そして世に(銀髪薄幸美少女傭兵との)純愛のあらんことを   作:アリマリア

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 今回次回はコミュニケーション回。AC要素(闘争)はほぼありません。イチャイチャが本編なんだから当然の話。
 とはいえ、イチャイチャに辿り着くまでにはもうちょっとかかりますが。





デデデストローイ

 

 

 

 ゆっくりと。

 安穏の中に揺蕩っていた強化人間C4-617の意識が、表層に浮き上がる。

 

 意識を失う直前の記憶は思い出せず、ただ自分は眠っていたらしいと気付くだけの、曖昧な覚醒。

 どうにも頭は回らないけれど、疲労が取れた後特有のスッキリとした寝覚めで……。

 

 ……直後に、気付く。

 自身がまだ生きていることの、違和感に。

 

 そう。C4-617は、死んだはずだった。

 惑星封鎖機構の基地で、死に体で意識を落としたのだ。生き残れるはずがない。

 

 それなのに……どうして自分は、生きているのか。

 

 

 

 

【あ、目が覚めたか。

 良かった良かった、意識が無事なのはわかってたけど、なかなか目を覚まさないから安心したよ】

 

 透明感のある青色の目をぱちくりさせている内に、聞き覚えのない男性らしい誰かの声が聞こえて来る。

 ……いいや、聞き覚えは、ないわけではない。

 微かに……彼女が気絶する直前、微かにそんな声を聴いた気がした。

 

 617は眉をひそめ、ゆっくりと、軽く首を左右へと回す。

 

 が、そもそもACのコックピットは広くない。

 基本的にこの機械は一人で運用するものであり、人体を収める唯一のスペースであるそこも、どれだけ詰め込んだって3人入るかどうか程度。

 となれば、「617が見逃しているだけで、近くに他に誰かがいる」という可能性は否定できるだろう。

 実際617がいくら探そうと、コックピット内に他の人間の姿はなかった。

 

 次に疑ったのは、このAC「scav617MG」に、外から通信が入っている可能性だ。

 外から聞こえた声というには鮮明すぎるし近すぎる。それならば内部スピーカーから声が聞こえてきている可能性の方が早いと判断。

 けれど、617の網膜内に浮かぶ強化人間特有の仮想インターフェースは、そんな通信などかかっていないことを示している。

 

 となると……それ以上、思い浮かぶことはなかった。

 

「なに、っが……!」

 

 思わずそう呟きかけ、酷く咳き込む。

 

 強化手術によって喉を潰した617にとって、まともに喋ることはなかなかの重労働だ。

 故に、彼女はその首に手を伸ばし……ハウンズの証でもある、首輪型のデバイスに手をやった。

 

 

 

『疑問を提起します。こちらの声は聞こえますか? あなたは誰ですか? 何が発生しているのでしょうか?』

 

 617の首輪から流れ出る、合成音声による台詞。

 

 この首輪は、ハンドラー・ウォルターが飼い犬の為にそれぞれ用意した、専用の機器。

 617のそれの場合は、彼女が言葉を発そうとすればその意思とその内容を汲み取り、代わりに言葉を作りだして発してくれるという優れもの。

 617にとって、主に主人やハウンズとのコミュニケーションにおいてなくてはならないものであり……。

 同時、主人の思いやりと確かな繋がりを示す、大切なプレゼントだった。

 

 そして、それによる言葉を聞いた幻聴の主は、思わずという感じで小さく呻る。

 

【あ、やっぱそういう……うーん、やっぱり強化人間は物悲しいね。AC世界ではマシっちゃマシな方だけど……ナニカサレタヨウダったりレイヴン気を付けお前もったりするケースもあるし】

 

 意図の読めない言葉の真意を掴み損ねて青い瞳を瞬かせる617。

 対して幻聴は、本題に戻るように言葉を続けた。

 

【えー、それじゃあ君の疑問に答えていこうと思うけど。

 まず、声は聞こえる。なんなら声に出さずとも会話できそうまであるけど、まぁこれは一旦さておこう。

 で、俺が誰かは置いておこうか。君にとってどうでもいいことだろうし、後回しにして大丈夫なことだから。

 今は君の混乱解消のために、何が起こったかを説明しようか】

 

 

 

 幻聴は、617に教えてくれた。

 

 617は、多くの犠牲を出しながらも、惑星封鎖機構の拠点の破壊ミッションに成功。

 しかし度重なる戦闘による脳の負荷や、機体を揺さぶられ体に伝わる衝撃から体力を消耗、最後に意識を失ってしまった。

 

