。あのミシガンの配下、強者にしか許されない地位。
自分はそれに選ばれた一員であり……何にも選ばれない独立傭兵如きとは、そもそも住む世界が違うのだ、と。
『解放戦線の猿共々、嬲り殺してやる。
てめぇのひでぇ死に様を公開して、独立傭兵が俺たちレッドガンに、ベイラムに! 二度と逆らおうなんざ思えねぇようになァ!』
調子に乗って喧嘩を売って来た雑魚を片付けようと、彼はその腕に持つバズーカを掲げた。
* * *
結果から言えば。
その戦いは、ハークラーの予想通り、一方的と言っていいものとなった。
ただし、追い詰められているのは、むしろハークラーの側だったが。
『っ、クソ、うぜぇ動きしやがって……!』
パイロットの言葉と共に、アサルトライフルの弾を吐き捨てる「ストレングス」。
しかし、その弾丸の命中精度は、決して高いとは言えないものだった。
ハークラーが搭乗する機体のFCSが、極めて優れた性能をしているわけではない、というのもあるが……。
何よりの理由は、彼の言葉通り、敵性AC「フォーアンサー」の動きにあった。
ACの武装による射撃は、搭載される
システムとしては、現在の敵の挙動から数秒後にいるはずの場所を予測し、彼我の距離と弾丸の弾速を元に、「このまま相手が動き続ければ当たるだろう位置」に向けて偏差射撃を行わせる、というもの。
これがあるからこそ、ACは数百メートル離れた位置で動き続ける相手に対しても、弾丸や弾頭を命中させることができる。
……しかし。
如何に優れたFCSにも穴はあり、これは必ずしも必中を保障するものではない。
その性能次第では、そもそも敵の動きを追い切れず、補正が間に合わない場合もあるし……。
あまりに急激に動きが変われば、それまでの計算は全て狂い、改めて敵の動きから再計算を行わなければならなくなる。
「フォーアンサー」の動きは、まさしくその穴を突いたものだった。
ただ横へと移動するだけでなく、不定期に小さく跳ねるように跳んで予測軌道を変え、時にクイックブーストで切り返す。
言ってしまえば、ただそれだけだ。
それだけで、「ストレングス」のFCSは相手の機影を頻繁に見失い、放つ弾丸の命中率は著しく落ちていた。
FCSのシステムと仕様、そしてその限界について熟知したが故の、最低限で最小限の回避行動。
ただいたずらに実戦を経るだけでは学べない、熟達の傭兵の動きだった。
一方で、「フォーアンサー」の弾丸の命中率は……そこまで悪くはない。
基本的に上を取るかのように跳ね、あるいはブースターでホバリングしながら撃ちおろすそれらは、時に大雑把な狙いになりながらも、それでも多くは「ストレングス」の機体を撃ち据えている。
「フォーアンサー」が両腕に抱えたマシンガンは本来、強力な武装とは言えず、脅威にはなり辛い。
本来の用途は、弾丸をばらまくことによる敵の牽制と、ACSへの負荷の維持。重量やEN負荷が重くない分、あくまでもサブの武装として用いるのが一般的だ。
それをハークラーは、よく理解していた。なにせそれの製造元は彼の所属するベイラムであり、彼にとっていつか超えるべき相手であるG5イグアスの武装でもあるからだ。
……しかし、それが脅威になりにくいのは、あくまでも片腕だけに握った状態での話だ。
両手にそれを持てば、単純計算、衝撃によるACS負荷も機体への損傷も2倍。
更に、リロードの間にもう片方で撃てるよう残弾数を調整した「フォーアンサー」の撃ち方は、復旧した「ストレングス」のACSに、冷却する間もなく負荷を与えていく。
事ここに至って、ハークラーの理性は、相手の傭兵が油断できない相手であることを認めた。
仮に今、彼が冷静であれば、一度障害物を盾にACSと戦況を立て直す、あるいはアサルトアーマーを目くらましにしてここから離脱する、という選択肢も頭に浮かんだかもしれないが……。
『解放戦線に与する独立傭兵ごときが……ベイラムのパーツ使ってんじゃねェぞ!!