 が、それとほぼ同時、幻聴の主が617に「憑依」した。

 その後は彼がバトンタッチするように体のコントロールを行い、「scav617MG」を操ることで、惑星封鎖機構の基地から脱出。

 惑星封鎖機構は追手をかけてきたが、なんとか逃げ切ることに成功し、ひとまずの安全は確保したとのこと。

 

 そして現在は、617が気絶してから、おおよそ30時間が経過した頃合い。

 距離にして1800キロメートル程離れた場所、この星の現地民が使うドックを借りて「scav617MG」の修復を試みているらしい。

 

 改めて617がメインカメラの映像に目をやれば、薄暗いそこは、どうやらどこかのドックのように見えた。

 ……ただし、自分の飼い主たるハンドラー・ウォルターが用いるものとは、違う。

 見慣れたそれよりも薄汚く、設備も旧時代的で整備が行き届いていないように思える。

 

 つまるところ……自分は、自分の居場所に、ウォルターの元に帰ることができていない。

 その事実が、617の心に不安の風を巻き起こした。

 

 ……しかし、旧型の強化人間である彼女は、手術による弊害でその感情の大部分を失っている。

 ある程度それを取り戻した今も、純粋な人間に比べると、その動揺は極めて小さいものだ。

 

 故に、その不安に自分で気付くこともなく、617は改めて幻聴に対して情報共有を求める。

 

 

 

『再び、疑問を提起します。あなたは誰ですか? 何故、現在、私にあなたの声が聞こえるのですか?』

【うーん、それについては、説明しようとしても難しいんだよね……なにせ俺自身、何が起こって自分がどういう状態なのか、よくわかっていないというか】

 

 幻聴の言葉に、617はほんの少しだけ首を傾げ、さらりとその銀の髪が下に垂れる。

 どうやら言葉の意図を理解できなかったらしい。

 

 617は旧型の強化人間の中でも比較的「失敗」したケースであり、手術の負荷と副作用によって、その知能は大きく退化してしまっていた。

 とはいえウォルターに買われた後、彼の献身的な教育を受けたことにより、ある程度真っ当な思考ができる状態にまで復帰し、その情緒も取り戻しつつあったのだが……。

 そんな617からしても、幻聴の言葉は不自然で、理解できるものではなかった。

 

 

 

 彼女はしばらく、ぱちぱちと瞬きをしながらぼんやりと考えて……ふと、思い出す。

 

 ウォルターから教えてもらった知識……ではなく、寝物語として彼が読んでくれた物語。

 その中で、「おひめさま」という人が陥っていた状況を。

 そして、自分たちが手術後に陥ってしまった症状を。

 

 まさしくエウレカ。彼女がもう少し情緒を取り戻していたら、掌を拳で打っていたかもしれない。

 

『確認を行います。あなたは記憶を失っている、ということでしょうか』

 

 実際のところ、彼女の読みは筋の悪いものではなかった。

 何せ、幻聴の言葉と矛盾することない発想なのだ。むしろ彼女の思考力からすれば、会心ものの推理と言っていい。

 

 が、残念ながら、今回は外れ。

 真実は彼女にも、そして幻聴の主にも想像の付かない、とんでもなく突飛なものであった。

 

【あー……違うんだけど、今は一旦そうだと思ってくれると嬉しい。

 ごめんな、誠実じゃないとは思うんだけど、俺としても混乱してるんだ】

 

 声は本当に申し訳なさそうにそう釈明していたが……。

 発言の内容を見れば、何とも胡乱な、信じるに値しない発言だ。

 

 違う。

 けれどそうだと思ってほしい。

 そんな言葉は、何かを誤魔化そうとする時にしか出ては来ない。

 

 おおよそ真っ当な人間であれば、それを聞いた時点で、幻聴の主に不信感を持ってもおかしくはないだろう。

 

 ……が。

 

『了解しました。617はそれを理解します』

 

 C4-617は、良くも悪くも、特定条件下においては人を疑うということを知らない。

 

 なにせ手術前の記憶は喪われ、手術後は過保護なハンドラーの元で大切に育てられたのだ。

 仮に戦場で出会ったのならば、相手を疑うこともしたかもしれないが……。

 「この幻聴の主は自分を助けてくれたらしい」という情報が、彼女の不信のスイッチをオフにしていた。

 

 

 

 そんな純朴極まる返答に、幻聴は少し動揺したように感謝を述べた。

 