それは俺たちのモンだ! 俺たちにだけ許された力だ! てめェら雑魚が使っていいモンじゃねェ!!』
コールサインもない、名無しの傭兵如きに追い詰められているという状況が。
レッドガンの一員たる自分が、企業所属でもない相手に劣っていいはずがないという自責が。
網膜に投射されるUI上で、止めようもなく消耗していくAPの数字が。
その全てが、彼の思考を沸騰させていた。
普段は彼を奮い立たせてくれる誇りと矜持こそが、しかし今、彼に敗走という妥協を許さない。
『死ね、腐れ傭兵がッ!』
苛立ったハークラーは、衝撃を受け流すために足を止めて構え、機体制御の難しくなるはずの空中にいる「フォーアンサー」に向かって、メイン武装であるバズーカを放つが……。
それも、ものの見事にクイックブーストで避けられてしまう。
更に、バズーカがリロード時間に入ったことを受けて、「フォーアンサー」はアサルトブーストで距離を詰めながら両手のマシンガンを連射。
アサルトライフルとミサイルで迎え撃とうとした「ストレングス」だったが、前者は傾斜装甲で受けられ、後者は横へのクイックブーストで回避される。
そして、アサルトブーストの勢いの乗ったマシンガンの弾丸が、上から「ストレングス」を撃ち据え……。
『なっ、』
ついに限界を迎え、「ストレングス」は再び無防備なスタッガー状態へ。
先程の再現のように、「フォーアンサー」はパルスブレードで敵性ACを撫で斬りにし……。
『馬鹿なっ、てめ、待て!!』
AP、残り5%。
COMの無感情な声も耳には入らず、彼は必死に機体を動かそうとするが……。
それはもはや、無駄な抵抗に過ぎない。
……メインカメラに映るAC「フォーアンサー」に、白い粒子が集まり、圧縮される様。
それが、G7ハークラーの視界が捉えた、最後の光景。
『俺が、ハークラーがっ! レッドの野郎より先に……!?』
その言葉を残し、「ストレングス」は、爆散した。
本日の傭兵事情
・識別名
Rb31 独立傭兵「リンクス・ウィズ・カラー」
ランク28/F
・アセン
『フォーアンサー』
右腕:MG-014 LUDLOW(実弾軽マシンガン)
左腕:MG-014 LUDLOW(同上)
右肩:BML-G1/P20MLT-04(4連装ミサイル)
左肩:HI-32:BU-TT/A(ウェポンハンガー、初期パルスブレード)
ヘッド:HC-2000/SOS HOUND EYE(オリジナル)
コア:VP-40S
アーム:NACHTREIHER/46E
レッグ:NACHTREIHER/42E
ブースター:BST-G2/P04(中量機向け汎用型)
FSC:FC-006 ABBOT(近距離特化)
ジェネレーター:DF-GN-06 MING-TANG(中容量高補充)
コア拡張:アサルトアーマー(3回)
リペアキット:使用可能(3回)
・収支
221,927c
[G7排除]
+160,000c
[経費]
-1,004c(武装修理費)
-2,922c(外装修理費)
-312c(内装修理費)
-30,718c(弾薬費)
-5c(必需品購入)
-3c(嗜好品、甘味購入)
──────────────────────
+346,965c
《ナイン追記》
よしよし、順調に名を挙げられてる。ウォルターと合流する前に、ある程度は依頼を受けられる状態にしておきたいからな、良かった良かった。
そしてやはりと言うか、617は良くないところを指摘すればすくすく伸びるな。強さへの渇望もあってハングリー精神がすごくて、吸収率が凄まじい。実に教え甲斐がある。
前世では経験がなかったが、子育てってこういう気分なんだろうか?
……しかし、ようやくハークラーが死んだか。1か月も待ったが、いよいよ621がルビコン3に来る頃だな。
《617追記》
おにいさまとの傭兵生活は楽しい。
……でも、ウォルターとはいつ会えるんだろう?
ひさしぶりにウォルターのご飯が食べたい。
おにいさまのご飯も食べてみたい。……作れるかな?
(雑談)
ランクマでチーターがボコボコにされてて笑うんすよね。
引き機にも対応できないとは、所詮は借り物の力。お前じゃこの先生きのこれないぜ。
「いくら法外にプログラムを組み上げて化け物じみた力を持っても、ただ1人の例外的な人間の可能性に勝てない」、これぞまさしくアーマードコア。
……とか思ってたらAP無限になったって話聞いたんですけど。
キリトじゃなくてヒースクリフやんけェ!