【あ、そ、そう? ありがとう。

 ……ただ、そうだな。今言えるのは……なんでこんなことになってるのかはよくわかんないけど、俺は今、君の体に同居したような状態にあるんだと思う。一つの体に意識が二つ入ってる状態、って言えばいいかな。

 とはいえ、体の主導権は君にあるみたいで、君が起きてから俺は体を指一本動かせなくなった。そこに関しては安心してもらっていい。

 気持ち悪くて居心地悪い状態だとは思うんだけど、ひとまず俺は君の体を奪う意図とかはなくて、むしろ君のこれからの行動を……】

 

 幻聴はそこまで語って、はたと言葉を止める。

 

 何故かと言えば、617は青い目をぱちぱちと瞬きさせるばかりで、全く反応を見せなかったから。

 もう少し正確に言えば、その目にはぼんやりとした光があるばかりで、とても理解の色を宿してはいなかったからだ。

 

【ええと……わからないところとか、あったかな】

『報告します。「わからないところがある」ではなく、617は「何もわからない」状態です』

【あっそっかぁ……】

 

 まぁそりゃそうかー、と幻聴の主は呻る。

 もしも彼が体を持っていれば、腕を組んで深く項垂れていただろう。

 

 617の思考力は、旧世代の強化手術の弊害によって、大きく後退している。

 想像していたよりは普通に話が通じたのでどんどん進めていたが、小難しい話のスムーズな理解など、その辺りの頭脳労働を彼女に期待するのは酷というものだろう。

 

 彼女の思考力や精神性は、少女というよりは童女のようなものだ。

 もう少し簡単な理屈、簡単な話をした方が伝わりやすいだろうか。

 

 

 

【……そうだな。じゃあ、もうちょい端的に言おうか。

 こんなことになってしまったが、俺は君の味方のつもりだ。今後、君の目的をサポートしたいと思ってる。

 いきなりこんなことを言って、信じてもらえるかはわからないけど……】

 

 どう言えば信用を得られるかと、悩まし気な男の声が617の脳内に響く。

 

 が、彼の懊悩を、617は頷くことによって切って捨てた。

 

『617はあなたを信用します』

【えぇ……?】

 

 リニアライフルの弾速もびっくりの、超高速な即決であった。

 

 嬉しくは思いつつも、それ以上に「流石にもうちょっと人を疑った方がいいんじゃなかろうか」と心配になる幻聴の主。

 それに対し、617はその無表情を変えることなく、淡々と告げる。

 

『仮に617があのまま戦場にいれば、死んでいたでしょう。つまり、あなたが敵であれば、617をただ放置していれば簡単に殺せたはずです。

 しかし、現在617は生きており、「scav617MG」はどうやらドックで修復中の状態にある。

 あなたは617を戦場から逃がして、助けてくれた。つまりあなたは617の敵ではなく、むしろ味方であり、であれば疑う必要はないと考えます』

【うーん……】

 

 そりゃあウォルターも過保護になるわ、と幻聴の主は心底納得した。

 純朴だ。あまりに純朴すぎる。

 

 まぁ、精神年齢が童女なのだ。

 その素直さは年相応の幼さであり、美徳と言えるだろうし……。

 

 ……それに、何より。

 敵は容赦なく殺し、けれど味方は信じて疑わない。

 その在り方は確かに、「猟犬(ハウンズ)」という感じだ。

 

 ともあれ、どういうわけか彼女の体に憑依? してしまった幻聴の主としては、最初から彼女の中で「味方」にカテゴライズしてもらえたことは、かなりの幸運だったと言えよう。

 もしもあの時に彼女を守るという選択を取らず、あるいは命懸けでそれを実行していなければ……あるいは、意識を失う彼女に温かな言葉をかけていなければ。

 事態は、もっと複雑で面倒になっていただろう。

 

 

 

 それ自体は不幸中の幸いと言うべきだろうか?

 というかそもそも、彼女は戦場に立つ戦士だ。その辺りの純朴さは放っておいていいのだろうか。

 

 色々と悩んで黙り込む彼に対し、617は続けて声をかけた。

 

『続けて疑問を提起します。あなたのお名前は何でしょうか』

【ん、えっと……】

『お名前というのは、相手に対する呼び方です。

 ……申し訳ありません、遅れて理解しました。記憶がない以上、他者から付けられた名称や型番を答えることは難しいかもしれません。

 しかし、協力関係を結ぶ以上、最低限の通称は必要と思われます。私は、あなたのことを、何と呼べばいいのでしょうか』

 

 どうやら意味が分からなかったと解釈されたようで、「名前」についての説明をされてしまった。

 やはりどことなくズレている617に、幻聴の主……617の脳内のコーラル管理デバイスに宿る、異なる世界から来た「進化した新しい形のヒト」は、考える。

 

 

 

 さて、何と名乗ったものか。

 前世の……前世なのか? その名前を名乗ってもいいのだが……。

 

 そこまで考えて……ふと、思考が逸れる。

 

 唐突にハードモード極まる戦場に放り込まれて、とにかく617を生かそうとばかり考えていたから、これまで深く考える余裕がなかったわけだが……。

 改めて、そもそも何故自分はここにいるんだろうか。

 

 彼にはなんだかんだ仲の良い家族がいたし、そこまで不満もない生活があったし、やりたいゲームもあったし、食べたいものもあったし、読みたい漫画もあったし、見たい映画もあった。

 それなのに、気付けばこの治安が終わり過ぎている世界で、ゲームの世界のキャラクターだと思っていた少女に憑依して。

 その上、生きるか死ぬか、裏切るか裏切られるかの傭兵稼業に……それどころか、強化人間という社会の暗部にまで頭を突っ込んでいる。

 

 どうしていきなり憑依? してしまったのか。

 残してきたと思しき、元の世界の大切なものはどうなったのか。

 というか、そもそも元の世界に戻れないのか。

 退屈なようでいて充実していた前世の平穏な暮らしは、もう取り戻せないのか。

 ……どうして、こうなってしまったのか。

 

 そう思えば、彼は少なからぬ望郷と悲嘆の想いに胸を貫かれ……。

 

 

 

 ……けれど。

 

『…………? 何か問題が発生しましたか?』

 

 少女を……それも、彼が思う「普通」よりもずっと発育が悪く、世界の悪意によって体を弄られて不可逆の変容を起こし、これからもなお命懸けの戦場に赴くだろう少女を再び認識して……。

 彼は、咄嗟に感情を殺した。

 

 どうしてこんなことに、と思わないわけではない。

 けれど、彼女の前で、そんな弱音は吐けなかった。

 

 幸せな日々を覚えている彼と違って、彼女にはそんな心の拠り所すらもない。

 人としての名を捨てられ、番号で名を呼ばれ、機械のパーツとして使われる。それが「普通」な世界に生きているのだ。

 

 彼に比べて、彼女の方がずっと幼く、それなのに悲惨な状況に置かれている。

 そんな子を前にして弱音を吐ける程、彼の面の皮は厚くがない。

 

 ……いいや、むしろ逆だ。

 彼は、617に弱音を言ってもらえるような状況をこそ、目指すべきだろう。

 

【いや、ごめん、なんでもない。俺は……そうだな】

 

 そうだ。

 少なくとも、この子をウォルターの元へ、安心できる場所へ帰すまでは、色々と考えるのは後回し。

 

 617は、原作の621よりは大人びているというか、精神的に年相応に近い印象はあるが……。

 それでもやはり、見た目程に精神は熟していない。というか、退行してしまっている。

 

 そんな彼女と比べれば余裕があるはずの彼は、「この人についていけば大丈夫」と思ってもらえるような、頼れる存在であらねばならない。

 心配なんてすることなく、まるで楽しい遠足だったかのように感じさせて、ウォルターの元へ送り届ける。

 そのために彼は、誰よりも強く、絶対に負けることのない、信頼のおける存在でなくてはならないのだ。

 

 故に……。

 彼はどこまでも強がる覚悟を決め、絶対的な強さを示すその名前を、借りることにした。

 

 

 

【俺は、君の協力者の……「ナイン」。

 これから、よろしくな】

 

『名称を了解、記憶します。

 ナイン、改めて、助けていただきありがとうございました。

 また、協力の申し出を受け入れます。これから、よろしくお願いします』

 

 

 







 617ちゃん
 仲間の前ではクール可愛い小型犬、敵の前では獰猛な猟犬。そんな強化人間。
 喉が潰れていて喋れず(首輪デバイスで中性的な合成ボイスで喋ることが可能)、脚は感覚がないため一人ではまともに動けない。
 ナインのことは助けてくれたし仲間判定。そして仲間判定した以上全面的に信じる。胆力がすごい。

 ナイン君
 信じよう、俺の力を。今この瞬間から、俺はナインだ。
 後になってちょっと大層すぎる名前名乗っちゃったと悔いることになるが、実際操作技術もエグいしできることも多い、この世界の⑨……というかイレギュラー。
 取り敢えず自分にできることをしようと、617を無事にウォルターへ送り届けることを決意する。



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